環境保全型農業レポート > No.27 福岡県「農の恵み事業」
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.27 福岡県「農の恵み事業」

    「県民と育む『農の恵み』モデル事業」への期待

     2005年4月から福岡県は「県民と育む『農の恵み』モデル事業」を開始した。そして,2005年7月に刊行した「平成16年度福岡県食料・農業・農村の動向」(県農業白書)の中でも,この事業の概要を紹介している。しかし,その記載は詳しくなく,福岡県のホームページは元資料をあまり提供していないので,詳細を知ることが難しい。福岡県議会議事録や他のホームページ,『現代農業』2005年11月号の記事(宇根 豊:福岡型環境支払いが切り開く世界。p.356-357。山田修嗣:福岡園の「農の恵みモデル事業」とは。p.358-359)などから得た情報を整理して紹介する。

    ●「農の恵み事業」の概要

     福岡県は2004年度に,農家が営む農業によって維持されている農業生態系や景観など保全に対価を支払う直接支払制度の創設について,農政部に設けられたプロジェクトチームで検討を行った。そして,制度の創設については,県民や世論の合意が必要であるとの知事の意向から,合意を得る方策として,まず調査事業として,「県民と育む『農の恵み』モデル事業」を2005年から開始することにして,2005年度予算に調査事業費を組みこんだ。
     この事業は,2005〜2007年の3年間にわたって,慣行栽培の水田地区と減農薬栽培の水田地区について,農薬投入量,土壌,水質,生息生物などを調査し,栽培方法と環境負荷の関係を解析して,「環境支払」の指標となる生物種などの基準を策定するものである。この結果を踏まえて,2008年度から環境保全目的の直接支払制度を導入する予定である。
     2005年3月に2005年度予算が成立したことを受けて,調査対象のモデル地区を4月に公募した。当初は12地区を想定したようだが,15地区から応募があり,14地区が採択された。調査は,農業者,研究者,学生,NPO関係者,市民からなる「農の恵み調査隊」(モニター)が行うが,これも公募し,県の当初予定100名の半分の47名の応募があった。調査隊員には専門家の入ったワーキンググループが調査方法の指導を行っている。調査は年3回(田植え後15日目,田植え後30日目,出穂期)行う。調査事業対象農家には,水稲の減農薬栽培,生き物調査の実施,作業日誌の作成が義務づけられ,10a当たり5,000円が支払われる。これは減農薬栽培のかかり増し経費とされている。

    福岡県のホームページはこちら

    ●「農の恵み事業」の背景

     「水稲の減農薬栽培」と「生き物」がキーワードになっていることから分かるように,『農の恵み』事業は,福岡県に所在するNPOの「農と自然の研究所」の宇根豊代表理事のこれまでの蓄積と考えが中心支柱になっている。2003年6月に宇根代表理事を始め,9つの環境農業NPO団体の代表が、当時の亀井善之農林水産大臣に農業(水田,畑,果樹での耕種農業と畜産)が果たしている公益的機能について直接支払を行う政策提言を行った。この提言のうち,水田の減農薬栽培に限定した部分を核として福岡県の「農の恵み事業」が発足したといえる。
     福岡県としては,昨今の厳しい農業情勢の中で,県の農業・農村の振興を図り,競争力のある農業を育てるとともに,環境に配慮した農業を進めるために,農業の持つ公益的機能を県民に理解してもらうために,この事業を計画し,次の段階で環境支払を導入して,農業者を支援したいと考えていると理解できる。

    ●本格導入の際の問題点

     減農薬の特別栽培米による販売ルートの拡大・米価の維持・向上に加え,生物多様性の富化を対象にした点では日本最初の支払を行って,米価下落によって農業所得が低下している水田農業者を支援できる制度が次の段階で実施されることが期待される。
     しかし,調査事業の「農の恵み事業」の次の段階で導入する環境保全目的の直接支払制度をどのような枠組にするかと財源が問題となろう。財政が豊かな時代なら新規予算も認められやすいが,福岡県でも2005年度予算で328億円の財源不足が生じて,県債の発行や基金の取り崩しによって穴埋めしており,調査事業よりもはるかに多額を要する直接支払制度を導入する際には改めて是非が論議されることが予想される。
     EUやアメリカが環境保全目的の直接支払を行っている理由や実施できている理由として,次を指摘することができよう。

    (a)農業所得が低下して離農する農家が増加し,国の農業政策や社会政策として農業者が農業を継続するには支援が必要になっている。
    (b)消費ニーズに合った安全・安心な農産物生産に誘導することが必要になっている。
    (c)農業による深刻な環境負荷や環境劣化が生じて,国民の生活環境の低下が生じている。
    (d)環境負荷や環境破壊を起こすなら支援を行わずに,法律によって罰する。
    (e)法律や優良農業行為基準以上に環境を保全する農業者にのみ支援を行う。
    (f)支援額は国民の納得できる論拠を持ち,農業者に支援する財源を確保できる。
    (g)国民が,支援によって改善された環境を享受し,安全・安心な農産物の提供を受けて,支援の最終受益者が国民であることを認識できる。

