環境保全型農業レポート > No.52 イギリスの食品保証制度
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.52 イギリスの食品保証制度

    ●食品の安全をめぐるイギリスの動き

     イギリスは1990年に「食品安全法」で,バイヤーに対して購入・販売する食品の安全性について然るべき注意を払うことを義務づけた。これによって販売業者は,安全な食品をいかにして購入するかについての関心を高めた。そして,BSEによって消費者の食品の安全性に対する信頼が失われたことから,ますます食品の安全性をいかに担保するかが課題となった。こうした背景から,1990年代にいくつかの団体が食品の安全性を保証する制度を発足させた。

     イギリスの食品保証制度について,主に次の記事に基づいて紹介する。

    Food Assurance Schemes

    Assurance schemes and standards

    The scheme: The Assured Produce Scheme (APS)

    Farm Assurance

    ●食品保証制度の概要

     食品保証制度は,民間団体によって実施され,農産物を生産する際に,団体の定めた食品の安全性,動物福祉,環境保全などの基準を遵守して生産したことを保証する制度で,その多くはトレーサービリティも備えている。主要団体は,AFS (Assured Food Standards:「保証食品基準」),RSPCA(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals:「動物虐待防止協会」),LEAF (Linking the Environment and Farming:「環境と農業を結ぶ協会」),Soil Association(「土壌協会」)である。AFSとLEAFは最小限の化学資材を使用しつつ圃場または農場の総合的管理によって生産した農産物,RSPCAは動物福祉を重視して生産した畜産物,「土壌協会」は有機農産物を対象にしている。

     農業者は自主的に団体と契約して,団体の定めている基準に従って農産物を生産し,その遵守状況をチェックされて,生産基準を遵守したことが担保された農産物に各団体のシールを添付して出荷する。シールの付いた農産物であれば,販売業者は安全性に注意して購入・販売したことになり,消費者も安心して購入するので,参加する生産者が増えている。現在ではイギリスの7.8万人以上の農業者がどれかの団体と契約しており,主要農産物の品目の65〜90%が保証制度によるものとなっている。

    ●AFS(「保証食品基準」)の組織と特徴

     食品保証制度を実施している団体の一つであるAFS(「保証食品基準」)は,いくつかの農業者団体や生産者団によって組織されて2000年に発足し,DEFRA(環境・食料・農村開発省:日本の農林水産省に相当)もオブザーバーになっている。AFSの生産基準を遵守して生産された農産物には「レッドトラクタ」のロゴマークの付いたシールが貼られ,イギリス全体で約50億ポンド(約1兆円)の売上に達している。AFSは政府の肝いりで発足したようで,DEFRAの「農業開発事業」(Agriculture Development Scheme)の補助金支給対象にも位置づけられている。また,食品の安全性や健康に関する問題について全省庁の元締めになっている「食品基準庁」(Food Standards Agency)も,AFSの生産基準の向上やその農産物の消費者へのPRなどについて助言を行っている。

     AFSには,作物や家畜の作目や地域別に特化した14の組織が参加しており,農業者は作目や場所に応じて組織を選んで参加する。

    ●APS(「保証農産物計画」)の概要

     AFS参加組織の一つである「保証農産物」(Assured Produce)は非営利組織で,果実,サラダ用野菜とその他の野菜を対象にしている。その食品保証制度はAPS(Assured Produce Scheme:保証農産物計画)と呼ばれている。APSは有機農業ではない。総合的作物管理に基づいて,作付体系,品種選択,土壌・作物診断,病害虫の発生状況把握,化学資材の適正使用,圃場からの土壌,養分や農薬の流出防止などによって,食品の安全性,環境保全と農業所得を確保することを重視している。

     スーパーマーケット,生産者,加工業者および「全国農業者ユニオン」(National Farmers Union)の代表者で構成される委員会が,毎年度作物ごとに生産基準(「協定書」と呼ばれる)を作成しており,基準作成に際してはDEFRAや食品基準庁の助言があると推察される。果樹,野菜,キノコについて,一般基準に加えて,合計約50品目の生産基準があり,APSのホームページからダウンロードできる。

    ●APSの一般基準

     APSの生産基準は,食品の安全性,品質,健康,環境保全を重視して作られているが,食品の安全性と健康の確保を最優先にしている。生産基準は特に農薬使用に力を入れて,具体的かつ総合的に記載されており,32頁にわたる作物共通の一般基準と,作目別の基準から構成されている。

     いずれの生産基準も次の項目から構成されている。すなわち,(1)栽培地の選定(栽培地の履歴・状態の記録とリスク評価,輪作),(2)栽培地の管理(土壌タイプの確認,土壌管理,土壌消毒,培地,播種・移植法),(3)品種選択(品種,種苗の品質,種子の予措),(4)施肥(作付・施肥計画,施肥,硝酸とリン酸による地下水汚染,施肥装置,施肥記録,有機質資材による重金属汚染リスク),(5)灌漑,(6)病害虫・雑草防除(非化学的防除法,総合的作物管理,モニタリング,農薬選択,農薬散布方法,散布記録,農薬の貯蔵・廃棄,残留農薬分析),(6)収穫と貯蔵(衛生確保,廃棄物処理,パッキング,トイレ・手洗い設備,ポストハーベスト処理,記録保持),(7)汚染防止と廃棄物管理,(8)エネルギー効率,(9)作業者の健康・労働安全性・厚生,(10)環境保全。一般基準にはこれらの項目の作目共通事項が記載され,作目別生産基準に作目固有な留意点が記載されている。

