環境保全型農業レポート > No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定

    ●経緯

     国内外で問題となった不適切に生産された食品に対する消費者の不安に対処するために,農林水産省生産局は,農業者が最低限取り組むべき規範として,「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(農業環境規範,基礎GAP)を2005年3月31日に公表した。この規範は雑ぱくなものである。例えば,作物生産では,土づくり,施肥,防除,廃棄物処理,エネルギー節減,知見・情報の収集,生産情報の保存といった項目について,その必要性と管理の原則をごく簡単に記している。そして,正しく実践するには多数の要素を実施する必要があるが,その個々の要素を示さず,各項目を一括して守ったか否かだけをチェックすることを要求している(環境保全型農業レポート.No.12 「農業生産活動規範」とは)。

     農林水産省は,基礎GAPを守ることを農業補助金を受給する条件にしている。しかし,この基礎GAPを守っていない,と農業者が申告することは非常に難しく,誰でも守るのが当たり前の内容である。国際場面で,日本も環境保全のために農業者とクロス・コンプライアンスの下に農業補助金を支給していますという形式を整えることをねらい,実際には,規範を守れないために,補助金を受け取れない農業者がでないようにゆるい規範にしたと推察することもできる。

     農林水産省が基礎GAPを公表した背景には,EUを中心に環境保全と食品の安全性を保証する制度として実施されているEUREPGAP(ユーレップギャップ)(現在はグローバルGAPに改称)が国際的に広まったことがある(環境保全型農業レポート.「No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要」)。日本の農業者の中にも認証を受けてこれに参加する者が出るようになり,そうした農業者も加わって,民間主導の日本GAP協会が2005年に設立された。そして,日本GAP協会の穀物と青果物の規範は,2007年にグローバルGAPとの同等性を承認された(環境保全型農業レポート.「No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称〜JGAPとグローバルギャップとの同等性も承認」)。

     また,農林水産省は基礎GAPを公表した上で,GAP手法を農業生産に取り込むことを関係者に働きかけた。例えば,農林水産省は2007年4月に公表した「21世紀新農政2007」において,野菜・果樹や米麦等の産地を対象とした農家に研修・指導等を通じて,2011年度までにおおむね全ての主要な産地(2,000 産地)においてGAP の導入を目指すとした。産地は基礎GAPに加えて,項目や必要なことがらを加えて,独自の規範を作ることが奨励された。

     だが,ごく雑ぱくな基礎GAPと,精緻なグローバルGAPとの間には大きな格差が存在する。産地としては,基礎GAPでは簡単すぎて,基礎GAPを守っているとして産地を積極的に宣伝しても消費者の受けには不安がある一方,グローバルGAPの認証はハードルが高くて,その取得は難しい。現実的にはどうすれば良いのか。そんな困惑が生じていた。

    ●「GAPの共通の基盤づくりに関する検討会」

     農林水産省生産局は,こうした事態を改善し,GAPの推進を図るために,食品安全,環境保全と労働安全という3つの安全を視野に入れた日本の標準的なGAPを構築するのに役立つ,その共通基盤部分を作成するために,「農業生産工程管理(GAP)の共通の基盤づくりに関する検討会」を2009年8月から2010年3月まで4回開催し,当面,米,麦,野菜を対象に検討を進めた。

     検討会で作成した「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(案)」について,2010年3月19日から4月1日まで意見募集を行なった後,2010年4月21日付け農林水産省生産局長通知として,「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」を公表した(全22頁)。

    ●ガイドラインの内容

     ガイドラインは,野菜,米,麦の3つの品目について,それぞれ,(1)食品安全を主な目的とする取組,(2)環境保全を主な目的とする取組,(3)労働安全を主な目的とする取組,(4) 農業生産工程管理の全般に係る取組に分けて,取り組むべき事項とそれに関する法令等を簡単に列記している。あまりにも簡単な記述なので,事項と関連法令などの概要を承知していないと,良く理解できないであろう。

     参考資料集には,事項別に産地等の取組主体が留意すべき点や関連法令等が記されている。参考資料(全143頁)を読めば概略を把握できよう。

     ガイドラインは3つの品目に分けて表形式で記述しているが,重複部分が多い。そこで,3つの品目を合わせて,重複部分を少なくして,下記に紹介する。

    1.食品安全を主な目的とする取組

    2.環境保全を主な目的とする取組

    3.労働安全を主な目的とする取組

    4.農業生産工程管理の全般に係る取組

     例えば,「肥料による環境負荷の低減対策」のなかの事項である「土壌診断の結果を踏まえた肥料の適正な施肥や,都道府県の施肥基準やJAの栽培暦等で示している施肥量,施肥方法等に則した施肥の実施」について,参考資料には次が記されている。

