No.237 EUの有機農業政策についての市民の意見集約結果

●EUの有機農業政策についてのパブリックコンサルテーションの実施経過

環境保全型農業レポート「No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検」に紹介したように,EUは2007年の有機農業規則の改正時点でいくつかの問題が十分に決着してはいなかった。このため,新規則を実施した経験を踏まえて,欧州委員会が,積み残しの問題点の状況と今後の扱い方について,報告書を欧州議会に提出することが規定されていた。この報告書(European Commission (2012) Report from the Commission to the European Parliament and the Council on the application of Council Regulation (EC) No 834/2007 on organic production and labelling of organic products. COM(2012) 212 final. 15 pp. Brussels, 11.5.2012 )を踏まえて,今後のEUの有機農業の政策を考えるために,市民や有機農業関係者の意見を,欧州委員会がインターネットで2013年1月15日〜4月10日に公募した。そして,その結果を2013年9月19日に公表した。

European Commission (2013) Report on the results of the public consultation on the review of the EU policy on organic agriculture. 132p.

回答者の多くは消費者や一般市民だが,有機生産物を支持しながらも,その信頼性を一層高めるために,規制強化を求める回答が多かった。結果の概要を紹介する。

●調査の仕方

下記の項目について設定した質問状に対して,インターネットで回答してもらった。

(1) 回答者のカテゴリー(国籍,有機農業との利害関係,職業など)

(2) 有機生産物の購入(常時,時たま)

(3) 国の有機農業規則の整合性強化

(4) 有機農業規則の強化

(5) 表示とロゴ

(6) 普及と情報提供

(7) 有機の生産・加工・流通の管理体制

(8) 非EU加盟国との貿易

(9) 研究と技術革新

●回答者

総計44,848人から回答が寄せられた。その構成をみると,フランスの個人や組織代表からの回答が最も多く,24,977人(全体の56%)を占めた。回答全体の96%(43,019人)がEU市民からのもので,4%(1,827人)が有機農業に関係する組織を代表する者のものであった。

有機農業に関係する組織を代表する4%の構成は,57%が企業,18%が業界協会とNGOs,5%がEUの公的機関,1%が非EUの公的機関のもので,別のくくり方をすると, 48%が農業者,10%が消費者,9%が加工業者の組織であった。

回答者の有機生産物購入の恒常性は,「恒常的に有機生産物を購入する」83%(「できるだけ」50%,「日常的に購入している」33%の合計),「ときたま購入する」15%,「購入しないし購入のつもりもない」1%,購入について「特に意見なし」1%であった。

●なぜ有機生産物を購入するのか

なぜ有機生産物を購入するのかの理由は,有機生産物を恒常的に購入している者では,「環境を心配している」が83%で最も高く,次いで「GMO(遺伝子組換え生物)のない生産物が欲しい」81%,「残留農薬を含む食品をさけたい」80%だが,これらは環境を心配しているに関連した理由といえる(表1)。そして,4番目に「旬や地場の生産物を消費したい」78%があげられている。

有機生産物を時たま購入している者では,購入理由のパーセント値が常時購入者に比べて20%程度低いが,全体的傾向は類似している。ただし,1位に「旬や地場の生産物を消費したい」68%があげられている。

これら上位4つの理由に比べると,有機生産物が高品質だからや,美味しいからといった理由は,恒常的購入者と時たま購入者の双方で,かなり低いことが注目される。

●有機生産物の値頃感

回答者の78%は,慣行生産物よりも有機生産物により多くの金額を支払う用意があることを示し,価格プレミアムが10-25%よりも高くないようにすべきだと回答した(表2)。

●有機農業基準の強化

回答者全体の74%が,ヨーロッパの有機基準の強化を要求した。なお,強化すべきでないとした者は12%,特に意見がないとした者が14%であった(表3)。

強化すべきと回答した者の45%は規則を厳しくすること,38%は罰則(罰金)を導入すること,22%は現在のヨーロッパの基準で認めているフレキシブルな部分を全てなくすべきとした(表4)。

