環境保全型農業レポート > No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌

    ●生分解性プラスチック

     石油由来のプラスチックは日常生活を便利にしているが,化石資源の石油を消費して,地球温暖化に荷担している問題がある。また,丈夫で長持ちするのがプラスチックの利点だが,一方では,分解されにくいだけに野外に捨てられた後にもそのままの形で環境中に残り,野生生物に害を及ぼすなどの問題も起こしている。ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニルなどのよく知られたプラスチックは,石油を原料にした難分解プラスチックである。そこで,難分解プラスチックに分解促進剤やデンプンなどの天然高分子を添加した「崩壊性プラスチック」も製造されている。こうした崩壊性プラスチックは添加物部分が劣化・崩壊して,破片にちぎれるが,プラスチックそのものは分解されず,肉眼的に見えない大きさで環境中に残ってしまう。

     他方,バイオマス中の天然分子やその誘導物から製造したプラスチックや,バイオマスを餌にして増殖させた微生物が生産する物質から製造したプラスチックもあり,これらのバイオマス由来のものは「バイオマスプラスチック」と呼ばれている。天然ゴムやポリウレタンもその一種だが,野外では分解されない。しかし,微生物によって野外で分解されるバイオマスプラスチック(ポリ乳酸,デンプン樹脂,脂肪族ポリエステルなど)もある。

     微生物によって野外で二酸化炭素と水に分解されるプラスチックは「生分解性プラスチック」と呼ばれている(日本では一定の基準を満たした生分解性プラスチックを「グリーンプラスチック」と表示する制度が実施されている)。生分解性プラスチックにはバイオマスプラスチックだけでなく,石油を原料としながらも,微生物に分解されるもの(脂肪族ポリエステル,芳香族ポリエステルなど)もある。

    ●生分解性プラスチックといえども意外に分解が遅い

     農業ではプラスチックフィルムをマルチ用に使用している。通常のプラスチックフィルムでマルチを行なった場合,収穫後に不要になったフィルムを回収して処理業者に処分を委託しているケースが増えている。生分解性プラスチックであれば,収穫時には劣化が始まっていて裂け目ができており,ロータリで鋤き込むだけですむので,手間と処分経費を減らすことができる。生分解性プラスチックの価格は通常のものの3〜4倍だが,手間を省けるため,その使用も増えている。キャベツ栽培でコスト試算を行った例では,マルチの回収作業の労賃と処理費を考慮すると,10a当たり,通常のポリエチレンフィルムではフィルム代8,500円+回収作業費8,400円+処理費1,500円で計18,400円を要するのに対して,生分解性プラスチックではフィルム代が28,000円で,約1万円の割高になる(小沢智美.2002.生分解性マルチの利用.農業技術大系.野菜編 第7巻キャベツ.p.基109-112.農文協)。

     とはいえ,畑に鋤き込んだ生分解性プラスチックフィルムの分解は意外に遅い。埼玉県農林総合研究センターの園芸研究所の研究で,葉根菜を4年7作栽培した土壌で,葉菜を栽培し,収穫後に鋤き込んだ生分解性プラスチックフィルムの2か月後の分解をみると,ポリブチレンサクシネートとポリカプロラクトンは重量で1/4以下に減少したが,ポリブチレンアジベート・テレフタレート,ポリ乳酸と澱粉基コボリエステルは1/2程度が残っていた(庄司俊彦・杉山正幸.2006.葉根菜類の生育に対する生分解性プラスチックマルチの連用すき込みの影響.平成17年度関東東海北陸農業研究成果情報(野菜部会))。ただし,フィルム破片が残っていても,4年7作以上にわたって葉菜類の生育には何らの影響もみられなかった。作物生産に影響がないとはいえ,土壌にフィルム破片が散在していることが肉眼的に認められるようでは,汚らしく,消費者から誤解を受けかねない。

     土壌は「微生物の宝庫」といわれ,土壌にはどんな難分解性物質をも分解する微生物が必ず生息していると考えられている。そして,難分解性物質を繰り返し投与していれば,やがて分解菌が集積してきて,難分解性物質が直ぐに分解されるようになるといわれてきた。それにしては,4年7作以上もフィルムを鋤き込み続けたのに,フィルムの分解が遅い。

    ●植物体表面から生分解性プラスチック分解菌を分離

     上述したように,生分解性プラスチックには脂肪族ポリエステル構造を持ったものが多い。動植物体の表面を覆っている脂質には脂肪族ポリエステル構造を持ったものが多く,植物体の表面を覆っているワックスのクチクラも,脂肪族ポリエステル構造のクチンの膜からできている。農業環境技術研究所の北本宏子主任研究員(生物生態機能研究領域)は,脂肪族ポリエステル構造の物質濃度が土壌よりもはるかに高いイネなどの葉の表面に生息する微生物には,脂肪族ポリエステル分解菌が生息し,それらは生分解性プラスチックを分解できるのではないかと発想した。そして,農業環境技術研究所と産業技術総合研究所および筑波大学と共同で下記の研究を行なった。

