環境保全型農業レポート > No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問

    高濃度の堆肥でも使い方でカバーできるか?

    ●「第2回家畜排せつ物の利用促進のための意見交換会」

     2006年8月29日に,農林水産省生産局畜産部主催の「第2回家畜排せつ物の利用促進のための意見交換会」が開催され,畜産および耕種サイドの関係者や,学識経験者など12名が家畜ふん堆肥の利用促進のための意見を述べた。その概要が農林水産省のホームページで公開された。

    ●本当か?

       意見交換会の中で,【耕種サイドのニーズに応じた堆肥を製造して欲しい】という趣旨の意見に対して,酪農家から【畜産農家の主たる仕事は,美味しく安全な畜産物を提供することであり,副産物の堆肥づくりにそれほど手間はかけられず,ニーズにあった堆肥生産を行うことは忙しくて困難である】という趣旨の発言があった。この酪農家の切実な意見を踏まえてどう解決するかの論議が大切となる。

     畜産農家が忙しくて堆肥製造に十分な時間をとれない現実や,「家畜排せつ物法」によって雨ざらしにした家畜ふん堆肥の製造が禁止された事実からすると,切り返しをろくにせずに未熟で多量のアンモニウムが残り,しかも,降雨によってアンモニウムやその他の塩類が流されないままのものが増えると予想される。さらに,オガクズやモミガラといった副資材が入手難になって,完成した堆肥の一部を吸水材として繰り返し利用する戻し堆肥利用も増えていることから,従来よりも塩類濃度が高くなり,電気伝導度(EC)の高い家畜ふん堆肥が増加することが懸念される。こうした堆肥は意見交換会で出された耕種サイドのニーズに応じた堆肥とは逆行するものであろう。

     意見交換会のなかで,【作り方で家畜ふん堆肥の塩類濃度やECを下げるのは大変であり,塩類濃度やECの高い家畜ふん堆肥は良くないという固定観念を変える必要がある。化学肥料を減らす傾向にある今日では,養分濃度が高くて肥効の高い家畜ふん堆肥はむしろ良いはずであり,使い方で十分にカバーできるはずである。】という趣旨の強気の発言が畜産関係者から出された。これは本当か?

    ●耕地土壌のECの実態

     農林水産省は,1979年から都道府県農業試験場の協力をえて,全国の農地土壌の実態を5年一巡で調べる「土壌環境基礎調査」を実施している。この1巡目(1979〜83年)から4巡目(1994〜98年)までの結果をみると,土壌のカリ,リン酸などの無機養分が適正レベルを超えているケースが非常に多い(小原洋・中井信 (2003) 農耕地土壌の交換性塩基類の全国的変動.日本土壌肥料学雑誌.74: 615-622:小原洋・中井信 (2004) 農耕地土壌の可給態リン酸の全国変動.同誌.75: 59-67)。この調査ではECは必須項目でないため,全国規模での実態は不明だが,ECを報告している例もある。例えば,栃木県では3巡目(1989〜93年)におけるEC値(平均値±標準偏差)が,普通畑で0.44±0.73mS/cm,施設で0.83±0.65mS/cmであった(亀和田國彦・小川昭夫・吉沢 崇・植木与四郎 (1990) 近年の農耕地土壌の主要な性質の変化.栃木県農業試験場研究報告.37: 115-1323 )。また,愛知県西三河地方の野菜栽培施設では,施設割合で,0.2mS/cm未満が1%,0.2〜0.8ms/cmが38%,0.8〜1.2mS/cmが28%,1.2mS/cm以上が33%に達していた(関 稔・山田良三・木下忠孝 (1999) 西三河施設キュウリ栽培土壌の養分実態解析.愛知県農業総合試験場研究報告.31: 115-120 )。

     ECが高いと濃度障害による生育阻害が起きるため,「地力増進法」による普通畑の基本的な改善目標値はECを0.2mS/cm以下としている。発芽が特に影響を受けるためだが,活着後ならこれよりも多少高い0.6〜1.2mS/cmでも良好に生育する。ただし,さらにECが上昇すると生育阻害が生じ,やがて濃度障害で枯死する。上述した「土壌環境基礎調査」での例は,多くの普通畑やほとんどの施設が地力増進法の目標値を超えていることを示しており,苗の移植で栽培が可能になっているものの,ECをこれ以上は高くできない土壌が多いことを示している。こうした土壌になったのは,土壌診断で測定した土壌蓄積養分量を勘案して次作の施肥量を調節することなく,化学肥料の過剰施用を繰り返してきた結果である。

    ●家畜ふん堆肥のEC

     昔のものに比べて,最近の家畜ふん堆肥は水分含有率が低くなり,ECや養分濃度が高くなっている。関東農政局管内の家畜ふん堆肥を調査した結果によると,家畜ふん堆肥のECを平均値(最小値〜最大値)で表示すると,牛で4.7(0.2〜13.9),豚で6.4(0.8〜12.6),鶏で8.3(2.8〜17.5)mS/cmである(山口武則 (2002) 家畜糞堆肥の成分の変化と活用.農業技術大系.土壌施肥編.第7-1巻 資材の特性と利用.p.資材32-8〜32-19)。

