環境保全型農業レポート > No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行

    ●アメリカと日本における有機農業の法的基準の違い

     アメリカは,1990年公布の「有機食品生産法」に基づいて,有機農業や有機食品の生産・加工・流通・販売を規制する法的基準である「全米有機プログラム(National Organic Program: NOP)規則」を2000年12月に制定している。日本は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づいて,2000年1月に,有機の農産物と加工食品の日本農林規格,2005年10月に飼料と畜産物の日本農林規格を制定している。

     日本とアメリカの有機農業や有機食品に関する法的基準を比較すると,形式的なことだが,大きな違いがあることに気づく。すなわち,アメリカの規則は,必要な数値を含め,具体的規定を盛り込んでいる。例えば,動植物質材料からの堆肥の製造条件として具体的規定を行なっている(「●有機作物生産用家畜ふん堆肥の製造」参照)。これに対して,有機農産物の日本農林規格は,『植物及びその残さ由来の資材』および『発酵,乾燥又は焼成した排せつ物由来の資材』は『家畜及び家きんの排せつ物に由来するものであること』だけを規定し,堆肥の作り方については何も規定していない。

    ●有機農業ハンドブックの位置づけ

     「NOP規則」がかなり具体的規定を行なっているので,法的解釈に混乱が生ずる余地は日本の場合よりもはるかに少ないはずである。しかし,認証組織や認証を受けた生産者などが有機農業を実施しようとする際に,「NOP規則」の解釈に不統一などが生じたり,どのような具体的手段を採用したりすれば良いのかなど,混乱が生ずる箇所が存在している。農務省は,そうした部分の解釈を明確にした「NOPハンドブック」を作成して,誤解や混乱が生じないようにしている。まだハンドブックは最終版に向けた作業途中であるが,2010年10月20日にハンドブックの2010年秋版が公表された(USDA Agricultural Marketing Service (2010) Program Handbook: Guidance and Instructions for Accredited Certifying Agents & Certified Operations, 2010 Fall Edition. 166p. )。

     ハンドブックは2つの部分からなる。前半は,特に技術的要素について,規則に整合性がない部分や不明確な部分を明確にしている。後半は,認可された認証組織が生産者などの認証手続きを行なったり,生産者などが規則を遵守したりする際の手続きを中心に記している。以下に,前半の技術的要素のいくつかの堆肥に関係する部分の概要を紹介する。

    ●有機作物生産用家畜ふん堆肥の製造

     (1)「NOP規則」での問題点

     「NOP規則」は,堆肥化していない生の家畜ふん尿は,可食部が土壌と接触する作物の場合には少なくとも収穫の120日よりも以前に施用し,可食部が土壌と接触しない作物の場合には収穫の少なくとも90日よりも以前に施用することを規定している(ボックス1)。しかし,規則は,堆肥化処理できちんとした発熱のあった家畜ふん堆肥についても,有機農業では,同様に施用時期を制限すべきなのか不要なのか,明文化していないので,現場で解釈に混乱が生じていると問題提起をしている。

     (2)NOPの方針

     アメリカでは「有機食品生産法」によって,「NOP規則」に関係する有機農業の基準や推進上の問題などを審議して,その具体的対応を農務長官に勧告を行なう「全米有機基準委員会」(National Organic Standards Board : NOSB) が設けられている。堆肥についての上述の問題点についても,「全米有機基準委員会」から2006年11月に勧告がだされている(NOSB Recommendation for Guidance: Use of Compost, Vermicompost, Processed Manure and Compost Tea)。NOP事務局は,この勧告のうち,冒頭の問題,すなわち,堆肥の施用時期についてどのような規定を設けるかに限定して,勧告を吟味し,さらに,有機農業で使用する資材をNOP規則に照らして評価している民間NPO組織「有機資材評価研究所」(Organic Materials Review Institute: OMRI)の代表との相談などを行なって,結論として次の方針を打ち出した。