(1)残留農薬について

基準の強化として,回答者全体の61%が,全ての有機産物について残留農薬のテストを行なうことを希望したが,25%が反対した(表5)。

残留農薬テストについては,国や利害関係グループで意見が割れていた。残留農薬テストをすべきとの意見が多かった国は,ベルギー,ブルガリア,キプロス,チェコ共和国,フランス,ギリシャ,イタリア,リトアニア,ルクセンブルク,マルタ,ポーランド,ルーマニア,スロベニア,スペイン,スイスで,すべきでないとの意見が多かった国は,デンマーク,エストニア,フィンランド,ラトビア,ノルウェー,スロバキアであった。

有機農業に利害関係を有するグループの代表についてみると,市民グループの62%,消費者グループの64%,その他グループの59%が,残留農薬テストを希望したのに対して,農業者グループの54%,民間認証機関グループの69%,加工業者グループの63%,取引業者グループの61%,公的担当部局・公的認定機関の60%が残留農薬テストに反対した。また,有機生産物中の残留農薬レベルについて,慣行生産物よりも低い基準を設定すべきか否かについては,回答者全体の88%が設定すべきとした(表5)。

この設問の意図は次のように理解される。つまり,有機生産物といえども,非意図的な農薬汚染は起こる可能性がある。例えば,現在は使用禁止になっている過去に散布した長期残留性農薬の残留物が作物に吸収されるケース,隣接農場の散布した農薬のドリフト,水食で他の慣行農場から運ばれた土壌の混入などによる非意図的汚染がありうる。そうした場合,非意図的なら有機生産物と認めるにしても,慣行生産物での基準よりも低いことが条件とすべきとする者が多いとことを意味する。

れらの結果について執筆者は次のように理解する。つまり,表1に示されたように,回答者全体の80%は残留農薬を含む食品を避けたいために有機生産物を購入していることから分かるように,残留農薬を非常に危険視している。そのため,消費者の多くは残留農薬テストを希望している。それに対して,有機農業の認定業務を行なっている機関やそれを監督している行政部局は,農薬を排除した有機農業が実施されていることをしっかり監視しており,その監督を受けた農業者や加工業者などは,農薬を使用しないことを実践しているのだから,現在以上の残留農薬テストは不要としていると理解される。しかし,消費者の強いニーズに応えるために,生産者や監督者は農薬不使用をしっかり行なっていることに対する信頼を高める方策を検討する必要があろう。

(2)GMO(遺伝子組換え生物)について

回答者全体の90%が,有機の定義のなかの「GMOフリーが有機生産物を購入する重要な理由である」と述べていた。これは,なぜ有機生産物を購入するかの理由(表1)で,「GMOフリーの生産物が欲しいから」が81%であったことと整合する(表6)。ところが,GMOが0.9%未満の食品はGMOの存在についてのラベル表示が不要なことを承知している者は,半分の51%にすぎなかった。そして,GMOの非意図的ないし偶然的混入について,有機生産物は慣行生産物と同じラベル表示にしたがうべきだとする者が68%であった。これで良いとするなら,0.9%未満の混入についてはラベル表示不要になる。しかし,非意図的混入のラベル表示基準を慣行生産物と同じで良いとするのに反対の25%のうち,その86%は,有機生産物については0.9%よりも低い値を設定すべきだと回答した。

(3)有機農業規則の特例について

有機農業規則では,有機事業者が有機の種子や家畜を入手できない場合,慣行のものの使用を認めるなどの特例措置を認めている。このために,有機農業事業体の多い加盟国と少ない加盟国とでは,特例措置の数などに違いが生じて,加盟国によって有機農業の実施規則が異なっている。この加盟国による規則の違いを将来的になくすべきだとする者が86%に達していた(表7)。これは将来方向ではあるため,回答者の国籍でみると,ほとんどの国で同一規則にすべきだとする意見が圧倒的に多いが,アイスランドではすべきとする賛成と反対の意見が半分ずつ,ノルウェーでは賛成60%弱,反対40%強と,2か国で反対意見が多いことが注目された。

