環境保全型農業レポート > No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性

    ●有機畜産と有機栽培の谷間

     有機飼料の日本農林規格 で,有機畜産で使用できる飼料は,原則として,(1)有機農産物,(2)有機加工食品,(3)有機乳,(4)有機飼料,(5)有機飼料用農産物,(6)食塩,(7)水,(8)石灰石等(化学的処理を行なっていない石灰石,貝化石,ドロマイト,リン鉱石,ケイソウ土で,化学合成した炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,リン酸二石灰,リン酸三石灰,ケイ酸を添加していないもの),(9)天然物質または天然物質に由来して化学的処理の行われていない飼料添加物(抗生物質および組換えDNA技術を用いて生産されたものを除く)に限定されている。

     このように有機畜産では,化学合成した銅・亜鉛化合物,リン酸化合物,抗生物質および遺伝子組換え作物体由来飼料の使用を禁止している。しかし,日本では有機畜産がほとんど実施されていないため,「有機の家畜ふん堆肥」がほとんどない。

     なお,家畜ふん堆肥に限らず,遺伝子組換え体由来の堆肥材料が混入しているケースが多々あると考えられる。しかし,遺伝子組換え体に由来した材料か否かのチェックが実際には難しいため,「有機農産物及び有機加工食品のJAS規格のQ&A」で,遺伝子組換え体の混入した材料から製造した堆肥でも,当分の間(2010年に予定されている有機JASの次の改訂まで),有機農業で使用できることになっている。

    ●畜産主体のEUの有機農業

     2005年におけるEU(25)の慣行経営体を含めた全経営体の平均農地面積は16.0 haだが,有機経営体の平均農地面積は38.7 haで,慣行経営体よりも大きい(EUROSTAT, 2007b)。

     有機農業の認定を受けた農地面積に占める作目別割合をみると,EUの平均で,その2/3が飼料作物(放牧草地,採草地と1年生飼料作物)となっている(図1)。採草地の牧草と1年生飼料作物は,複合経営体では耕種作物と輪作されていると考えられる。また,労働集約的な野菜の栽培面積はわずか1%に過ぎないことが注目される。EUのように有機の飼料作物生産とそれを利用した有機の家畜生産が多ければ,「有機の家畜ふん尿」を有機栽培に利用することができる。

    ●コーデックスのガイドラインと日本農林規格

     EUの有機農業基準やコーデックスのガイドラインは,土壌肥沃度を輪作や有機飼養の家畜に由来する家畜ふん尿利用によって維持・増進することを基本とし,抗生物質などの飼料添加物に大きく依存した「工業的に」飼養された家畜からの堆肥を認めていない(表1)(Codex Alimentarius Commission (1999) Guidelines for the Production, Processing, Labelling and Marketing of Organically Produced Foods.)。

     「有機農産物の日本農林規格」は,表1に該当する部分を表2のように規定している。コーデックスやEUの規定に比べると抽象的で,これは輪作や有機畜産によって生産された家畜ふん堆肥といった表現を使わないように工夫した結果と推察される。そして,家畜ふん堆肥については,家畜および家禽の排泄物に由来して,堆肥の製造工程に化学合成物質を添加していないことだけを規制し,「工業的農業」に由来する家畜ふん尿については論及していない。

     慣行の家畜ふん尿には,有機農業で禁止された化学物質が,餌から持ち込まれて含まれている。コーデックスやEUの規定は,有機農業で禁止された物質をある程度含んでいる家畜ふん堆肥を使用することを認め,多量に含んでいるケースを排除している。しかし,日本の規定では,餌にどれだけ多量に添加しようとも,ふん尿を堆肥化する過程で添加したのでなければ,有機農業で使用することを認めている。この点は国際的に問題になりうる。つまり,有機農産物の国際取引をするとき,コーデックスのガイドラインが共通の要件になっているからである。日本の規格は家畜ふん堆肥に関してはコーデックスのガイドライン以下なので,今のままの規格では,日本の有機農産物を輸出しようとした際,相手国から日本の規格は国際水準に達していないから,有機農産物として輸入できないといわれても反論できないことになる。

     ☆「有機畜産」「JAS(日本農林規格)」に関する記事を「農業技術大系」から探す → 検索

    ●慣行の家畜ふん堆肥の抱えている問題点

    (1)重金属

     家畜の成長には銅や亜鉛が必要だが,トウモロコシなどの飼料原料に含まれている量だけでは不足するので,銅や亜鉛が添加されている。しかし,実際に流通している配合飼料には,最低必要量の何倍もの多量の銅や亜鉛が添加されているケースが少なくない。こうした飼料への銅と亜鉛の過剰添加を反映して,神奈川県で流通している家畜ふん堆肥には,どの畜種の堆肥にも異常なまでに高濃度の銅や亜鉛が含まれているケースが存在し,平均値では豚ぷん堆肥に他の畜種の堆肥よりも高い濃度の銅と亜鉛含量が含まれていることが確認されている(折原健太郎・上山紀代美・藤原俊六郎 (2002) 家畜ふん堆肥の重金属含有量の特性.日本土壌肥料学雑誌.73: 403-409)(表3)。

     日本は農地土壌の重金属類汚染について,田に限って,カドミウム,銅,ヒ素の3種類を規制しているだけである。これはかつて,鉱山から水系を経て重金属類が流入して水田土壌を汚染したケースが多いことを踏まえた規制と理解できる。しかし,今日では汚泥,リン酸肥料,家畜ふん堆肥などの多量施用によって重金属濃度が高まっている畑土壌が少なくない。EUが農地土壌について銅と亜鉛を含めてより多くの重金属について上限値を定めているのに比べて,日本の規制は遅れている。EUは農地に施用可能な汚泥中の重金属の上限量を銅で12 kg/ha,亜鉛で30 kg/ha・年としている(EU (1986) Council Directive 86/278/EEC on the protection of the environment, and in particular of the soil, when sewage sludge is used in agriculture. )。

