アメリカの有機農業規則は,有機の水耕栽培やアクアポニックス(魚の養殖と作物の水栽培を組み合わせた方法)による作物生産について,具体的な条項を定めてはいない。しかし,農務省の「全米有機農業プログラム」(NOP: National Organic Program)事務局は,生産者が有機農業規則に違反せずに,水耕栽培などの土壌なしでの作物生産を行なえることを証明できる場合には,土壌なしでの有機作物生産を認めている(環境保全型農業レポート「No.253 アメリカは「有機水耕栽培」を認める方向?」)。
NOP事務局は,温室栽培に関する「全米オーガニック認証基準委員会」(National Organic Standards Board: NOSB)の勧告が,温室でのコンテナ栽培については,土壌肥沃度を規則に定められた方法で管理するとの規則の適用を除外することを提案したことを拡大し,近い将来,有機の水耕栽培を正式に認めるように規則を改正することを予定している。
そのために,2015年3月9日付けの官報 (Federal Register Vol.80, No.45. Monday, March 9, 2015. p.12422 – 12423 )に,土壌なしの水耕栽培とアクアポニックス(水産養殖と水栽培を組み合わせた方法)のやり方と,そのUSDAの有機農業規則および「有機食品生産法」the Organic Foods Production Act (OFPA)との整合性を検討する調査特別委員会を近く設置し,その委員候補者を募集する旨の告示を掲載した。
調査特別委員会は,有機農業における水耕栽培とアクアポニックスの方法の基準ないしガイドラインの案について報告書を作成し,2016年春にNOSBに提出する。NOSBが同報告書を参考にして,NOPに対して水耕およびアクアポニックシステムに関する勧告と,そのガイダンスないし規則の案の作成を指示することになる。
調査特別委員会の委員に立候補する者は,2015年5月8日までに履歴書などを提出する。委員の指名は7月初旬に決定する。委員会では,NOSBが2010年4月にNOPに対して行なった「陸生植物のコンテナおよび包囲空間(温室)における生産についての生産基準に関する勧告」が,議論のスタートになると考えられる。この勧告には,水耕栽培やアクアポニックスは土壌を排除しているので,有機農業として認証できないと明記してあるのに,NOP事務局はあえての行動をとっていると理解できる。