     大分県で流通している家畜ふん堆肥を調査した結果によると,未熟な家畜ふん堆肥ではアンモニウムが多く,アンモニア態窒素濃度が乾物100 g当たり300 mgを超え,かつ24時間培養時の二酸化炭素発生量が乾物100 g当たり600 mgを超える家畜ふん堆肥にはECが8 mS/cmを超え,コマツナ種子の発芽率が60%未満のものが多かった(藤谷信二・野地良久・矢野輝人 (1995) 家畜糞堆肥の品質評価について.大分県農業技術研究センター研究報告.25: 63-75)。この例ではコマツナの発芽率60%以上を判定基準に置いたが,通常はコマツナ種子の発芽率80%以上を判定基準としており,80%以上の発芽率を確保するには,家畜ふん堆肥の電気伝導度は8 mS/cmでは高すぎることになる。

     1994年12月の農林水産省農蚕園芸局長通達「たい肥等特殊肥料に係る品質保全推進基準について」では,家畜ふん堆肥のECの基準値が5 mS/cm以下とされている。上記の調査結果も,流通している家畜ふん堆肥にはこれを超えたものが多いことを示している。しかし,堆肥のEC値は品質表示しなくともよい項目とされ,「肥料取締法」による堆肥の品質表示基準には含まれていない。このため,農業者は通常,家畜ふん堆肥のECを知らない。

     家畜ふん堆肥のECと,家畜ふん堆肥施用後3日目の土壌のECの関係を調べた結果(山田正幸・高橋朋子・鈴木睦美・浦野義雄 (1999) 堆肥施用量決定要因としての発芽試験と電気伝導率.群馬県畜産試験場研究報告.6: 100-106)に基づくと,施用3日後の土壌ECを0.2mS/cm分押し上げる堆肥量は,5 mS/cmの堆肥だと4 t/10aだが,10 mS/cmの堆肥なら2 t/10aだけとなる。普通畑や施設にはECがぎりぎりのところまで上昇している土壌が多い。そうした土壌では,わずか0.2 mS/cmのECの上昇でも危険な場合もありえる。

     家畜ふんの堆肥化過程において時間経過とともにアンモニウムが放出され,やがて硝酸に変わり,ECが上昇する。屋内で堆肥化した後,屋外で雨に当てながら二次分解を行うと,雨で塩類が流されてECが低下して,コマツナ種子の発芽率も高まる。しかし,「家畜排せつ物法」に基づいて製造された堆肥のECは,雨水を遮断しているために従来のものよりも高いと考えられる。

     シート被覆で雨水を遮断する簡易な堆肥化方法の研究報告がそのことを示している。  例えば,栃木県では,5.99 mS/cmの牛ふんとオガクズならびにモミガラの混合物をシートで被覆して120日間堆肥化したとき,ECは,穴の開いた通気用の管を表面から底にまで挿入してシートで被覆し続けた場合,6.09(底層部)〜7.71(表層部)mS/cmで,30日ごとに切り返しをして再びシートで被覆した場合,5.50 mS/cmであった(北條 享 (2005) シート施設における堆肥化と利用技術.平成16年度「関東東海北陸農業」研究成果情報(畜産草地部会)。また,埼玉県では,肉牛ふんとオガクズの混合物を透湿不透水性で被覆して,間欠的に強制通気をしながら16週間堆肥化した製品のECは7.02〜7.78 mS/cmであった(崎尾さやか・小森谷博・宇田川浩一 (2005) 透湿不透水シートを用いた肉用牛簡易堆肥化法.平成16年度「関東東海北陸農業」研究成果情報(畜産草地部会)。

    ●畜産サイドは耕種サイドのニーズを真摯に聞くことが大切

     上述したような耕地土壌の実態は,化学肥料の適正施用を行い,過剰施肥を減らすことが必要であることを物語っている。化学肥料の過剰施用を減らすということは,養分投入総量を減らすことであって,これまでの養分投入総量を維持して,化学肥料で減らした養分量を家畜ふん堆肥で投入できると考えるのは安易すぎる。畜産農家は忙しいから養分濃度やECの高い家畜ふん堆肥をそのまま耕種サイドで利用しろというのは,畜産サイドの横暴と批判されてもしようがない。畜産サイドがふん尿処理で困っているなら,ふん尿生産者の畜産サイドが飼料作物の生産を行うか拡大して,畜産内部でふん尿を循環利用する努力を真っ先に行うことがまず必要である。畜産農家が多忙であるなら,耕種農家も同様である。畜産と耕種を対立させるのでなく,両者のインターフェース(堆肥センターなど)を強化して,畜産農家の手間を省くのを助けると同時に,耕種農家のニーズに合う堆肥を製造・加工する仕組みを,行政の支援によって構築・強化することが必要であろう。

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