No.337 EUの有機農業規則改正案を欧州議会が承認

・ 改正案の欧州議会による承認と今後の予定

環境保全型農業レポート「No.335 EUの有機農業規則改正は翻訳作業のために大幅に遅延」に紹介したように,欧州議会におけるEUの有機農業規則改正の採択手続きが大幅に遅れていた。審議過程で多数修正された改正案の各加盟国の言語への翻訳作業も終わって,2018年4月19日に改正案採択の採決が行なわれ,賛成466,反対124で採択された(EUobserver: 19.Apr.2018. European parliament adopts new organic farming rules. )。

今後,閣僚理事会において各加盟国の農業大臣による批准の署名がなされてから,正式に発効されることになる。しかし改正案には,その詳細が現段階では未確定となっていて,その具体化が欧州委員会に委任されている条項が多数存在する。発効後にその具体化作業が開始され,2021年から新規則が適用される( IFOAM: 19.04.2018. Press Release: European Parliament’s Plenary Adopts the New EU Organic Regulation. Implementing and Delegated Acts Require Joint Efforts. )。

いちおう欧州議会におけるEUの有機農業規則改正は採択されたものの,改正案には加盟国の有機農業の展開状況を反映して,なお多くの反対意見がくすぶっている(環境保全型農業レポート「No.332 EUの有機農業規則の改正が閣僚理事会で承認」参照)。これを反映して,EUobserverの記事には,加盟国でないので投票権を持たないIFOAM(国際有機農業運動連盟)のメンバーが,EUobserverの記者に,改正案は「理想的ではない」と述べたと記述されている

この点についてIFOAMは,公式見解として,2014年の当初案には猛烈な反対意見が出されたのに,ねばり強く論議してともかくの合意に取り付けたことには敬意を表するとしている。しかし,改正案が承認されても,改正案の多くの点を具体化して施行規則を完成させることが,欧州委員会に委任されている。このため,欧州委員会と加盟国に加えて,有機農業関係者の間でよく話し合って条文を具体化することが残されており,それが重要なことをIFOAMは指摘している( IFOAM EU Group. 19.04.2018. European Parliament’s Plenary Adopts the New EU Organic Regulation. Implementing and Delegated Acts Require Joint Efforts. )。

反対意見が多いながらも,その多くを取り込んで原案を修正した内容については,環境保全型農業レポート「No.328 EUの有機農業規則改正の動きが新展開」や,環境保全型農業レポート:「No.268 EUの有機農業規則改正案に反対意見が続出」を参照されたい。

・ 有機農業規則改正案の全文が公表

欧州委員会はEUの有機農産物についての消費者の需要増加に応えて,消費者の有機農産物に対する信頼を高めて,有機農業の生産拡大をより一層推進するために,EUの有機農業規則に多く存在する例外規定を極力排除して,有機農業の原則にできるだけ即した規則に一本化する方向で,現行の有機農業規則の全面的改正原案を2014年3月24日に公表した(環境保全型農業レポート「No.249 EUが有機農業規則の全面改正案を提示」)。この当初原案に対して,大別して,EUに以前から加盟している国と新たに加盟した国とで,有機農業の実施状況や消費者の購買力などに大きな差があり,当初原案については反対意見が多く出された。反対意見を踏まえて,当初原案の修正が多数なされた。それらを整理した改正案を確定した上で,その各加盟国の言語への翻訳を行なうために,改正手続きが一時中断されたのだった(環境保全型農業レポート「No.335 EUの有機農業規則改正は翻訳作業のために大幅に遅延」)。

その翻訳作業も終わり,改正案が欧州議会で2018年4月19日に承認された(環境保全型農業レポート「No.337 EUの有機農業規則改正案を欧州議会が承認」)。改正案の全文が2014年の改正原案を修文した形で,各言語で4月19日に公表された( European Parliament. P8_TA-PROV(2018)0180 Organic production and labelling of organic products. )。

・ 改正案は長文化

改正前の有機農業規則には,例外規定が相当数残されていた。そのため,当初の全面改正原案は,有機農業規則をできるだけ有機農業の原則にしたがって例外規定を排除させることによって,消費者の有機生産物に対する信頼を向上させる方針で作られていた。しかし,それでは特に旧東欧からEUに加盟した国々では有機農業者が激減して,自国での有機農業の発展が後退してしまうとの懸念から,様々な修正意見が出された。そうした意見を踏まえて修文したために,2018年4月19日に採択された有機農業規則の全面改正案では多くの例外規定が復活して,改正案が長文化した。

例えば,法案の背景,経緯,趣旨,目的などのポイントを記述する前文が,当初原案では82項目だったのが,改正案では採用した修正意見などに関する記述などを加えて,124項目へと1.5倍に増加した。そして,法案で使われる用語の定義についても,当初原案では43項目だったのが,改正案では75項目と1.7倍に増加した。また,条文の総数は当初案では45条だったのが,改正案では61条へと1.4倍に増えた。

改正案の主要点は,次号以降に紹介することにする。