環境保全型農業レポート > No.219 日本農業のエネルギー消費構造
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造

    ●日本農業は直接エネルギー消費で世界最多クラス

     環境保全型農業レポート「No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス」で紹介したが,国全体の農業の一次生産で消費している直接エネルギー(動力,空調,発電,乾燥,灌漑,家畜飼養などに要した石油,電力,天然ガスなどのエネルギー量:ただし,肥料,農薬,飼料などの中間投入材や農業機械などの製造に要した間接エネルギーを除く)の総量は,OECD(経済協力開発機構)のデータに基づくと,日本はアメリカに次いで世界で2番目に多い。その上,単位直接エネルギー消費量当たりの農業生産額が,先進国で最低クラスである。

     ところで,エネルギー消費型の農業となれば,日本よりもオランダのほうが,エネルギーを多く消費しているとのイメージがあろう。それなのに,農業における直接エネルギーの総消費量が日本のほうが多い。これは,農地総面積では日本はオランダの約2.4倍もあるので,単位農地面積当たりではオランダの方が上位であっても,総農地面積当たりでは日本が上位になっている。

    ●産業連関分析によるアプローチ

     では,日本農業を構成している部門別にみると,エネルギーの消費はどのような構造になっているのであろうか。

     この問題に産業連関分析によってアプローチした2つの研究を紹介する。産業連関分析とは,総務省がまとめている産業連関表を利用した分析手法のことである。産業連関表は,およそ400に分けた産業部門ごとに,どの部門からどれだけ原料などを入手し,賃金などを払っているかや,どの部門に向けて製品を販売しているかの金額をみることができる表で,経済構造の把握、生産波及効果の計算などに利用されている。

     産業連関表にある,石油,電力などのエネルギー源の産業部門ごとの販売金額と買入金額(売買金額)から,農業全体における直接エネルギーを計算するのはさほど難しくないであろう。しかし,売買金額を個別作目に配分するのは難しい。その上,中間投入材の肥料,農薬,飼料などの売買金額を,どの作目にどれだけ配分されるのかの統計も十分ではない。そこで,化学肥料,化学農薬や濃厚飼料といった中間投入材のおおきなくくりで,売買金額1円当たりどれだけのエネルギーを消費したかの原単位を設定して計算することになる。

     このため,精度の高い推定はできず,概略の数値と傾向を把握する程度にならざるをえず,また,前提においた仮定や設定した原単位によって計算結果が異なることになろう。こうしたことを認識しておいていただきたい。

    ●吉田泰治による推計

     九州大学大学院の農業経営学の吉田泰治前教授が,農林水産省の農業総合研究所(現農林水産政策研究所)時代に,産業連関分析によって1975〜1990年における日本農業のエネルギー投入量を推計した(吉田泰治 (1993) 産業連関表によるエネルギー投入の推計.農業総合研究.47(3): 65-85)。

     この論文ではエネルギー量がカロリーで表示されているが,現在では国際単位系によってエネルギー量はジュール(1カロリー=4.184 ジュール(J))で表示されるので,カロリーをジュールに換算して表示した(図1〜3ではTJで表示している。Tはテラ(1012=兆))。

     図1で農業は耕種,畜産,養蚕と農業サービスの4つの部門に大別されている。このうち,農業サービスは,日本標準産業分類の小分類「農業サービス業(園芸サービスを除く)」の活動範囲である。具体的には,カントリーエレベータ,ライスセンター,稲作共同育苗事業,土地改良区,青果物共同選果場,航空防除,稚蚕共同飼育事業などである。図1で,耕種部門の直接エネルギーが緩やかな減少傾向がみられる主因は,農場が苗の購入,乾燥・調整や防除などを農業サービス部門に依頼して,農場での直接エネルギーがその分減少し,依頼した分は農場の購入した間接エネルギーに計上されることになる。

     1975〜1990年における,農業での直接エネルギーと間接エネルギーを合わせた投入エネルギーの推移を,耕種,畜産,養蚕,農業サービスの各部門でみると,農業全体での総投入エネルギー量のうち,耕種が65%前後,畜産が30%前後を占めるのに対して,養蚕は1975年でも3%であったが,1990年には1%に減少した。そして,農業サービスが1975年の3%から1990年には7%に増加した(図1)。

     内容レベルが同じではないが,日本農業では,コメ,野菜と畜産が3大作目とされ,これら3つでかつては農業総産出額の80%強を占めてきたし,現在でも80%近くを占めている。そこで,これら3つの作目におけるエネルギー投入量の推移を図2にグラフ化した。

     直接エネルギーの投入量が最も多いのは野菜であり,施設での生産が大きなシェアを占めていることがうかがえる。畜産では直接エネルギーの投入量は他の作目よりも少ないが,飼料などの間接エネルギーの投入量が最も多くなっている。コメは引き続く減反によって直接エネルギーと間接エネルギーとも年々減少した。

     また,生産額当たりの投入エネルギー量をこれら3作目について比較すると,1円の生産額当たり直接エネルギー投入量が最も多いのは野菜で,間接エネルギー投入量が最も多いのは畜産であった(図3)。