将来的に規則の同一化を図るなら,特例を止めるべきとする者が圧倒的に多いのかと思うと,全体の61%にとどまった。そして特例を続けるべきとする者が全体の29%に達した。回答者の国籍別でみると,特例を続けるべきとする回答者が圧倒的に多かった国は,デンマーク,エストニア,ラトビア,ノルウェー,ポーランドであった。他方,特例を止めるべきとの回答が圧倒的に多かった国は,ベルギー,ブルガリア,フランス,ドイツ,ハンガリー,アイルランド,イタリア,ルクセンブルク,マルタ,オランダ,ルーマニア,スロベニア,スイス,イギリスであった。

そして,有機農業の利害関係グループの代表者でみると,市民や消費者グループの代表者では,特例の継続に反対する者が圧倒的に多かった。しかし,農業者,農業アドバイス,民間認証組織,学識経験者,公的認定・監督機関,研究機関の代表者には特例を続けるべきとする意見が圧倒的に多かった。これは生産現場やそれに関係している場は,特例の必要性を認識していることを反映していよう。そして,特例を与えるなら,期間を限定して与えるべきとする者が,回答者全体の77%に達していた。これはこうした条件を付けて,規則を強化するという現実的対応といえよう。

●有機家畜飼料の確保の仕方

EUの有機農業実施規則(Commission Regulation (EC) No 889/2008)は,2012年に次のように改正した。

第19条 自事業体起源と他起源の飼料

1.反芻家畜の場合には,第17条4項の移牧(執筆者注:移牧(季節による家畜の移動放牧)における移動道程中に,家畜が食べられる非有機飼料の割合に関する規定)の期間を除き,飼料の少なくとも60%は事業体の農場に由来し,それが不可能な場合には,同じ地域の他の有機農場と協力して生産しなければならない。

2.豚と家禽の場合には,飼料の最低20%は事業体の農場に由来し,それが不可能な場合には,同じ地域の他の有機農場や飼料企業経営者と協力して生産しなければならない。

こうした規定を踏まえて,今後の飼料についての意見を募集した。その結果,最も多かった意見は,反芻家畜と豚や家禽を問わず,100%の飼料を自農場と同じ地域の他農場の有機飼料で生産するとするもので,49%であった。そして,現在の規定での「当該農場ないし同じ地域の有機飼料を最低割合は給餌する」は27%にとどまり,有機なら何処の飼料を与えても良いは16%に過ぎなかった(表8)。

100%の飼料を自農場と同じ地域の他農場の有機飼料で生産するとした意見が最も多かったのは,回答者で最も多い消費者と一般市民の約50%がそうした意見を表明したためであった。これに対して,取引業者,加工業者,民間認証機関などでは,現行の規則のような最低限の地場調達を選択した者が多かった。

EUで有機飼料の地場調達を向上させる上での1つのネックが,豚や家禽用に,ダイズ粕のような蛋白質含量の高い有機飼料を確保しにくいことがある。そこで,有機の蛋白質作物のヨーロッパでの生産を助長する法律を作るとか,蛋白質作物の生産戦略を立案するといった施策に高い期待が寄せられた。そして,蛋白質作物の生産が難しいからといって,アメリカのように,合成アミノ酸を有機家畜生産で認めることには強い反対の意見がよせられた。

●動物福祉

動物福祉については多くの回答者(全体の61%)が,有機や慣行を問わず,どの農業生産タイプであっても動物福祉の基準を高く同じレベルのものにすると答え,67%が動物福祉基準を現在よりも強化するとした。他方,有機農業では,他の農業生産タイプよりも動物福祉基準を高いレベルのものにすると答えた者が23%存在した。

●使用資材の承認手続

有機農業や有機の食品加工で使用する資材の使用承認手続について,回答者の多くが,農薬(73%)と添加物(67%)は一切認めない(ランク1)ようにする手続を要求した(表10)。ただし,農薬については11%,添加物については27%の者が,厳しい手続の上で一部は承認しても良い(ランク2)との回答をした。肥料,飼料原料,洗浄・消毒製品,加工補助剤については,一切認めない(ランク1)とする回答が40%前後に減少し,ほぼ同じ割合の者が厳しい手続の上で,一部認めても良い(ランク2)との回答を行なった。