     「NOP規則」のセクション205.203のc) (2)(ボックス1)にしたがって,55〜77℃の発熱を確保して製造した堆肥のうち,温度が66℃に最低1時間,または,瞬間的でも良いが74℃に達した上で,最大水分含量が12%までに乾燥した堆肥か,加熱ないし乾燥処理によって同等の温度や水分条件を確保した堆肥は,作物の収穫との間に特定の間隔を置かずに,いつでも施用して良い。同等の温度や水分条件がプロセスで確保できたか否かの判定は,ふん便性大腸菌数(正確には最確値(MPN)と呼ばれる推定菌数)が家畜ふん堆肥サンプル1 g当たり1×103MPNを超えず,サルモネラ菌が同サンプル1 g当たり0.75 MPNを超えないことで行なう。

     (3)現場適用時に想定される問題点

     A.55〜65℃しか確保できなかった家畜ふん堆肥は,播種直前にも施用できないケースが多くなる

     上述の方針はハンドブックに記載されて,認証組織や生産者に指導されるので,規則に準じた効力をもつことになる。これに準ずれば,温度が66℃に最低1時間,または,瞬間的でも良いが74℃に達した上で,最大水分含量が12%までに乾燥した堆肥であれば,食用作物の栽培期間中にいつでも施用して良い。しかし,「NOP規則」に準じて55℃以上の温度を確保した堆肥であっても,65℃以下の温度しか確保できなかった堆肥は,栽培期間中にいつでも施用できるわけではなく,「NOP規則」のセクション205.203のc) (1)(ボックス1)の生堆肥と同じように,収穫日との関係で,施用期日の制約に受けることになると理解される。そうなると,非食用作物にはいつでも施用できるが,収穫部位が土壌と接触しない穀物に加え,葉菜類や果菜類といった野菜では,収穫の90日前までに堆肥を施用するとの規定が適用されることになろう。そうなければ,生育期間が3か月未満のものが多いこれらの作物では事実上,栽培期間中に施用できないことになる。

     B.USDAは病原生物の死滅は55℃で良いとしていると解釈できるが

     通常,堆肥化過程では60℃の温度を確保するのは難しくないが,66℃以上の温度を確保するのが難しいケースが少なくない。なぜ,66℃1時間以上という条件が設定されたのか。病原生物による汚染防止を強調して,66℃1時間以上の発熱/加熱を重視していると理解されるが,USDAのこれまでの文書をみると,病原生物の減少には54℃を超える温度に3日間ないし15日間維持すれば良いとしているのと矛盾している。 農務省は,基本的な農作業について,慣行農業や有機農業を含め,全ての農業者が持続可能な農業のために実践すべき作業内容をかなり具体的にまとめた多数の保全的農業規範を刊行している。

     その「規範317:堆肥化施設」は,堆肥化施設と堆肥化条件の基本的要点をかなり具体的に記しているが,堆肥化温度についての規定が版によって微妙に変化している。

     2001年3月版および2003年10月の版では,病原生物を減らすために,堆肥の山全体の温度を54℃よりも高い温度に少なくとも5日間保持し,温度保持期間は1次堆肥化と2次堆肥化の和で良いと規定している。これは「NOP規則」の有機農業で使用して良い堆肥の最低発熱温度規定と符合している。

     「規範317:堆肥化施設」の2010年9月版になると,温度についての記述が変わってきている。すなわち,

     (1) 農家が自ら使う自家用堆肥の場合は,40℃を超える温度を5日間は維持し,その間に54℃を超える温度を少なくとも4時間は維持する。

     (2) 密閉型通気堆肥化装置や通気堆積システムの場合は病原生物を減らす能力が高く,54℃を超える温度に3日間維持し,3日間は1次堆肥化と2次堆肥化の和で良い。

     (3) 堆積だけの堆肥化システムの場合は,少なくとも5回は切り返して,54℃を超える温度に15日間維持する。

     この記述は「NOP規則」での記述(ボックス1)におおむね合致しているが,次の記述が加わっている。

     1つは農家の自家用堆肥では,54℃を超える温度を少なくとも4時間維持すれば,40℃を超える温度を5日間は維持すれば良いとしている。

     もう1つは,「堆肥の山の温度を規定された温度まで上昇させ,規定された期間維持するように管理しなければならない。雑草種子を殺すには,堆肥温度を63℃まで上げることが必要である。温度が73℃を超えるようにしっかり監視する。温度が85℃を超えたら,堆肥の山を直ちに冷やす措置を講じなければならない」との注意が「規範317」に追加されている。

