環境保全型農業レポート > No.112 望まれるリンの循環利用
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.112 望まれるリンの循環利用

    ●日本でのリンの使用状況

     日本にはリン酸含有率30%以上の高品位リン鉱石の鉱床がなく,リンを専ら輸入して工業や農業で利用している。日本が2006年に輸入したリン(P)の量は,薬品などの化学品で17.6万トン,リン酸肥料で16万トン,リン鉱石で10.3万トンあり(この三者の合計で43.9万トン),その他に,輸入した食飼料に17万トン,鉄鋼原料などに17万トンのリンが含有されていたと試算されている。そして,リン鉱石と化学品の81%に当たる22.5万トンのリンが肥料生産に使用され,肥料が最大の用途になっている(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (2008) リン.「鉱物資源マテリアル・フロー2007」p.265-271.)。なお,この推計では家畜飼料に添加されているリンが計上されていないが,恐らくは肥料に含ませているのであろう。リンは肥料以外にも,医薬品,染料,媒染剤,食品工業,可塑剤,界面活性剤,重合触媒,マッチ,半導体材料,発光ダイオードなどに広く用いられている。

     ちなみに世界全体では,リンの約80%が化学肥料,12%が洗剤,5%が家畜飼料,3%が食品加工や金属処理などの特殊用途で使用されている(石油天然ガス・金属鉱物資源機構,2008:前出)。

    ●世界のリン鉱石の生産量と埋蔵量

     アメリカの地質調査所(United States Geological Survey: USGS)は,世界の鉱物資源の生産量と埋蔵量の調査結果を毎年公表している。リン鉱石の生産量は,2005年まではアメリカが世界のトップであったが,2006年からは中国に追い抜かれて2位になっている。2007年にリン鉱石生産量が多い国トップ3は,中国,アメリカとモロッコである(USGS (2008) Phosphate rock. In “Mineral Commodity Summaries 2008” p.124-125 )(表1)。

     アメリカの地質調査所は,リン鉱石の埋蔵量を,経済的鉱量(Reserve)と基礎鉱量(Reserve base)に分けて表示している。経済的鉱量は,評価を行なう時点の経済条件でリン鉱石を採算のとれる形(現在はリン鉱石トン当たり35ドル以下のコスト)で採掘・選鉱できると確認できた鉱量である。基礎鉱量は,一定基準を満たすことが確認された資源(リン鉱石をトン当たり100ドル以下で採掘・選鉱できるもの)で,経済的鉱量と今後の経済条件や技術条件の変化によっては経済的に可能になる資源とを合わせた鉱量である。経済的鉱量のトップ5は,中国,モロッコ,南アフリカ,アメリカ,ヨルダンである(表1)。

     では,リンの今後の需要を見通して,経済的に採算のとれるリン資源は何年持つのであろうか。10年前の論文だが (Ingrid Steen (1998) Phosphorus availability in the 21st century: Management of a non-renewable resource. Phosphorus & Potassium, Issue No: 217),ロンドンの「自然史博物館」のホームページから,この問題を論じた論文の全文を読むことができる)。この論文にも書かれているが,既往の研究は現在の経済条件で開発可能な埋蔵量は60〜130年で枯渇するとしており,60年で枯渇すると引用している記事が多い。しかし,著者は,中庸モデルでの予測では,経済的なリン鉱石鉱床は少なくとも100年強は持つとしている。

     経済的鉱量が減少するのにしたがい,価格が上昇し,さらに,カドミウムなどの有害重金属濃度の低いリン鉱石が先に減少し,次第に不純物除去のコストもかさんでくることは当然予想される。

     アメリカは2005年以降リン鉱石生産量を減少せざるをえなくなったことを契機に,リン鉱石を戦略物資化し,輸出しなくなった(石油天然ガス・金属鉱物資源機構,2008:前出)。また,中国は,2008年5月から関税上乗せ措置を行なって輸出を制限している。1973年の第一次石油ショックの際にもリン鉱石の輸出規制や価格高騰が起きたが,今回のリン鉱石の動きにも原油価格の急騰と連動している側面があろう。