    ●仁平尊明による推計

     現在,北海道大学大学院文学研究科の仁平尊明准教授が,筑波大学大学院の院生および講師のときに,地理学の立場から,産業連関分析をベースにして,1970〜1990年における日本農業のエネルギー効率を論じた。その概要を下記によって紹介する。

     1) Nihei, T. (2000) Energy efficiency of crop production in Japan, 1970-1990. Geographical Review of Japan. 73 (Ser.B) No.1: 27-45

     2) 仁平尊明 (2011) エネルギー効率からみた日本の農業地域.全316頁.筑波大学出版会

     これらの研究では,日本農業における作物生産における投入エネルギー・産出エネルギー比によってエネルギー効率を論じている。投入エネルギーは,一次投入エネルギー(作物に直接取り込まれるエネルギーで,太陽エネルギー,種苗,作物体中の水,養分などのエネルギー)と,二次投入エネルギー(人工的に圃場に投入されるエネルギーで,作物体に固定されないエネルギーで,人間や畜力の労働力,ならびに農薬,農業機械などの製造,運転や散布などに使われたエネルギー)とである。これらの投入エネルギーのうち,計算上の都合から採用したものは,種苗の生産と輸送に要したエネルギーと,購入肥料,農薬,農業機械や施設の製造やこれらを用いた作業に要した化石エネルギー(吉田の論文の直接エネルギーと間接エネルギーの和)である。そして,産出エネルギーは収穫した食用部分に含まれるエネルギーである。

     単位面積当たりの投入エネルギー,産出エネルギーと,投入エネルギー・産出エネルギー比が,1970年から,Nihei (2000)では1990年まで,仁平(2011)では2000年まで計算されている。なお,表1ではエネルギー量が10a当たりのMJ(メガジュール:106=100万ジュール)で表示されている。エネルギー量は年次によって変動はあるものの,1990年における結果(表1)が示すように,投入エネルギー・産出エネルギー比は,穀物の水稲やコムギ,施肥量が少なくてすむカンショやダイズでは2よりも大きい。そして,露地果樹では1前後である。これに対して,露地野菜では投入エネルギー・産出エネルギー比が1を超えるものから0.2までの幅を持ち,施設野菜では0.03や0.05など極端に小さくなっている。

     ところで,投入エネルギー・産出エネルギー比が1を超えているからといって,投入エネルギー以上の産出エネルギーを収穫できたことを意味するのではない。投入エネルギーのうち,太陽エネルギーや人力エネルギーなど計算から除外しているものがあるので,投入エネルギー以上の産出エネルギーを収穫できたことを意味するのではない。

     こうした単位面積当たりの投入と産出エネルギーの値に各作物の栽培面積を乗じて,都道府県別の投入エネルギー・産出エネルギー比の推移をみると,1970年に比べて1990年に,このエネルギー比がほとんどの都道府県で低下した。なかでも高知県,山梨県,愛知県,大阪府,熊本県,静岡県,東京都,沖縄県といった,都府県の作物生産におけるエネルギー効率は極めて低くなった。これは水稲,コムギ,ダイズ,カンショといった土地利用型作物生産から,露地野菜,果樹(表1を踏まえると,正確にはブドウというべきだろう),施設野菜に大きく転換した都府県である。そのエネルギー効率があまり低下しなかった道県は,北海道,岩手県,宮城県,秋田県,新潟県,富山県,石川県,福井県,滋賀県といった,穀菽類(こくしゅく類:穀物とダイズを合わせた呼び方)やイモ類などの土地利用型作物の比重の高い道県である。

    ●おわりに

     環境保全型農業レポートNo.119 で紹介した,日本農業が直接エネルギーを多消費している農業部門は野菜を中心とする園芸部門であることは理解できよう。

     では直接エネルギーを多く消費する農業は「悪」だろうか。直接エネルギーを使った施設農業の方が,収益が多く,活力が高くて後継者もいるケースが多い。化石燃料を直接エネルギーとして多消費すると,温室効果ガスの排出量が多くなり,地球環境に好ましくないことには違いない。しかし,日本の化石燃料消費量に占める農業のシェアは非常に小さい。施設園芸によって,冬に新鮮な野菜などを生産でき,それによって日本人の健康が昔に比べて大きく改善されていることは事実である。温室効果ガス排出だけで全てを論ずる単純すぎる環境保全は卒業し,農業の持つ様々な側面を考慮した上で,環境を論じたいものである。農業が主因となった環境問題は,肥料,農薬,飼料などの間接エネルギーの多消費にともなう環境汚染である。直接エネルギーと間接エネルギーの消費量削減と利用効率を向上させる技術開発が望まれる。

     なお,仁平准教授は地理学者で,農業サイドの行なっている過去の研究をろくに調べていないようだ。前出の吉田泰治前九州大学教授の研究も引用していない。それに先だって農林水産省の研究機関が実施したグリーンエネルギー計画で関連する研究が多々なされ,膨大な研究成果集がインターネットでも提供されている。その中でも,例えば,地域農業における土地利用システムの類型化とエネルギー利用実態の解明(1983) 全153頁 や,農業生産システムのシステム分析と資源・エネルギー利用の実態解析(1985) 全404頁 )は,仁平(2011)の著書に関係が深いが,全く引用もしていないのは驚きである。

    (c) Rural Culture Association All Rights Reserved.