     「作物は,施用された肥料成分のすべては利用できないため,肥料成分の一部は環境中に溶脱,流亡または揮散します。このため,過剰となるような肥料成分量は投入しないことが必要です。

     土壌診断の結果を踏まえた肥料の適正な施肥や,都道府県の施肥基準やJAの栽培暦等で示している施肥量,施肥方法等に則した施肥の実施に関し,「地力増進基本指針」及び「環境と調和のとれた農業生産活動規範点検活動の手引き」に取組例を示しています。

     (取組例)

     ・たい肥等の有機物を施用した場合は,その肥料成分を考慮した施肥設計,減肥マニュアル等に基づく減肥

     ・都道府県の施肥基準,JAの栽培暦等で示している施肥量,施肥方法等に則した施肥

     ・施肥用機械・器具の点検・整備 等」

     そして,「地力増進基本指針」と「環境と調和のとれた農業生産活動規範点検活動の手引き」の関係部分を原文のまま転載している。「環境と調和のとれた農業生産活動規範点検活動の手引き」の中には,「適切で効果的・効率的な施肥」の具体的な取組例として,下記が記載されていることを紹介している。すなわち,

     ◎ 都道府県の施肥基準,JAの栽培歴等で示している施肥量,施肥方法等に則した施肥を行なう。

     ◎ 地域向けの施肥量等が示されていない場合は,次の取組のうちいずれか一つを実行する。

     (1)他の都道府県が示している基準,各種試験研究成果等を目安とした施肥を行なう。

     (2) 土壌診断の実施とその結果を活用した施肥を行なう。

     (3) 残存肥料成分の流出を防止するためのクリーニングクロップの作付け等を行なう。

     この程度まで記述してくれると,その内容をある程度理解できよう。

    ●GAPのPDCAサイクル

     産地などは,このガイドラインにしたがって,各事項について,参考資料に記してある法令等を良く理解し,記載されている注意を踏まえて,(1)産地の品目や生産条件にあった必要な点検事項を策定する(立案Plan)。そして,(2)農業者は点検事項を確認して農作業を行い,取組内容を記録・保存し(実践Do),(3)実践内容を自己点検し(産地の責任者などによる他者による客観的な点検の仕組みを加えるもこともある)(評価Check),(4)改善が必要な部分の把握・見直して(改善Action),改善した点検事項を用いて実践するといったサイクル(英語の頭文字を取ってPCDAサイクルという)をくり返して,食品安全,環境保全と労働安全という3つの安全のレベルを向上させてゆくことになる。

    ●ガイドラインを参考に産地は点検事項を策定できるか

     ではこのガイドラインを参考にして,産地は必要な点検事項を策定できるのか。ガイドライン案に対する意見の中には,共通基盤のガイドラインでなく,生産者が農業を行なう上で,最低限実施しなければならない基準または規範を示してほしいとの意見もあった(公募意見の結果)。これに対して,検討会事務局は,「これらの取組内容は,法令,国の指針,国際機関が定める基準及び科学的知見等を基本として作成したものですが,一方で,全ての農業者が実施しなければならない基準や義務を定めたものではありません。法令上の義務の定めのある一部の取組事項については,その旨記載してあります。」と記している。法令上の義務があるものだけが,法令上最低限実施しなければならない事項だが,関係法令のないものも含め,農業者が最低限取り組むべき規範とし基礎GAPが作られており,このガイドラインは基礎GAPとは別ですといいたいのであろう。

     日本では農業生産の方法についての法令は欧米に比べて少なく,法令上最低限実施しなければならない事項はわずかにすぎない。例えば,EUでは硝酸指令によって,家畜ふん尿の還元可能上限量に加え,農地であっても,家畜ふん尿や化学肥料の施用を禁止する場所(傾斜地など)や,秋冬の施用禁止期間,投入可能窒素量の上限値などが決められている。EUに比べて,日本では最低限実施しなければ事項はごくわずかにすぎない。このため,ガイドラインに記載された事項は法令で決められていないものが大部分である。そうした事項で具体的にどのような取組や作業を決めれば良いのか。それは産地などが自主的に決めれば良いというのであろうが,産地などは具体的にどう決めて良いのか分からずに苦労しているであろう。

