環境保全型農業レポート > No.89 中国における農業環境問題
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.89 中国における農業環境問題

    OECD報告書から

    ●OECDの中国農業に関する2つの報告書

     先進国で構成されているOECD(経済協力開発機構)は,国際的に関心の高い問題について多数の報告書を刊行している。中国は開発途上国に位置づけられていて,OECD加盟国ではないが,OECDは最近,中国の農業と環境に関連する次の2つの報告書を刊行した。

     (1) OECD (2006) Environment, Water Resources and Agricultural Policies: Lessons from China and OECD Countries. 287p. OECD Publishing

     (2) OECD (2007) OECD Environmental Performance Reviews: China. 336p. OECD Publishing

     (1)の報告書は,2006年6月に北京で,農業環境問題に対処するために今後中国が採るべき政策オプションを,中国とOECD国の代表者が討議した「中国の環境・資源・農業政策に関するワークショップ」の記録である。

     (2)の報告書は,OECDが1992年以来実施している,加盟国の環境状態を調査して,汚染削減,資源管理,環境保全と経済発展の両立のために当該国が努力すべき方向を提言する環境パフォーマンスレビューを,非加盟国だが,問題の大きな中国について,中国政府の協力を得て行なった報告書である(2007年7月刊行)。

     この2つの報告書から,中国における農業による環境負荷の問題を紹介する。なお,理解しやすいように,FAOの統計から作成した図も補完する。

     ところで,OECDのホームページにある"Online Bookshop"(オンライン書店)の検索欄で上記2つの本を検索すると,"Browse-it"(立ち読み)を意味するマークがでてくる。これをクリックすると,PDF (Portable Document Format)版の本の全文を「立ち読み」できる。「立ち読み」は無料だが,わざと全文のダウンロードに時間がかかるようにしてある。そして,全てのページに大きな立ち読みスタンプが押してあり,文章や図表を複写できないように細工してある。代金を払えば,スタンプもなく,複写機能の制約も解除された全文がすぐにダウンロードできる(代金はpdf版だけなら2冊で9000円強)。立ち読み版は下記からアクセスできる。

     (1)の報告書 http://213.253.134.43/oecd/pdfs/browseit/5106101E.PDF

     (2)の報告書 http://213.253.134.43/oecd/pdfs/browseit/9707051E.PDF

    ●中国農業では化学肥料・農薬などの資材多投が必然

     中国の人口は13億人で世界人口の21%に達するが,農地は世界の10%にすぎない。人口1人当たりの農地面積は42aだが,その多くは少雨地帯の放牧草地で,放牧草地を除いた農地(耕地+果樹などの永年作物地)面積では12aである(ちなみに日本の人口1人当たりの耕地+永年作物地面積は4a)。かつての中国では,水や養分などの供給が制限になって,作物単収がきわめて低かったが,中国政府は,化学肥料,農薬,灌漑水の供給量を増やして,単収を飛躍的に向上させてきた。

     この点について,FAOの統計によって化学肥料使用量と穀物単収の関係を調べてみる。放牧草地では化学肥料をろくに使用していないので,化学肥料窒素の使用量を耕地+永年作物地面積で割った値と,主要穀物全体の単収との関係をみてみる(図1)。FAOの統計の始まった1961年に,世界平均値で化学肥料窒素使用量は8.48 kg N/ha,全穀物単収は1.35 t/haであったが,中国ではそれぞれ5.17 kg N/haと1.21 t/haで,両者とも世界平均値よりも低かった。その後,世界平均値の化学肥料窒素使用量と全穀物単収は緩やかに増加して,2002年にそれぞれ55.0 kg N/haと3.06 t/haとなったが,中国では急激に増加して,それぞれ164.8 kg N/haと4.89 t/haとなった。1961年に対する2002年の倍率をみると,世界平均値では化学肥料窒素使用量が6.5倍,全穀物単収が2.3倍増加したのに対して,中国では前者が31.9倍,後者が4.0倍増加した。中国はこのように資材の多投によって単収を飛躍的に向上させてきた。

     中国では最近,都市や工業の拡大にともなって,農地が減少している。このため,単収向上が一層必要となっている。中国政府は肥料,農薬などの資材に,総額100億元(約1560億円)と推定される購入補助金を支給している。国際的には資材購入補助金は,農産物生産コストを不当に低くして自由貿易をゆがめるうえに,農業者による資材の多投とそれにともなう環境汚染を助長しやすいため,それを廃止する方向にあるが,中国はなお継続している。

     中国ではかつて人民公社で生産チーム単位の農作業が実施されていたが,1978年に農地(村の共同体が所有権を有する)の使用権を農業者世帯に配分して,農業者の生産意欲をかき立てた。配分は世帯の員数当たりで行われたため,全てが小規模農家となった。1998年に農業者が使用権を他の農業者に移譲することが認められて,規模拡大の道が開かれたが,小規模農家が圧倒的に多い。この点も投入物を多投して単収を高くする戦略をとらざるをえない背景となっているといえよう。

