環境保全型農業レポート > No.74 EUのLCAに基づいた環境政策
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策

    ●環境マネジメント

     1980年代後半に世界規模の異常気象や,オゾン層破壊などの地球規模の環境問題への関心が高まり,さらにアラスカでのバルディーズ号による大規模な原油流出事故などが契機になって,欧米では企業の産業活動について行動原理を作る必要性が認識された。

     こうした背景から,ヨーロッパでは工業製品の品質を評価する際に,その性能や価格に加えて,「環境の配慮」(商品の製造・販売などの企業活動の過程で環境にどの程度負荷を与えているかの配慮を性能や価格よりも上位に置く考え)を重視する方法が検討され,1990年にEUはその枠組となる「エコ監査要綱」を発表した。そして,1991年にイギリスは,独自に企業活動における環境負荷を減らすための具体的な環境マネジメントシステムの規格を制定した。1993年にEUは環境マネジメント・監査要綱を採択し,1995年4月に発効させた。

     これに基づいた一例が,1995年3月に日本の新聞に掲載されたボルボカーズ・ジャパンの広告である。「ボルボは環境破壊データを公開します。新車の一台一台について」と題して,ボルボ車が製造から廃棄までにどれだけ環境に影響を与えているかを数値化した仕様書を新車に添付することを宣言した。そして,ボルボ社は車の塗装に用いていた有害な溶剤に替えて水性塗料を使用し,部品の分別解体,不凍液,オイル,フロンの分別回収を実施していることを宣伝した。

     こうしたことは,今日でこそ日本の企業でも当たり前になっているが,当時の日本はその動きを軽視して,環境負荷を配慮した規格保証を用意していなかった。このため,EU諸国から日本の工業製品の輸入を拒否される事態が多く発生した。

     EUのこうした動きを国際的なものにするためにISO(国際標準化機構)は1991年から環境マネジメント監査の規格を作ることの是非の検討を開始し,1992年に作業開始を決議した。当時,日本は参加の勧誘がありながら,事態の重要さを理解しておらず,参加したのは翌1993年からであった。これ以降,日本は積極的に参加して,国内体制も順次整えた。

     ISOの環境マネジメントシステムは,企業(あるいは事業所)が,産業活動における環境活動の実績を評価し,継続的に向上させるシステムである。つまり,企業(事業所)が自らの環境方針とそれを実践するための計画を作って実践し,その結果を外部者に監査してもらい,その監査結果に基づいて経営者が計画を見直して,さらに継続的に改善を行う仕組みのことで,そうして得られた環境情報は公開する。

     このISOの環境マネジメントシステムの規格が14000番台の規格として発効しており,ISOの規格に準拠した環境管理を行うことを申請して認められた企業(事業所)がISO 14001認定企業(事業所)である。この環境マネジメントシステムでは,企業(事業所)の環境負荷を減らす目標値が一律に設定されることはなく,各企業(事業所)が前年度よりも少ない環境負荷削減目標を自主的に設定して,環境負荷削減の努力を不断に行うものである。

    ●ライフサイクルアセスメント(LCA)

     環境マネジメントシステムは,企業(事業所)が調達した原料を用いて製品を製造して販売するまでの範囲を対象にしている。これに対して,ライフサイクルアセスメント(LCA)は,生物の一生を表す生活環(ライフサイクル)になぞらえて,企業の提供する製品やサービスが,その揺りかごから墓場までの全過程,すなわち,資源の採取・製造・流通・使用・廃棄というライフサイクルを通して,資源消費や環境負荷物質の排出などの形で環境に及ぼす影響を,把握・分析・評価する仕組みのことである。

     つまり,企業(事業所)が原料を調達したとき,環境マネジメントシステムでは原料購入から評価するが,ライフサイクルアセスメントでは,原料購入以前の資源の採掘・加工・運搬も対象にする。そして,環境マネジメントシステムでは製品を販売するまでの評価だが,ライフサイクルアセスメントでは販売した製品が消費者に利用されて最終的に廃棄されたときまでを評価する。したがって,ライフサイクルアセスメントの評価範囲の方が広い(ISOはライフサイクルアセスメントについて14040番台の規格を用意している)。

