環境保全型農業レポート > No.12 「農業生産活動規範」とは
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.12 「農業生産活動規範」とは

    「環境と調和のとれた農業生産活動規範(農業環境規範)」が確定

    ●農業環境規範の経緯

     環境保全型農業レポートNo.5(2004年10月22日号)で,2005年度からの新たな「食料・農業・農村基本計画」の中間論点整理に書かれた農業生産環境施策の方向を紹介した。その後,新基本計画は2005年3月25日に閣議決定されて承認されたが,No.5に紹介したように,新基本計画において下記が記載された。すなわち,

    (1)農業者が最低限取り組むべき規範を2004年度中に有識者の意見を踏まえて策定するとともに,2005年度以降,その規範の実践を各種支援策のうち可能なものから要件化していく。

    (2)環境保全への取組が特に強く要請されている地域において,農業生産活動に伴う環境への負荷の大幅な低減を図るためのモデル的な取組を導入するが,モデル的な取組に対する支援を円滑に導入するために,2005年度から環境負荷の低減効果に関する評価・検証手法等を確立するための調査に着手する。そして,このモデル的な取組に対する支援の具体的手法,支援対象地域等については,調査の結果を踏まえて検討する。

     農業者が最低限取り組むべき規範は,2004年10月から,「環境と調和のとれた作物生産の確保に関する懇談会」や,食料・農業・農村政策審議会生産分科会畜産企画部会で検討され,2005年3月31日に「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(農業環境規範)として公表され,同日,農林水産省生産局長名で農政局長等に通達され,農政局長等から都道府県知事に通知するよう指示された。

    ●農業環境規範の内容

     農業環境規範は,農政局長通達によれば,「我が国農業生産全体の現状を勘案し,様々な農業生産の様態を通じて基本的と考えられる取組をとりまとめたものである」とされ,作物生産と家畜生産にかかわる2つの部分から構成されている。説明文章を一部省略してあるが,規範の内容を下記に転載する。

    • ? 作物の生産
      • 1 土づくりの励行:堆肥肥等の有機物の施用などによる土づくりを励行する。
      • 2 適切で効果的・効率的な施肥:都道府県の施肥基準や土壌診断結果等に則して肥料成分の施用量,施用方法を適切にし,効果的・効率的な施肥を行う。
      • 3 効果的・効率的で適正な防除:病害虫・雑草が発生しにくい栽培環境づくりに努めるとともに,発生予察情報等を活用し,被害が生じると判断される場合に,必要に応じて農薬や他の防除手段を適切に組み合わせて,効果的・効率的な防除を励行する。また,農薬の使用,保管は関係法令に基づき適正に行う。
      • 4 廃棄物の適正な処理・利用:作物の生産に伴って発生する使用済みプラスチック等の廃棄物の処理は関係法令に基づき適正に行う。また,作物残さ等の有機物についても利用や適正な処理に努める。
      • 5 エネルギーの節減:二酸化炭素の排出抑制や資源の有効利用等に資するため,不必要・非効率的なエネルギー消費がないよう努める。
      • 6 新たな知見・情報の収集:作物の生産に伴う環境影響などに関する新たな知見と適切な対処に必要な情報の収集に努める。
      • 7 生産情報の保存:生産活動の内容が確認できるよう,肥料・農薬の使用状況等の記録を保存する。

