No.381 1990〜2017年におけるOECD加盟国の農業環境指標の概要

●経緯

 OECD(経済協力開発機構)は,加盟国に,自国の環境状態を一定の指標に基づいて算出することを課している。OECDはその状態を踏まえて,加盟国の農業環境政策に助言を与えている。
 農業環境指標の概要(Environmental Indicators for Agriculture Methods and Results EXECUTIVE SUMMARY. 2001)は,OECDのホームページから入手できる。
この環境保全型農業レポートでも,OECD加盟国の指標に基づいた環境状態を,次のように何度か次の報告を行なっている。

No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス
No.232 OECDが2010年までの農業環境状態を公表
No.331 OECDが農業環境指標DBを2014年分まで追加
No.357 OECD国の農業環境改善ペースがスローダウン

 今回は,1990年から2017年までのデータの概要をOECDの農業環境指標データベース(Agri-environmental indicators database)に基づいて、その一部を紹介する。2017年までとしているが,それは毎年のデータをきちんと報告している国は2019年位まで報告しているが,そうでない国も多いためである。そこでこのレポートでは,多くの国が結果を報告している2017年までとした。

●窒素とリンの養分バランス

 窒素とリン,この2つの養分バランス指標は,国の農地全体に,肥料,家畜ふん尿,降雨,微生物による窒素固定,種苗などによって持ち込まれる窒素とリンの全量(インプット量)を計算する。そして,耕種作物,果樹や茶樹,飼料作物によって,吸収されて圃場外に搬出される窒素とリンの全量(アウトプット量)を計算する。次にインプット量とアウトプット量の差を「養分バランス」として,その国全体での総量や農地面積ha当たりの養分量kgで表示したものである。

A 窒素バランス

 1990年からのデータをみると,窒素バランスが断然高い(余剰窒素量が多い)国はオランダ,ベルギー,ルクセンブルクであったが,その後,これらの国々は窒素バランスを急速に低下させてきている。これはEUが加盟国の農業者を支援するために1992年から農業環境プログラムを導入して,投入資材の削減などによって環境改善に寄与した農業者に,そのために生じた生産量の減少を補完する政策を導入したからで,農業環境指標プログラムの範囲は急速に拡大されていった。これらのEUの国に代わって上位を占めているのが韓国や日本で,特に韓国は2015-17年に世界最高となっている。また,インドが急速に増加しており,2015-17年に130.7kg N/haまでに達している(表1)。

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B リンバランス

 リンバランスが世界的に突出し続けているのは,日本と韓国である。日本では,強酸性で可給態リンに乏しい黒ボク土畑の改良にリン酸資材の多投による土壌改良技術が開発されて,畑作,野菜作,果樹作の生産が劇的に向上した。1990年頃には,日本よりはリンバランスが低いとはいえ,オランダやベルギーのリンバラスがかなり高かった(余剰リン量が多い)。しかし,こうしたEUの国々は,農業環境プログラムの施行によってリンバランスを急速に低下させていった。代わって,インド,中国,ブラジルといった人口と国土面積の大きな国が,農業を近代化して,リンバランスを上げてきている(表2)。

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●農業由来のアンモニア(NH3)排出量

 農業環境指標データベースには,農業由来のアンモニア揮散量総量が記録されている。これを農地面積ha当たりのアンモニアに揮散量に換算して,窒素の養分バランスとの相関関係をみると,有意の相関が認められる。図1は2014年について作図したものである。なお,図1に日本のプロットがない。これは,日本が農業由来のアンモニア揮散量をデータベースに報告していないためで,その理由は不明である。
 図1の高い相関関係が示すように,農業における余剰の一部がアンモニアになって揮散するので,余剰窒素量が多いほど,アンモニア揮散量が多くなると推測することができる。

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●農業由来の温室効果ガスの排出量

 農業由来の温室効果ガス(二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素)の二酸化炭素(CO2)換算量(ただし,土地利用,土地利用変化および林業を含まず)を農地面積ha当たりで表示した。これらの温室効果ガスは作物生産だけでなく,家畜生産からも排出される。このため,集約的な作物生産と家畜生産が活発な国ほど,単位農地面積当たりの農業由来の温室効果ガス排出量が多くなる。なかでもルクセンブルク,スロバキア共和国,韓国などが傑出している(表3)。

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●多くの環境状態の指標になっている窒素バランス

 上記から分かるように,窒素バランスが大きい,つまり,余剰窒素量が多いと,農業由来のアンモニアや亜酸化窒素量の揮散量が多いのに加えて(図1),農地の下の地下水に流れたり,農地から表面流去水によって農地外に流れたりする窒素量が増える。このために,農業地帯の水の汚染が生じやすい。それにともなって,飲料水の硝酸塩濃度が高まって飲料水の安全性が脅かされやすくなる。そのうえ,水系の窒素濃度が高くなると,水生生物の多様性が減少してしまう。
 農業生産に必要な以上の過剰の窒素を生じている韓国,日本,オランダ,ベルギーなどは,窒素の利用効率を一段と高めて,窒素バランスを引き下げることが肝要である。日本や韓国では,窒素施用量を現在よりも大幅に減少させても,作物収量はあまりかわらないであろう。国土や環境の保全のために,まず窒素バランスの引き下げに,国を挙げて取り組む必要があろう。