     これらの事項と照合すると,次の疑問が出されるかもしれない。

    (1)水田の生き物の減少は生活環境の低下をもたらしていると実感している都市住民はどれだけいるのか。
    (2)減農薬栽培は安全・安心なコメの提供につながるが,減農薬栽培だけが対象で良いのか(有機栽培は対象外なのか)。
    (3)支払を行う条件や農業行為基準を明確にできるのか。
    (4)支払額をどのような論拠からいくらかにするのか。
    (5)水田の生き物が豊かになったとして,都市住民はそれを享受できるのか。

     「(3)支払を行う条件や農業行為基準を明確にできるのか」は,現在行っている調査事業の結果から策定するとして,生物多様性では特に都市住民とのかかわりが問題になろう。生き物が豊かになった水田は住民の多い都市と距離的に離れている。イギリスは補助金を受けた農業者は都市住民に農地を散策できるように仕向けているが,都市住民が水田の生き物と触れあえる工夫が必要だろう。2005年6月の県農林水産委員会でも,この点に関連して,『まちむらネットワークとか,あるいは小・中学校における環境学習とか,農業体験学習とか、そういったものとの連携』が必要と,委員から指摘されている。
     最大の問題は,支払の論拠作りであろう。上述したNPO団体が農林水産大臣に行った政策提言では,農業行為別の公益的機能の支払額を定めて,1戸当たり250万円を上限に支払うとなっていた。2004年度の水田作農家の1戸当たりの平均農業所得はわずか39.2万円に落ち込んでいる。これは小規模農家も含めた平均値だが,3 ha以上の農家でも平均314万円となっている。これだけわずかな農業所得しかえられていないから,支払を行う必要性はいえても,どのような論拠からいくら支払うのかが争点になりそうである。
     2005年2月の福岡県知事の定例記者会見の議事録には,『「農の恵み」,これは,環境所得保障みたいな考え方を我々も取り入れなくてはいけないのではないかということを目指した非常に新しいモデル事業です。』と記されている。議事録どおりの「環境所得保障」だとすると,米価の下落が起きた場合,環境にやさしい農業行為を行った者には下落分を補填して,一定水準の所得を保障するように受け取られよう。また,「環境所得補償」であれば,米価の下落が起きても,下落分の保障ではなく,環境にやさしい行為に対して一定額の支払いを行って,下落分の一定部分を補うように理解できよう。このように,「保障」と「補償」では,支払論拠の発想が大きく異なるだろう。納税者の大部分を占める非農業者の理解を得る支払論拠作りと,支払額の設定が問題になろう。

    ●その他の公益的機能は対象にしないのか

     生き物だけに限定せずに,最近頻発している集中豪雨時の都市洪水を軽減する水田の洪水防止機能も対象にすれば,水田と都市住民とのかかわりをより実感してもらえよう。
     国土庁はかつて洪水防止について,水田の役割を重視していなかった。しかし,2001年度の土地白書において,『都市河川を始めとする河川の流域においては,急速な開発等により,本来流域が有していた保水・遊水機能の低下とこれに伴う洪水の流出状況の急変が見られ,近年洪水被害が頻発しており,また,湧水の枯渇,平常時の河川の流量の減少等水環境の悪化が起こっている。これらの災害等を軽減するためには,河川改修や遊水地等の治水施設の整備が重要であるが,それらのみでは,流域全体として十分な治水安全度を早急に確保することは困難であり,また,環境保全に対しても十分な効果を発揮できない。このような地域においては,流出増対策として,調節池等の治水施設を整備するだけでなく,ため池,自然池,水田等の保全,雨水貯留浸透施設の設置の推進を図ること等により,流域の持つ保水・遊水機能の保持・増進が必要である。』と記している。福岡市では2004年に集中豪雨で都市型洪水の起きたこともあり,こうした点も入れた方が都市住民の理解をえやすいではないか。
     2005年3月の県予算特別委員会では,支払対象の農家をどのように設定するかが問題にされた。環境保全目的の支払なら,栽培基準を設けて,それを遵守する農家を対象にすることが原則だが,委員会では農家の規模だけを問題にして,新しい制度が市街化区域の小規模農家を温存することになるのを警戒する発言がなされた。洪水防止機能も対象にするなら,この点も再検討する必要がろう。
     また,代かき直後の強制落水で水田から流出する窒素やリンによる表流水の富栄養化を軽減する水管理や施肥の改善も対象にして,農業と飲料水質の関係について,都市住民の理解をえることも大切であろう。滋賀県の「環境こだわり農業」では琵琶湖の富栄養化を防止するために,水田からの濁水の排出防止を重視している(環境保全型農業レポート.No.2)。
     農政にとって新しい制度を導入する福岡県の試みに期待するだけに,県民の支持を得られる制度になることを願っている。

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