●環境パフォーマンス

EUの有機農業規則は環境を保全する行為を実践することを求めているが,これに加えて,有機の生産・加工・流通に従事する者は,自分らの行なった行為の環境パフォーマンス(環境改善効果)を測定・評価する環境管理システムを実施するようにすべきかについて,61%がそうすべきであると回答したが,24%の者はその必要はないとした(表11)。

●有機監督システム

EUの有機農業規則によって,加盟国政府の担当部署が民間の認証機関を監督し,認証機関が生産・加工・流通の事業体の有機実施内容をチェックしている。こうした監督システムで有機と認定された生産物を信用しているかについて,71%が「信用している」としたが,18%が「信用していない」とし,11%が「回答したくない」とした(表12)。

いずれの加盟国でも,「信用している」とした回答が50%を超え,アイスランドとスロバキアでは100%の回答者が「信用している」とした。その他にも,「信用している」という回答が70%を超えた国は,オーストリア,エストニア,ベルギー,チェコ共和国,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシャ,ハンガリー,アイルランド,ラトビア,ルクセンブルク,オランダ,ノルウェー,ポーランド,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,イギリスであった。

他方,「信用していない」とした回答が20〜40%と比較的高かった国は,ブルガリア,キプロス,デンマーク,イタリア,リトアニア,ルーマニアであった。信用していないとした回答はこれらの国の回答に主に起因する。また,有機農業の利害関係者グループの代表は市民グループを含め,大部分(60〜93%)が「信用している」と回答した。

意外なのは,「EUの全ての有機事業体は少なくとも年1回は検査を受けていることを知らない」とする回答が50%もあったことである。有機農業に利害関係を有するグループ代表でも,市民グループ代表の52%が知らないとしていた。ただし,消費者グループの代表は63%が知っていた。他のグループ代表者の大部分は承知していた。

「有機事業の検査の頻度を現在の規則で定められた頻度よりも少なく,例えば2年か3年ごとにしても良いか」については,57%が反対した。ただし,アイスランドではEUの規則に基づく有機生産物を100%の回答者が信用していると回答していたが,このアイスランドだけは100%の回答者が検査頻度を下げても良いと回答していた。とはいえ,大部分の国で,検査頻度を下げるのに反対する回答者のほうが多かった。有機の利害関係グループの代表者でも,いずれのグループとも検査頻度を引き下げるのに反対する回答者のほうが多かった。

「有機食品の価格が高くなっても,EUで販売される有機生産物の監督システムを改善すべき」とする回答が58%に達していた。改善するとしたら,「輸入有機生産物についての監督を強化する」と「生産チェーンの全てのレベルで監督を強化する」が70%超の回答で多かった。つまり,国産のものと外国産のものとの両者で強化が望まれていた。その際,認証を受けた全ての有機事業体のデータベース構築やトレーサビリティを担保する電子方法の開発なども要望された。

●グループ認証について

有機農業規則を国が整備したのは1990年以降だが,それ以前は民間が有機農業の認証を行なっていた。その1つの仕方として,自国に認証組織がない途上国では,小規模農業者がグループを形成して有機の認定を受けるグループ認証が行なわれた。

グループ認証とは,次のようなシステムである。

有機生産基準に準じた生産を行なう農業者がグループを組織し,IFOAMなどの有機基準にしたがった生産を行なうなどの規約を作り,代表者を定めるとともに,参加農業者の農業の仕方をチェックする内部監督システムを作る。グループに参加する農業者は有機生産基準を遵守し,組織によるチェックを受けることなどの誓約書を交わす。その上で,参加農業者の1人がサンプル農業者として,認証機関による正規のチェックを受ける。認証機関が自国になければ,外国の認証機関に出張してきてもらって,認証検査を受けることになる。そして,その農業者が認定を受けられれば,グループ内の他の農家も認定を受け,サンプル農業者が要した認証経費は参加者全体で分割する。IFOAMは,途上国についてはこうしたグループ認証を認めることを,EUやアメリカに対して今日でも求めている(IFOAM (2003) IFOAM’s Position on small holder group certification for organic production and processing )。

