環境保全型農業レポート > No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造

    ●背景

     日本では,伝統的にワラやオガクズなどの敷料に尿を吸収させながら,敷料とふんを家畜に踏み込ませた混合物を定期的に畜舎から搬出して堆肥化してきた。しかし,ワラやオガクズなどの敷料が入手難となって,価格が高騰した。このため,敷料の代わりに,できあがった家畜ふん堆肥を吸水材(戻し堆肥)としてくり返し利用するケースが増えてきている。これによって堆肥の塩類濃度が上昇してきている。    さらに,「家畜排泄物処理法」によって畜産経営体は雨水を遮断した不浸透性堆肥盤で家畜ふん尿を堆肥化することが義務づけられた。従来は雨水を遮断して一次堆肥化を行なった後,屋外に野積みして二次堆肥化を行なっていた。これにともなって,雨水によってかなりの塩類が溶脱されていた。しかし現在では,畜産経営体では野積みが禁止されたため,雨水による塩類の溶脱がなくなり,家畜ふん尿の塩類濃度が上昇している。

     雨水を遮断した施設栽培や,プラスチックマルチを全面に張った露地野菜畑では,従来からの化学肥料の不適切な施用によって,土壌の塩類濃度が上昇している。そうした土壌では,塩類濃度の高い堆肥の施用によって,土壌水の浸透圧がさらに上昇し,作物に濃度障害などが起きやすくなるので,家畜ふん堆肥は耕種農家から敬遠されている(環境保全型農業レポート「No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問」)。畜産経営体でなければ,野積みは許されており,野積によって除塩した完熟堆肥をPRしている肥料会社もある。こうした背景の下では,畜産経営体自体が,野積みでなく,家畜ふん堆肥の塩類濃度を下げられる技術が望まれる。それによって,耕種農家への家畜ふん堆肥の販売を拡大できると期待できる。

     他方,畜産経営体,特に酪農経営体は規模拡大を進め,1頭ずつ繋がずに,群として飼養するフリーストール方式(多数の搾乳牛を自由に行動させながら群として管理する飼養方式)の牛舎が増えてきている。欧米のように広い飼料生産圃場を持っているなら,ふん尿混合物を肥料として直接土壌に注入することもできる。しかし,日本の畜産経営体は十分な飼料生産圃場を持っていないケースが多いので,ふん尿を堆肥化して,耕種農家に使ってもらうことが必要である。コストのかかる敷料を使わずに,水分含有率は家畜ふん尿のなかでも特に高い乳牛(ホルシュタイン)のふん尿から,塩類濃度の低い堆肥を製造するには,貯留槽にいったん集めたふん尿を機械で固液分離して,塩類を多く含む液状分を除いた固形分を堆肥化するのが効果的な方法の一つである。

     乳牛ふん尿の固液分離装置にはいろいろな方式のものがあるが,最近,スクリュープレス型の高精度で故障の少ない装置が開発された。

    ●スクリュープレス型高精度固液分離装置

     (独)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)の畜産工学研究部は,含水率90%程度の乳牛ふん尿を含水率75%以下に固液分離する装置を民間企業と共同開発した(道宗直昭・原田泰弘・皆川啓子・山名伸樹・根津昌樹・福森功・(株)クボタ・平成機工(株) (2005) 高精度固液分離装置.農研機構 平成16年度共通基盤研究成果情報: 生研センター農業機械等緊急開発事業(緊プロ事業)開発機の紹介 平成16年度 高精度固液分離装置)。

     装置の概要を図1に示す。原料の乳牛ふん尿は全長1.8 mの装置に投入される。スクリーン内で,乳牛ふん尿は電動機によって1分間に22.5〜36.5回転する直径25 cmのスクリューによって移送されながら圧搾されて固形分と液状分とに分離される。固形分排出口にはバネ調節式の抵抗体によって圧力がかけられている。そして,スクリューの外周部には切り欠き部分が作ってあり,ふん尿に混入した異物(小石,釘など)の噛み込みによるスクリーンの破損を防止できるようにしてある。分離された液状分は下部の液状分排出口から排出される。

     スクリーンは,くさび型の断面をしたワイヤーによる金網で,その表面はできるだけ平滑になるように目幅1.0 mmで平行に組み合わせた金網(ウェッジワイヤースクリーン)で作った円筒である。2種類の金網を使い,前半は網目が平行したもの,後半は傾斜したものを組み合わせている。外に向かって幅が広がるウェッジワイヤーなので目詰まりも起きにくく,金網の表面が平滑なので,固形分はスムーズに排出口に向かって移送される。

     固形分は含水率75%以下(69.1〜74.3%)(従来機75〜80%),固形分の回収率も65%以上(64.8〜89.3%)(従来機35〜65%)と高く,毎時3〜5 m3程度(搾乳牛50頭分)を処理できる。含水率75%以下の家畜ふんであれば,副資材を混和しなくとも,適宜の切り返しを行うだけで迅速に堆肥化される。

     本機械は,クボタ環境サービス(株)と(株)ビック・エコの共同取り扱いで市販されている。

     固液分離すれば,塩類のかなりの部分が液状分に移るので,固液分離していないふん尿の堆肥よりも,堆肥の塩類濃度を下げることができる。ただし,生研センターは,堆肥の塩類濃度の低下の確認までは調査しなかった。

