環境保全型農業レポート > No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト

    ●開発の背景

     家畜ふん堆肥中の養分,特に窒素の大部分は有機態で存在し,無機化されるのは一部にすぎない。これに加えて,堆肥の養分組成は作物要求と一致してなく,一般に牛ふん堆肥ではカリ,豚ぷん及び鶏ふん堆肥ではリン酸が真っ先に過剰になる。このため,家畜ふん堆肥を連用していると,土壌の養分バランスが大きく変わって,作物生育が異常になるケースが少なくない。このため,家畜ふん堆肥を利用する際に,その適正施用量を簡便に計算する方法が求められている。

    ●肥効率を用いる方法

     農業試験場は化学肥料の必要施用量は次のようにして決定して施肥基準を作成している。すなわち,

     (1)ある作物で目標収量を上げるのに必要な養分吸収量をこれまでの知見に基づいて設定する。そして,

     (2)作物が土壌,潅漑水,降雨などから吸収する天然養分量を計測する(通常は,無肥料で栽培した作物の養分吸収量を天然養分吸収量とする)。

     (3)化学肥料で吸収させるべき養分量を化学肥料養分のうちの作物に吸収される割合(利用率)を用いて計算する。
       [(必要養分吸収量−天然養分吸収量)÷利用率]。

     この化学肥料養分施用量の決定方法に準ずれば,堆肥施用量を計算することができる。無論,化学肥料を全く使用せずに,家畜ふん堆肥だけを施用すると,養分のアンバランスが起きるので,化学肥料施用量の一定割合を堆肥で代替し,不足分を化学肥料で施用することが前提である。そして,家畜ふん堆肥中の養分について,そのうちの作物に吸収される割合(利用率)を実験で求めておき,化学肥料養分の利用率に対する堆肥養分の利用率の比率(100×堆肥養分利用率÷化学肥料養分利用率)を計算する。これが肥効率で,堆肥養分中の化学肥料相当養分量割合の概算値となる。

     肥効率を用いて次のように堆肥施用量を計算する。すなわち,施肥基準を参考に目標収量に応じた化学肥料施用量を設定する。化学肥料養分量のうち家畜ふん堆肥養分に置き換える割合(代替率)を設定する。

     例えば,20kgの化学肥料窒素を基肥で施用する場合,その30%を全窒素含有率1.0%の家畜ふん堆肥で代替するなら,20×0.3=6kgの化学肥料相当窒素を堆肥から放出させることになる。

     家畜ふん堆肥窒素の肥効率が20%であれば,6÷0.2÷0.01=3000kg(3トン)の家畜ふん堆肥を施用し,残りの14kgの化学肥料窒素を施用すれば,化学肥料窒素を20kg施用した場合と同量の窒素を吸収させることができる。

     こうして窒素に関して3トンの堆肥を施用すると計算できたら,3トンの堆肥から供給されるリン酸,カリなどの他の養分量も計算し,その分を差し引いて,不足分を化学肥料で供給する。この差し引きを行わないと,窒素以外の養分が過剰になってしまう。そして,代替率を30%に設定したときに,堆肥から持ち込まれる他の養分量が必要な化学肥料養分量を超えてしまうこともありうる。その場合は,代替率を低く設定して計算をやり直して,養分過剰が起きない堆肥施用量を求める。

    ●千葉県農林水産部の「家畜ふん堆肥利用促進ナビゲーションシステム」

     計算は単純なのだが,当初設定した条件で養分過剰が生じた場合には計算し直しをしなければならず,存外面倒である。千葉県農業総合研究センターは,こうした計算を表計算ソフトのエクセル上で簡便にできるソフト「家畜ふん堆肥利用促進ナビゲーションシステム」(略称「堆肥ナビ」)を2001年に開発した(千葉県農林水産部・(社)千葉県畜産会(2001)環境にやさしい家畜ふん尿処理利用の手引き〜2001年版。232頁)。

