環境保全型農業レポート > No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮

    ●温室効果ガス吸収源としての農地土壌の考慮

     気候変動枠組条約京都議定書で,2008年から2012年の第一約束期間に,日本は1990年に比べて温室効果ガスの発生量を6%削減する義務を有している。しかし,その達成は困難な見通しになっている。国際的には,この約束達成の努力に加えて,第一約束期間後の議定書の枠組も問題になっている。

     ところで,気候変動枠組条約では,人為的に行った森林経営,植生回復,農地管理,放牧地管理の4つの活動で,1990年以降に追加的に実施された活動については,これらに起因した温室効果ガスの純吸収量を総排出量から控除することが認められていた。我が国は森林経営と植生回復の二つを追加的人為活動として選択することを条約事務局に通報していたが,農地管理は選択していなかった。

     京都議定書の次の議定書の枠組については,2009年までに合意することとし,2008年3月には方法論的課題について各国から条約事務局に意見を提出することにされていた。そして,2008年3〜4月に予定されている作業部会において,農地管理を含む土地利用分野の取扱い等に関する分析作業に着手し,8〜9月に開催される作業部会で,それまでの作業結果のとりまとめが行われる予定となっている。

     農法を変更して土壌への炭素貯留量を増加させる農地管理は,新大陸の農産物輸出国のように農地面積の大きな国ほど有利になる。我が国は,農地面積が少ないことから,農地管理について積極的に対応してこなかった。しかし,第一約束期間の削減目標達成が困難になった現在,後述するが,削減目標の10.7%と試算される堆肥施用による農地土壌への炭素貯留を,次期議定書で計上できるように方針を変更することになった。そのため農林水産省は条約事務局の作業に間に合うように意見を集約する必要があった。「今後の環境保全型農業に関する検討会」(環境保全型農業レポート.No.100 でその概要を紹介)での農地土壌の炭素貯留機能に関する論議が,同検討会の報告書に先立って,食料・農業・農村政策審議会企画部会地球環境小委員会にインプットされて論議に活用された。そして,同小委員会の結論の「地球温暖化防止に貢献する農地土壌の役割について」が,2008年3月19日に開催された食料・農業・農村政策審議会企画部会で報告・承認された。

    ●農地土壌の炭素貯留機能

     農地土壌の炭素貯留機能はどのようなものか。「今後の環境保全型農業に関する検討会報告書」から,その概要を紹介する。

     農地土壌に堆肥などの有機質資材を施用すれば,土壌有機物として炭素が土壌に貯留される。我が国では水田土壌に連用した有機質資材の炭素と窒素の無機化と蓄積の予測式が作られている。この予測式に基づいて,水田に代表的有機質資材を乾物1 t/10a(現物で約4 t/10a)ずつ毎年連用したときの土壌への炭素の貯留量を図示したのが図1である。

     図から分かるように,土壌への炭素の貯留量は有機質資材の種類によって大きく異なり,分解しにくい成分が多い有機質資材ほど,より多くの炭素が貯留される。そして,いずれの有機質資材の場合でも,連用初期には土壌への炭素貯留量が急速に増加するが,やがて増加量は漸減し,最終的には年間に施用した資材中の炭素と同量の炭素が全て無機化(二酸化炭素に無機化)されて平衡状態に達する。このため,有機質資材施用による土壌の炭素貯留量の増加は無限に続くわけではない。

     有機質資材中の炭素の蓄積量は,水田と畑の違いに加え,土壌タイプ,年間の降水量や温度によっても異なってくる。農林水産省が都道府県の協力を得て実施している土壌環境基礎調査での水田52 地点,普通畑26 地点の稲ワラ堆肥連用試験のデータ(堆肥連用期間は20年以内)を集約し,化学肥料のみを施用した場合と比べて稲ワラ堆肥を連用した場合にどの程度炭素貯留量が増加するかを試算すると,土壌タイプで異なるものの,稲ワラ堆肥を1 t/10a 施用した水田で年間40.6〜77.4 kgC/10a,稲ワラ堆肥1.5 t/10aを連用した畑で年間37.3〜170.9 kgC/10aの炭素が貯留されることが示された。この結果を踏まえると,全国の水田土壌に1t/10a,畑土壌に1.5t/10a の稲ワラ堆肥を連用した場合,稲ワラ堆肥を施用しない場合に比べて,毎年約220 万tC の炭素貯留量が増加すると試算される。

     因みに,この量は,京都議定書で定められた我が国の第1約束期間における温室効果ガス削減目標量2,063 万tC(1990 年温室効果ガス総排出量の6%)の10.7%に相当する。また,日本の家庭1世帯が1年間に排出する炭素量は,約1.4 tC であり,これはおおむね3 haの水田に稲ワラ堆肥を30t(10a当たり1 t)施用した場合に貯留される炭素量に相当する。