    ●下水汚泥からのリンの回収

     リン資源の希少性と有限性から,リンの循環利用の必要は以前からいわれている。  例えば,鉄鉱石に含まれているリンは鉄鋼の特性に悪い影響を与えるため,精錬過程で徹底的に除去している。このため,製鉄時の副産物である製鋼スラグには,濃度は低いものの,リンが濃縮される。そのリンの総量は年間17万トンに達する(石油天然ガス・金属鉱物資源機構,2008:前出)。このため,古くからスラグ(鉱滓)をリン酸肥料(鉱滓リン酸肥料)に加工しているのも,リンの循環利用の一つといえる。  また,リンは,かつて尿から発見された歴史をもっており,人間の排泄物中にも多く存在する。このため,下水処理場で生ずる下水汚泥には,リンが多く含まれている。以前に環境保全型農業レポートで,JFEエンジニアリングを中心とする企業グループが,下水処理場を対象にして,し尿または下水汚泥からリンを MAP(リン酸アンモニウムマグネシウム(MgNH4PO4・6H2O) という結晶として回収する装置を開発し,販売し始めたことを紹介した(「し尿や畜舎汚水からのリン回収技術に新たな展開」(環境保全型農業レポート.2004年7月28日号))。なお,その記事の中でリンクさせた回収装置の図は,現在,JFEのホームページから削除されている。

     最近,国土交通省が2008年度から下水道の汚泥から肥料原料のリンを回収する事業を始めたことが新聞報道された。すなわち,下水道の汚泥を焼却し,灰をアルカリ性溶液につけてリン酸を抽出し,これに消石灰を加えてリン酸塩を取り出し肥料会社や農家に販売する計画とのことである(日本経済新聞,2008年7月7日)。

     これは,国土交通省が所管する産学官連携のプロジェクト,すなわち,下水汚泥のリサイクルやエネルギー利用するための「下水道技術開発プロジェクトSPIRIT 21」のなかで,捨てるより安く下水汚泥を全量リサイクルできるようにすることを目的とする「下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)」の課題の一つで,日本ガイシ株式会社と岐阜市上下水道事業部が行なっている研究開発のことである。この課題では,リンをリン酸カルシウムか液肥として回収し,コスト目標を,リン酸塩回収で7,940円/トン,液肥原料で7,290円/トンとしている((財)下水道新技術推進機構の広報誌「新機構情報」(2006年10月) )。

    ●豚舎汚水からのリンの回収

     濃厚飼料で飼養している豚や鶏の飼料にはリン酸塩を添加している。鶏ではふんと尿が一緒に排泄されるが,豚では,肉豚の平均で1頭・1日当たりリン(P)が,ふんに6.5 g,尿に2.2 g排泄され,牛に比べて,尿へのリンの排泄量が非常に高い。このため,ふんと尿を分離した豚舎では,尿と豚舎洗浄水が混じった豚舎汚水に高い濃度でリンが含まれている。

     (独)畜産草地研究所が,豚舎汚水中のリンをMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)として回収する技術を開発していることを環境保全型農業レポートで紹介した(「し尿や畜舎汚水からのリン回収技術に新たな展開」(2004年7月28日号))。詳しくは,鈴木一好 (2004) 養豚での尿汚水からのリン除去・回収技術.農業技術大系.畜産編 第8巻 環境対策 p.552-10〜552-11-8(農文協)および鈴木一好 (2004) 曝気を利用した結晶化法による豚舎汚水中リンの除去・回収.同書.p.552-11-10〜552-11-15を参照されたい。

     その後,畜産草地研究所は,佐賀県畜産試験場,佐賀県窯業技術センター,神奈川県畜産技術センター,神奈川県農業技術センター,沖縄県畜産研究センターおよび沖縄県農業研究センターと共同研究を行なって,MAP回収装置を改良し,養豚農家で実際に運転し,回収したMAPの肥料や陶磁器原料としての利用可能性を検証した。そして,その結果を2008年6月に公表した。

     標準的な条件では,1 m3の豚舎汚水から最大で約170gのMAPを回収できる。肥育豚1,000頭規模の一貫経営の養豚場だと,最大で1日におよそ1. 7 kgのMAPが回収できることになる。回収したMAPは,肥料会社等が精製加工することなく,天日乾燥しただけでそのまま肥料として利用できることが確認されている。

    ●回収したリンの循環利用方法

     下水汚泥や家畜ふん堆肥をそのまま施用すると,夾雑する重金属類の土壌への混入の問題に加えて,三要素(窒素,リン酸,カリ)のバランスが作物要求に合致していないため,生育に障害がでやすい。このため,下水汚泥や家畜ふんから三要素を分離した後,三要素のバランスを作物要求に合わせて施用できるとすれば,これまでの問題を回避できる新しい技術を構築することが可能になる。

