環境保全型農業レポート > No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向

    〜河川水養分濃度の長期変化と法的規制の効果

    ●EUの水への養分排出を規制している法律

     EUでは,河川,湖沼,河口,沿岸水などの表流水や地下水の水質保全を図るためにいろいろな法律を施行している。その中で重要なものが「水枠組指令」である(環境保全型農業レポート.No.34 欧州の水系汚染対策)。

     農業からの硝酸の排出を規制する「硝酸指令」(農業起源の硝酸による汚染からの水系の保護に関する閣僚理事会指令(91/676/EEC))や,都市の生活廃水を下水処理した後に河川に放流できる処理水の条件を規制する「環境保全型農業レポート.No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書を参照)。しかし,例えば,4年ごとの1996-1999年と2000-2003年の期間の河川中の硝酸濃度の結果を比較しても,硝酸濃度の正しい動向を把握できない危険がある。というのは,河川中の硝酸濃度は,雨の少ない年には低く,雨が多い年には高くなる傾向が示されており,気象変化の影響を強く受けるからである。

     また,河川の川上から川下までの個々のモニタリングサイトの結果は,当該地域の水質改善の上では大切だが,河川と海の汚染を全体的に軽減させるためには,河口近くの水質結果が重要になる。ただし,潮流の影響を受ける河口そのものでの結果ではなく,河口にできるだけ近くて潮流の影響をうけない場所での結果が望ましい。

     こうしたことから,硝酸指令実施報告書のモニタリング結果を分析するだけでは,法的規制の効果を評価することはできない。

    ●分析の方法

     バルト海,北海,大西洋,地中海,黒海に排出しているヨーロッパの主要な河川と,それらの流域となっているEU27か国,バルカン諸国,ノルウェー,トルコと,前ソビエト連邦の共和国の一部,計39か国を調査対象とした(総流域面積は 5.9×106 km2)。

     流域の出口(河口)付近の水質(窒素とリンの濃度)のデータは,OECD (2008) OECD environmental data. Compendium 2006-2008. Inland Waters. とその後のものを使用した。このOECDのデータ集から,対象地域の39の河川の河口付近のモニタリングステーションの硝酸,アンモニウム,全リンの濃度の1985年から2005年の測定値を利用した。これに加えて,バルト海とドナウ川に関する51のデータを他のソースから入手した。

     詳細は省略するが,分析を行なうために,いろいろなデータベースを活用して,1985,1990,1995,2000と2005年について,1 kmグリッド(格子)の土地利用マップ,1 kmグリッドの養分(化学肥料と家畜ふん堆肥)施用量マップ,1 kmグリッドの都市と農村に分類した人口分布マップと,それに基づいた下水処理プラントからの養分排出マップなどを作成した。

     海に排出している河川の流域別に,これらのデータの総計を計算した。そして,流域別に「2005年養分施用量−1990年養分施用量」を計算した。また,国全体での養分収支,つまり,「窒素収支=無機態窒素施用量+家畜ふん尿窒素施用量+大気降下窒素量+共生的窒素固定量+非共生的窒素固定量−作物窒素吸収量」を計算した。リン収支も同様に計算したが,リンについては大気降下量を無視した。

    ●養分収支についての主な結果

     ◆西ヨーロッパの大部分の国では,窒素余剰を1960年代と1970年代に増加させた後に減少させた。EU(15)のうち,スペインだけが窒素余剰を絶えず増加させている。

     ◆東ヨーロッパの国々では,経済破綻のため,窒素余剰を,ソビエト連邦崩壊直前の1990年に急激に低下させた後,農業活動を復興させて,窒素余剰を増加させている。

     ◆いくつかの国(デンマーク,オランダ,イギリス,ドイツ)では,窒素余剰が,硝酸指令が採択された1991年以前から減少し始めていたことが注目された。これらの国では,養分の作物吸収を向上させる農業方法と組み合わせて窒素ロスを軽減させることを目的にした国の法律が,硝酸指令に先立って施行されていたためである。例えば,デンマークでは,1980年代中期から窒素余剰管理が開始され,同時に「水環境に対する行動計画?」の施行によって農業から流出する窒素の削減が課せられた。

