環境保全型農業レポート > No.172 世界の有機農業の現状(2)
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.172 世界の有機農業の現状(2)

    ●はじめに

     世界の有機農業の現状について,2003年時点の有機栽培面積の統計を中心に紹介した(環境保全型農業レポート.2005年3月31日号,および,西尾道徳 (2006) 世界の有機農業と日本の有機農産物の現状.農業技術大系 土壌施肥編 第3巻 土壌の性質と活用(VII 海外における土壌問題と土壌管理)p.土壌と活用? 8-19-16〜8-19-22.農文協)。それから数年が経過したので,2008年の統計に基づいた最近の世界の有機農業の現状を紹介する。出典は,ドイツのボンに拠点を置くIFOAM(国際有機農業運動連盟)と,スイスのフリックに拠点を置くFiBL (有機農業研究所)が刊行した資料による(Willer, Helga and Lukas Kilcher (Eds.) (2010) The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2010. p.239 IFOAM, Bonn and FiBL, Frick)。なお,統計の対象になっているのは,それぞれの国の法律に基づいた認証を受けた有機農業だけである。また,本書に掲載された数値に誤りがあることが判明した場合には,本書の購入者はインターネットで修正された数値にアクセスすることができるようになっている。

    ●世界の有機食品の市場規模

     ロンドンに拠点を置き,世界の有機農業や食品に関する情報収集・配信などを行なっている会社「オーガニックモニター」のデータによると,世界の有機食品(飲料を含む)の販売額は,USドルで2008年に509億ドル(2008年の年間平均為替レートによる1ドル104.23円での換算額で5兆3000億円)であった。1999年には152億ドルだったので,この間に3.3倍に増加した。

     509億ドルのうち,北アメリカが230億ドル(2兆4000億円),ヨーロッパが260億ドル(2兆7000億円),その他が19億ドル(2000億円)で,北アメリカとヨーロッパが96%を占めていた。2003年時点でも北アメリカとヨーロッパが世界の有機食品販売額の97%を占めていたので(西尾 2006),基本的パターンは変わっていない。

    (1)北アメリカ

     北アメリカ(アメリカとカナダ)での販売額の90%超をアメリカが占めている。アメリカは国内生産だけでは有機食品の需要に足りず,大量の有機食品分を外国(中央・南アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリア・ニュージーランド,アフリカ)から輸入している。そして,輸入量を確保するために,中央・南アメリカに加え,中国やフィリピンでの海外生産を始めている輸入業者も現れてきている。

     アメリカは有機農産物の国内生産を強化するために,2008年農業法において連邦政府は政策方向を変更して,有機農業に転換する農業者に財政的支援を与える条項を作った。すなわち,既存の「環境質インセンティブプログラム」に,2008年から有機農業転換支援条項を新設し,有機農業も環境保全的であるがゆえに,有機農業に転換する農業者に,年間2万ドル,1件当たり8万ドルを上限に6年間,個人または法人に支給できるようにしている(環境保全型農業レポート.「No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題」)。

    (2)ヨーロッパ

     2008年にヨーロッパで有機食品の販売額が大きい国は,ドイツ58.5億ユーロ(2008年の年間平均為替レートによる1ユーロ153.86円での換算額で9000億円),フランス25.91億ユーロ(3987億円),イギリス24.94億ユーロ(3837億円),イタリア19.7億ユーロ(3031億円),スイス9.05億ユーロ(1392億円),オーストリア8.1億ユーロ(1246億円),デンマーク7.24億ユーロ(1114億円),スウェーデン6.23億ユーロ(959億円),オランダ5.37億ユーロ(826億円)など,西ヨーロッパの国々の販売額が多い。中央および東ヨーロッパの有機食品・飲料の販売額はまだわずかだが,急速に増えつつある。

     販売総額は,所得水準が近似していれば人口の多い国で多くなる。国の食品販売総額に占める有機食品販売額の割合でみると,デンマーク6.7%,オーストリア5.3%,スイス4.9%,ドイツ3.4%,ルクセンブルク3.3%,イタリア3.0%,オランダ2.1%,フランス1.7%などであった。

    (3)アジア

     アジアの国々は,有機食品の生産・輸出国と消費・輸入国とに分類される。生産・輸出国としては,中国,インド,タイ,インドネシア,ベトナムで,いずれも国内需要はまだ少ない。他方,有機食品の消費・輸入国は,日本,韓国,台湾,シンガポール,香港で,国内生産はわずかで,ヨーロッパ,北アメリカ,オーストラリア,ニュージーランドなどから輸入している。アジアの有機農産物の生産者は,輸出するために,ヨーロッパ,アメリカや日本のうちの2つ国の生産基準認証を受けているケースが多い。

    (4)オセアニア

     オーストラリアとニュージーランドの2か国で,世界の有機農地面積の約40%を占めるが,有機食品の国内販売額はわずかで,世界全体の販売額の1 %未満にすぎない。有機農地のシェアが高いのは,有機認証を受けた広大な放牧草地があるからで,有機の牛肉,羊肉,羊毛に加え,キュウイ,ワイン,リンゴ,洋ナシ,野菜を他の地域に輸出している。

    (5)中央・南アメリカ,アフリカ

     これらの地域はもっぱら輸出用に有機農産物を生産しており,国内需要はまだわずかにすぎない。

    (6)世界市場のまとめ

     2008年における有機食品の世界の販売額は,509億ドル(5兆3000億円)に増大した。需要は急速に拡大したが,有機農産物の生産がそれに比例して拡大せず,2008年には供給不足に直面した。原油価格の急速な上昇にともなうバイオ燃料生産のために,農産物価格が高騰して,有機農業への転換ペースが落ちたことが,その一因であった。

