環境保全型農業レポート > No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因

    ●はじめに

     有機農業による作物収量は,慣行農業に比べて,通常20%前後低いことが広く知られている。しかし,有機対慣行の収量差はグローバルな視点ではどうであろうか,収量差をもたらしている要因は何であろうか。

     この問題について,カナダとアメリカの研究者が,世界の62か所で,34の作物種についてなされた既往の66の研究論文から収集した,316事例の有機対慣行の収量比較のデータを用いて解析を行なった下記の論文が公表された。その概要を紹介する。

     V. Seufert, N. Ramankutty1 and J. A. Foley (10 May 2012) Comparing the yields of organic and conventional agriculture. Nature 485: 229-232 (電子版には膨大な補足資料が添付されている)

    ●解析方法

     上記論文と類似した解析は以前にもなされたが,当時は厳密に有機農業とはいえないものを有機農業圃場として解析せざるをえないケースが多かった。そこで,本研究は,(1)「本当の」有機栽培,つまり,認証された有機管理のシステムと,対照となる慣行管理とのペアのデータがそろっており,(2) 有機と慣行の両システムが時間的空間的に比較可能な研究で,(3) サンプルのサイズと誤差を報告している(または計算できる)研究だけを選定した。そして,選定した文献の収量データから,慣行収量を1.0にしたときの有機収量の割合を計算して,有機対慣行の収量比の違いをもたらしている要因を解析した。

    ●有機収量は全作物で25%減だが,永年生作物,油料作物,マメ科作物では減少が少ない

     全作物(316事例)の有機対慣行収量比は平均0.75(95%信頼区間は0.71から0.79)であった。つまり,全体として有機収量は慣行よりも25%低かった。

     以下,著作権の関係で図を掲載できないが,多少不正確ながら,図から読み取った収量比と信頼区間値を記載する。

     全作物を作物タイプに分類すると,収量比の平均値は,穀物(161事例)で0.74(95%信頼区間は0.71から0.78)と全作物とほぼ同じだが,野菜(82事例)では0.67(0.63から0.72)と,全作物の平均値よりも低かった。他方,果実(14事例)で0.99(0.79から1.20),油料作物(28事例)で0.89(0.79から1.20)と,全作物の平均値よりも高かった。

     また,別の作物区分を用いると,収量比の平均値は,マメ科作物(34事例)で0.91(0.78から1.05),非マメ科作物(282事例)で0.74(0.70から0.77),永年生作物で0.92(0.76から1.13),1年生作物(291事例)で0.74(0.70から0.77)であった。

     これらの収量比のうち,穀物と野菜の有機と慣行の収量の差は統計的に有意であった。しかし,マメ科作物と永年生作物(果実と油料作物)の差は統計的に有意でなかった。これは比較的小さいサンプルサイズ(マメ科でn=34,永年生作物でn=25,果実でn=14,油料作物でn=28)での結果で大きな不確実な範囲によるのであり,マメ科作物と永年生作物を合わせると,有意の差が示された。

    ●有機のマメ科と永年生作物で減収が少ない原因

     有機農業では,投入する緑肥,堆肥や家畜ふん尿のような有機資材からの可給態窒素の放出が遅く,旺盛な生育時期には作物の高い窒素要求に追いつかないことが多い。このため,採用した研究事例を有機と慣行の窒素投入量について解析すると,有機対慣行の収量比は,両者での窒素投入量が類似している場合,0.67(0.62から0.72)で,有機の収量減が大きかった。そして,有機の方で年間窒素投入量が50%超多い場合には,収量比は0.84(0.77から0.91)と収量減が少なくなった。

     マメ科と永年生作物の収量減が有機で小さいことは,窒素を慣行栽培よりも多く受けているからではなく,窒素をより効率的に利用していることによると推定される。つまり,マメ科は,非マメ科のように外部からの窒素に依存しておらず,果実のような永年生作物は,そのより長い生育期間と広大な根系によって,養分要求と有機物からの遅い窒素放出とを上手に同調できるためと推定される。

     なお,慣行のほうが有機よりも窒素の年間投入量が50%超多い場合の収量比は,0.68(0.64から0.73)で,有機と慣行の窒素投入量が類似している場合とほぼ同じであった。これは慣行栽培では窒素が過剰気味になっているためと推定される。