    • ? 家畜の飼養・生産
      • 1 家畜排せつ物法の遵守:家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(家畜排せつ物法)を遵守する。
      • 2 悪臭・害虫の発生を防止・低減する取組の励行:畜舎からのふん尿の早期搬出や施設内外の清掃など,家畜の飼養・生産に伴う悪臭,害虫の発生を防止・低減する取組を励行する。
      • 3 家畜排せつ物の利活用の推進:家畜排せつ物の堆肥化,液肥化又はスラリー処理等を行い,作物生産等への利用の推進に努める。ただし,作物生産等への利用が困難な場合又はより適切な処理・利用方法がある場合には炭化,焼却,汚水浄化,委託処分等の適切な方法による処理等に努める。また,地域的条件等に応じ可能な場合についてはメタン発酵等によるエネルギー利用に努める。
      • 4 環境関連法令への適切な対応:使用済みプラスチック等の廃棄物,臭気及び排水等の経営体外への排出等に際して,関連する環境法令に応じた処分等に努めるなど適切に対応する。
      • 5 エネルギーの節減:二酸化炭素の排出抑制や資源の有効利用等に資するため,不必要・非効率的なエネルギー消費がないよう努める。
      • 6 新たな知見・情報の収集:家畜の飼養・生産に伴う環境影響などに関する新たな知見と適切な対処に必要な情報の収集に努める。

     以上が農業環境規範の本体である。そして,これに付随して,点検シートが添付されている。各項目について,(1)農業者が過去1年間の実行状況を点検し,(2)農業経営全体について点検し(作目や畜種ごとの点検は不要),(3)農業者自らがその是非を判断して,実行できていると判断する場合にはチェック欄に○やレを記入し,(4)実行できない項目については,その理由や改善予定を記入欄に記載する。そして,(5)点検シートと作物生産にかかわる生産情報(肥料や農薬の使用等の記録)を次回の点検まで保存する。(6)最後に点検期日を記入し,署名・捺印する。

    ●項目の取組内容

     チェックの際の判断基準として,農業環境規範には,この点に関する「取組(例)」が添付されている。

    • ? 作物の生産
      • 1 土づくり:堆肥,麦わらのすき込み,緑肥の栽培などにより土壌に有機物を供給する(原則として1年に1度)
      • 2 施肥:都道府県の施肥基準,JAの栽培歴等に則した施肥を行う。ただし,地域向けの施肥量等が示されていない場合は,(1)他の都道府県の施肥基準や試験研究成果等を目安とした施肥,(2)土壌診断の実施とそれに基づいた施肥,(3)クリーニングクロップの作付け等による残存肥料成分の流出防止のうちいずれか一つを実行する。
      • 3 防除:(1)発生源植物の除去,抵抗性品種の導入,輪作体系の導入,圃場及び圃場周辺の清掃等による病害虫・雑草が発生しにくい栽培環境づくりを行う。(2)次の取組のうち一つ以上を実行する。1)発生予察情報や病害虫発生状況に基づいた防除,2)農薬や他の防除手段を適切に組み合わせるなどの効果的・効率的な防除。(3)農薬取締法に基づく農薬の適正な使用,毒物及び劇物取締法に基づく毒物・劇物の適正な保管,廃棄等を行う。
      • 4 廃棄物の処理:(1)作物残さを堆肥,飼料,敷料等にリサイクルまたは圃場還元する(病害虫の蔓延防止のために処分が必要な場合を除く)。(2)廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づいて,使用済みプラスチック等を適正に処分,保管する。
      • 5 エネルギーの節減:(1)機械・器具を点検整備し,施設の破損箇所を補修する。(2)加温,保温,乾燥における温度を適切に管理する。(3)機械の運行日程の調整や作業工程の管理によって効率的に機械を運転する。(4)不要な照明を消灯する。
      • 6 知見・情報の収集:次の取組のうち一つ以上の実行に努める。(1)都道府県(普及指導センター等),市町村,JA等が発信する情報誌・パンフレット・チラシ,専門紙または書籍などを通じた,作物の生産に伴う環境負荷の発生やその低減方策に関する知識や情報を入手する。(2)作物の生産に伴う環境負荷の発生やその低減方策に関する知識や技術に関する講演,研修会などに参加する。
      • 7 生産情報の保存:施肥,防除の実施状況等についての記録帳票(ノート,伝票等を含む)を保存する。