     これまで紹介した計画や研究では,下水汚泥や豚舎汚水から回収したリンを,農家がすぐに肥料として利用する方式が想定されている。しかし,そこには一つの障害がある。回収したリン酸を農家が利用するには,他の窒素とカリも単肥のものを用いて,農家が3要素を自分で計量・混合して施用することになるからである。もちろん,農家のなかには,土壌診断に基づいて,自分で単肥を用いて3要素の量を別々に計量・混合して施肥している農家もいる。しかし,大部分の農家は窒素・リン酸・カリを一定比率で混合して造粒した複合肥料を利用している。自分で単肥配合して散布するには手間がかかるうえに,造粒してない粉末状の肥料を施用するには,施肥機の調整をしなければならないし,場合によっては施肥機の買い替えが必要になる。これまでのように造粒した複合肥料で利用するには,回収したリンを肥料メーカに肥料原料として売り渡すルートも必要であろう。

     1993年時点だが,我が国では下水に6万トンのリン(P)が流入し,下水汚泥に存在するリンの総量は約3万トンに達すると推定されている(国土交通省 (2007) 「資源のみちの実現に向けて:報告書案」)。上述の技術が実用化されて,全ての下水処理場でリンの回収が実施されたとすると,3万トンのリン(6.9万トンのP2O5)を回収できることになる。

     他方,2008年2月1日現在の家畜畜産統計と,標準的な家畜1頭当たりのリンの排出原単位を用いて,家畜からのリンの排泄量は約11万トンとなる。そして,そのうち,上記に紹介した豚舎汚水から回収可能なリン量を概算してみる。畜産統計によれば,全国の肥育豚頭数は812万頭,繁殖豚が97万頭などとなっている。単純計算で,肥育豚1000頭規模の一貫経営の養豚場が全国に8,120軒あって,その全てがMAP回収装置を装備していると仮定すると,全国で1日に13.8トン,年間に5,038トンのMAPが回収できることになる。この中には,1,457トンのP2O5,または636トンのPが含有されている。

     冒頭の「日本におけるリンの使用状況」に記したが,日本では22.5万トンのリンが肥料として使用されている。これに比べて636トンのリンはごくわずかである。このため,豚舎汚水から回収したリンは,肥料利用といっても,養豚農家は自ら飼料を生産していないので,養豚農家とその周辺の耕種農家の間でのローカルな物質循環がまず考えられる。3要素を計量して施用することに積極的な耕種農家が近くに存在すれば,養豚農家がそうした耕種農家に直接販売することが考えられる。その際,無料で耕種農家に譲渡するのなら問題はないが,販売するとなると,MAPは普通肥料になるため,養豚農家は農林水産大臣に肥料業者の登録しておかなければならない。登録手続が面倒な場合は,回収したMAPを肥料会社に販売して,肥料会社が正規の肥料に加工するルートも考えられる。

     一養豚農家が回収できるMAPは量的に少ないので,養豚農家自体が豚の餌に添加するリン酸資材として活用することも考えられる。しかし,養豚農家の多くは,全ての飼料やサプリメントが混合された配合飼料を購入して利用しているので,リン酸抜きの配合飼料が販売されない限り面倒で,自分では回収したリン酸を使いたがらないであろう。

     畜産サイドでは家畜ふん中のリンを分離・回収することまではまだ考えていないであろうが,豚ぷん堆肥や鶏ふん堆肥はリンが相対的に多く,土壌へのリンの過剰蓄積を助長している一因でもある。そのため,豚や鶏の飼料へのリン添加量を削減する飼養技術を開発する一方,ふん尿中のリンを下水汚泥での技術を応用して回収することも望まれる。そうすることによって,リンの輸入量を減らし,国内でのリンの循環利用を軌道に乗せることができよう。そして,下水汚泥や家畜ふん尿から回収したリンの量が増えたなら,多少コスト的に高かったとしても,将来に備えて国家備蓄する制度の創設が望まれる。

    ●かつての暴論を繰り返すな

     1973年の第一次石油ショックでリン鉱石が高騰した際,リン鉱石を買えるうちに買ってリン肥料にして土壌に多量に施用し土壌に蓄積しておき,やがてリン鉱石が入手難になったら,土壌で難溶化して蓄積しているリンを溶解させるなどして利用するのが良いという意見があった。当時,日本の耕地土壌の可給態リンレベルが既にかなり高くなっていたが,まだ低い土壌も少なくなかった。しかし,今日では耕地土壌の可給態リンレベル過剰になって作物に生育障害がでている土壌も多くなっており,再び土壌に蓄積するというのは暴挙である。それによって,作物生産が低下するだけでなく,耕地土壌からのリンの流出量が増えて,水系の富栄養化が加速される。土壌で難溶化したリンを可溶化すると,リンと結合して不溶化していたアルミニウムがリンと解離して,再び土壌を強酸性にしたり,アルミニウムの作物に対する害作用が発揮されたりする。かつての暴論を繰り返すことなく,リンの循環利用を軌道に乗せたいものである。

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