     ソフトを動かすと,「家畜ふん堆肥による基肥代替計算テーブル」の画面が現れる(下図)。

    千葉県農業総合研究センター アクティブインフォメーション
    家畜ふん堆肥の有効利用を推進する「家畜ふん堆肥利用促進ナビゲーションシステム」より

     この画面には初期値として計算に必要な数値が水色で入力されて,その数値に基づいた結果が表示されている。

     家畜ふん堆肥の成分含有率としては,農業総合研究センターの堆肥分析結果に基づいた牛ふん堆肥の平均的な成分含有率が空色で入力されている。無論,農業者の使用する堆肥には平均値からずれたものが多い。このため,肥料取締法に基づいて表示された成分表に基づく値など,自分の家畜ふん堆肥の成分含有率で空色のセルを変更することが可能になっている。

     堆肥の成分組成が不明な場合には,千葉県で流通している牛,豚,採卵鶏,ブロイラーおよび馬ふん堆肥の平均値等の成分特性データが添付されており,これを参考に値を入力することもできる。また,堆肥の成分データを記憶させておくこともできる。

     計算には化学肥料の基肥施用量も必要だが,初期画面には適当な数値が入力されている。実際には作物の種類・作型や目標収量レベルに応じて窒素,リン酸,カリの基肥量が必要だが,ソフトには千葉県の施肥基準にある各種作物の基肥施肥量が添付されていて,それを参考に基肥量を変更することが可能になっている。

     冒頭の説明では計算に際して,代替率を設定したが,ソフトでは先に堆肥施用量を設定する。図の表Aと表Bに示すように,初期画面では,化学肥料の基肥施用量を単なる例示として示し,平均的な牛ふん堆肥の施用量を1,250kg/10aに設定して,農業総合研究センターの研究成果に基づいた肥効率にもとづいて,計算がなされている。そして,初期設定条件だと,代替率の計算結果が30%になることが示されている(表B)。無論,表Bの基肥施用量を設定し直せば,代替率が計算し直される。

     代替率とともに,化学肥料の基肥施用量に対する堆肥からの養分の過不足量も示される。表Bの例ではカリが基肥施用量を上回り,赤で警告されている。これを是正するには,表Aの堆肥施用量か,表Bのどれかの養分の代替率を低い値に置き換えれば,必要な計算を全て自動で行ってくれる。そして,不足の場合には施用すべき化学肥料量も表示される。

     パソコンソフトは使い始めにとまどいが多いもので,このソフトでも若干とまどいがある。しかし,直ぐに慣れて,簡単にマスターできる。ソフトはマイクロソフト社のエクセル97のマクロ言語で作られている。エクセル97と2000では問題なく作動するが,エクセル2002以降では,オプション欄にある「マクロセキュリティ」でセキュリティレベルを「低」に設定すれば,作動する。

     「堆肥ナビ」のソフトは,千葉県農林水産部畜産課(〒260-8667 千葉市中央区市場町1-1,電話043-223-2944)に申し込めば配布してくれるとのことである。

    ●「堆肥ナビ」で設定した肥効率

     肥効率を利用して堆肥施用量を調節している事例として,「環境保全型農業レポート」ではこれまでに,「成分調整をして成型した家畜ふん堆肥の製造と利用技術」「牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術」を紹介した。それらでは従来から一般的に利用されている肥効率が用いられている。すなわち,畜種とオガクズの有無によって分類した家畜ふん堆肥について,窒素,リン酸,カリの標準的な肥効率を設定しており,例えば,牛ふん堆肥(オガクズなし)と牛ふんオガクズ堆肥の窒素肥効率はそれぞれ30と15%に設定している。

     「堆肥ナビ」では,黒ボク土でコマツナを栽培して再検討し,新たに設定した肥効率を用いている(表1)。従来のものと異なり,オガクズ混入の有無の区別はなくなっている。これはオガクズ混入堆肥では窒素含量が低下しており,窒素含量によってカバーできるとの結果に基づいている。また,カリについては,従来からカリが水に溶けやすいので,90%の肥効率が用いられているが,カリ含有率の低い堆肥については50%の肥効率を設定している。

     「堆肥ナビ」の初期画面では下表の肥効率が設定されて計算される。この肥効率でなく,他の知見に基づく肥効率を採用したい場合には,入力して計算し直すこともできる。

    ●中央農業総合研究センターの「施肥太郎1号」

     類似した計算ソフトを(独)中央農業総合研究センターの家畜ふん尿問題を研究している総合研究第5チームが開発している(総合研究第5チーム(2005)家畜ふん堆肥を有効利用するための簡易施肥計算ソフトウェア.平成16年度関東東海北陸農業研究成果情報)。

