環境保全型農業レポート > No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案

    環境保全を担保し消費者に支持される食料供給への具体案への一歩となるか・・・

    ●具体性のない「農業生産活動規範」

     2005年3月31日に農林水産省生産局長名で「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(以下「農業生産活動規範」)が農政局長等に通知された。しかし,農業生産活動規範は,環境保全型農業レポートNo.12で指摘したように,農業方法の基本を書いただけで具体性に乏しい。

     農業生産活動規範の病害虫・雑草の防除に関する本文は,『病害虫・雑草が発生しにくい栽培環境づくりに努めるとともに,発生予察情報等を活用し,被害が生じると判断される場合に,必要に応じて農薬や他の防除手段を適切に組み合わせて,効果的・効率的な防除を励行する。また,農薬の使用,保管は関係法令に基づき適正に行う。』というだけで,これを行ったか否かのチェック欄が添付されている。そして,取組(例)として,下記が記載されている。

     ◎発生源植物の除去,抵抗性品種の導入,輪作体系の導入,ほ場及びほ場周辺の清掃等による病害虫・雑草が発生しにくい栽培環境づくりを行う。

     ◎次の取組のうち一つ以上を実行する。

    1. 発生予察情報の入手や病害虫発生状況の観察による病害虫の発生状況を把握した上で防除を行う。
    2. 必要に応じて農薬や他の防除手段を適切に組み合わせるなどの効果的・効率的な防除を行う。

     ◎農薬取締法に基づく農薬の適正な使用,毒物及び劇物取締法に基づく毒物・劇物の適正な保管,廃棄等を行う。

     この取組(例)にしても,原則を記しただけであり,作物や有害生物の種類に応じて具体的にどのような農業行為を行うかを記載していない。

    ●総合的病害虫管理(IPM)検討会の発足

     農林水産省消費・安全局の植物防疫課は,2005年11月に病害虫,農薬などの分野の有識者からなる総合的病害虫管理(IPM)検討会を発足させた。その主目的は,過度に化学農薬に依存することなく,経済性を考慮しつつ,利用可能な防除手段を総合的に組み合わせて,食品と環境へのリスクを最小限に抑える総合的病害虫管理(IPM)の実践度を農家が簡単に評価できる指標(IPM)実践指標)の原型を作成することにある。同検討会は2004年11月から2005年6月までに4回の会合をもち,総合的病害虫・雑草管理(IPM)の定義,IPM実践指標の枠組,水稲におけるIPM実践指標策定モデルなどの案を策定し,2005年6月17日に総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案として公表した。

    ●IPMの定義とIPM推進の目的

     IPMの訳語が,検討会の名称では「総合的病害虫管理」であるが,実践指針案では「総合的病害虫・雑草管理」になっている。IPMは元々害虫分野から始まったが,今日では病害虫のみならず雑草や,場合によっては作物に加害する鳥獣を含む「総合的有害生物管理」に拡大している。事務局が当初予定した病害虫だけでなく,検討会で雑草が加えられたために,実践指針案では「総合的病害虫・雑草管理」になり,検討会の名称とは異なることになった。

     実践指針案では,『総合的病害虫・雑草管理とは,利用可能なすべての防除技術を経済性を考慮しつつ慎重に検討し,病害虫・雑草の発生増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じるものであり,これを通じ,人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減,あるいは最小の水準にとどめるものである。また,農業を取り巻く生態系の攪乱を可能な限り抑制することにより,生態系が有する病害虫及び雑草抑制機能を可能な限り活用し,安全で消費者に信頼される農作物の安定生産に資するものである。』と定義した。

     現在の化学農薬は,使用基準に定める使用方法を遵守していれば人の健康や環境に対して悪影響を与えるものではない。しかし,化学農薬は食用作物に使用され,それに付随して開放系に放出されている。このため,人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減あるいは最小限にして,わが国農業全体を,環境保全を重視したものに転換することによって,消費者に支持される食料供給を実現することをIPM推進の目的としている。

    ●水稲におけるIPM実践指標モデル

     検討会は,策定したIPM実践指標モデルの枠組に基づいて,主要作目または作物別の具体的な実践指標モデルを今後順次策定する予定である。その最初のモデルとして,水稲におけるIPM実践指標モデル案が作られた。「モデル」と表現されているのは,これをベースにして都道府県が地域に応じた具体的な指標を作る段取りとなっているからである。

     水稲の実践指標モデルでは,次の17の管理項目(両括弧の数字項目)と合計27の管理ポイントが策定された。なお,下記の「(必)」は必須管理ポイントである。

    (1)水田及びその周辺の管理

    1. 農薬の効果向上と水質汚濁防止のため,畦畔の整備,畦塗りなどにより,漏水を防止する(必)。
    2. 畦畔・農道・休耕田の除草等を行い,越冬害虫を駆除することにより,次年度の発生密度を低下させる。
    3. 不耕起栽培を除き,翌年のオモダカ,クログワイ等の多年生雑草の発生を抑制するために稲刈り後早期に耕耘する。
    4. 土壌診断を受け,必要な場合にはケイ酸質肥料を施用する。

