アメリカ農務省の有機農業に関する規則を管理・監督している「全米有機農業プログラム事務局」(NOP(National Organic Program)事務局)は,広報誌として”The Organic Integrity Quarterly”を発行している。その2014年5月号に,「有機水耕栽培」という記事が掲載されている。アメリカの有機農業規則では,有機農産物と表示して販売しようとする者は,土壌を使用し,土壌肥沃度を規則に定められた方法で管理することを定めている。ところが,この記事は思いも寄らないことを記している。その部分を下に訳す。
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有機水耕栽培
有機水耕栽培は,無機養分の溶液を用いて,土壌を用いずに植物を生育させる方法である。陸生植物は,その根を養分溶液だけの中に直接に入れたり,パーライト,砂利,木炭,ココナッツ殻などの不活性な培地を用いて養分溶液に入れたりして生育することができる。いくつかの有機農場が,アメリカ農務省の有機規則に基づいて,有機作物を生産するのに水耕栽培方法を用いている。これらの生産者は,他の有機農業者と同様の肥料や,病害虫防除のやり方である,主に天然の肥料や病害虫防除方法を用いている。有機水耕生産は,生産者が農務省の有機規則を遵守していることを証明できるなら,認められている。
認定を受けた認証機関は,現在の有機規則と事業者の(訳者注:提出した)有機システムプランに基づいて,有機水耕事業を認証している。将来的にはNOP事務局は,有機水耕生産と,そうした方法に如何に規則を適用するかに関するガイダンスを出す予定である。
「全米オーガニック認証基準委員会」(National Organic Standards Board: NOSB)は,2010年にコンテナおよび遮断施設(温室など)での作物生産に関する最終勧告書をまとめた。2010年のNOSBの勧告には,有機水耕生産を認めない条項が含まれていた。NOPは,温室に関する勧告に含まれている,古いNOSB勧告で残された問題の評価と実行に向けた作業を引き続き行なっている。
(訳者注:2010年のNOSB勧告は,温室栽培を中心に勧告をまとめ,コンテナを用いた水耕栽培については,温室での生産と同じ考えを適用すると記しただけで,具体的勧告を記していなかった)。
有機水耕事業体に影響するNOSBの温室勧告を踏まえた変更案は,パブリックコメントにかけるつもりである。
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この記事を読むと,まだ正規に有機水耕栽培が有機農業規則で規定されていないのに,NOP事務局は,温室栽培に関するNOSB勧告が,土壌肥沃度を規則に定められた方法で管理するとの規則の適用を除外することを勧告したことを拡大し,土壌を使用しない水耕栽培も規則の運用で既に承認し,近い将来,パブリックコメントを経て,それを正当化する規則改正を行なうと理解できる。
水耕栽培を有機農業として正式に承認するとなると,アメリカ国内だけでなく,国際的にも大きな論議を呼ぶことが予想される。かつて,アメリカでは現行の有機農業規則の最初の案として,1997年に農務省が,遺伝子組換え作物の栽培,都市下水汚泥の利用,ガンマー線によるジャガイモの照射を承認する条文を提出した。パブリックコメントで猛烈な反対意見が寄せられて,この3点を撤回した経緯があった。そのことを思い出すと,有機水耕栽培が認められることについては疑問もある。
なお,水に溶解させた有機質肥料で行なう養液栽培については,環境保全型農業レポート「No.157 有機質肥料による養液栽培」を参照されたい。