    ●固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造

     神奈川県畜産技術センターは,生研センターの開発したスクリュー型固液分離装置に一部改良を加えて,塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥を効率的に製造することに成功した(田邊眞・川村英輔・竹本稔・加藤直人(中央農研)(2010) スクリュー型固液分離装置で乳牛ふんを圧搾し固形分の塩類濃度を低下させる.平成21年度「関東東海北陸農業」研究成果情報: 田邊 眞 (2009) 家畜ふん堆肥の塩類濃度と塩類濃度の低い堆肥の製造.神奈川県畜産技術センター研究情報)。

     神奈川県畜産技術センターと(株)ビック・エコは,神奈川県の酪農家の飼養規模は30頭台が多いことから,機械のスケールが少し小さく,径15 cmのスクリューを使用し,電動機の規格を下げた機種を採用した。また,生研センターの装置は含水率90%程度の乳牛ふん尿混合物を対象とした装置だが,神奈川県の酪農家では畜舎でのふん尿分離が一般的なので、畜舎で分離したふんを対象として改良を行なった。すなわち,神奈川県の酪農家の多くでは,原料となる乳牛ふんの含水率が85%かそれよりも低いケースが多く,90%程度のものに比べて固液分離しにくい。このため,スクリーンの網目を2 mmとし,圧搾圧を調整できるように,固形分排出部に長さの違う筒状アダプター(10〜50mm)を取り付けた。アダプターは中空の円筒で,図1の固形分排出口を覆う形で取り付けられ,その外縁部は開口していて,固形分の排出口となっている。アダプターを装着することによって,スクリーンが長くなり,元々のバネによる抵抗に加えて,スクリーンに充満しながら搬送される固形分の厚みが増して,その分の抵抗が加わって,圧搾圧が高まることになる。

     改良試作機のアダプターが長いほど圧搾圧が高くなるが,フリーストール牛舎から排出された水分含有率85%程度の乳牛ふんの固液分離では,固形分の水分が10 mmアダプターでは78.1%だが,50 mmアダプターでは67.2%に低下した。また,固形分のEC(電気伝導度)値(水抽出,1:10)も低下し,50mmアダプターでは乳牛ふんのEC値11.2 dS/m (mS/cm)が固形分で4.6 dS/mとなり,EC減少率が58%となった(表1)。

     1994年12月の農林水産省農蚕園芸局長通達「たい肥等特殊肥料に係る品質保全推進基準について」で,家畜ふん堆肥のECの基準値が5 dS/m以下とされている。しかし,堆肥のEC値は品質表示しなくともよい項目とされ,「肥料取締法」による堆肥の品質表示基準には含まれていない。施設栽培土壌や集約的な露地野菜畑などでは,土壌のEC値がかなり高くなってしまったケースが多く,そうした神奈川県の耕種農家は,ECが5 dS/cmよりもさらに低く,2 dS/cm程度の堆肥を望んでいるケースが多いとのことである。

     乳牛ふんの水分が83%以下では粘性が高くなり,改良試作機での固液分離操作が困難となった。83〜85%の水分の乳牛ふんでも,適正に固液分離されない場合があり,乳牛ふんに加水した方が,スムースに固液分離できることが多い。そこで,水分85%程度の乳牛ふんに,ふんの重量の2〜4倍の水を直接加えて固液分離すると(1回圧搾),固形分のEC値が2.9 dS/m以下に低下した。ただし,多量の搾汁液が生じた。搾汁液は曝気して有機物を分解して,液肥として飼料作物に利用することなどになるが,液量が少ないほうが良い。そこで,表1のように,水を加えずに乳牛ふん尿を一度固液分離した固形分に,固形分と等重量の水を加えて再度圧搾すると(2回圧搾),50mmアダプターでは固形分のEC値を84%低減することができ,かつ搾汁液は材料の乳牛ふんの重量とほぼ同程度まで減らすことができた(表2)したがって,水を加えずに固液分離した固形分に同量の水を加えて2回目の圧搾を行なうことによって,搾汁液量をあまり増やさずに,EC値が2 dS/m程度(EC減少率は80%程度)の低い塩類濃度の固形分を製造することができた。

     固液分離した固形分は,オガクズなどの水分調整資材を用いなくても,そのまま堆積するだけで60℃を超える発熱をともなって,良好な堆肥化過程を確保できた。そして,改良試作機の処理量は,水分が90%を超える乳牛ふんなら200 kg/hを超えたが,85%の乳牛ふんで平均89 kg/hであった。

    ●岐阜県の乳牛ふん堆肥の減塩化の試み

     岐阜県畜産研究所養豚研究部は,特に施設栽培土壌で顕著なカリ過剰を抑制するために,2005年頃から,固液分離せずに,従来からの一般的方法で既に製造済みの乳牛ふんのカリなどの減塩化を試みた。すなわち,水分が少なくなった乳牛ふん堆肥に水を加えて,70%程度に加水した堆肥を,多板式固液分離機(穴の開いた多数のろ過板を揺動させて目詰まりを少なくした固液分離機)に投入して,固形物(減塩堆肥)と液体を分離した。脱水後の堆肥水分はほぼ60%程度で,ほこりの発生もない良い性状を示した。この減塩処理によってカリは16〜18%減少し,1時間あたり堆肥を約500 kg処理でき,その製造コストは2,700円/トン程度と試算された(岐阜県平成21年版環境白書.p.164 )。しかし, この方式では減塩効果が低く,実用化は難しかった。

    ●おわりに

     畜産経営体の製造した家畜ふん堆肥を耕種農家により広く販売できるようにするには,既に従来からの方法で製造した堆肥の塩類濃度を,野積みによらずに下げるための,簡便,かつ低コストで,環境を汚染しない技術も必要である。神奈川県畜産技術センターの技術を,製造された家畜ふん堆肥の減塩にも応用する試みも望まれる。

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