     まず北本主任研究員らは,葉面に常在している糸状菌様の酵母(好気的条件で単細胞の酵母状態,嫌気的条件で菌糸状態)のシュードザイマ(Pseudozyma)属酵母をテストしてみた。それは,以前に全く別の問題でこの菌を研究したことがあったためである。微生物保存機関から分譲を受けたシュードザイマ属酵母10株のうち,4株が脂肪族ポリエステル構造のプラスチック膜を効率良く分解することを認めた(農業環境技術研究所プレスリリース (2008年3月10日)「農環研が生分解性プラスチックを強力に分解する微生物をイネの葉の表面から発見―プラスチックごみの減量と省力化に期待―」: 北本宏子・多古香奈子・曹暁紅・小板橋基夫・對馬誠・森田友岳・中島敏明.2007.葉面生息酵母は生分解性プラスチックを効率よく分解する.第59回日本生物工学会大会講演要旨集.p.183)。そして,イネの葉や籾から分解能を持った微生物を分離したところ,シュードザイマ属が数多く分離され,その多くがP. antarcticaであることを認めた。

    ●生分解性プラスチック分解能と分解酵素

     分解菌といっても,有機溶媒に溶かした後に,培地に乳液状態で分散させた生分解性プラスチックは分解できるが,固体のままのプラスチックフィルムではあまり分解できないものも多い。しかし,北本主任研究員らが分離した菌はフィルムを直接分解でき,フィルム状態のポリブチレンサクシネート(PBS),ポリブチレンサクシネート/アジペート(PBSA),ポリカプロラクトン(PCL)などを,1週間以内に肉眼的には跡形もなく分解した。さら,常温では生分解が難しいとされている,植物由来のプラスチックであるポリ乳酸(PLA)も常温で分解した(図1,2)。

     P. antarcticaの生成する生分解性プラスチック分解酵素は,油を炭素源にして増殖させたときに良く生産され,糖を炭素源にしたときには生産が抑制された(北本ら,2007)。そして,生分解性プラスチック分解酵素を精製して,そのアミノ酸配列と遺伝子配列を同定し,既知の脂肪分解酵素と違う,新規の酵素であることを確認した(北本宏子・森田友岳・梶原英之・多古香奈子・曹暁紅・小板橋基夫・對馬誠・藤井毅.2008.イネ常在酵母Pseudozyma antactica生分解性プラスチック分解酵素と遺伝子の同定.日本農芸化学学会2008年度大会講演要旨集.p.40)。

    ●今後の応用の可能性

     土壌での分解条件の検討はこれからだが,シュードザイマ属酵母菌あるいは分解酵素を利用して,圃場内に埋設した生分解性プラスチックフィルムを迅速に完全分解できるようになることが期待される。もっとも圃場内の土壌で分解菌が高レベルで集積してしまうと,生分解性プラスチックのフィルムが急速に分解されて,マルチとして機能しなくなる恐れも考えられる。分解菌は,土壌中では,どのような条件でどの程度増殖あるいは生き残れるのか,分解菌が集積したら,土壌と接触したフィルムの分解はどの程度早まるのか,などの検討が必要であろう。土壌に集積するのなら,圃場の特定の箇所にコンクリート枠などで仕切った生分解性プラスチック分解土壌区画を設定するのが良いのか,迅速に分解するには分解菌でなく分解酵素剤を用いたほうが良いのかなど,実用化の前に検討すべき課題がある。

     また,家庭の生ゴミや食品産業廃棄物を生分解性プラスチックフィルムの袋に入れて収集し,本菌あるいは分解酵素を利用して,その堆肥化を行なって,フィルム破片のない堆肥を迅速に製造できるようになることも期待される。

     なお,本研究でも,ポリ乳酸に対しては微生物による分解が遅かった。ポリ乳酸は一般には分子10万以上のものが実用化されているようだが,このままではほとんど分解されない。しかし,堆肥の山の中などで60℃くらいの高温にさらして,分子量2万以下に低分子化すると,微生物に分解されやすくなるようである。こうしたことから,ポリ乳酸をマルチフィルムとして使用して,そのまま土壌に混和して短時間で分解させるのは,本菌を用いても簡単ではないようである。ポリ乳酸は有機性廃棄物を回収する袋として利用し,堆肥化過程で分解させ,マルチ資材として利用した場合には,業者に処理を委託するのが現実的であろう。ポリ乳酸はバイオマス由来なので,燃やしてもカーボンニュートラルな製品といえるので,燃焼させて熱を回収しても良いであろう。本菌を利用して土壌混和によって省力的に分解できる生分解性プラスチックは,石油由来の脂肪族ポリエステル構造を持ったものが最適と考えられる。

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