環境保全型農業レポート > No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行

    〜硝酸脆弱地帯では施肥計画作成を義務化〜

    ●規制強化の経緯

     EU(欧州連合)は農業に起因した水の硝酸汚染の防止を図る硝酸指令を施行しているが,イングランドの対応は硝酸指令に照らして不十分であった。このため,硝酸指令に即して自国の農業に起因した硝酸汚染防止を図る法律を強化する方針を2008年7月に決定した。その概要は環境保全型農業レポート「No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化」に紹介してある。その後,イングランドでは「2008年硝酸汚染防止規則」(The Nitrate Pollution Prevention Regulations 2008) が2008年9月に国会に上程されて承認され,2009年1月1日から施行された(一部の施行は2012年1月1日)。

    ●農場が硝酸脆弱地帯に入ることへの農場主の異議受付

     硝酸汚染防止規則で硝酸脆弱地帯に指定される地域は,50 mg/Lを超える硝酸(NO3)を含有するか,アオコが繁茂して富栄養化しているか,または規則が適用されないとそうなる恐れが高い地下水や河川,湖沼,水路などの淡水の表流水(汚染水)に,表面流去や地下浸透によって排水している集水域であり,環境・食料・農村問題担当大臣によって指定される。

     既に,硝酸脆弱地帯をイングランド国土の現在55%から70%に拡大した硝酸脆弱地帯のマップが公表されている。マップは,水質汚染の実測結果と地形データによるコンピュータシミュレーションで計算されている。しかし,個々の農場のなかにはシミュレーションで作成されたマップで,自分の農場が硝酸脆弱地帯にあるとされていても,当該農場は大臣が確認した汚染水には排水しておらず,汚染水でない水に排水しているなら,硝酸汚染防止規則の規制を受けないですむ。このため,自分の農場を硝酸脆弱地帯から外すべきだとの異議を有する者は,主張を裏付ける証拠文書を異議審査パネルに提出できる。異議提出の締め切りは当初2009年1月31日とされたが,異議が多いためか,締め切り日が2009年3月10日に延長された。

    ●窒素施用計画の策定

     環境保全型農業レポートNo.110に紹介したように,従来は硝酸脆弱地帯の農場に家畜ふん尿還元量などの上限を課していたとはいえ,砂質土壌や浅い土壌の農場に課すだけで,規制対象外の農場が多かった。今回の法律改正によって,硝酸脆弱地帯内の全ての農場の草地を含む全農地について,家畜ふん尿窒素の還元量を利用農地面積当たり年間170 kg/ha(放牧中に排泄されたふん尿を含む)を上限とする規制が一律に課せられた。

     家畜の排泄窒素量は,同法の付表にある1頭・1日当たりの排泄窒素量の標準値を用いて計算する。日本よりも畜種,体重などによる家畜の区分が細かい。ちなみに,年間170 kg/haのふん尿窒素量の制限下で,1 haで飼養できる家畜頭数は,乳量9,000リットルを超える乳牛で1.5頭,乳量6,000リットル未満の乳牛で2.2頭,13から25か月の肥育肉牛で3.4頭などとなる。

     そして,家畜ふん尿を含む各種有機質資材由来窒素の施用総量が,年間250 kg/haを超えないことが課せられた。

     主要な作目については,化学肥料と家畜ふん尿から作物に供給される可給態窒素の総量に上限が設定された(表1)。化学肥料では全窒素の100 %が可給態窒素だが,家畜ふん尿の可給態窒素は標準値を使用して計算する(表2)。

     こうした窒素含有資材の施用量制限の下で,農業者には最適窒素施用量を計算することが義務づけられている。そのために,施肥標準(DEFRA (2000) Fertiliser recommendations for agricultural and horticultural crops (RB209): Seventh edition )にある標準値を参考にして,土壌の供給窒素量の概算値を計算する。すなわち,イングランドの施肥標準では土壌のタイプと土壌窒素供給量に応じて,標準的収穫量を上げるための窒素施用量(最適窒素施用量)がまとめられている。この最適窒素施用量は,化学肥料,家畜ふん尿,その他の有機質資材から供給される可給態窒素量であり,各資材からの可給態窒素量を計算して施用する。土壌窒素供給量が多い土壌であれば,施肥標準にある最適窒素量は表1の上限値よりも当然少なくなるが,施用すべきは上限値でなく,最適窒素量である。詳しい計算方法は省略するが,硝酸脆弱地帯の農業者用の9冊の具体的な冊子を参照されたい。

