環境保全型農業レポート > No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向

    ●アメリカにおける豚生産の最近における動向

     アメリカの豚生産は,歴史的にトウモロコシを豊富に供給できる中西部のコーンベルト地帯(特にアイオワ,イリノイなど)で,繁殖から肥育までの一貫経営として始まった。1970年代以降,技術の進歩によって成育段階別の豚生産が可能になり,繁殖経営と肥育経営の分離など,1つか2つの成育段階に特化した養豚農場が増えて,繁殖肥育一貫経営の養豚農場は,1998年49%,2004年31%,2009年23%と減少した。

     また,生産のコントラクト制度の導入も,アメリカの豚生産の発展に重要な役割を果たしている。日本では,コントラクト制度は飼料生産作業や家畜飼養作業のある部分を他の人に契約によって委託する制度と理解されている。これに対して,アメリカのコントラクト制度では,自らは豚を飼養する施設を持たない豚のオーナー(コントラクター)が,飼養施設と飼養技術を有し,その施設で豚を飼養する生産者(飼育者)を雇用し,事前に定められた処方箋に基づいて豚を飼養することを契約して,生産を委託する。典型的な場合,コントラクターが,必要な飼料,資材や技術支援を飼育者に提供し,生産者はそれらを使って豚を飼養し,生産された家畜を収集して出荷する。コントラクト契約では,個々の生産者に特定の1つの段階の生産を指定することもできる。

     こうしたコントラクト制度を使って,1980年代と1990年代に豚生産は,特にノースカロライナなど南東部で劇的に発展し,規模拡大がなされた。しかし,ノースカロライナでは大規模農場による環境負荷が深刻化して,1997年に州議会が,新規養豚農場の新設と既存農場の規模拡大を禁止した。この結果,中西部における豚生産が再び増加し,南東部で若干減少した。

     全米における養豚の経営規模別の農場数の推移を図1に,豚の全飼養頭数に占める経営規模別農場の割合を図2に示す。これらは,アメリカ農務省の農業統計局(National Agricultural Statistics Service)が刊行している農業統計年報のデータによって作成したものである。この2つの図から分かるように,最近の10年間に小規模な農場数は急激に減少し,5,000頭以上の大規模農場数が着実に増加してきている。そして,2009年には,全農場数のわずか4.1%しか占めていない,5,000頭以上の大規模農場の飼養する豚の頭数が全頭数の62%,また,全農場数の7.3%しか占めていない,2,000頭以上5,000頭未満の農場の飼養する豚の飼養頭数が24%に達し,両者を合わせて全飼養頭数の86%を飼養している。

     こうした規模拡大によって,家畜ふん尿を還元する家畜1頭当たりの作物栽培面積が減少し,様々な環境問題が深刻化した。このため,連邦政府,州,市町村などが家畜ふん尿管理についての規制を強化した。そうした規制強化は,養豚農場のふん尿管理にどのような影響をもたらしているのか。この点についてアメリカ農務省の経済研究局の研究者が解析を行なった。その概要を下記の資料から紹介する。

     Nigel Key, William D. McBride, Marc Ribaudo, and Stacy Sneeringer (September 2011) Trends and Developments in Hog Manure Management: 1998-2009. 33p. Economic Research Service. Economic Information Bulletin Number 81.

    ●家畜生産にかかわる環境規制

    (1)クリーンウォータ法

     日本の「水質汚濁防止法」に相当するアメリカの法律が「クリーンウォータ法」であるが,長い間,畜産農場には適用除外されてきた。しかし,2003年4月14日から,畜産農場にも,「クリーンウォータ法」が適用されるようになった(環境保全型農業レポート.No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況)。

     適用対象となった家畜生産農場は,高密度家畜飼養農場(concentrated animal feeding operations : CAFO)と呼ばれている農場である。養豚農場の場合には,(1) 全ての大規模農場(体重25 kgを超える豚を2,500頭以上飼養する農場),(2) 中規模農場(750〜2,499頭を飼養している農場)のうち,人工の溝やパイプを経てふん尿や排水を河川に排出しているか,家畜を飼養区域内の表流水に接触させているもの,(3) 小規模農場(750頭未満の農場)のうち,検査官が,家畜が飼養区域内の表流水に接触していると判断したものは,CAFOに指定される。

