No.241 環境省のモニタリング調査でも地下水の硝酸汚染の主因は農業

●地下水の概況調査

1989年から都道府県知事が地下水水質を調査し,その結果が環境大臣に報告されている。調査のなかで地域の全体的な地下水質の状況を把握するための調査を「概況調査」と呼んでいる。多くの場合,都道府県をメッシュに分割し(メッシュ間隔の目安は市街地では1〜2 km,その周辺地域で4〜5 km),3〜5年で当該都道府県を一巡する仕方で調査がなされている。

2005年度の地下水の概況調査の結果を,環境保全型農業レポート「No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要」に紹介した。環境省の「平成23年度地下水質測定結果」(2012)を図示すると,環境基準((NO2+NO3)-Nが10 mg/L以下)を超えるモニタリング緯度の割合は,図1のように,2005年度以降,超過率は4%前後で推移している。

しかし,環境保全型農業レポート「No.232 OECDが2010年までの農業環境状態を公表」に記したように,日本の地下水モニタリング調査結果では農村地帯の実態が十分に把握されていない。水田以外の農地率の高い農村地帯では,図1の数値をはるかに超える超過率を報告している研究は少なくない。

●地下水汚染事例に関する実態把握調査

環境省は,毎年度,都道府県および水質汚濁防止法政令市を対象として,全国の地下水汚染事例に関する調査実施状況,汚染原因把握状況,対策の実施状況などの実態を把握するために「地下水汚染に関するアンケート調査」を実施している。調査対象は,この調査で寄せられた,2012年3 月31 日までに都道府県などが把握している環境基準を超える値が検出されたことがある地下水汚染事例の全て(都道府県などが実施する調査によって判明した事例だけでなく,事業者による調査の報告などによって判明した事例を含む)としている。

この調査で報告された事例は次のように分類されている。

○ 超過事例:2011年末現在で環境基準を超過している事例。

○ 一時達成事例:最新年度のデータは環境基準を超過していない。しかし,恒久的な改善確認はできておらず,一時的な達成の可能性がある事例。

○ 改善事例:過去は環境基準を超過していたが,現在は超過しておらず,将来的にも環境基準を超過することはないと判断できる事例。

○ 調査不能事例:井戸の廃止等により調査できなくなった事例。

2011年度末までに,1回でも亜硝酸(NO2)+硝酸(NO3)性窒素の環境基準を超過したことがある事例の総数は2,647で,そのうち,2011年度末時点でなお超過していた事例は1,701件であった。

事例総数の都道府県別内訳をみると,千葉県431,群馬県374,埼玉県207,茨城県169,神奈川県153と,東京都を除く関東地方の県が,他地域を断然凌駕していた。

汚染原因が特定ないし推定された事例は1,375件,不明が1,119件(合計2,494件:無回答153)であった。2,647件のうちの52%で,原因が「特定」ないし「推定」された。そして,汚染原因が特定ないし推定された1,375件のうち,「施肥」が1,283件(93%),「家畜排せつ物」578件(42%),「生活排水」561件(41%)で,農業関連原因が圧倒的に多かった。

このことからも,地下水の硝酸汚染の主因は農業であり,水田を除く農地の面積率の高い農村地帯での農業による硝酸汚染は,図1に示されている4%前後よりははるかに深刻なことが容易に推定される。