    (2)適正な品種の選定:いもち病等の病害の常発地では抵抗性の強い品種を,また,倒伏常習地では耐倒伏性が高い品種を選定する。

    (3)健全種子の選別(必):種子の更新を図るか,または,塩水選を行い,病原菌に侵されていない健全な籾を選種する。

    (4)健全苗の育成(必):品種の特性に応じて,適正な播種量,育苗施肥量等を守りつつ健苗育成に努め,病気が発生した苗は早く処分する。また,苗いもちが発生した場合には直ちに薬剤を散布する。

    (5)種子消毒:農薬による種子消毒あるいは温湯消毒を実施する。なお,農薬を使用する場合には次のいずれかの方法による(必)。・廃液が出にくい方法,・適切な廃液処理法。

    (6)育苗箱施薬:次の点を考慮して育苗箱施薬が必要と判断された場合には,過剰防除にならないように対象病害虫のみに対して実施する。・当該地域での例年の病害虫の発生状況,・病害虫防除所の病害虫情報(越冬量等)。

    (7)代かき作業:代かきは丁寧にし,田面をできるだけ均平にする。

    (8)移植作業:健全な苗を選抜し品種に応じた栽植密度本数を移植する。

    (9)雑草対策

    1. 前年の雑草の発生状況に応じて過剰防除にならないように,適切な除草剤を選定する。
    2. 紙マルチ移植や機械除草等の除草剤を使用しない雑草管理対策を実施する。
    3. 水田初期除草剤を,移植前又は移植時に使用する場合には,環境への影響に十分配慮して処理する。

    (10)病害虫発生予察情報の確認(必):病害虫防除所が発表する発生予察情報を入手し,確認する。

    (11)防除の要否の判断:都道府県が推奨する要防除水準を利用する。なお,防除が必要と判断された場合には,防除を実施する。

    (12)いもち病対策

    1. 葉いもちの伝染源をなくすために水田内の置き苗は,移植後の補植が終了し必要がなくなったら早急に除去処分する。
    2. 都道府県が推奨する基肥量を遵守し,窒素質肥料の多施用はしない。追肥については,葉色や警報・注意報の内容を確認して,都道府県が推奨する量を超えない範囲で施用する。

    (13)斑点米カメムシ対策:水田周辺での発生及び本田への飛込みを減らす上で有効な場合には,適切な時期に畦畔及び水田周辺の雑草地の除草を行う。

    (14)土着天敵の確認:化学農薬を本田で使用する場合には,その使用前後で最低1回はクモ等の当該地域に通常生息している天敵類の発生状況を確認する。

    (15)農薬の使用全般(必)

    1. 十分な薬効が得られる範囲で最小の使用量となる最適な散布方法を検討した上で使用量・散布方法を決定する。
    2. 当該病害虫・雑草に効果のある複数の農薬がある場合には,飛散しにくい剤型を選択する。
    3. 農薬散布を実施する場合には,適切な飛散防止措置を講じた上で使用する。
    4. 農薬を使用する場合には,特定の成分のみを繰り返し使用しない。さらに,当該地域で強い薬剤抵抗性の発達が確認されている農薬は当該地域では使用しない。
    5. 止水期間の定められている農薬を使用する場合には,農薬毎に定められている止水期間中,落水・かけ流しは行わないこととし,適切な水深管理及びけい畔管理を行う。

    (16)作業日誌(必):各農作業の実施日,病害虫・雑草の発生状況,農薬を使用した場合の農薬の名称,使用時期,使用量,散布方法等のIPMに係る栽培管理状況を作業日誌として別途記録する。

    (17)研修会等への参加:都道府県や農業協同組合が開催するIPM研修会等に参加する。

    ●IPM実践指標による評価

     実践指標案では,原則として一つの管理ポイントごとに1点を加算し(実践しない場合は0点),合計27の管理ポイントでの点数を合算し,全てを実践した場合の27点に対するパーセントを得点とする。実践指標案では農家単位で得点を計算することを想定しているが,圃場によって管理が異なる場合がありうるので,正確には管理の同じ圃場ごとに得点を計算することが望まれる。同一管理の圃場ごとの得点と水稲栽培面積の積を合算した値を合計水稲栽培面積で割れば,農家の平均得点が得られる。そして,地域における農家の平均得点と水稲栽培面積の積を合算し,その値を地域の合計水稲栽培面積で割れば,地域の平均得点が計算できる。