     一般基準にはmust(しなければならない)で記述された5つの重大過失事項があり,過失を犯した場合には,会員資格を6か月間失う。重大過失とは,(1)処理してない下水を灌漑に使用してはならない。(2)作物保護用農薬は使用の認められているものだけを使用し,法的に定められた使用条件を遵守し,散布記録を保持しなければならない。(3)収穫期日を記録し,農薬ごとに定められた収穫間隔を守らなければならず,収穫間隔は散布と収穫の間の期間で,消費者に届くまでの運搬期間を含めてはならない。(4)品質保持のためのポストハーベスト農薬処理は必要最低限とし,代替法がない場合に限って法的規制にしたがって使用しなければならない。(5)ポストハーベスト農薬処理の記録を生産地/貯蔵地から委託輸送する際に添付し,処理と消費までの規定された期間を書き添えなければならない。

     APSは全製品について,生産条件を農場にまでたどれるトレーサービリティを確立しており,生産者,流通業者,販売者の間で所定の様式にしたがった生産・処理情報を引き継ぐとともに,記録を2年間保持することを義務づけている。

     食品の安全性確保のために,HACCP(危害分析重要管理点)の考えに基づいて,安全を脅かす生産過程を実施しないように,また,作業者の健康や環境保全の確保のためにリスク評価を行って,リスクを回避するように基準が作られている。

    ●APSの作目別生産基準

     2006-07年用の作目別生産基準は,露地栽培レタス34頁,温室栽培レタス43頁,ホウレンソウ23頁,キャベツ71頁,ニンジン38頁に達し,具体的である。  いずれの作目でも圃場の土壌タイプ別分布図を作成することを義務づけ,輪作を基本にしている。例えば,ホウレンソウでは3年1作を理想とし,露地レタスでは現実に実行可能な2年1作を推奨している。そして,ホウレンソウでは,冬作ホウレンソウと夏作ホウレンソウを近接する圃場で併存させず,病害の持ち越しが生じないように前作ホウレンソウは収穫後直ちに始末することを喚起している。施設レタスでは病気の発生状況を確認した上で,必要な場合,蒸気やダゾメット(Basamid)で土壌消毒することを薦めている。

     環境保全型農業レポートNo.51の『イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果』と関連するので,窒素施肥基準を紹介する。(当該記事にリンク)

     DEFRAは「施肥基準」(Fertiliser recommendations for agricultural and horticultural crops (2000))を刊行している。なお,DEFRAの施肥基準(7版)は,最近の研究を踏まえて目下改訂作業中で,2008年に新しい版が刊行される予定である。APSはDEFRAの基準に準拠することを基本にしている。そして,APSは,DEFRAの施肥基準をベースにして,DEFRAや食品基準庁の協力を得て,EUの法律で硝酸含量の上限値が設定されているレタスとホウレンソウについて,硝酸含量を最少にする独自の優良農業行為規範を策定している。

     DEFRAの施肥基準では,前作の残りの無機態窒素と土壌有機物から供給される無機態窒素の総量を「土壌窒素供給量」(Soil Nitrogen Supply: SNS)と呼んで,そのレベルを7段階にランク分けしている。「土壌窒素供給量」は降水量,土壌タイプ,前作作物によって異なるが,自分の圃場がどの降水量地帯に位置し,どの土壌タイプで,前作に何を栽培したかによって,「土壌窒素供給量」のランクを推定する目安が用意されている。

     DEFRA施肥基準とAPSの標準的施肥モデル比較すると,レタスではAPSは基肥窒素施用量をDEFRAの1/2に設定しているが,追肥分を含めると,実際にはDEFRAの基準と同程度になると考えられる(表1)。ホウレンソウについてDEFRAは施肥基準を用意していないが,APSは施肥モデルを設定している。日本の施肥基準では,作型によって異なるが,窒素施用量をレタスで200 kg/ha,ホウレンソウで100〜150 kg/haとしているケースが多く,施肥総量はAPSとさほど違わないと考えられる。しかし,イギリスでは「土壌窒素供給量」に応じて施肥量を変えさせており,土壌分析によって残留無機態窒素量を測定させて,「土壌窒素供給量」ランクを頻繁にチェックさせている点が優れている。日本では,北海道の施肥基準と「北のクリーン農産物」の施肥基準が類似の方式を採用している(環境保全型農業レポート.2004年7月28日号)。

     また,硝酸含量を最少にする優良農業行為規範では,冬作では照度を落とさないために,古い汚れたプラスチックフィルムの使用を避けて,新しいものを使用することを指摘している。

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