     これらの記述からは,病原生物を問題ないレベルにまで殺すには54℃を超える温度で良いが,雑草種子を殺すには63℃以上に上げることが必要だとの印象を与える。

     しかし,54℃を超える温度で病原生物を十分に死滅させることができるかは疑問である。染谷・井上(2003)は,病原微生物を十分に死滅させるには,床からの強制通気設備を有する堆肥盤で切り返しを行ないつつ,60℃以上3週間以上保持することが必要だとしている(染谷孝・井上興一 (2003) 堆肥施用と病原菌汚染.農業技術大系.土壌施肥編.第7-1巻.p.資材64-84〜64-99.農文協)。

     C.雑草種子の死滅にも66℃が必要か

     日本でも,飼料に混入していた雑草種子が家畜排泄されたふんに混入しており,スラリー貯留や堆肥化過程で温度をしっかり上げないと,生き残って雑草が畑ではびこっている。この問題を研究した西田らの研究によると,牛ふんを堆肥化する際に,55℃で42〜58時間,60℃で10〜17時間の温度に維持すれば,飼料に混入している雑草種子を全て殺すことができることを報告している(Nishida, T., S. Kurokawa, S. Shibata N. Kitahara (1999) Effect of duration of heat exposure on upland weed seed viability. 雑草研究 44: 59-66)。

     こうした研究からみると,雑草種子を殺すのに66℃を要求する論拠が何なのか気になる。

     D.家畜ふん堆肥を混合したボカシ肥の使用の制限

     60℃を確保できたが,66℃を確保できなかった家畜ふん堆肥の場合,その堆肥を使って製造したボカシ肥も野菜などの生育期間中に使えないことになる。というのは,通常,ボカシ肥製造では温度が50〜55℃を超えないように頻繁に切り返しを行なうので,ボカシ肥化してもいつでも施用して良いとの条件を満たせない。

     E.修正の要望

     栽培期間の短い野菜などへの堆肥施用を考えると,次のことが可能になることが望まれる。なお,この施用による農産物の安全性を裏付けるデータが不十分と判断される場合には,それが実験的に証明された段階で,ハンドブックを修正することが望まれる。

     1)堆肥の全ての部分を60〜65℃で3日間以上保持した家畜ふん堆肥は,施用から収穫までに30日間かそれを超える期間を確保する場合には,作物の播種ないし定植前に土壌に施用して良い。

     2)堆肥の全ての部分を60〜65℃で3日間以上保持した家畜ふん堆肥と他の材料を混合して製造したボカシ肥で,全ての部分を50℃かそれを超える温度に5日間かそれを超える期間保持し,水分含量を12%以下に乾燥し,病原生物を一定レベル以下(ふん便性大腸菌数のが家畜ふん堆肥サンプル1 g当たり1×103 MPNを超えず,サルモネラ菌が同サンプル4 g当たり3 MPNを超えない)にしたものは,作物の栽培期間中にいつでも土壌に施用して良い。

     3)家畜ふん堆肥およびボカシ肥の全ての部分を上記の温度と期間に保持することが必要であり,その確保を行なった作業を所定の様式で生産者が記帳し,認証組織による現地検査の際に確認を受ける。

    ●方針を検討中の堆肥

     上記の「NOPハンドブック」が対象にした堆肥は,「NOP規則」のセクション205.203のc) (2)(ボックス1)にしたがって製造された堆肥で,いわば大型堆肥化装置によって発熱/加熱と乾燥を行なった堆肥である。小規模農家が行なう通気装置もなしで,堆肥材料を堆肥盤の上に堆積して,トラクタを用いてときどき切り返して作る通常の堆肥や,ミミズ堆肥(表2参照)は対象外となっている。