     これらのことを踏まえて,圃場・作物の種類別に硝酸脆弱地帯内の農業者は施肥計画を作成し,計画作成過程が分かるように記録を作成し,実際の施肥行為も記録することが義務づけられている。

    ●含窒素資材の施用の仕方

     化学肥料や有機質資材といった含窒素資材の施用の仕方については,さらにいろいろな規制が設けられている。

     (1) 農場内の河川や湖沼などの表流水と,それから10 m以内の農地に家畜ふん尿などの有機質資材を施用してはならず,2 m以内の農地に化学肥料窒素を施用してはならない。

     (2) ただし,スラリーと家禽ふんを除く固形の家畜ふんとその堆肥は,承認を受けた渉水鳥の繁殖用に管理された農地または種の豊富な半自然草地に,6月1日から10月31日までの間に散布する場合,および年間の散布総量が12.5トン/haを超えない場合には,表流水から10 m以内の農地に施用しても良い。

     (3) ボーリング孔,泉,井戸と,それらから50 m以内の農地に有機質資材を施用してはならない。

     (4) 表面流去水が表流水に流入するリスクの高いその他の農地(12度を超える傾斜農地,明渠排水路の存在する農地,24時間以内に12時間以上にわたって湛水・冠水・積雪・凍結していた土壌)や雨天などの天候不順の日に,有機質資材を施用してはならない。

     (5) スラリーは,散布軌跡が地面から4 m未満の低い装置を使用して散布し,できるだけ正確な量を散布しなければならない。

     (6) スラリー,液体消化汚泥,家禽ふんは,散布後24時間以内に土壌に混和しなければならない。

     (7) その他の有機質資材(砂質土壌表面にマルチとして施用した有機質資材を除く)でも,表流水から50 m以内の農地で,表面流去水が当該表流水に流入する可能性がある場合には,遅くとも24時間以内に土壌に混和しなければならない。

     (8) 有機質資材のなかで高可給態窒素有機質資材,つまり,資材の全窒素の30%以上が,当初から可給態窒素か,施用後1年以内に可給態窒素として放出される,牛や豚のスラリー,家禽ふん,液体消化汚泥などの有機質資材と,化学肥料については,作物の生育が旺盛でなく,窒素の吸収が活発でない期間に施用してはならない(表3)。

     (9) ただし,作物を9月15日までに播種する場合には,8月1日から9月15日までの間に,高可給態窒素有機質資材を砂土または浅い土壌の耕耘農地に散布して良い。

     (10) 正規に登録した有機栽培農業者は,表4の作物には,有機質資材を表に示された窒素量の範囲で,また,認定を受けた施肥アドバイザーメンバーの作成した処方箋にしたがう場合は,他の作物でも処方箋に示された量を,散布禁止期間内であっても,禁止期間の開始日から2月末日までにヘクタール当たり全窒素で150 kgを超えない範囲で施用できる。

     (11) 化学肥料窒素については,原則として表3に示された期間の施用を禁止するが,表4の作物については,表に示された量の範囲で施用することができる。

    ●有機質資材の貯留

     家畜ふん尿などの有機質資材は,下記のように貯留しなければならない。

     (1) 家畜を飼養している農場は,貯留期間(豚と家禽では10月1日から4月1日まで,その他の家畜では10月1日から3月1日までの期間)に生産された全てのスラリーと家禽ふんを十分貯留できるようにしなければならない。