     CAFOと認定された家畜生産農場には,家畜ふん尿による環境負荷を軽減する義務が課せられる。アメリカではふん尿や畜舎排水は液状でラグーン(貯留池)ないしピットに貯められた後に,飼料生産圃場などに散布されることが多い。その際,(1) ラグーンから大雨による溢水や表流水への直接漏出が起きないようにし,(2) 表流水から30 m以内にふん尿を散布せず,(3) 化学肥料と家畜ふん尿を合わせて,作物要求量を超える養分を施用しないように養分管理プランを作成して,その記録を保存し,(4) 作物要求量を超える家畜ふん尿は他人に譲渡したり,エネルギー利用など農地還元以外の方法で処理・利用したりすることが課せられている。

    (2)クリーンエア法

     大気を保全する「クリーンエア法」もあり,家畜生産もこの規制を受ける。悪臭(アンモニア,硫化水素など),顆粒物質(アンモニア)と温室効果ガス(メタン,亜酸化窒素)が問題になっている。特に悪臭は地域住民との間でトラブルが生じやすく,法的規制を遵守することが必要になっている。

     家畜ふん尿では,大気汚染と水質汚染の間にトレードオフが問題になる。水質保全の観点から,CAFOには,ふん尿や化学肥料による養分施用量が作物要求量を超えないようにすることが課せられている。耕地の少ない農場では,家畜ふん尿の窒素をアンモニアとして大気に揮散できる量が多ければ,限られた面積に施用できる家畜ふん尿を多くできる。しかし,それでは大気に多くのアンモニアを揮散することになり,「クリーンエア法」違反となる。

    ●養豚農場のふん尿管理方法

     アメリカでは,豚ぷん尿は,主にラグーンかピットないしタンクで貯留されている。

    (1)ラグーンシステムと消化液の利用

     ラグーンは土を掘って,底面や側面は土を固めただけの池で,その中にふん尿と畜舎排水を流し込み,その液状混合物を長期間保持する。その間に雨水が混入して,元のふん尿は希釈される。ラグーンでは嫌気的条件下で有機物が微生物分解(消化)され,生じたアンモニウムのかなりの部分がアンモニアとして揮散する。ラグーン内の液の一部は希釈して,畜舎の洗浄にも使用されている。消化されたラグーン液は,比較的濃厚ではなく,スプリンクラーや放水ガンなどの灌漑装置で,土壌や作物体に灌水されたり,スプレーヤで土壌に表面施用されたりする。ラグーンは,年間を通じて有機物分解が起きる温暖な気候の地域で主に使用されている。2009年にラグーンシステムの農場で生産された豚は,南部地域では豚全体の90%に達したが,他の地域では20〜30%だけで,ラグーンシステムは南部地域で特に多く使用されている。

    (2)ピットないしタンク貯留と貯留液の利用

     ピットないしタンクは不透水性の構造物で,豚舎の下に所在することが多い。典型的なシステムは,畜舎のスノコ床からふん尿をピットないしタンクに落下させ,希釈せずに農地に施用するまで貯留する方式である。貯留場所は,屋外の場合と屋内の場合とがある。ふん尿は,トラックやワゴンのスプレーヤで圃場に表面施用してからプラウで土壌に混和するか,ふん尿を土壌に掘った溝に直接注入する。

    (3)貯留方法・施用方法と窒素肥料価値

     ふん尿の貯留方法や施用方法によって,ふん尿の窒素肥料価値が異なってくる。

     例えば,ピットまたはタンクで貯留したふん尿を土壌に注入する場合には,アンモニアの揮散が低く抑えられて,窒素肥料価値は高い。これに対して,ラグーン貯留のふん尿を灌漑システムで施用する場合には,かなりの量の窒素が大気に揮散して,窒素肥料価値が低下する。このため,ある作物を同じ面積だけ栽培する場合に,同体積のふん尿中に含まれる肥料効果を有する窒素量は,前者のピットまたはタンクで貯貯留のふん尿のほうが,ラグーン貯留ふん尿よりもかなり多くなる。このため,養分管理プランを作って,作物要求量を超えないように養分施用を行なうためには,ふん尿の養分分析が必要になる。