    ●EUのIPP政策

     EUを始め先進国の環境政策は,これまで製品製造過程で環境負荷物質を多量に排出する大規模工場などの特定汚染源を対象にして規制を行って,かなりの成果を上げてきた。しかし,今日では消費を終えた廃棄物などによる環境汚染が深刻化している。このため,製造段階での環境負荷の削減だけでなく,製品の耐用年数の増加,使用時の省エネルギー化,再使用やリサイクルに適した部品の使用,廃棄しても有害物質を生じない安全な素材の使用なども含め,製品の揺りかごから墓場までの全ライフサイクル過程を通して環境負荷を削減する環境政策を打ち出した。EUはこの環境政策を「IPP 政策」(総合的製品政策:Integrated Product Policy)と称して,その実施に向けた取組を行っている。

     IPP政策は,工場などからの排出規制といった環境規制ではなく,ライフサイクルを通してグリーンな製品(環境にやさしい製品)を企業が製造し,消費者がそれを使用するようにインセンティブ(補助金などの助長策による動機付け)を設けることなどによって,市場を通じて仕向ける政策である。この政策はこれまでの製品別あるいは分野別の環境政策を首尾一貫したものにする効果ももっている。

    ●IPP政策に関する通達

     欧州委員会は2003年6月に,ライフサイクル思考を考慮した環境政策を推進するための枠組を記した通達を,EUの閣僚理事会と欧州議会に対して発信した(Communication from the Commission to the Council and the European Parliament. Integrated Product Policy - Building on Environmental Life-Cycle Thinking. COM(2003) 302 final.)。

     この通達には,生産者がよりグリーンな製品をライフサイクル的思考に基づいて市場のパラメータを考慮して生産し,消費者がそうした製品を積極的に購入するのを助長するための政策オプションとして次を記している。

    (1)経済的・法的オプション

     1)課税と補助金: ライフサイクル過程で環境負荷の大きな製品には税率を高めたり補助金を廃止する一方,グリーンな製品には税率を下げたり補助金を支給する。

     2)自主的な協定・基準: グリーンな製品を製造するために,法的規制とは別に,業界団体などが自主的な協定・基準を作ることを奨励する。

     3)政府調達の法的規制: EU機関,加盟国の国および地方の政府機関による調達がEUのGDPの約16%を占めており,法律によってこれらの政府調達がよりグリーンな製品を調達することを義務づけて,グリーンな製品の製造・購入を誘導する。

     4)その他の法的規制: グリーンな製品の製造や使用を助長するために必要なその他の法的規制。

    (2)ライフサイクル思考浸透のための行動

     また,ライフサイクル的思考を浸透させるために,次の行動が必要であるとしている。

     1)ライフサイクルデータベースの構築とアクセス: EUの様々な機関が製品のライフサイクルを環境負荷の視点から評価するデータベースを構築しているが,EUとしてそれらを調和の取れたものにするとともに,欧州委員会もデータベースを充実させる。

     2)環境マネジメントシステムの検証: 環境マネジメントシステムは製品のライフサイクルにおける環境パフォーマンスを評価するものではないが,ライフサイクルアセスメントを実施する基盤となるものである。欧州委員会はEUにおける環境マネジメントシステムでライフサイクル的要素がどの程度考慮されているかを調査し,必要な場合には,EUにおける環境マネジメントシステムの実施の仕方を変更させる。

     3)製品デザイン義務: 環境負荷の大きな製品について,よりグリーンな製品を製造するために考慮すべき諸元を整備する。

    (3)情報提供

     さらに,様々なレベルの消費者がグリーンな製品であるか否かを判断するためには情報提供が大切であり,このために次を行うとしている。

     1)加盟国政府にグリーンな製品の調達のための行動計画を作らせ,それに役立つ加盟国間の情報交換を欧州委員会が行う。また,政府機関向けにグリーン製品調達のための実務ハンドブックの刊行,グリーン製品のデータベースなどを欧州委員会が用意する。

     2)上記の政府調達用のツールを民間企業にも提供し,民間企業によるグリーン製品の購入を助長する。

     3)EUは,省エネや安全性などで優れた製品(洗濯機,掃除機,皿洗い機,冷蔵庫,パソコン,テレビ,コピー・グラフ用紙,ティシューペーパ,園芸培地,土壌改良材など)にエコラベルを付けている。また,自動車には,燃費と二酸化炭素排出量に関するデータを公表することを義務づけている。これは必ずしもライフサイクル全体を通した評価になっていないが,これらのラベリングをより拡張・充実させて,消費者がグリーンな製品を購入する際の情報提供を充実させる。

     欧州委員会はIPP政策を実行させるために,加盟国政府機関,企業,消費者など各方面の関係者にIPP政策の必要性を説明して意見交換を行いつつ,ライフサイクルアセスメント調査を行って,2007年に特に環境負荷が大きく,環境負荷削減効果の大きな産業セクターを絞り込み,当該セクターに対して上記のオプションを組み合わせて対策を実施することを予定している。