     ◆リン余剰は,窒素余剰よりもずっと早くから減少し始めた。これはリンの土壌蓄積レベルが向上して,リンが作物生産の制限要因でなくなったことによるのであって,リン施用を規制する法律の施行によるのではない。ヨーロッパではリン施用量を直接規制する法律を有する国の数は限られ,オランダ,アイルランド,ノルウェー,スウェーデンにすぎない。例えば,オランダでは,1960年代中頃から無機肥料によるリンの施用量は大幅に減少し続けたものの,家畜ふん尿からのリンの排泄量の過剰が問題であった。

     ◆1990年と2005年の間に窒素施用量の増加を示している西ヨーロッパの国々を流れる大きな河川は,フランスのロアール川とローヌ川,イタリアのポー川,ドイツのウェーザー川であった。リンについては,スペインだけが国土全体で施用量の増加を示した。残りのヨーロッパでは,大部分の河川流域でリン施用量が減少した。

     ◆1990年と2005年の間に,特定汚染源の下水処理プラントからの窒素とリンの排出量は,イングランドとスペインを除いて,ヨーロッパの大部分で減少した。これは,下水処理プラントの性能向上による。イングランドについては,排水処理プラントにつながった人口や処理レベルの経時的データが入手できず,調査期間を通して同じ値を使用したため増加という結果となった。スペインでは,排水処理プラントにつながった人口が増えたことによる(接続率は,1990年の約42%が2005年に100%に増加)。

     ◆全体的にみると,EU(15)では,1990年と2005年の間に,窒素余剰は 9.6×106トンが 6.6×106トンへと,約32%減少した。養分施用量(無機,有機および作物固定)は13%減少しただけなので,窒素余剰の減少の大方の部分は窒素利用効率の向上によって説明できた。同じ期間にEU(15)における下水処理プラントからの窒素の排出量は約 1.0×106トンで安定していたが,国間で大きな差があり,例えば,ドイツで40%,オランダで60%減少したのに,スペインでは100%の増加が生じた。

    ●河川水質の動向に関する主な結果

     ◆1990年と2005年の間に,河口近くのモニタリングステーションで,硝酸濃度が減少傾向を示したものは約30%,増加傾向を示したのが10%であった。北海に流入している大きな河川の大部分では硝酸濃度が減少傾向を示し,特にドイツのエルベ川,ライン川とウェーザー川で顕著な減少傾向が認められた。同様な急速な減少はデンマークのオーゼンセ川流域でも見られた。他方,イングランドのマージー川は,ヨーロッパで最もひどく汚染された水を河口に放出しており,硝酸濃度は1991年の 3 mg N/Lから2004年には農業と特定汚染源の双方の寄与によって約 6 mg N/Lに跳躍的に増加した。

     ◆河川水の硝酸濃度に下水処理プラントと農業の双方が寄与していることは他の河川流域でも認められ,相関分析でも確認された。

     ◆河川水のアンモニウム濃度は硝酸よりもはるかに低いが,アンモニウムは特定汚染源の下水処理プラントからの排水によるのであって,非特定汚染源(窒素施肥量)によるものではないことが相関分析によって確認された。

     ◆1990年と2005年の間に,無機態窒素濃度(硝酸とアンモニウムの合量)が減少傾向を示したモニタリングステーションは39%,増加傾向を示したのは13%であった。

     ◆バルト海地域のステーションの大部分は,早くから無機態窒素濃度が低くなっていて,特段の傾向は認められなかった。トルコ,ギリシャ,スペインの一部では無機態窒素の増加傾向が認められたが,これは農業の集約化と,下水処理プラントからの排出量増加によって説明できた。ボスニア湾に排出しているフィンランドの4つの河川水の無機態窒素が増加していた。この増加は集約農業と開墾した泥炭地からの硝酸排出量の増加によって説明される。ロアール川(フランス)やドエロ川(スペインとポルトガル)でも無機態窒素の増加傾向が認められており,農業の集約化による硝酸の増加によっている。地中海に流入している3つの大きな河川の無機態窒素濃度は,傾向なし(ポー川)か,減少傾向(エブロ川とローヌ川)を示した。

     ◆河口付近のモニタリングステーションについて全リン濃度の時系列変化みると,増加傾向を示したステーションが3%,減少傾向を示したものが32%であった。全リン濃度は非特定汚染源(農地へのリン施用量)とも有意のプラスの相関を有していたが,それよりも特定汚染源(下水処理プラント)からのリン排出量との間にはるかに強い有意の相関を示し,下水処理プラントからの排水が最も大きな排出源であることが示された。