     金融危機によって世界経済が停滞し,サトウキビやトウモロコシといったバイオ燃料への関心はまだ残っているものの,農産物価格の高騰はとりあえず終わった。世界経済の停滞とともに,需要の伸びが鈍化し,ヨーロッパの一部では2009年に,有機食品の過剰供給が懸念される事態が生じるようになり,ヨーロッパにおける有機の果実,野菜,穀物,肉類,乳製品の生産者の中には供給過剰を既に経験しているケースもある。しかし,事態は急速に回復し,需要は急速に回復しており,2010年には大きく回復し,供給不足が再び起こることが予想される。

    ●世界の有機農地面積

     ◆2008年における世界の有機農地面積の総計は約3500万haで(表1),2007年よりも300万ha(3%)増加した。

     ◆2008年において有機農地面積が最も多かった地域はオセアニア1210万ha,次いでヨーロッパ830万ha,中央・南アメリカ810万haなどであった(表1)。

     ◆世界の有機農地面積の総計,約3500万haの約1/3の1200万haを途上国が占めた。

     ◆有機農地面積の多い上位5か国は,1位から順に,オーストラリア,アルゼンチン,アメリカ,中国とブラジルで,この5か国で世界の有機農地面積の61%を占めた。

     ◆世界の有機農地面積の約2/3は永年草地だが,アジアとアフリカでは永年草地の割合が低く,逆にオセアニアでは96%,中央・南アメリカでは62%と高く,ヨーロッパと北アメリカでもそれぞれ47%と42%と高い割合を占めている(表1)。

     ◆有機農地面積の多い上位20か国をみると,永年草地で輸出用の家畜生産を主体に行なっているオセアニア,中央・南アメリカ(フォークランド諸島を含む)の国々と,永年草地での家畜生産に加えて,耕種作物栽培も行なっているアメリカヨーロッパの国々が多かった。中国も面積では4番目に多かった(表2)。有機生産者1人当たりの有機農地面積が大きな国は,主に永年草地での家畜生産が主体の国といえる。

     ◆アジアの国々の有機農地面積はまだ小さく,有機生産者1人当たりの有機農地面積も他の地域に比べて少ない(表2)。これは放牧でなく,耕種作物を主体に人手のかかる有機栽培を行なっているためといえる。

    ●日本の有機農業

     日本における有機JAS規格の認証を受けた有機農業の統計データが,農林水産省消費・安全局から公表されている。

     2009年4月1日現在の有機JAS規格認証圃場面積は8,800 haで,農地面積462.8万 haの0.19 %にすぎない(表3)。ようやく日本でも有機の牧草生産が始まったが,有機の牧草地はまだわずかで,4.1%しかない。ヨーロッパ,北アメリカなどと比べて,日本では,有機の耕種圃場に比べて有機の飼料生産圃場の比率が小さい。このため,有機の家畜生産によって生じる厳密な意味での有機の家畜ふん尿を原料として製造される堆肥は,ごくわずかにすぎない。

     2008年度に国内の認定機関によって格付(有機JAS 規格に適合していると判定)された有機農産物は,国内での慣行栽培を含めた農産物の総生産量の0.18%にすぎなかった(表4)。

     日本は,輸入した有機農産物(加工食品でない一次農産物)と国内生産の有機農産物とから,有機の加工食品を生産している。しかし,加工食品用原料と直接摂食用とを合わせた有機農産物の国内生産量と輸入量を直接示す統計はないようである。その近似値と見られるのは,国内で格付された農産物量と外国で格付された農産物量の統計である(表5)。

     外国で格付けされた農産物は,外国において,有機JAS認定事業者が有機JAS格付けを行なったものと,有機JAS規格と同等性が認められている国(EU15ヵ国,アメリカ,オーストラリア,アルゼンチン,ニュージーランド,スイス)において,有機JAS制度と同等の制度に基づいて認定を受けた事業者が有機格付を行なったものとがある。主に外国で有機農産物加工食品の原材料として使用されているが,それ以外にも,日本に輸出されたもの,外国で消費されたもの,日本以外に輸出されたもの,および有機加工食品以外の食品に加工されたものも含まれる。それゆえ,日本に輸入された有機農産物そのものではないが,その近似値とすると,国内と外国で格付された有機農産物の総量に占める国内で格付された有機農産物量は,わずかに2.7%にすぎない。

    ●おわりに

     有機農業は地域の物質循環を活用することを原則にしている。しかし,北アメリカやヨーロッパ,それに日本などの有機食品に対する需要が強い国は,90%以上の有機食品を輸入している。こうした生産国から輸入国への農産物の一方的流れは,物質循環に逆らうものである。有機農業は,物質循環という原則に反した形で発展を続けているのだ。

     アメリカで「自然食品」店で買い物をしている消費者に,「貴方があるレシピ用の決められた食材を買うときに,地元産の食材と地元産でない有機の食材とを選ぶことができ,両者の価格と品質に差がないとしたら,どちらを選ぶか」と質問した結果,回答者の35%が地元産,22%が有機を選択し,41%が両者を同様に選択すると回答した。他の調査でも,消費者の好みとして有機食品と地元産食品を同様に選び,地元産により高いプレミアムを支払う意志が示されている(環境保全型農業レポート.No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題)。こうした背景には,食べ物は身近で生産された新鮮なものが良いという消費者の意向が強いことが反映していよう。有機農業の健全な発展には,有機農産物の自給率を高めることが必要であろう。

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