    ●LCAに基づいたEU25か国における製品別環境インパクト(影響)

     2003年に欧州委員会がIPP政策に関する通達を発信した時点では,LCAに基づいた製品別あるいは産業セクター別の環境負荷に関する分析に基づいたコンセンサス(合意)は得られていなかった。このため,欧州委員会は,特に環境負荷が大きく,環境負荷削減効果の大きな産業セクターを絞り込む第一段階として,オランダ,ベルギーおよびデンマークの研究者グループに製品別の環境インパクトの調査を委託した。調査は2004年1月に開始され,2005年11月に最終報告書が作成され,2006年6月に公開された (A. Tukker et. al. (2006) Environmental Impact of Products〜Analysis of the life cycle environmental impacts related to the final consumption of the EU-25. European Commission Joint Research Centre Technical Report EUR 22284 EN. 136p) (報告書本体および同付属書)。この報告書の概要を紹介する。

     家庭と政府調達で購入・消費された製品グループ(数百に類別)について,資源採掘,生産,消費および廃棄の全過程における環境インパクト[地球温暖化(温室効果ガス排出),酸性化,光化学的オゾン生成(スモッグ),および富栄養化]を対象として,EU加盟旧15か国での排出データに基づいたモデルを使用し,新加盟10か国にも同じモデルが適用できると仮定して,産業連関表などに基づいて,2000年におけるEU25か国での製品の製造・消費にともなう環境インパクトを計算した。ただし,輸出用製品は計算から除外した。

     結論として,上記4つの環境インパクトについて,最大のインパクトを与えているのは,(1)食品・飲料,(2)輸送,(3)住宅の3つの領域に関係する製品であった。  この3領域ごとの総環境インパクトはほぼ同じで,優劣を明確にできなかった。3領域を合計すると,消費にともなう環境インパクトの70〜80%に達し,消費支出額の約60%を占めると試算された。計算結果の一部を表1と2に示す。

    (1)食品・飲料

     食品・飲料は,生産の全過程と「農場からフォークまで」の流通チェインを含み,富栄養化については総環境インパクトの50%を超える寄与をし,残りの3つの環境インパクトでも20〜30%の寄与をしていた。なかでも肉類とその加工品の寄与が最も高く,次いで乳製品の寄与が高かった。食品・飲料では計算されなかった品目も少なくなく,食品・飲料の寄与が高いとする結論はかなり高いレベルで信頼できる。

    (2)輸送

     旅客輸送は,総環境インパクトの15〜35%を占めた。最大のインパクトは,最近排ガスが大きく改善されたものの,自動車に起因した。民間の航空機による旅行は増加しているものの,手法およびデータの理由から,その環境インパクトを適切に定量できなかった。

    (3)住宅

     住宅は,建物,家具,家庭用器具と,部屋や水を加熱・空調するエネルギーを含んでいる。大方の環境インパクトで総量の20〜35%を占めた。エネルギー使用の寄与率が最も高く,主たるものは部屋の暖房や水の加熱,次いで構造物作業(新規の建設,メンテナンス,修繕,取り壊し)であった。次いで重要な製品は冷蔵庫や洗濯機などの家庭機器であった。

    (4)その他

     食品・飲料,輸送,住宅を除いたその他の領域の総和は,大方の環境インパクトの20〜30%を超えた。その他の中では衣類が1位で,全環境インパクトの2〜10%を占めた。

     こうした結果で,輸送と住宅(住宅におけるエネルギー使用を含む)は多量の化石エネルギーの使用を含むので納得できるが,食品・飲料も環境インパクトが大きいことが注目される。ただし,食品・飲料の生産・消費過程で発生した二酸化炭素は植物の生長過程で再吸収されるので,その分を差し引けば,地球温暖化インパクトに関しては,食品・飲料の比重はかなり低下するはずである。しかし,富栄養化インパクトに対する食品・飲料の寄与率が50%を超えることについては,二酸化炭素のような再利用プロセスがない。

     今後,EUはこの結果を踏まえて,データ整備を行って,より最近の時点での計算を行い,環境に大きく影響している製品のライフサイクルインパクトを如何にすればどの程度削減できるかを検討することになる。そして,欧州委員会は最小の社会・経済コストで環境改善の可能性の最も高い製品を絞り込んで,対策を助長する方策を探ることになる。

     
    

     
    
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