     ◆バルト海沿岸の河口に近いモニタリングステーションの大部分では,全リン濃度が減少しており,下水処理プラントのリン除去能が改善されたことが推定された。ドイツの河川では,ライン川の全リン濃度が1991年前に急激に減少し,その後は安定しているが,他の河川では減少傾向を示している。西ドビナ川(ラトビア)では,上流のロシアの都市や工業から流入するリン量の増加によって全リンが増加傾向を示している。

    ●エルベ川とロアール川でのケーススタディ

     ◆EUでは,硝酸排出を規制する厳しい法律によって窒素余剰量が減少しているにもかかわらず,表流水の硝酸濃度が増加している地域も存在する。そこで,窒素余剰が減少し,かつ,河川の硝酸濃度が減少傾向を示してエルベ川(ドイツ)と,窒素余剰が減少しているにもかかわらず,河川の硝酸濃度が上昇しているロアール川(フランス)について,なぜロアール川のような状態が生ずるかを分析した。

     ◆説明を省略するが,各年次における河川の流量と硝酸濃度のデータから,基底流(無降雨の低水量時の流れで,主に地下水由来の流れ)と地表流出水(降雨によって増水したときの流れ)の流量と,それぞれの硝酸濃度を推定した。

     ◆エルベ川では,硝酸濃度は,地表流出水中のほうが基底流よりも高いが,流量は基底流(地下水)のほうが多いため,基底流に由来する硝酸量のほうが地表流出水に由来するものよりも多く,2005年で基底流が総流量の75%,硝酸の総負荷量の63%に寄与していた。そして,基底流の硝酸濃度が1980年代後半から減少し始めていることが注目された。基底流の硝酸濃度とドイツの国全体での窒素余剰の間の相関をみると,非常に高いプラスの有意の相関があり,窒素余剰と基底流濃度の間に8年間のラグタイム(遅れ)があることが示された。つまり,窒素余剰の変化が基底流や浅層帯水層の窒素濃度に影響するまでに,8年間の経過が必要であることが示された。なお,窒素余剰と地表流出水の硝酸濃度の間には有意の相関が見られなかった。

     ◆ロアール川では,1990年代前半まで,硝酸濃度は,地表流出水中のほうが基底流よりも高かったが,それ以降は基底流のほうが高くなっていた。そして,2005年において基底流が総流量の75%に,全窒素負荷量の83%に寄与しており,硝酸濃度は地表流出水( 3.4 mg N/L )よりも基底流( 4.7 mg N/L )のほうで高いと推定された。つまり,エルベ川と異なり,ロアール川では地表流出水よりも地下水の硝酸濃度が高く,その増加傾向は1990年以降も続いている。そして,フランス全体の窒素余剰と基底流濃度との間にプラスの相関があり,14年の遅延があった。つまり,基底流の硝酸濃度の増加は,14年前に起きた窒素余剰によっていた。ロアール川において窒素施用量が少なくとも2005年まで増加したことを考慮すると,地下水の硝酸濃度は,今後10年以上増加するであろうと推定される。

    ●EUの法的規制の影響

     ◆EUでは,水系の養分量に影響を与える2つの法律(硝酸指令と都市廃水処理指令)が約20年間施行されている。しかし,両法律に対する違反事例も,EU(15)の多くの国で報告されている。

     エルベ川では,硝酸濃度の減少(総濃度と基底流濃度)は硝酸指令や都市廃水指令の施行前から始まっていた。そして,窒素余剰の減少の影響が眼に見えるようになるには約8年を要することが示された。このため,エルベ川の水質改善は,これら2つの法律前になされた努力によって始まり,1991年の法律の施行によって減少傾向が再強化ないし維持されることになった。同様に,デンマークのオーゼンセ川でも,硝酸濃度の減少が,硝酸指令や都市廃水指令が施行される前に実施された厳しい環境政策の結果,1980年代に始まっていた。これと異なり,ロアール川では窒素施用量の増加が1991年以降も長く続き,過去の過剰施肥と結びついて,地下水水質を劣化させている。この水質劣化は少なくとも14年以上続くと予測される。

    ●結論

     農地から地下水に溶脱する窒素の動きは遅く,施肥や家畜ふん尿の規制を行なっても,その効果が水質改善に現れるにはラグタイムがあり,直ぐには効果が出てこない。まして,違反行為がくり返されていると,水質改善効果は現れるのはさらに遅れてしまう。

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