    ●調査方法

     前出の図1と図2は,農務省の全米農業統計局の行なっている農業統計年報の統計調査を図示したものだが,年報の農業統計では毎年詳しい調査を実施することができない。そこで,全米農業統計局と経済研究局が,共同で毎年対象を変えてより詳しいデータを収集する農業資源管理調査を実施している(環境保全型農業レポート.No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 参照)。その一環として,豚生産については,1998年,2004年および2009年に,それぞれ22州,19州および19州の養豚農場について,より詳しい統計調査が実施された。調査対象の養豚農場は,年間を通して25頭以上の豚を飼養している農場である。この農業資源管理調査結果を分析した。

     調査データから,豚の飼養頭数ではなく,生産された家畜単位(家畜の生体重1,000ポンド=454 kgを1家畜単位とする)を計算し,農場の規模などを家畜単位で表示した。なお,50家畜単位よりも少ない農場の結果は表示しなかった。調べたサンプル農場での結果をその集団ウェイトで拡張すると,各調査年とも全米の養豚農場の90%超をカバーするものであった。

    ●規模拡大にともなう養豚農場の特性値の変化

     生産規模の拡大とともに,経営構造も変化した。1998年と2009年の間に,生産が豚の生産が特定成育段階に特化して,繁殖肥育一貫生産の農場は,1998年の49%から,2004年に31%,2009年に23%に減少するとともに,養豚農場数が約60%減少し,年間の平均出荷頭数が2,589頭から7,930頭に増加した(表1)。

     1998年から2009年の11年間に,生産コントラクトを使用している農場のシェアは3倍以上も増加し,現在では養豚農場の48%がコントラクトを使用し,そうした農場での豚生産量が全体の71%を占めるようになっている。

     コントラクト契約では,豚ふん尿管理に対する責任が問題になる。通常,コントラクトでは,生産者には自らの施設を運営する際に,法的規制の遵守が求められており,遵守できない場合にはコントラクトを終了できる。契約した生産者は施設に大きな投資をしているので,責任回避のために法的規制の遵守に大きな関心を持っている。

     養豚農場の経営は豚への専作化を進め,農場の全所得に占める養豚による所得が,1998年の56%から現在では70%に増加した(表1)。飼料源についても豚生産への専作化が進み,同じ農場で生産されて豚に消費された飼料のシェアは,1992年の約50%から2004年には20%未満に低下した。つまり,農場外の飼料で豚を使用し,コントラクトを利用しながら豚生産の専作化を高め,養豚豚による所得のシェアを高めた。

     コントラクト契約では,コントラクターは農場外の飼料を生産者に届ける。これによって,生産者は,飼料用作物を栽培する代わりに,自らの養豚農場の規模拡大のために時間と資金を使うことができる。その結果,家畜単位当たりの耕地面積は,1998年の0.87 haから2004年に0.57 ha,2009年に0.34 haに減少した。そして,この期間に,耕地のない農場の割合は8%から19%に増加した(表1)。このため,家畜単位当たりの利用可能耕地の減った豚農場では,多量のふん尿を如何に管理するかかが問題になっている。

    ●規模拡大にともなう豚ぷん尿の施用の仕方の変化

     ふん尿施用方法は生産規模にかなり関連している。

     小規模農場は,固形ふん尿または液状ふん尿を,インジェクション(土壌に注入)せずに散布する傾向があった。1998年と2009年の間に固形ふん尿を散布する施用者の割合が減少し,1998年の64%が2009年には34%だけとなった。他方,大規模農場で,ふん尿を作物に施用した農場では,灌漑が最も一般的なふん尿施用形態で,次いで液状ふん尿のインジェクションであった(表2)。