     (2) スラリー貯留槽は,ふん尿に加えて,貯留期間中に槽内に流入する降雨,洗浄水,その他の液体を貯留する容量を有していなければならない。

     (3) スラリーの固液分離は,機械で行うか,液体画分を受容する槽を備えた不浸透性盤で行なわなければならない。

     (4) スラリーを除く,固体の有機質資材または家畜ふん尿の付着した敷料は,(a)容器内,(b)覆いのある建築物内,(c)不浸透性の盤上に貯留し,(d)崩れずに堆積できて液体を排出しない固形堆肥は圃場内の一時的(野積み)サイトに,貯留しなければならない。

     (5) 圃場内の一時的サイトは,(a)冠水や湛水を受けやすい圃場,(b)泉,井戸やボーリング孔から50 m以内,表流水または農地排水路(不浸透性パイプ暗渠以外の)から10 m以内に設けてはならず,(c)一つの位置に連続12か月を超えて貯留したり,(d)過去2年以内に貯留したのと同じ場所に貯留したりしてはならない。また,敷料を混入していない固形家禽ふんを圃場内の一時的サイトに貯留する場合は,不浸透性素材で被覆しなければならない。

     (6) 農場外に搬出するスラリーまたは家禽ふんについては貯留施設は必要ない。また,散布の許された期間内に表面流去リスクの低い農地に散布するものについては,散布できない気象条件などの事態に備えて1週間分の貯留施設を用意しておかなければならない。

    ●記録作成義務

     様々な事項について記録を作成しておくことが義務づけられている。その主要なものを下記に記す。

     農場の概要 圃場面積,リスクマップ(表流水の位置とそれから10 m以内の農地,ボーリング孔・泉・井戸の位置とそれらから50 m以内の農地,傾斜12度を超える農地,砂質土壌と浅い土壌の位置と面積,農地排水路の位置,家畜ふん堆肥を一時的に野積みで貯留するのに適した場所の位置,表面流去リスクの低い農地の場所と面積など)の記録。

     家畜関係 飼養頭羽数と農場に滞在した日数,家畜の排泄したふん尿量,購入・搬出したふん尿量,必要なふん尿貯留容量,これらの計算に使用した論拠やソフトと最終数値に到達した計算経過,ふん尿のサンプリングと分析の記録(使用した標準的表やラボの報告書など)。

     作物栽培関係 栽培作物の種類,播種・定植した期日,栽培した圃場と面積,圃場の土壌タイプ,前作作物の種類,予想収量,土壌窒素供給量と窒素の最適施用量,施用した化学肥料と有機質資材の種類・量・施用日時・全窒素含有率・可給態窒素量・施用の方法,などの記録。

    ●日本との比較

     日本では「家畜排泄物処理法」でスラリーの貯留や家畜ふん堆肥の製造を,雨水を遮断する覆いのある不浸透性の素材で作った施設で行なうことが義務づけられている。しかし,スラリーや家畜ふん堆肥の農地への施用量,施用時期,施用方法などについては,水質汚濁防止の規制を受けるような表流水への直接投入や,悪臭防止法の規制を受けるような悪臭をまき散らす方法での散布でない限り,何らの規制もない。

     また,施肥について都道府県が施肥基準(施肥標準)を作成しているが,この基準は農業改良普及センターが農業者を指導する際のガイドラインとして使用されているものの,法的拘束力は全く持っておらず,施肥基準を超える過剰施肥が日常化している。

     こうした日本に比べると,イングランドの法的規制は他のEU国と同様に,環境を保全する観点から具体的規制を行なって厳しくなった。日本でも畜産地帯,集約的な畑作,野菜作,果樹作,花き作の地帯では,水質汚染が深刻なところが少なくない。このため,簡単なチェックしか行なわない基礎GAP(環境保全型農業レポート「No.81 農林水産省が基礎GAPを公表」)の段階から,EUのように,汚染の深刻な地帯とそうでない地帯を区分し,汚染の深刻な地帯の農業者に対しては具体的な対応策を提示して,それを遵守する農業者にクロス・コンプライアンスの形で所得補償をする制度を開始することが必要であろう。

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