     ソフトは「施肥太郎1号」と名付けられている。計算方式は千葉県のソフトと同じだが,採用している肥効率は下記の表の値を採用している。「堆肥ナビ」が堆肥の全窒素含有率を考慮した肥効率を用いているのに対して,堆肥の種類別に単一の肥効率を設定している。ただし,標準の肥効率でなく,独自に肥効率を設定することも可能になっている。

     本ソフトはマイクロソフト社のアクセス2000で作成されており,参考資料として,6府県(新潟,群馬,栃木,茨城,三重,大阪)の各種作物の施肥基準(合計702)や,81の市販肥料の養分含有率や価格がデータベースとして付随している。

     初期画面で「施肥設計を行います」を選択し,まず,

     (1)作物・作型と目標収量達成に必要な養分量の設定を行う。このとき,データベースのデータが表示され,これに準拠する場合は該当作物・作型にチェックを入れて次に進む。無論,独自の必要養分量を設定することもできる。次に,

     (2)堆肥の設定に進む。画面には例として3つの堆肥の養分含有率と肥効率が表示される。これに準拠するなら,チェックを入れて次に進むが,使用堆肥の実際の養分含有率と肥効率を入力することもできる。そして,

     (3)肥料の選択に進み,補完する肥料の種類を選択する。データベースにある肥料を使用するなら,チェックだけで次に進むが,別の肥料を追加することもできる。

     (4)以上のデータ入力が終わると,「施肥設計」画面に移る。

    中央農業総合研究センター:平成16年度関東東海北陸農業研究成果情報より

     「施肥設計」画面では,まず作付面積(a)を入力すると,当初(1)で設定した値に基づいた入力面積当たりの必要養分量が,「必要な施肥量(合計)」の欄に表示される。そして,最下段の表で,表示されている堆肥および化学肥料の種類ごとにキーボードから施用量を入力すると,それらによって施用される養分量が「現在の施肥量」の欄に表示される。

     上図の例では,10a当たり牛ふん堆肥1400,塩加34,過石0,硫安195kgで,「現在の施肥量」が窒素45,リン酸25,カリ45kgとなり,必要養分量と一致するので,これによって施肥を行う。

     「堆肥ナビ」ではまず仮の堆肥施用量や代替率で計算を行って,その数値が過剰か不足かを示してくれる。しかし,「施肥太郎1号」では施用量の例示がなく,必要養分量と最下段の表に示されている資材の養分含有率を参考に,頭のなかで見当をつけて数値を入力し,過不足が起きたら,数値を修正する操作を繰り返すことが必要となっている。この操作段階は慣れるまで戸惑うかもしれない。

     「施肥太郎1号」の概要は,山口武則・牛久保明邦(2005)施肥計算プログラムの紹介と利用例。農業技術。60:37-40にも書かれている。「施肥太郎1号」は中央農業総合センターの山口武則氏(現東京農業大学)と牛久保明邦氏(東京農業大学)によって作成され,山口武則教授(東京農業大学 国際食料情報学部 国際農業開発学科 農業環境科学研究室:〒156-8502世田谷区桜丘1-1-1)に依頼すれば,入手可能である。

    ●肥効率を用いた堆肥施用量計算の注意点

     堆肥の組成は様々であり,肥効率は具体的堆肥によって大きく異なるので,標準の肥効率はあくまでも概算値にすぎないことに注意する必要がある。実際の肥効率が標準の値から大きくずれていれば,誤差が大きくなる。このため,堆肥施用量を多くすると,誤差が大きくなるので,堆肥施用量を少なく設定した方が安全である。茨城県奥久慈地域で牛ふん堆肥を施用して良質なコシヒカリの安定生産に成功している事例(環境保全型農業レポートNo.28牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術では,牛ふん堆肥施用量が1t/10aと少ないことがポイントになっていると理解できる。

     また,両ソフトとも施肥基準を参考にして必要養分量を設定しているが,土壌診断による土壌蓄積養分量を勘案して減肥することが必要なことはいうまでもない。

     肥効率は堆肥を連用していると高まってくるので,標準の肥効率を固定せず,土壌診断結果や作物の生育状況に基づいて,堆肥施用量を調節する作物栽培のプロの眼が大切である。

    (c) Rural Culture Association All Rights Reserved.