環境保全型農業レポート > No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術

    ●問題点

     水稲の生産調整が始まった当初の1970年代からしばらくの間は,水田を排水してダイズを生産すると,水田時代に蓄えられていた土壌有機物が活発に好気的に分解されて,多量の無機態窒素を放出し,普通畑よりもむしろ高いダイズ単収を上げることができた。しかし,コメの生産過剰が長期継続しているために,水稲生産に戻す田畑輪換が減り,転換畑のままダイズを生産する期間が長期化してきた。これにともなって最近では,転換畑土壌の窒素肥沃度が低下して,ダイズの単収低下が全国的に問題になっている。

     東北農業研究センターの水田輪作研究チーム(秋田県大仙市)は,この問題を1982年以来,圃場試験をベースにして地道に研究している。その一端は環境保全型農業レポート 「No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因」に紹介した。これまでの研究によって,転換畑でのダイズ栽培期間が長くなると,土壌の窒素肥沃度が低下して,ダイズ単収が低下し,慣行的な窒素施肥(基肥3kg/ 10a 程度)や,収穫残渣を搬出してしまうと,2 t/10aの稲ワラ堆肥施用でも,窒素肥沃度を回復できないことが確認されている(住田弘一・加藤直人・西田瑞彦 (2005) 田畑輪換の繰り返しや長期畑転換に伴う転作大豆の生産力低下と土壌肥沃度の変化.東北農業研究センター研究報告.103: 39 - 52)。

    ●土壌窒素肥沃度を維持する技術

     では,どうやってダイズを栽培している転換畑の窒素肥沃度を維持するのか。同研究チームは一つの解答を示した(西田瑞彦・関矢博幸・吉田光二・加藤直人・住田弘一・土屋一成 (2010) 寒冷地の水稲−ダイズの田畑輪換田における可給態窒素の維持技術.平成21年度 東北農業研究成果情報)。

     その結論は,収穫残渣を搬出した場合には,稲ワラ堆肥2 t/10a を連用して,概ねダイズ2作に対し水稲を3作作付けすれば,土壌窒素肥沃度を維持できるとするものである。なお,土壌の窒素肥沃度は,採取した土壌を風乾した後,ビーカー内で湛水して30℃に4週間保持したときに放出される無機態窒素量で表示したものである。

     この結論に至った研究は,まず,水田を1982年に「連用水田区」(収穫残渣のワラを搬出しつつ,毎年稲ワラ堆肥を2 t/10aを施用して水稲を連続栽培している区)と,「長期畑転換区」(収穫残渣を搬出しつつ,毎年稲ワラ堆肥を2 t/10aを施用してダイズを連続栽培している畑転換区)に分割し,1982年の試験開始前と1999年の収穫後の土壌窒素肥沃度を比較すること(住田ら,2005)から始まった。

     1982年から1999年までの18年間における窒素肥沃度の増減を計算すると,「連用水田区」では年平均2.5mg/土壌kgずつ増えたのに対して,「長期畑転換区」では年平均4.1 mg/土壌kgずつ減ったと計算された。この数値を踏まえると,窒素肥沃度が,稲ワラ堆肥を毎年2 t/10aを施用しつつ3年間水稲を生産すれば7.4 mg/土壌kg増える一方,稲ワラ堆肥を毎年2 t/10aを施用しつつダイズを2年間栽培すると8.2 mg/土壌kg減って,3作の水稲による窒素肥沃度の増加が2作のダイズによる窒素肥沃度の減少とほぼ釣り合うと推察された。

     そこで,同研究チームはこの点の確認を圃場試験で試みた。試験に使用した圃場では,1982年時点で土壌の窒素肥沃度が150 mg/土壌kgであったが,ダイズとの田畑輪換で窒素肥沃度が減少し,1999年の栽培終了時点で80 mg/土壌kgに低下していた。この圃場において,収穫残渣を搬出して,稲ワラ堆肥を毎年2 t/10aを施用しつつ,2000年から水稲を3作栽培した後,ダイズを2作栽培するサイクルを2回くり返した。その結果,2009年のダイズ栽培後の土壌の窒素肥沃度はほぼ80 mg/土壌kgに維持された(図1)。この結果から,稲ワラ堆肥2 t/10a を連用して,概ねダイズ2作に対し水稲を3作作付けすれば,土壌窒素肥沃度を維持できるという上記推定が正しいことが確認された。