     中国では農地の約40%に灌漑がなされ,農業が社会全体の水使用量の約70%を占めている。中国では水が貴重だが,農業における水利用効率はOECD加盟国に比べて低く,灌漑システムに通水された水の約40〜60%しか有効利用されていないとされている。その背景には工業や家庭用を含め,水使用料が供給コスト以下に安く設定されて,安易な仕方で水を使用することが許されて,水利用効率向上のための努力がなおざりにされていることもある。中国は2020年までに南部の長江(揚子江)から年間400億m3を超える水を北部に送水する工事を行なっているが,都市,工業および農業の水使用について,需要量管理と持続可能な使用を行わないなら,直ぐに水不足が再発することになろう。

    ●農業資源の劣化

     中国では乾燥・半乾燥地帯での自然的・人為的な土壌劣化(砂漠化)が深刻で,2004年末で中国の全農地面積の27.5%が砂漠化状態にあり,約4億人が土壌の塩類化・アルカリ化,砂塵の飛散による連絡・移動の妨害,村の埋没,飛行機の運行障害,灌漑施設の短命化による影響や呼吸器疾患を受けていると推定されている。中国全体での砂漠化による直接・間接コストは毎年400億USドルと試算されている。中国の砂漠化の10%は過放牧,30%は過耕作,40%は森林や樹木の伐採,残りが不適切な水利用に起因するとされている。

     中国では工業での石炭燃焼や自動車の排ガスなどによってひどい大気汚染が生じているが,その被害は都市部だけでなく農村部にも及び,酸性雨の影響による被害は国土全体の25%で起きている。

     河川や湖沼などの表流水は,不十分な処理の家庭排水や工場排水によってひどく汚染されている。汚染の原因を,工場などの特定汚染源と家庭や農地などの非特定汚染源に分けると,汚染原因に占める特定汚染源のシェアが年とともに低下している。しかし,工場排水の処理が不十分なケースが多い。このため,環境パフォーマンスレビュー(報告書2)は,工場の水処理を向上させる努力を継続し,処理プラントを効率的に管理させ,汚染に対する罰金を値上げするとともに,河川の水質を確保するために,河川の最少流量を維持できるように工場の取水量を制限し,取水料金を値上げするなど,汚染者負担原則を適用することを勧告している。

     他方,表流水汚染に対する非特定汚染源のシェアは1980年代40%,1990年代48%,2000年代66%と年とともに高まっている。ただし,この非特定汚染源のシェアに占める農業と家庭排水のそれぞれの割合は2つの報告書からは判然としない。表流水の汚染が深刻化するとともに,飲料水や農業用水に取水される地下水の量が増え,帯水層へ水補給を上回る速度で地下水が取水されているケースが多い。しかも,過剰施肥による地下水汚染が深刻化している。このため,環境パフォーマンスレビュー(報告書2)は,農業における水質汚染防止と水利用効率を向上させる努力を続け,潅漑水使用料は供給コストを回収できる額として料金支払を義務とする水使用者組合を設立し,地下水取水についても料金を徴収し,地下水の過剰取水を止めさせる対策を講ずるとともに,農地から帯水層,河川,湖沼への排出防止対策(河川や湖沼沿岸の緩衝地帯,集約的家畜生産からの排出液の処理,農薬の効果的な散布など)を農業者が講じるように助長し,肥料補助金を段階的に廃止することを勧告している。

    ●過剰施肥に対する農業者の認識

     農業による汚染を減らすには,肥料や農薬の施用を適正化することが大切だが,報告書(1) には農業者が肥料や農薬を過剰施用していることが報告されている(Huang Jikun, Hu Ruifa, Cao Jianmin and Scott Rozelle: Non-point source agricultural pollution: issues and implications. p.267-271)。

     この報告によると,多くの調査から,中国では肥料と農薬をそれぞれ25〜30%減らしても,収量には影響がないことが示されている。このことはつまり,高い金を払って購入した肥料と農薬の25〜30%を排水口に無駄に捨てているのに等しいのだが,実態調査から農業者はそのことを知らされていないことが示された。むしろ農業者には行政や普及などの関係者から,「少量が良いなら,たくさんならもっと良いはずだ」と信じ込ませるような話がなされていたという。また,農業だけでは生活が苦しいので,出稼ぎで他産業に従事している者は,作物生育に合わせて最適な時期に最適量の投入物を施用するのでなく,自宅に帰った際に,限られた短い滞在期間中にロス分を考慮していっぺんに過剰施用することが多いことも指摘されている。

     中国政府は食料安全保障を確保するために,資材多投による単収向上路線を継続するが,水,肥料,農薬などを適切に使用しないと,環境悪化が加速されてしまう。単収を減らさずに,環境汚染につながる過剰投与分をなくすように,農業者の意識を変えるように,普及組織の指導態勢の変革が必要になっている。同様な問題は日本を含めた多くの国にも存在する。

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