環境保全型農業レポート > No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法

    ●土壌による炭素のシーケストレーション

     土壌に落下ないし混和された有機物の多くの部分は微生物によって分解される。しかし,分解しにくい部分は微生物による部分的変化を受けた後に,たがいに縮重合して難分解で巨大な分子の腐植物質となる。腐植物質の多くは半減期が1000年を超えるものが少なくない。また,温度が低い地方の湛水された土壌では酸素が乏しいために,土壌微生物による有機物分解が抑制されて,ピートなどとして植物遺体がほぼ原形を保ったままの形で何千年も何万年も温存される。このように炭素が有機物として何百年,何千年にもわたって土壌に保存され,その量を増やすことができれば,現在上昇しつつある大気中の二酸化炭素濃度を下げるのに貢献できると期待されている。このように長期にわたって炭素を有機物として土壌に貯留することをシーケストレーション(長期貯留あるいは長寿命固定など)と呼んでいる。

     EU(欧州連合)の執行機関の欧州委員会は,土壌が気候変動の緩和にどの程度貢献できるのかや,気候変動が土壌にどのような影響を与えるのかについて,土壌学者を中心とするEUの科学者グループに問いかけをしていたが,科学者グループはこの問題に関する既往の文献を整理した報告書を2008年12月に欧州委員会に提出した(Ren醇P Schils et al. (2008) Review of existing information on the interrelations between soil and climate change〜Final report. 208p.)。この報告書は「気候土壌報告書」(CLIMSOIL Report)と略称されている。欧州委員会は同報告書を検討した上で,関連する他の情報とともに,同報告書の内容をプレスリリースした。

     「気候土壌報告書」は208ページに及ぶ分厚い報告書だが,そのなかの土壌による炭素の長期貯留量を高める農地の管理方法の部分を紹介する。

    ●農地の管理方法による土壌炭素の長期貯留量の違い

     「気候土壌報告書」に先立って,科学者グループはテーマ別に文献を整理したより詳しい報告書を作成している。その一つが(PICCMA (2007) D3: Practices description and analysis report)だが,そこでの文献整理を踏まえて,「気候土壌報告書」に,農地の管理方法による土壌炭素の長期貯留量の違いを要約した表が掲載されている。当該表では管理方法が大幅に簡略化されて記されていて分かりにくいので,管理方法が分かりやすくなるように加筆して作成し直したのが表1である。

     表1の右欄に「温暖化緩和能」として「CO2相当量トン/ha/年」の数値を記してある。これは土壌に長期貯留されうる腐植物質の炭素量を二酸化炭素相当量で表示しているだけでなく,化学肥料窒素の施用量を減らすなどによって,亜酸化窒素(N2O)などの他の温室効果ガスの発生量を削減した場合には,温室効果ガスの温暖化係数を用いて,その削減量を二酸化炭素量に換算した量も表示している。つまり,土壌に長期貯留される二酸化炭素量と削減された他の温室効果ガス量を二酸化炭素に換算した値の合計量を示している。

     (1)有機質土壌の管理

     表から分かるように,土壌への炭素貯留能(温暖化緩和能)が他の管理方法よりも1オーダー高くて最も高いのは,「有機質土壌の管理の仕方の改善」である。泥炭土など冠水土壌には多量に有機物が蓄積している。そうした土壌を干拓・排水して農地に開墾すると,土壌が好気的になって,活発な有機物分解が生じて土壌の炭素蓄積量が激減する。既に農地として利用されていても,元来水が溜まりやすい地形であることが多いため,作物単収が多少低下しても,それが補償されるなら,地下水位を上昇させたり,あるいは再度冠水して作物生産を放棄したりすると,土壌の炭素貯留量が急激に回復する。土壌の温暖化緩和能は37〜73 CO2相当トン/ha/年に達する。

     (2)草地化・草生栽培

     二番目に効果の高い管理方法が,耕地の「粗放化・セットアサイド」や「永年性牧草への切り換え」,「樹園地の草生栽培」である。牧草は,通常の作物に比べて,栽植密度が高くて面積当たりのバイオマス生産量が多い上に,多量の根が数センチの厚みのマット状にからみあって,その下は酸素不足になって,有機物の分解が抑制される。このため,牧草を栽培すると,あるレベルまで土壌有機物レベルが急速に上昇する。土壌の温暖化緩和能は1.7〜3.0 CO2相当トン/ha/年に達する。

     (3)家畜ふん尿の処理と施用方法の改善

     EUでは家畜ふん尿は主にスラリー還元されている。スラリーを不適切に貯留していると,亜酸化窒素やメタンの発生源ともなってしまう。このため,温室効果ガスの大気への揮散量を減らすように工夫したスラリー貯留施設が増えている。また,スラリーを土壌表面に散布しただけだと,多量のアンモニアが揮散して,酸性雨や温暖化の原因になるため,スラリー散布直後に土壌混和したり土壌注入したりするようになってきている。そして,スラリーで貯留・施用するよりも,家畜ふん尿を堆肥化してから施用した方が温室効果ガスの発生量が少ない。

     こうした家畜ふん尿の処理と施用方法の改善は草地化・草生栽培と同程度の効果があり,土壌の温暖化緩和能は1.5〜2.8 CO2相当トン/ha/年に達する。

     (4)土地利用率の向上と輪作の改善

     現在裸地にしている期間に緑肥作物やカバークロップを栽培したり,輪作作物の種類を変更したりして,作物による年間の二酸化炭素固定量を増やして,作物全体または収穫残渣を土壌に還元して,土壌の腐植物質量を増加させる。これによる土壌の温暖化緩和能は0.3〜0.9 CO2相当トン/ha/年に達する。