     さらに,稲ワラ堆肥を施用した場合,水田土壌からの温室効果ガスのメタンの発生が増加することから,前記の稲ワラ堆肥施用にともなう年間炭素貯留増加量からこれを差し引くと,農地土壌全体の炭素収支としては,年間約193〜203 万tC の炭素貯留量が増加すると試算される。

     こうした概算には不確実性が絶えずつきまとっていることに加え,ここで得られた結果は,図1からわかるように,炭素の土壌への年間貯留量が多い期間(連用期間20年以内)であり,連用期間を延長してゆくと,年間貯留量が漸減することに注意する必要がある。また,堆肥の連用を中止すれば,土壌の炭素貯留量が減少し,その分が二酸化炭素となって大気中に放出され,土壌からの二酸化炭素発生が増加することにも注意が必要である。

     土壌への炭素蓄積量を高める農作業としては,堆肥の施用以外にも,不耕起栽培や省耕起栽培(例えば毎年春と秋に実施している耕耘のうち,年によって片方を省略するなど,耕起回数を少なくする栽培方法),カバークロップの栽培(収穫を期待する作物ではなく,広く環境および土壌改善に用いられる作物で,ライムギ,エンバク,イタリアンライグラスなどのイネ科作物やクローバなどのマメ科作物:小松崎将一 (2008) カバークロップ導入による持続的生産と炭素貯留機能.農業技術大系.土壌施肥編.第3巻 p.土壌と活用? 16の42〜16の55.農文協を参照)などをあげることができる。

    ●農地土壌の炭素貯留機能を軸にした施策の枠組

     食料・農業・農村政策審議会企画部会の「地球温暖化防止に貢献する農地土壌の役割について」では,農地土壌の炭素貯留機能を強化させる農法について,次のように記している。

     高温多湿で雑草が多い我が国では,不耕起栽培や省耕起栽培は,除草労力や除草コストの増大のほか,水田における漏水等の農業生産上のデメリットも招きかねない。このため,不耕起栽培や省耕起栽培は適地を見極めた上で取り組むことが重要である。そして,我が国では,堆肥等の投入,土壌改良資材の施用,多毛作の促進などによる有機物の投入の促進,を通じた土壌炭素の増加が中心的な取組になると考えられるとしている。

     農地土壌の炭素貯留機能を強化する農法を助長する政策を実施するとした場合,まず温室効果ガスの排出削減・吸収増加に資する農法を特定して,そうした農法を促進させる措置を講じるという手法が考えられる。その際,具体的な手法としては,規制的手法,クロス・コンプライアンス,ラベリング・認証,排出権取引,環境税,農家の取組への支援などがあげられる。このうち,排出権取引については,我が国には未だ導入されていないうえ,同制度を導入している国においても,農業分野を対象に含んでいる国はわずかにとどまっている。また,環境税についても我が国では未だ導入されていないが,仮に導入された場合には,農地管理に伴う温室効果ガスの排出削減・吸収増加についても使途の一つとして適切に位置づけられるべきである。

     ただし,企画部会の資料は次の点も指摘している。

     つまり,国際的な議論の場へ持ち出す際には,森林吸収源対策などの議論との整合性にも配慮する必要がある。さらに,アメリカやカナダなどの農地管理に関心を有する先進主要国は,農地土壌への炭素貯留の手法として不耕起栽培・省耕起栽培を実施しているのに対して,我が国の中心的な取組となると見込まれる手法は有機物の投入である。有機物の投入は,現在のところ国際的には炭素貯留のための中心的な取組と認められているとはいいがたい。このため,今後の国際交渉に向けて,我が国の農業事情が交渉結果に適切に反映されるよう,行政だけでなく,研究機関や外部の有識者等と有機的に連携しながら,省をあげて交渉に臨む体制を早急に整える。

    ●バランスのとれた環境保全型農業の展開が重要

     土壌への炭素貯留量を高めるために,堆肥などの有機質資材をむやみに施用して,土壌の養分を過剰にして,作物の収量や品質を低下させ,環境汚染を起こすことがあってはならない。また,稲ワラを水田に施用すると,土壌の炭素蓄積量が増加するが,強力な温室効果ガスであるメタンの発生量も増加する。このため,稲ワラを堆肥化してから水田に施用することが必要である。このように,農業生産の全過程を通して,他の温室効果ガスとのトレードオフを考慮することも必要である。さらに,水田では土壌の酸化還元電位が- 200 mV以下に低下して,易分解性有機物が多いと,メタン発生量が急増する。このため,水田の土層・土壌改良や排水改良も必要である。

     また,土壌に限らず,農業からの温室効果ガスの発生をみると,家畜ふん尿の不適切な処理によって多量の温室効果ガスが発生する。このため,家畜ふん尿の適正な堆肥化とその作物生産への活用という農村での健全な物質循環の促進なども大切である。

     こうしたことから,土壌への炭素蓄積だけを目標にした政策を実施するのでなく,温暖化防止の要素を加えながら,バランスのとれた環境保全型農業全体の発展を助長する政策が期待される。

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