環境保全型農業レポート > No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ

    ●問題の背景

     チェルノブイリ事故では大量の放射性核種が大気に飛散して,広大な面積の表層土壌が高濃度の放射性核種によって汚染された。放射性核種は,土壌を耕耘しなければ,表層に沈着したままで放射線を周辺に放出して,外部被曝を起こす。そして,強い風で舞い上げられた土壌とともに呼吸器に入れば,内部被曝を起こす。また,汚染土壌で作物を栽培して,生産された放射性核種で汚染された農産物を摂取すれば,内部被曝が生じてしまう。

     福島第一原子力発電所の原子炉事故でも,飛散した放射性核種によって,避難地域外の学校の校庭の土砂が汚染されたケースが生じている。その表層土壌を収集して廃棄しようとしたときに,廃土の保管予定地の住民が,廃土から生ずる放射線による被曝に懸念を抱き,その保管に反対して,問題になっているケースもある。このため,廃土を新たな保管地に管理することなく,廃土を安全に処理する方策が必要になっている。

     環境保全型農業レポート「No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書」に,こうした事態を解決する技術の1つとして,「表層埋没耕耘」が1996年にデンマークで開発されていることを紹介した。しかし,その際に紹介した,国際原子力機関 (IAEA)のチェルノブイリ事故による環境影響とその緩和対策について,事故後20年間になされた調査や研究を集約した報告書(IAEA (2006) Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and Their Remediation: Twenty Years of Experience. Report of the Chernobyl Forum Expert Group ‘Environment’(STI/PUB/1239) 166p.)には,「表層埋没耕耘」について詳しくは説明されていない。そこで,この方法を開発したデンマークのRoedらの文献から,その概要を紹介する。

    ●表層埋没耕プラウ開発の意図

     チェルノブイリ原発事故で汚染された1 km2の土壌の表層0〜10 cmをブルドーザーではぎ取ると,5万トンの放射性廃土が生じて,その措置が新たな課題となった。チェルノブイリ周辺の農地には,肥沃な土層の浅い土壌が多く,ブルドーザーで10 cmも剥離してしまうと,肥沃な土層をほとんど除去することになってしまう。  通常のトラクタで牽引可能なプラウによって,表層0〜5 cmの汚染された表層土を下層に埋没することができれば,この作業を地元の農業者が行なうことができる。ただし,通常のプラウでは25 cmしか耕耘できず,20〜25 cmの深さでは埋没した表層土に作物根が到達してしまう。それに加え,5〜25 cm層は反転されて,肥沃度の低い下層土が表面に露出して,土壌生産力が低下してしまう。

     そこで開発されたのが,リソ研究所(Risø National Laboratory:エネルギー,環境および材料についての研究を行っているデンマークの国立研究所)のRoedらがデザインした「表層埋設プラウ」である。このプラウは,ヨーロッパで使われている通常のトラクタで牽引でき,主に放射性セシウムで汚染された表層0〜5 cmの土層を根のあまり届かない45 cm下に埋没させ,しかも,5〜45 cmの土層を反転させずに,元の土層順序を維持した形で,表層0〜5 cm層の上に堆積させることができる。

     このプラウをRoedらは,表層埋没プラウ(skim and burial plough)と呼称し,農業機械メーカと共同開発している。概要を下記の文献から紹介する。

     1) J.Roed, K.G. Andersson and H.Prip (1996) The skim and burial plough: a new implement for reclamation of radioactively contaminated land. Journal of Environmental Radioactivity, 33(2): 117-128.

     2) J. Roed, K.G. Andersson, A.N. Barkovsky, C.L. Fogh, A.S. Mishine, S.K. Olsen, A.V. Ponamarjov, H. Prip, V.P. Ramzaev, B.F. Vorobiev (1998) Mechanical decontamination tests in areas affected by the Chernobyl accident. Ris遵k National Laboratory, ISBN 87-550-2361-4, 98 p. Ris遵k-R-1029(EN)

     3) J. Roed and Andersson, K.G.; Prip, H. (eds.) (1995) Practical means for decontamination 9 years after a nuclear accident. Risoe-R-828(EN) 82p.

    ●プラウの仕様

     90キロワットのトラクタ(1馬力を735ワットとして,122馬力に相当)で牽引可能なプラウを設計した。

     プラウは2つの部分から構成されており,前方にメインの鋤ヘラ(main ploughshare)があり,後方に表層犂刀(skim coulter)がある。正面から見ると,鋤ヘラと表層犂刀の耕耘中心がずれており,左前方の鋤ヘラが深層(5〜50cm)を耕耘し,右後方の表層犂刀が隣の畦の汚染された表面(0〜5cm)を耕耘していくようにデザインされている。その実物写真は,Roedら(1998) の47ページを参照していただきたい。このプラウの2つの部品は1列に作動するのではなく,左右2列の畦に同時に作業を行ないながら前進するので,理解する際に注意していただきたい。なお,トラクタの1工程分の走行を1回の走行と呼ぶことにする。図1示した黄緑色の面が,土壌の元々の最表面を意味する。