    ●有機の収量比は弱酸性から弱アルカリ性の土壌で良好

     有機対慣行の収量比を土壌pHの違いで比較すると,強酸性(pH 5.5未満)で0.68(0.61から0.75),強アルカリ性(pH 8.0超)で0.54(0.48から0.61)で,両条件で有機での減収が大きかった。これに対して弱酸性から弱アルカリ性の土壌(pH5.5〜8.0)では0.80(0.76から0.84)と良好な結果を示された。 この原因として,有機システムでのリンの可給性の難しさが推定される。強アルカリ性や強酸性条件では,不溶性リン塩が形成されてしまうので,作物は土壌改良材や肥料への依存度を高めることになるが,有機システムでは,収穫によって収奪されたリンを補給するのに必要な量のリンが補給されないことが多い。このため,土壌中のリン酸の不溶化程度の少ない弱酸性から弱アルカリ性で,有機での収量減が少なかったと推定される。

    ●優良管理方法を実践した方が有機の収量比が良好

     優良農業規範の管理方法を実施したケースとそうでないケースを比較すると,優良管理方法を実施した方で,有機の収量比が高かった。すなわち,有機の収量比が,優良管理方法を実施しない場合は0.71(0.67から0.75),実施した場合は0.88(0.80から0.97)であった。

     有機システムでは,養分や有害生物の管理が,作物に養分を供給し,雑草や病害虫を防除する生物学的プロセスに依存している。このため,有機の収量は,慣行収量よりも,科学的知見に基づいた優良管理方法に依存している。このことが上記の差の原因になっている。

     しかし,窒素に制約されていない(永年生作物やマメ科作物を栽培するか,多量の窒素を投入している)有機システムでは,優良管理方法を実践したほうが,収量比が高いということはなかった。

    ●有機の収量比は年数とともに向上

     有機の収量比は,転換後年数が3年以下の場合0.70(0.66から0.74),転換後年数が4〜7年の場合0.83(0.73から0.93),転換後年数が7年超の場合0.84(0.73から0.94)であった。

     有機収量は転換した初年目に低く,時間とともに土壌肥沃度や管理技能が向上するために,徐々に増加することが多く報告されているが,ここでの結果は,このことを裏付けている。

    ●有機の収量比は天水利用の方が高い

     有機の収量比は,灌漑を行なった場合0.65(0.61から0.69)に対して,天水利用の場合0.83(0.79から0.86)であった。

     これは天水システムにおいて有機で管理された土壌は,より水分保持容量や水浸透速度を良好なために,干ばつ条件や過剰降雨条件下で慣行システムよりも高い収量を上げていることと合致する。また,有機システムでは養分が生産の制限になっていることが多く,このため,慣行システムほどは灌漑に強く応答しないケースが多いのであろう。

    ●有機の収量比は先進国の方が途上国よりも高い

     有機対慣行の収量比を先進国と途上国で比較すると,先進国の0.81(0.77〜0.84)に対して,途上国では0.57(0.52から0.62)と,先進国で高く,途上国で低かった。

     途上国での有機の収量比が過去の分析のときよりも低いのは,選定した文献の大部分で,対象としている慣行栽培が,試験場で灌漑をしながら優良管理方法を実践していないというもので,地元の慣行栽培による収量よりも50%超も高い,非典型的な慣行収量を上げていることが大きな原因になっていると考えられる。また,過去の分析では,取り上げた有機栽培が自給的システムによる栽培であって,真に有機でない栽培による収量が有機栽培の収量として扱われ,一方で適切な対照区を欠いたものと比較していたことも,今回の分析との差として考えられる。

    ●おわりに

     本論文は有機農業の収量に影響を及ぼす要因のいくつかを明らかにした。しかし,耕耘,作物残渣や病害虫管理の方法が有機対慣行の収量比に及ぼす影響は,研究事例が多くないために,分析できなかった。

     ところで,収量は,いろいろな農業システムを評価する唯一の尺度ではない。先進国では,有機農業での所得に加え,消費者の食品購入費や,環境の保全や向上による社会的コストも問題になる。有機農業を収量や収益だけで慣行農業と比較するのではなく,より総合的な視点で比較されることが望まれる。

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