     このEUの施用上限量を踏まえて神奈川県の家畜ふん堆肥で計算すると,濃度の高い家畜ふん堆肥では農家が実際に施用している堆肥量で,EUにおける汚泥での施用可能上限値に達してしまう(表3)。日本の法律では畑の銅と,水田と畑の亜鉛について規制されていないから,何ら考慮しなくて良いとするのは科学的でない。家畜ふん堆肥を長期連用して問題になるような銅や亜鉛の土壌蓄積が生じないように,家畜ふん堆肥の銅と亜鉛の濃度と施用量の上限値を明示して,上限値以下の濃度と量の家畜ふん堆肥を有機農業では施用するようにガイドラインを作ることが望まれる。

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    (2)リン酸

     家畜ふん堆肥中の三要素について,化学肥料と同様に作物に吸収可能な養分量(化学肥料相当養分量)の組成をみると,いずれの畜種の堆肥でも,窒素に対してリン酸やカリが過剰である(表4)。このため,家畜ふん堆肥を軸にした施肥を行なって,土壌のリン酸レベルが過剰なまでになったケースも少なくない。

     作物生育にとって窒素が過剰になるほどに家畜ふん堆肥を施用すれば,余剰な窒素から生じた硝酸が水質汚染を起こす。しかし,化学肥料相当窒素が適正量になるように,家畜ふん堆肥の施用量を調節したとしても,リン酸とカリの供給が過剰になる。従来,リン酸は土壌に吸着され,農地から排出されないと考えられていた。しかし,激しい豪雨の際に土壌粒子ごと表面流去されたリン酸が,地表水の富栄養化を助長し,アオコの発生の原因になる。また,可給態リン酸濃度が異常なほど高くなった土壌では,地下水にもリン酸が溶脱され,やがて地表水のリン酸濃度上昇を引き起こすことになる。

     このため,家畜ふん堆肥だけを施用するのでなく,植物質堆肥や有機質肥料と組み合わせて,三要素のバランスのとれた施肥を行なうことが必要である。

     ところで,リン酸肥料の過剰施用によって今日では日本の耕地土壌の可給態リン酸が過剰になったケースが多いとはいえ,日本の土壌は元来リン酸不足であった。化学肥料を排除して,植物質堆肥だけで有機農業を続けていると,化学肥料施用で溜まった土壌の可給態リン酸レベルが低下して,後には,再びリン酸欠乏で作物収量が低く抑制されることが懸念される。そうした事態を避けるためにも,家畜ふん堆肥をリン酸源として活用することが大切である。

    (3)抗生物質

     抗生物質投与によって,家畜の腸内でクロストリジウム症やコクシジウム症などを起こす有害細菌と有害物質産生が減少し,またこれらによって腸管内壁が薄くなり栄養吸収率が高くなり,成長促進の効果があるとされている。こうした飼料の栄養成分の有効利用促進のために,日本では19種類の抗生物質が飼料添加物として認められ,抗生物質の総使用量の約10%が飼料添加物として利用されている。

     抗生物質添加飼料を給餌した家畜から排出された抗生物質が,堆肥化過程を経ても残っている可能性が懸念されている。しかし,5年間に調べた総計220の家畜ふん堆肥サンプルからは抗生物質が全く検出されなかった(畜産環境整備機構 (2005) 堆肥の品質実態調査報告書.全102頁)。このことから,抗生物質自体の残留はあまり懸念する必要はないと考えられる。

     むしろ,堆肥を介した抗生物質耐性菌の蔓延が懸念される。環境保全型農業レポート.No.16 「家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌」に紹介したように,自然界では微生物がお互いの競争に打ち勝つために,一部の微生物が抗生物質を生産する能力を獲得しており,それに対抗する抗生物質耐性菌も生存している。このため,人為の影響のない森林土壌にも抗生物質耐性菌が生存している。しかし,抗生物質を添加した飼料で飼養した家畜ふんと,その家畜ふん堆肥を連用した土壌には,院内感染で問題になっているアンピシリン,バンコマイシン,カナマイシン,クロラムフェニコール,リファンピシン,テトラサイクリンといった複数の抗生物質に耐性な多剤耐性菌が,森林土壌や家畜ふん堆肥無施用土壌よりも増えている。しかも,これら6種類の全ての抗生物質に耐性な細菌も少なからず検出されている。

     土壌中の多剤耐性菌が作物を経て人体に侵入している可能性は今後検討すべき問題として残されているが,多剤耐性菌をできるだけ殺した家畜ふん堆肥を使ったほうが安心できる。屋内堆積で70〜80℃の高熱を発生させながら製造した鶏ふん堆肥では,アンピシリンを除く抗生物質に対する耐性細菌がほぼ完全に消滅していたことから,しっかり発熱する堆肥化が大切と推定される。このことから有機農業ではせめて多剤耐性菌があるレベル以下の家畜ふん堆肥を使うといったガイドラインが望まれる。

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    ●食の安全と環境の保全を担保する有機農業に向けた努力

     有機畜産がない日本で,慣行の家畜ふん堆肥を排除するのは非現実的である。だが,慣行の家畜ふん堆肥を有機農業で無制限に受け入れられるというのは納得できない。化学肥料は危険で,有機物なら何でもどれだけ施用しても安全だという間違えた神話に依存した有機農業から,食の安全と環境の保全を担保できる有機農業へと脱皮する視点から,有機農業で使用可能な家畜ふん堆肥の品質基準を定める努力を重ねてほしいものである。

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