     得点をどのように評価するかについては,いくつかの方法が提案されている。すなわち,(1)80点以上をA,60〜79点をB,59点以下をCランクに評価する,(2)絶対値評価でなく,前年度の得点からの上昇点が20点以上ならA,10〜19点ならB,9点以下ならCに評価する,(3)絶対値評価でなく,地域の農家の得点の上位3割をA,中位4割をB,下位3割をCに評価する。どの評価方法を採るかは都道府県が決めることになるが,毎年得点全体が上昇して,IPMの普及が進展してきていることを裏付けられることが大切となる。

    ●農業生産活動規範との関係

     実践指標案は指標である。しかし,そこに記述された内容は農業生産活動規範として記述されるべきものであり,その記述に際しては現在の実践指標案よりも具体的な説明を記述することが望まれる。そうすることによって,農業生産活動規範は原則論を脱却して具体的なものになれる。だが,実践指標案と農業生産活動規は全く別個に検討され,実践指標案で取り上げた具体的な管理方法を農業生産活動規範に盛り込む考えはないようである。

    ●実践指標案の利用はどうなるか?

     植物防疫課が総合的病害虫管理(IPM)検討会を発足させて,実践指標案を策定したわけだが,これを行政でどう利用しようとするのか。

     「食料・農業・農村基本計画」には,下記が記述されている。すなわち,

    『ア 環境規範の実践と先進的取組への支援
     環境と調和の取れた農業生産活動を促進するため,農業者が環境保全に向けて最低限取り組むべき規範を策定し,平成17年度より可能なものから,その規範を実践する農業者に対して各種支援策を講じていくこととする(クロス・コンプライアンス。)
     さらに持続性の高い農業生産方式の導入支援策を引き続き行うとともに環境保全が特に必要な地域において,農業生産活動に伴う環境への負荷の大幅な低減を図る先進的な取組に対する支援の平成19年度からの導入に向け,環境負荷の低減効果に関する評価・検証手法等を確立するための調査を実施する。』

     実践指標案はこの記述に関係したものと当初考えられたが,そうではないようである。考えてみれば,実践指標案は規範とは別であるから,平成17年度から実施する規範を実践する農業者への支援策にこの実践指標案が利用されるとは思えない。また,平成19年度から導入予定の先進的取組への支援は,農業生産活動に伴う環境への負荷の大きなケースであり,農薬による負荷が深刻なケースがあれば実践指標案が適用されようが,そうしたケースはほとんどありえないので,そこでも実践指標案が利用されるとは思えない。

     第1回の総合的病害虫管理(IPM)検討会で配布された資料「IPM実践指標策定の必要性等について」では,当面,平成17年度からの植物防疫課の新規事業で,都道府県での策定及びその普及推進を図ることを記している。しかし,都道府県が策定したものを普及させて環境保全的取組のレベルを向上させるには,行政による支援が必要である。この点については,将来的には,環境保全を重視したより高いレベルの環境保全の実現を目指す農業者の育成に向けた支援策の要件としての活用することも視野に置くとだけ記述され,支援策として利用することについての展望は一切述べられていない。

    ●実践指針案にほしい環境改善効果の評価

     総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案には次の記述がなされている。すなわち,
     『現在,化学農薬の使用回数の削減や生物農薬の利用等に積極的に取り組んでいる事例が農業生産現場で見られるようになっている。しかしながら,このような現場においても,例えば,化学農薬に代わる適切な防除手段がない場合に,化学農薬の使用回数の削減のみを目標とすると,農業者にとって,かえってコスト・労力面で過重な負担を強いられるという事態が生じかねない。この場合,IPMの基本点を踏まえて,単に化学農薬の使用回数のみに着目するのではなく,環境に配慮した散布方法や飛散しにくい剤型及び選択性の高い農薬の使用等の環境負荷の軽減に向けた取組が導入されることが重要である。』
     特別栽培農産物やエコファーマー農産物は化学農薬の散布回数の削減を目標にした取組になっているが,上記の記述は回数だけの目標設定には問題があることを指摘している。

     また,上記の記述では,「環境負荷の軽減」が記されている。しかし,策定された実践指標案には環境負荷が減少したことにともなう環境改善効果,つまり,例えば,ホタル,ドジョウ,アカウキクサなどの水生水田生物の復活を指標がない。例えば,「米・食味鑑定士協会」は,コメの安全性を証明するものとして,水田環境生物と共存した水田で生産されたコメであることを強調し,水田環境生物を鑑定できる「水田環境鑑定士講習会」を開催している。そして,水田環境生物と共存した安全なコメに対する消費者の需要に応える取組を推進している。実践指標例はそうした指標を取り込むまでには至っていない。

    (c) Rural Culture Association All Rights Reserved.