     (5)耕耘削減と残渣管理

     ミニマムティレッジ,ゼロティレッジ,保全耕耘などによって土壌の耕耘回数や耕耘する深さを減らすと,土壌への酸素の流入が制限され,土壌微生物による有機物の好気的分解が抑制されて,腐植物質が土壌に貯留されやすくなる。

     耕耘削減を行った場合には,通常,土壌侵食防止などのために,作物残渣は土壌表面に放置している。しかし,残渣を土壌に混和したほうが,土壌に貯留される有機物量が増える。ただし,窒素濃度の高い残渣を混和すると,表面放置の場合よりも,亜酸化窒素の発生量が増えるので,混和する作物残渣は窒素濃度の高くないものであることが必要である。

     これらによる土壌の温暖化緩和能は0.2〜0.7 CO2相当トン/ha/年に達する。

     (6)化学肥料窒素施用量の削減

     化学肥料窒素を過剰施用すると,作物に吸収されなかった窒素の一部が強力な温室効果ガスである亜酸化窒素に変化する。このため,(1)施肥基準を踏まえて過剰施肥を減らす,(2)土壌から供給される地力窒素を考慮して化学肥料窒素の施用量を適正化する,(3)基肥重点から分施重点にするか肥効調節型肥料を用いるなど,肥料の利用率を向上させて無駄になる肥料窒素を減らして,亜酸化窒素発生量を減らすことが大切である。

     これらによる土壌の温暖化緩和能は0.3〜0.6 CO2相当トン/ha/年に達する。

    ●農林水産省の土壌の温暖化緩和機能強化予算

     農林水産省は2009年度予算で,土壌の温暖化緩和機能を強化する下記の事業を新規に実施することになっている。

    1.土壌炭素の貯留に関するモデル事業 96 百万円(新規事業)

     (1)炭素貯留効果の高い営農活動に伴う収益性や環境保全効果に関する調査

     土壌炭素の貯留に効果の高い営農活動への転換に取り組むモデル地区を設定し,活動にともなって生じる農家所得の増減,CO2以外の温室効果ガスの排出を加味した温暖化防止効果について調査する。

     (2)炭素貯留効果の高い営農体系の確立

     調査結果を踏まえ,炭素貯留効果の高い営農体系を確立し,マニュアルを整備する。

     (3)地球温暖化防止効果に着目した農産物表示ルールの検討

     地球温暖化防止に役立つ取組によって生産された農産物について,地球温暖化防止効果に着目した農産物表示ルールを検討する。

    2.炭素貯留関連基盤整備実験事業(公共) 380 百万円(新規事業)

     (1)基盤整備事業の実施地区における調査・検討

     基盤整備事業の実施地区において,(a)堆肥,モミガラ,木炭などの下層土や心土への埋設などの炭素貯留を増進する工法が生産基盤の機能に及ぼす影響を調査し,(b)工程,経済性等について最適な工法を検討し,(3)炭素貯留を増進する工法が周辺環境に及ぼす影響を調査する。

     (2)ガイドラインの作成

     調査・検討結果に基づき,炭素貯留を増進する整備の技術的なガイドラインを作成する。

    3.地球温暖化防止に貢献する農地基盤整備推進調査(公共) 54 百万円(新規事業)

     (1)炭素貯留手法確立のための実証調査及び評価手法の検討

     投入資材や土壌条件に応じた農地基盤での炭素貯留特性等について,実証調査を行ない,あわせて,水田および畑の土壌タイプ毎の炭素貯留量について算定手法を検討する。

     (2)炭素貯留手法確立のための事業効果算定手法等の検討

     炭素貯留機能を向上させる基盤整備事業の経済効果の算定手法および炭素貯留増進手法の体系化を検討する。

     (3)炭素貯留に資する基盤整備事業の調査・計画手法の検討

     上記2つの検討を基に炭素貯留機能を向上させる基盤整備事業の調査・計画手法を検討する。

     (上記の3つ予算項目の予算額は「平成21年度農林水産主要施策別予算の概要」の「III 資源・環境対策の推進」を,事業概要は「農林水産主要施策別概算要求の概要」の「III 資源・環境対策の推進」を参照。)

     また,農林水産省は下記の施肥体系に関する予算を,省エネ・省資源化の推進に位置づけているが,余分な窒素肥料を削減することは,上述したように,亜酸化窒素の排出削減をもたらし,温暖化緩和に貢献する。

    4.肥料コストを抑えた施肥体系への転換促進 1,181 百万円(新規事業)

     肥料コストの一層の低減を図るために,施肥低減効果の高い新技術の導入等による施肥体系への転換等を支援する。(事業の予算額と概要は「平成21年度農林水産主要施策別予算の概要」の「4.農林水産分野における省エネ・省資源化の推進」を参照)

     EUの「気候土壌報告書」の紹介で記したように,土壌の温暖化緩和機能を強化するには,総合的な視点に立って,多様な土壌管理方法を組み合わせることが必要である。農林水産省の新規事業はまだ限定された管理方法しか対象にしていない。特に日本では湛水された水田が炭素貯留に大きく貢献しており,水田での稲作を減らさないことが最も効果の大きな方法であり,これをベースにして,今後表1にある各種の方法を組み合わせるように事業を拡張して欲しいものである。

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