     生産者は,1998年と2009年の間に,散布方法を,悪臭,養分の揮散や表面流去を減らす方向で変更した。すなわち,液状ふん尿をインジェクションなしで散布する農場の生産する家畜単位は25%から12%に減少した。そして,液状ふん尿をインジェクションによって施用する大規模農場のシェアは10%上昇し,ふん尿を灌漑によって施用する大規模農場の割合は15%減少した(どちらも統計的には有意ではないが)(表2)。

     1998年と2009年の間に,養豚農場全体の平均耕地面積が448エーカー(181 ha)から578(234 ha)エーカーに増加し,ふん尿施用面積は85エーカー(34 ha)から136エーカー(55 ha)に増加し,ふん尿を施用した耕地面積割合も19.1%から23.5%に増加した。しかも,これらの値のレベルは大規模な養豚農場ほど高かった(表3)。

     その反面,ふん尿を施用した自営作物耕地の割合は1998年と2009年の間に増加したものの,養豚農場全体での平均値で2009年に23.5%にすぎなかった。これは,耕地が畜舎からかなり離れた場所に存在することが多く,より多くの面積にふん尿を施用しようとすると,輸送および施用のコストがかなり高くなることを意味している。

     全養豚農場で,多少ともふん尿を自営農場に施用した農場は,2004年の82%から2009年に76%に低下した。特に中規模と大規模の農場で減少し,2009年に自営農場に施用した農場は,小規模農場で83%,中規模農場では79%,大規模農場の75%であった(表4)。

     自営農場に施用されなかったふん尿は通常,隣接する他の農場の耕地に施用するために農場外に搬出されている。大規模経営体は相対的に少ない耕地しか有していないので,大規模農場ではふん尿を搬出している農場の割合が高く,1998年と2004年の間にふん尿搬出農場割合が高まった(表4)。農場から搬出されたふん尿の大部分は無料で近隣の農場に提供されたが,最近では,レベルはまだ低いが,ふん尿を販売する傾向が増えてきている。これは化学肥料価格の最近における劇的な高騰によって説明できよう。

    ●ふん尿養分の管理方法

     豚ぷん尿を農地に施用する際に,養豚農場が適正な養分施用を確保するためにどのような方法を採用しているのか。表5に示した項目は,多くの州がふん尿管理プランの一部として要求している方法である。

    (1)ふん尿の養分分析

     ふん尿の養分分析を行なっている農場の割合は,窒素とリンとも次第に増え,窒素については,1998年18%,2004年29%,2009年には49%に増加した。そして,ふん尿の養分分析を行なった農場の家畜単位数のシェアは,窒素では,3回の調査でそれぞれ51%から,73%,そして86%に増加した。ふん尿の養分分析を行なっている農場の割合は,経営規模が大きいほど高く,2009年では小規模農場では約30%,中規模農場で約80%,大規模農場で90%強であった。これは規模の大きな農場ほど,州から養分管理プランの遵守を求められていることを反映していよう。

     ふん尿養分だけで作物の養分要求を満たせない場合には,ふん尿に加えて化学肥料も施用されている。したがって,ふん尿の養分含量を分析することは,化学肥料の過剰施用を避けてコストを節約させるのに役立つ。経営規模別に化学肥料を併用している農場割合をみると(表を省略),2007年において,小規模で約60%,中規模で約50%,大規模で約35%となっている。これは,大規模農場では,自営農場で生産されたふん尿養分を過剰なまでに保持しているので,化学肥料を補完的に併用する度合が低いと考えられる。

    (2)バーミューダグラスによる養分吸収

     限られた農地基盤でふん尿施用可能量を増やす方策の一つとして,養分吸収量の多いバーミューダグラスの栽培が,アメリカの主に南部や南東部で推奨されている。バーミューダグラスの栽培を行なった農場は,全体では2004年11%,2009年7%と低い割合ではあるが,経営規模の大きな農場ほど割合が高く,2009年には小規模で約4%,中規模で約9%,大規模で約22%であった。なお,2004年に比べて2009年にバーミューダグラス栽培農場の割合が低下した原因の一端として,バーミューダグラス栽培に適した南部や南東部での豚の生産頭数が減少して,中西部にシフトしたことも考えられる。