     NOP事務局は,通常の堆肥とミミズ堆肥についてのガイダンス案(NOP 5021 Draft Guidance Compost and Vermicompost in Organic Crop Production )についての意見を,2010年10月13日付けて2010年12月13日まで公募した。

     NOP事務局の方針案は,上述の発熱・乾燥処理済み堆肥に加えて,下記の堆肥の使用を有機農業で認めるとするものである。

     (1) 発熱・乾燥処理以外の方法で製造された堆肥で次のものを許可する。

     a.堆肥が有機農業で使用が許可された材料によって作られていて,かつ,

     b.堆肥の山を混合し,材料の全ての部分が最低3日間,最低55℃(華氏131度)の熱を発するように管理したもの。

     ここで規定した温度や日数の記録を所定の様式で生産者が記帳し,認証組織による現地検査の際に確認を受ける。

     (2) 次のミミズ堆肥化を行なったものを許可する。

     a.堆肥が許可された材料によって作られていて,

     b.1〜3日間隔で有機物を薄い層状に定期的に添加して好気性を維持し,

     c.水分を70-90%に維持し,かつ,

     d.ミミズ堆肥化の方式別に所定の期間,堆肥化処理を行なったもの(屋外堆積方式で6〜12か月,屋内容器システムで2〜4か月など)。

     これらの堆肥についても,全ての材料のタイプと起源,毎日の温度モニタリング日誌,一定高温を達成するのに使用した作業を記録しておき,確認を受けなければならない。

     これらにも66℃1時間以上の発熱/加熱で水分が12%以下に乾燥したものでないと,食用作物には収穫の90/120日前にしか栽培期間中に施用できないことになる。

     なお,コンポストティ(表2参照)の使用については,「全米有機基準委員会」から勧告を受けているものの,NOPはまだガイダンス案を提示していない。

    ●グリーン廃棄物

     「グリーン廃棄物」(Green Waste)は,庭や公園の草花や生垣の剪定屑,家庭や事業所の食品廃棄物など,堆肥化できる生分解性廃棄物のことで,「グリーン廃棄物堆肥」はそれを堆肥化したものである。

     2009年にカリフォルニア州で3種の市販グリーン廃棄物堆肥からビフェントリン(ピレスロイド系の殺虫剤)の残留が認められた。この化学物質を堆肥製造者が投入した形跡はないため,原料に有機農業で許可されていない化学物質が混入していた非農業由来の原料から製造された「グリーン廃棄物堆肥」の使用を有機農業で認めるかが宿題となっていた。

     NOP規則は,環境中にバックグランドレベルの合成農薬が存在し,したがって,有機農業生産システム中にも存在する「回避不可能な環境残留汚染」の可能性があることを認識した上で制定されている。さらに,NOP基準は,堆肥のような投入資材中の合成農薬残留がゼロであることを想定した記述を行なってはいるが,その最大許容量をゼロにすることを命じてはいない。

     NOP事務局は次の方針を打ち出した。すなわち,非有機の作物残渣や刈り取った芝草のような承認された原料から製造されたグリーン廃棄物およびグリーン廃棄物コンポストは,農薬残留物を含んでいる可能性がある。グリーン廃棄物およびグリーン廃棄物コンポストが,(i)禁止物質(合成農薬など)を堆肥化プロセスで直接施用ないし使用していない,(ii)農薬残留物レベルが作物,土壌,水の汚染に寄与していないならば,有機農業に使用して良い。

     この「(ii)農薬残留物レベルが作物,土壌,水の汚染に寄与していない」との記述だけでは不安を感じないであろうか。この判断基準を具体的に記載することが望まれる。例えば,日本では,ポジティブリスト制度によって,食品中に,食品の成分に係る規格(残留基準)が定められていない物質が,人の健康を損なうおそれのない量として定められる一律基準(0.01 ppm)を超えて残留していてはならないと規定されている。せめて,こうした食品残留基準を論拠にして,「有機農業で使用が禁止されている物質が非意図的なプロセスによって含まれている材料を使用して製造したグリーン廃棄物を使用して農産物を生産したとき,人の健康を損なうおそれのない量として定められる一律基準を超えて残留してはならない。」といった記載が追加されることが望まれる。

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