    • ? 家畜の飼養・生産
      • 1 家畜排せつ物法:家畜排せつ物法に基づく管理基準の適用対象規模に該当する場合,管理基準に適合した家畜排せつ物の管理を行う。
      • 2 悪臭・害虫の発生:(1)家畜排せつ物の処理・保管用施設は,処理容量に応じて稼働させ,施設内外の清掃等に努める。(2)畜舎等におけるふん尿の早期搬出や清掃等に努める。
      • 3 家畜排せつ物の利活用:次の取組のうち一つ以上の実行に努める。(1)家畜排せつ物の堆肥化,液肥化,スラリー処理または保管等を行い,農業者自らが作物生産や園芸等への利用を行うか,(2)作物生産や園芸等への利用が見込まれる者への譲渡を行う。(3)上記(1)や(2)が困難であったり,より適切な処理方法や利用方法があったりする場合には,炭化,焼却,汚水浄化,委託処分等による適切な処理等を行う。(4)可能な場合は,メタン発酵等によるエネルギー利用を行う。
      • 4 環境関連法令:(1)使用済みプラスチック等は廃棄物の処理及び清掃に関する法律に従った処分を行う。(2)臭気や排水等が経営体外へ放出又は排出される場合は,水質汚濁防止法,悪臭防止法等に従った措置を行う。
      • 5 エネルギーの節減:「? 作物の生産」の該当項目に同じ。
      • 6 知見・情報の収集:「? 作物の生産」の該当項目に同じ。ただし,「作物の生産」を「家畜の飼養・生産」に置き換える。

     点検シートは添付されたものでも,また,都道府県等が別途定めた同等以上のものでも良い。作物生産と家畜生産の双方を行っている農業者は両方の点検シートに記入する。

    ●農業環境規範の実践が補助金交付の条件

     地方農政局長通達によれば,基本計画を踏まえて農林水産省が実施する各種の補助金,交付金,資金,制度等の事業は,農業環境規範を実践する農業者に対して講じていくことを基本とする。このため,事業に参加する農業者は,自らがその生産活動を点検して署名捺印した点検シートの写しを手続窓口に提出することが義務化される。

    ●不十分なわが国の農業環境規範

     農業環境規範はわずか7ページだけである。諸外国の同様の規範に比べるときわめて貧弱だといわざるを得ない。例えば,EUの農業に起因した硝酸による汚染の防止に関する法律(硝酸指令)に定められた優良農業行為規範の枠組の条文は1ページに過ぎないが,これに基づいて作られたイングランドの「水保護のための優良農業行為規範」は全96ページにも及び,その中で,遵守すべき農業行為を具体的に記載している。これに比べて,今回のわが国の農業環境規範は,法律で裏付けられたものでなく,通達にすぎない。その上,簡略すぎて,農業者が守るべき農業行為の内容が具体的に記載されていない。しかも,経営体全体を通したチェックであるため,規範を守ったと判断できないケースが一部にあったとしても,全体としては守ったと農業者が主観的に判断する場合も当然ありうる。そして,署名捺印して提出しても,その是非を検証する仕組みが記されていない。

     農業者が守るべき農業行為の内容に具体性がない例を以下に若干述べる。

     土づくりの項に,堆肥,麦わらのすき込み,緑肥の栽培などにより土壌に有機物を供給する(原則として1年に1度)ことが記されている。しかし,作物生産に支障を生じない,いわゆる完熟堆肥の作り方,作物生産の持続性と環境の保全とを両立させる,堆肥,わら,緑肥の施用上限量や施用方法については,何らの説明や指示もなく,農業者の判断だけにまかされている。