    ●GAPの階層性

     イギリスで実施されているGAPをみると,その内容が一様でなく,GAPに階層性がうかがえる(図1)。例えば,外国と農産物貿易を行なう際には,グローバルGAPの認証を農産物なら,スムースに取引される。グローバルGAPは,民間組織が,コンバイン収穫作物(穀物,豆類,イモ類など),果実・野菜,コーヒー(緑色豆),チャ,花き・観賞用植物,家畜(牛,羊,豚,家禽),養殖魚といった作目群共通の規範を定め,所定の基準内容で農産物が生産されたことを保証している。グローバルGAPでは,個々の品目についての生産基準はあえて定めていない。個々の品目の生産基準は自国と輸出相手国のものにしたがうことを原則にしており,農産物を輸出しようとする農業者は,自国と輸出相手国双方の使用可能農薬など生産基準に習熟していなければならない(環境保全型農業レポート.「No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要」)。

     イギリスでは,1990年に「食品安全法」で,バイヤーに対して購入・販売する食品の安全性について,然るべき注意を払うことが義務づけられた。これが契機になって,1990年代にいくつかの組織が食品の安全性を保証する制度を発足させた。それぞれの組織は,青果物,畜産物,有機農産物など,得意な作目を扱っており,主要品目については具体的な生産基準を定めて,参加している農業者はそうした生産基準に準拠して生産した農産物であることを保証している(環境保全型農業レポート.「No.52 イギリスの食品保証制度」)。

     民間組織の生産基準は当然,イングランドなどの政府が定めている優良農業規範を遵守したものになっている。政府の定めた優良農業規範では,イギリスやEUの関係法令の関係部分の解説と,それを遵守するための基準的な農業管理技術が科学的に解説されている(環境保全型農業レポート.「No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正」:「No.40 イギリスの農薬使用規範」.)。こうした優良農業規範は個々の技術をあまり具体的には記述していない。それを記述しているのが,各種のマニュアルであり,施肥基準のほか,硝酸脆弱地帯の農業者向けのマニュアルでは家畜のふん尿排出量やふん尿中の有効成分量の計算の仕方など,具体的な技術が解説されている(環境保全型農業レポート.「No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行」)。民間組織の生産基準は当然,政府の定めた優良農業規範や各種マニュアルを参照する形で作られている。

    ●国が策定すべきGAPは何か

     国が真っ先に決めるべきは,作目共通の関係法令を遵守するための科学的な農業管理技術基準を記したGAPである。関係法令が少ない日本では,イングランドの食料・農業・農村開発省の定めている土・水・大気の優良農業規範や農薬使用規範のようなものは作りにくいであろう。そして,法令で定められた最低守るべきGAPは内容の乏しい貧相なものになってしまうだろう。とはいえ,関係法令で決められた事項だけや現在の基礎GAPでは,食品安全,環境保全と労働安全という3つの安全が守られないからこそ,関係法令のない事項についても,守るべき基準を定めてこそ国が作るGAPの意味がある。関係法令で規定されていないからこそ,最低農業者が守るべき作業内容を具体的に記した優良農業規範を国が作り,民間の作るGAPの模範やベースとするとともに,その遵守を農業者への補助金支払いの条件にすることが国際対応の場面でも必要であろう。

     アメリカ連邦政府は,連邦政府の支出する補助金を受給する条件として,各州の定めた環境保全的な農業行為基準を守ることを定めている。そして,各州がそうした基準を策定する参考として,160を超える農作業別の国定保全行為基準を作っている(USDA: National Conservation Practice Standards )。これはあくまでも参考で,これをベースに州が自らの地域の条件に合うように作り直した州の基準が法的に有効である。アメリカの保全行為基準は,関係法令との関係などは特に書かず,具体的な農作業(堆肥化施設,IPM,養分管理,灌漑施設,カバークロップ,廃棄物処理等々)を標準的な数値がある場合には,それも具体的に示しつつ,科学的に解説している。そして,例えば,ここで規定された堆肥化施設の要件は,慣行農業だけでなく,有機農業でも守ることがアメリカの「有機農業法」で規定されている。それゆえ,アメリカのように,農業者が実践すべき3つの安全を守るのに適切な基本的農作業を具体的にまとめたものを作るのも,国が作るGAPといえよう。

     国が作るGAPは民間では作りにくい基盤となるGAPであって,民間はその上に,自分らの目的に沿った内容の作業を積み重ねられるようにすることが必要である。その意味で国が作るGAPは「規範」であり,今回のガイドラインのように農林水産省がGAPを「農業生産工程管理」と訳すべきではなかろう。「農業生産工程管理」と表現されるGAPは民間が具体的品目の生産を管理するためのGAPで用いるべきであろう。

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