EUの一部の加盟国には,小規模有機農業者で,有機農業規則に準じた生産を行なっているが,必要な文書作成や記録作成を行なえず,経費負担もできないために,有機生産物として販売できない農業者が存在する。因みに,2013年1月現在のEU28加盟国のうち,OECDに加盟していない途上国は,ブルガリア,クロアチア,キプロス,ラトビア,リトアニア,マルタ,ルーマニアの7か国である。これらの国々の農業者に,グループ認証を認めて良いかを問いかけた。これについて70%の回答者が賛成を示した(表13)。

国別にみると,アイスランドで賛成と反対が50%ずつであったのを除き,他のいずれの国でも賛成の意見の方が多かった。また,有機農業の利害関係グループのいずれの代表者も賛成を示している者が多かったが,民間の認証組織や農業者のグループの代表者の約1/3は反対の意見が表明した。

●研究課題

有機食品および有機農業について,次の4つの課題が多くの回答者から必要とされた。(1)有機農業の経済・社会的側面,(2)低投入に適した種苗や繁殖体,(3)蛋白質に富む作物の現地生産技術,(4)廃棄物管理の4つが似た高い回答率を得た。

●日本とEUの有機農業に対する消費者のイメージの違い

表1の結果から,EUで有機生産物を恒常的に購入している者は,有機生産物が美味しいからとか,高品質だからとする者よりも,環境,食品の安全性,旬や地場産品を重視して,特に残留農薬とGMOを強く嫌っていることがうかがえる。EUの消費者が特に環境に関心が高いことは,環境保全型農業レポート「No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果」などにも示されている。それは,EUでは農業が身近な環境の主たる汚染者であり,そのことを市民が広く認識しているためである。このため,環境汚染のより少なく,環境保全により貢献しうる有機農業を支持しているのである。

では,有機農業の環境保全と有機生産物の美味しさや品質とについて,日本の消費者はどのようなイメージを抱いているのであろうか。

表15に,日本で消費者に対して行なわれた有機農業等についてのイメージに関するアンケート調査結果をまとめた。農林水産省が2007年に実施した「有機農業をはじめとする環境保全型農業に関する意識・意向調査結果」では,有機農業が「環境にやさしい,自然と共存する農業」とのイメージを有する者が48.5%で,「安全な農産物を生産する農業」の46.9%とともに,1位を占めている。この結果は一見,日本の消費者も有機農業が環境を保全する農業とのイメージを,EUと同様に強く意識しているとの印象を与える。しかし,このアンケートは,タイトルを「有機農業をはじめとする環境保全型農業に関する意識・意向調査」と銘打ち,タイトル自体から環境保全が大切との印象を与えている。しかも,環境保全型農業には最小限の化学肥料や合成農薬を使用する慣行農業も含まれているおり,設問のなかには有機農業と慣行農業を合わせた環境保全型農業を問うている。このため,このアンケートでは有機農業が環境保全的なものとの先入観を消費者に与えており,この環境保全が1位になっている結果は素直に納得できない。

表15に示した他の2つの調査,日本有機農業研究会(2012) 有機農業への消費者の理解増進調査報告と,北海道(2012) 有機農業に関する消費者アンケート調査結果は,有機農業だけを対象にして,農林水産省のように有機農業が環境保全型農業だというような先入観を与えない形で調査を行なっている。

日本有機農業研究会の結果では,「安全・安心」63.1%が1位で,「環境にやさしい」40.6%を大きく引き離している。また,北海道の結果でも,1位は「より安全・安心な農産物だから」38.0%で,「環境にやさしいから」12.3%を大きく引き離している。このように日本では,有機農業が環境保全型農業だといった先入観を与えなければ,環境よりも有機農産物の良さを高く評価している。

日本では,例えば,農村地帯の地下水の硝酸による汚染が深刻だが,環境省の地下水汚染調査結果でもそのことが指摘されていないなど(環境保全型農業レポート「No.232 OECDが2010年までの農業環境状態を公表」参照),日本では農業による環境汚染が公表されていないケースが多い。そして,人口が圧倒的に都市部に集中していて,身近なところで農業が営まれている人口割合が低い。このため,農業を生産過程からみる人は少なく,遠く離れたところから運ばれてくる農産物を商品として評価している人の方が圧倒的に多い。こうしたことからEUと日本で,有機農業についてのイメージの違いが生じていると考えられる。