    ●技術の一般化

     堆肥施用と短期の田畑輪換によって土壌の窒素肥沃度を維持できることが実証されたが,では,水稲3作とダイズ2作の田畑輪換を行なう際に,どのような種類の堆肥をどれだけ施用すれば良いのか。この実験では,水稲とダイズの収穫残渣を搬出した後,2 t/10aの中熟稲ワラ堆肥を1982年以降,30年弱も毎年連用している。このため,既に堆肥を長期連用しているこの圃場では,試験期間中に同じ量の堆肥を施したとしても,堆肥施用を開始したばかりの圃場よりもはるかに多くの無機態窒素が放出されているはずである。したがって,この堆肥長期連用圃場での堆肥施用量を他の圃場にまで一般化するのは問題であろう。

     収穫残渣を搬出している農家は少なくないだろうが,2 t/10aもの中熟稲ワラ堆肥を施用できる農家は現在では限定されよう。一方では,収穫残渣を圃場に還元し,購入家畜ふん堆肥を施用している農家も多いであろう。上記の研究結果を踏まえて,農家の通常の栽培管理での堆肥施用のガイドラインを提示することが望まれる。

    ●残渣還元下でのガイドラインも必要

     住田ら(2005)は,ダイズおよび水稲生産における窒素収支を概算している(表1)。表1は,降雨や潅漑水とともに投入される窒素量や,土壌から流亡や脱窒で失われる窒素量を考慮していないので,概算にすぎない。

     ダイズの場合,10 a当たりで,単収を300 kgとして,窒素吸収量は20 kgだが,根粒菌による窒素固定の10 kgと肥料の3 kgが土壌に投入される。このため,20 – 13 = 7 kgが不足する。収穫残渣を全量土壌に還元すれば,4 kgが土壌に戻され,7 – 4 = 3 kgが最終的に不足するが,収穫残渣のうち,茎と殻の1.2 kgを搬出してしまうと(落葉の搬出は無理とする),4.2 kgが不足する。この不足分は,水田時代に蓄積された土壌有機物の分解で放出された無機態窒素で補われているため,土壌の窒素肥沃度が減少する。

     他方,水稲では,単収を600 kgとして,窒素の吸収量が10 kgだが,田面水や土壌中の微生物による窒素固定量が2 kg,それに加えて窒素施肥量8 kgが投入されて,差し引きゼロになる。このとき,残渣を還元すれば,3 kgがプラスになり,残渣を搬出すれば収支がゼロとなる。

     表1は概算値だが,これに基づけば,水稲3作とダイズ2作の田畑輪換で,両作物の収穫残渣を土壌に還元すれば,5作の収支で3 kgのプラスになる。住田ら(2005)は,13年間にわたって,連年水稲を栽培した区と,短期と中期の田畑輪換を行った区の土壌窒素肥沃度を比較した。連年水田の無ワラ区(残渣搬出区)の窒素肥沃度は13年間ほぼ同じ値であったが,これは水稲の残渣搬出区で窒素収支がゼロであったこと(表1)と符合する。これに対して,短期田畑輪換した場合(水稲とダイズの栽培継続期間は1〜3年とまちまちだが,13年間に水稲7作とダイズ6作を栽培),稲ワラを還元した区では,連年水田の無ワラ区の窒素肥沃度を100とすると,1年目のダイズ栽培後に窒素肥沃度が93に低下したものの,13作後の窒素肥沃度は92とほぼ横ばいであった。この結果からも収穫残渣を全量還元しつつ,水稲3作とダイズ2作の短期輪作を行えば,窒素肥沃度の低下はわずかに抑えることができるといえよう。

     耕地土壌の生産力を維持・増進するために,「地力増進法」に基づいて「地力増進基本指針」が定められている。その中で耕地土壌の基本的な改善目標値が設定されている。水田土壌の窒素肥沃度(可給態窒素含有量)は80〜200 mg N/乾土kgとされている。コシヒカリを栽培する場合には,必ずしも高い窒素肥沃度は要求されない。

     このため,(1)土壌の窒素肥沃度を測定し,(2)それが80 mg/乾土kg未満である場合に,この値までに窒素肥沃度を向上させるのに必要な家畜ふん堆肥の施用量を示し,(3)水稲とダイズの作物残渣を還元しつつ,(4)水稲3作とダイズ2作の田畑輪換を行なうといった,わかりやすいガイドラインが提示されることが期待される。むろん,ガイドラインではこれ以外のケースについての技術指針も望まれる。

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