No.314 EUの有機農業規則改定論議が暗礁に乗り上げる

環境保全型農業レポート「No.249 EUが有機農業規則の全面改正案を提示」に紹介したように,EUの欧州委員会は2014年3月にEUの有機農業規則の全面改正案を提案して,その検討に入った。
現在の有機農業規則が認めている国や地域の実情に応じたいろいろな例外措置が多いために,有機農産物のEU全域での品質保証の斉一性に懸念が生じている。そこで,EUにおける有機農産物に対する市民の信頼を一層高めるために,有機農業規則の全面改正によって,そうした例外措置を大幅に見直すことが発端であった。
また,EU以外の国からの有機農産物の輸入については,当該国との間での有機農産物がEUのものと同等であるとの相互に認識する協定に基づいているケースが多い。しかし,その中にはEUの有機農業規則による規定とかなりかけ離れた規定で作られたものも少なくない。このため,外国からの有機農産物の輸入についても,改正したEUの有機農業規則への適合を厳しく求めることとしていた。そして,新しい要素として,温室栽培,ケータリングなどについての規定の策定などを加えることも含んでいた。
しかし,環境保全型農業レポート「No.268 EUの有機農業規則改正案に反対意見が続出」に紹介したように,改正案に強い反対が続出した。レポートには記さなかったが,有機農業を規則どおりに実行しようとすると,大変難しい問題が発生する場合が少なくない。例えば,有機の種子や幼畜が販売されていない地域では,その代替として,一定の条件を満たす範囲内なら,慣行で生産されたものが許されている現状が不可となれば,それらを入手できなくなるか,遠方から高い金で入手せざるをえなくなる。それでは有機農業を継続できなくなる。例外措置を厳しくすると,豊かな農場が生き残り,貧しい農場が淘汰されることになる恐れがある。
有機農業を行なえる条件や農場の豊かさは国によってかなり異なり,特にEU加盟国数がかつての15か国から2013年7月には28か国に増え,国による違いが一層際立ってきたと理解される。
環境保全型農業レポート「No.280 EUの有機農業規則改正が成立に向けて前進」に紹介したが,それでも全体合意に向けて前進が図られ,2015年5月7日は「有機農業規則」改正案の修正案が提出された。これで近いうちに最終合意が得られると期待された。しかし,その後,EUからの有機農業規則の改正の動きについての情報は各段に少なくなった。
そして,2016年12月8日にEUの有機農業規則改正委員会のラポラチュール(報告者)のMartin Häuslingが,交渉が暗礁に乗り上げたこと,特に有機農業で認めうる農薬の検出上限値,温室栽培,種苗などで合意が得られず,行き詰まり状態になり,冷却期間を設けることが必要になったとのプレスリリースを行なった(Martin Häusling (2016年12月8日) Logjam in the revision of the organic farming regulation)。