     施肥については,都道府県の施肥基準やJAの栽培歴等に則した施肥を行うことが記載されている。しかし,施肥基準は土壌診断に基づいて施肥量を調節することを求めているものの,農業環境規範では土壌診断が義務化されていない。これでは片手落ちである。土壌診断に基づく施肥量の調節を行わずに,標準的な施肥基準に則した施肥を続けていると,すぐに過剰施肥になって,作物生産の持続性がそこなわれ,環境汚染が生じてしまう。また,堆肥等の有機物資材の施用を奨励するなら,そこから供給される養分量を考慮して,化学肥料の施用量を調節しなければならない。しかし,現行の施肥基準で,有機物資材施用量に応じた化学肥料施用量の削減量を明示している施肥基準は,北海道の施肥ガイド(環境保全型農業レポートNo.2)など,ごく一部にすぎない。因みに,北海道農政部は2005年3月に「北海道における有機質資材の利用ガイド」(全137ページ)を刊行した。これは北海道の施肥ガイドの有機質資材施用にかかわる部分を詳しく解説したもので,(1)有機質資材の種類と特性,(2)堆肥化のポイントと堆肥の品質,(3)有機質資材の施用基準と減肥対応,(4)有機質資材施用と環境問題,(5)実際の利用,(6)堆肥生産と利用の取り組み事例,(7)資料から構成されている。

     このように,現状の施肥基準の多くには,有機物資材や化学肥料の施用について欠陥が存在する。このためであろうか,地方農政局長通達には「施肥基準の策定・見直しの指針」が添付されている。その中で,(1)環境負荷低減に配慮し,作物に利用されない余剰分を少なくすることを基本に,肥料成分施用量の上限水準として,施肥量の基準値を設定する(従来の施肥基準の多くが平均的単収を上げる際の標準的施肥量を記載していたが,今後は施用上限量を記載する),(2)土壌・作物診断結果に基づく施肥量の決定方法や,堆肥等の資材に含まれる肥料成分を勘案した施肥量の決定方法等,土壌・作物に応じた施肥量の調整方策を示す施肥基準とする,(3)施肥量,施肥方法の基準に加え,施肥に関するその他の指導事項,施肥と環境の関係についての知識等をわかりやすく体系的・総合的に取りまとめた資料として作成する,ことを指示している。

     防除についても,農業環境規範には理念が書かれているだけで具体性に乏しい。ただし,2004年11月から農林水産省消費・安全局が「総合的病害虫管理(IPM)検討会」を開催し,総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指標策定指針(案)を検討しており,近く,水稲におけるIPM指標が公表される予定となっている。そこでは,農業環境規範の防除の項目を細分化して,より具体的にチェックできる指標が作られるはずである。しかし農林水産省は,このIPM指標を農業環境規範に位置づけていない。どうやら前出の「農業環境規範の経緯」に記した,2005年度からモデル地域に導入する事業の環境負荷の低減効果に関する評価・検証手法に位置づけている模様であるが,農業環境規範として「総合的病害虫管理(IPM)検討会」で策定されるはずの細分化した具体的項目についてチェックできるものでなければ,規範としての実効性を持たないであろう。同様に,施肥についても,施肥基準を見直した上で,見直された施肥基準が守られたか否かを細分化した指標によってチェックするリストを作ることが必要である。

    ●形式だけで内容のない農業環境規範

     環境を保全する農業環境規範を定めて,それを守る農業者に環境保全目的の支援を行うクロス・コンプライアンスの方向は,これまでのWTO協定交渉の流れからみて回避できないし,農業者に政府が支援を行うための唯一の方策といえよう。しかし,しっかりした基準と具体的なチェックリストが作られていない現状においては,上記の農業環境規範は形式だけで,内容のないものといわざるをえない。

     WTO協定交渉において環境保全目的の補助金であると諸外国に納得させるには,農業行為規範を政府が定めて,厳正に履行されることを条件に補助金を支出することを証明しなければならない。そのために,ともかく政府が農業行為規範を定めたという実績が必要である。しかし,「我が国農業生産全体の現状を勘案し」といったゆるい規範にするのが,現在の日本では必要だとする,政策的な姿勢が背後にみえる気がしてならない。つまり,定めた規範を守れないために,補助金を受け取れない農業者が続出しないように,というおかしな配慮がかいま見える。地方農政局長通達には,「都道府県等が,地域の環境や農業生産の状況を踏まえ,農業環境規範と同等以上のものを策定すること等についても推奨するものとする。」と記されている。都道府県等が,国レベルよりも,本来の趣旨を踏まえた,科学的で具体的な農業環境規範を策定することを期待したい。

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