    (3)穀物のリンを利用するためのフィターゼ添加

     飼料原料の穀物に存在するリンはフィチンに組み込まれた有機態リンとして存在する。豚はフィチンを分解できないため,フィチン態リンを利用できない。このため,飼料に無機リンを添加し,その結果,豚のふん尿に多量のリンが排泄され,環境汚染の一因となっている。このため,微生物の生産したフィターゼを飼料に添加して,豚に給餌する前にフィチンをあらかじめ分解しておき,フィチンから放出された無機リンを豚に吸収させ,飼料への無機リンの添加をやめることで,ふん尿に排出されるリンを減らす技術が普及している。調査期間内にリン価格が上昇したため,フィターゼの飼料添加の有利性が高まった。

     無機リン添加の通常の飼料で飼養した豚のふん尿は,作物の養分要求からみると,リンを最も多く含んでいる。アメリカではリンによる水質汚染を防止するために,土壌侵食が起きやすい農地へのリンの施用が制限されている(環境保全型農業レポート.No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例.)。こうしたケースなどでは,ふん尿中のリン濃度が低いほど,基準の範囲内でより広い農地面積にふん尿を施用できることになる。家畜単位が300以上の中規模農場や1000以上の大規模農場では,300未満の小規模農場よりも,微生物フィターゼを使用する可能性が高い。1998年と2009年の間に,フィターゼ使用農場の割合は全ての規模カテゴリーで増えて,4%から23%に増加した。フィターゼを使用した農場で飼養された豚の家畜単位の割合は,12%から39%に増加した。そして,1998年と2009年の間にふん尿のリン含有率を分析した農場割合が高まったことは(表5),環境保全とコストの両面でリンへの関心が高まっていることを示していよう。

    ●おわりに

     家畜生産では,排泄されたふん尿の適切な処理・利用が大切であり,これなしに経営規模を拡大すると,ひどい環境汚染が生じてしまう。ノースカロライナ州で1997年に州議会が新規養豚農場の新設と既存農場の規模拡大を禁止したのは,ふん尿の適切な処理・利用がなされないで大規模化がなされて,環境負荷が深刻化したためである。

     こうした経緯の上で,アメリカでは「クリーンウォータ法」によって,高密度家畜飼養農場 (CAFO)に対して2003年4月から規制を強化した。そして,規制に沿ったふん尿の処理施設や貯留施設の設置,養分管理プランの策定とその実施などに必要なコストを支援するために,農務省が環境保全的な農業に対する支援事業の一つの「環境質インセンティブプログラム」(Environmental Quality Incentives Program: EQIP)によって農業者に支援を行なっている。

     この結果,全体としては,経営規模の拡大が進行しながら,まだ完全とはいえないが,環境保全的な各種の農業方法を実践するケースが増えていることが,ここで紹介したようにうかがえる。

     これを日本と対比させると,両者の家畜ふん尿の処理・利用について大きな違いがあることに気付く。日本は「家畜排泄物処理法」によって,貯留中のスラリーや堆肥の製造過程で,雨水によって養分が環境に流出するのを防止する設備の装備が義務づけた。しかし,これにはいろいろな問題がある(環境保全型農業レポート.2004年12月8日号「家畜排せつ物処理法の完全施行は,家畜ふん堆肥の利用にブレーキをかけるのではないか」)。

     とはいえ,アメリカの「クリーンウォータ法」やEUの「硝酸指令」(環境保全型農業レポート指令.No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書)といった法律に比べて,日本の家畜ふん尿関係の法律の決定的欠陥は,家畜ふん尿あるいは家畜ふん堆肥の施用量の上限値や,環境汚染を起こしやすい場所や時期における施用の制限が規定されていないことである。このため,日本では,環境汚染を起こしにくい仕方でスラリーを貯留し,家畜ふん堆肥を製造したとしても,農地であればいつでも無制限に施用できるのである。これでは環境保全が図れるはずがない。日本も家畜ふん尿や家畜ふん堆肥の施用の仕方について,環境保全の視点から規制を設けるべきである。

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