     文献からその作業工程の詳細を読みとるのはむずかしいが,おおよそ次のように理解できる。

     図1Aに示すように,1回前の走行時に左畦から既に0〜5 cm層がはぎ取られて,進行方向に対して右側に作られた幅60 cmの溝の底に落とされている(この最初の溝部分は予め掘っておくことが必要)。前方にセットされたメインの鋤ヘラを,深さ50 cmの位置に入れて,5〜50 cmの土層を10〜15 cm持ち上げる。トラクタが1回前方に走行するごとに,持ち上げられた土層が多少ねじられるように後方に移動して,1回前の走行時に溝の底に置かれていた薄い表層の上に置かれる。これと同時に,鋤ヘラによる5〜50cmの土層の移動によって生じた溝の底に,表層犂刀が溝の左隣の畦にある表層0〜5 cm層をはぎ取って,落とす(図1B)。この操作を繰り返して,0〜5 cm層の上に5〜50 cmの土層を積み上げてゆく。

     設計上の考えが,実際にそのとおり実現しているのかを,プラウをかける前に高さ2 cm,直径1.5 cmの色や記号で区別した多数の金属円筒を土層内に上から挿入しておき,プラウを走行させた後に掘り出して,その移動状況を調べた。典型的な場合には,表層0〜5 cmの位置に埋設した金属円筒が45〜50 cm下から回収され,5〜45 cm層は全くの横移動とはいかないが,ほぼ水平移動していた。しかし,乾燥した砂質土壌で実施した場合には,掘り取った溝の壁が崩れて,5〜15 cm層の土壌が35〜45 cmの深さに移動したケースや,0〜5 cm層がそのまま横移動しただけで,45〜50 cm下に埋設されなかったケースもあった。しかし,全体としては,0〜5 cm層が45〜50 cm下に埋設され,5〜45 cm層がほぼ水平移動したケースが多かった。

     表層埋設プラウは全重約880 kgで,調節がすめば1人で操作することができ,1時間に標準30 aを処理できる。表層埋設プラウを1日8時間作動させれば,1日に2.4 haを処理できることになる。

     価格は1995年当時だが,トラクタが5万 ECU,表層埋没プラウが4,125 ECU(1999年のユーロ導入以前のEUの共通通貨単位で,1 ECU = 1 ユーロ,1995年の平均為替レートは1 ECU = 約124円なので,4,125 ECU = 約51.2万円。現在の価格は未確認)。

    ●表層埋没プラウによる外部被曝量の減少

     圃場の地表から1 m上で放射線量を測定する場合,テストする圃場の大きさが大きく影響する。例えば,20×50 mの区画の中心部で放射線量を測定すると,その半分は区画の外からくる放射線である。このため,大規模面積で処理をしたほうが,表層埋没プラウによる外部被曝量の減少割合が高くなる。また,大気から地表面に沈着したままの圃場で表層埋没プラウ耕を実施した場合には,事前に作土を耕耘した場合よりも,外部被曝量の減少割合が高くなる。

     例えば,ロシアのノボボボビッチ近くの20×50 mの区画で行なったテストでは,面積が小規模であったことに加えて,チェルノブイリ事故後に表層を耕耘していたために,表層埋没プラウ耕による外部被曝量は1/2.2にしか減少しなかった。しかし,より大規模にデンマークや旧ソ連の国で行なった結果では1/7〜1/6に減少し,チェルノブイリ発電所から30 km離れたウクライナの放牧地では,1/20〜1/15に減少した事例が確認されている。こうした事例を包括して,通常,表層埋没プラウ耕では外部被曝量が1/15〜1/6に減少するとされている。

    ●終わりに

     表層埋没プラウを開発したRoedらは,放射線の外部被曝を減らす他の方法と比較して,(1) 石灰や化学肥料を施用して放射性セシウムの作物による吸収を減らす方法の欠点は,現地でどれだけの量の資材を施用したら,放射性核種の吸収量がどれだけ減るかについて,精度高く予測することができず,実際には現地試験の結果を待って施用量を調節しなければならないため,効果の迅速性やコスト効果が高いものとはいえないとしている。(2) 汚染地への固着剤の施用による土壌粒子の飛散抑制は,小面積の土地の除洗操作に役立つが,大面積には向いていないとしている。(3) 表層土壌をブルドーザーではぎ取ると,その廃土の始末が問題になる。また,深耕を行なって,表層土壌を作土に混ぜれば,廃土はでない。しかし,作物根が深耕された土層全体に伸張して,土壌に混和された放射性核種を吸収してしまう。こうしたことから表層埋没プラウ耕は優れた方法といえる。

     ただし,表層埋没プラウ耕を行なった農地で栽培した,作物の放射性核種の吸収量の減少についての報告は,不明にして,まだ見いだしていない。また,土層が浅い場所や地下水位が高い場所では,この方法は使えないであろう。

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