●アメリカにおける豚生産の最近における動向
アメリカの豚生産は,歴史的にトウモロコシを豊富に供給できる中西部のコーンベルト地帯(特にアイオワ,イリノイなど)で,繁殖から肥育までの一貫経営として始まった。1970年代以降,技術の進歩によって成育段階別の豚生産が可能になり,繁殖経営と肥育経営の分離など,1つか2つの成育段階に特化した養豚農場が増えて,繁殖肥育一貫経営の養豚農場は,1998年49%,2004年31%,2009年23%と減少した。
また,生産のコントラクト制度の導入も,アメリカの豚生産の発展に重要な役割を果たしている。日本では,コントラクト制度は飼料生産作業や家畜飼養作業のある部分を他の人に契約によって委託する制度と理解されている。これに対して,アメリカのコントラクト制度では,自らは豚を飼養する施設を持たない豚のオーナー(コントラクター)が,飼養施設と飼養技術を有し,その施設で豚を飼養する生産者(飼育者)を雇用し,事前に定められた処方箋に基づいて豚を飼養することを契約して,生産を委託する。典型的な場合,コントラクターが,必要な飼料,資材や技術支援を飼育者に提供し,生産者はそれらを使って豚を飼養し,生産された家畜を収集して出荷する。コントラクト契約では,個々の生産者に特定の1つの段階の生産を指定することもできる。
こうしたコントラクト制度を使って,1980年代と1990年代に豚生産は,特にノースカロライナなど南東部で劇的に発展し,規模拡大がなされた。しかし,ノースカロライナでは大規模農場による環境負荷が深刻化して,1997年に州議会が,新規養豚農場の新設と既存農場の規模拡大を禁止した。この結果,中西部における豚生産が再び増加し,南東部で若干減少した。
全米における養豚の経営規模別の農場数の推移を図1に,豚の全飼養頭数に占める経営規模別農場の割合を図2に示す。これらは,アメリカ農務省の農業統計局(National Agricultural Statistics Service)が刊行している農業統計年報のデータによって作成したものである。この2つの図から分かるように,最近の10年間に小規模な農場数は急激に減少し,5,000頭以上の大規模農場数が着実に増加してきている。そして,2009年には,全農場数のわずか4.1%しか占めていない,5,000頭以上の大規模農場の飼養する豚の頭数が全頭数の62%,また,全農場数の7.3%しか占めていない,2,000頭以上5,000頭未満の農場の飼養する豚の飼養頭数が24%に達し,両者を合わせて全飼養頭数の86%を飼養している。
こうした規模拡大によって,家畜ふん尿を還元する家畜1頭当たりの作物栽培面積が減少し,様々な環境問題が深刻化した。このため,連邦政府,州,市町村などが家畜ふん尿管理についての規制を強化した。そうした規制強化は,養豚農場のふん尿管理にどのような影響をもたらしているのか。この点についてアメリカ農務省の経済研究局の研究者が解析を行なった。その概要を下記の資料から紹介する。
Nigel Key, William D. McBride, Marc Ribaudo, and Stacy Sneeringer (September 2011) Trends and Developments in Hog Manure Management: 1998-2009. 33p. Economic Research Service. Economic Information Bulletin Number 81.
●家畜生産にかかわる環境規制
(1)クリーンウォータ法
日本の「水質汚濁防止法」に相当するアメリカの法律が「クリーンウォータ法」であるが,長い間,畜産農場には適用除外されてきた。しかし,2003年4月14日から,畜産農場にも,「クリーンウォータ法」が適用されるようになった(環境保全型農業レポート.No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況)。
適用対象となった家畜生産農場は,高密度家畜飼養農場(concentrated animal feeding operations : CAFO)と呼ばれている農場である。養豚農場の場合には,(1) 全ての大規模農場(体重25 kgを超える豚を2,500頭以上飼養する農場),(2) 中規模農場(750〜2,499頭を飼養している農場)のうち,人工の溝やパイプを経てふん尿や排水を河川に排出しているか,家畜を飼養区域内の表流水に接触させているもの,(3) 小規模農場(750頭未満の農場)のうち,検査官が,家畜が飼養区域内の表流水に接触していると判断したものは,CAFOに指定される。
CAFOと認定された家畜生産農場には,家畜ふん尿による環境負荷を軽減する義務が課せられる。アメリカではふん尿や畜舎排水は液状でラグーン(貯留池)ないしピットに貯められた後に,飼料生産圃場などに散布されることが多い。その際,(1) ラグーンから大雨による溢水や表流水への直接漏出が起きないようにし,(2) 表流水から30 m以内にふん尿を散布せず,(3) 化学肥料と家畜ふん尿を合わせて,作物要求量を超える養分を施用しないように養分管理プランを作成して,その記録を保存し,(4) 作物要求量を超える家畜ふん尿は他人に譲渡したり,エネルギー利用など農地還元以外の方法で処理・利用したりすることが課せられている。
(2)クリーンエア法
大気を保全する「クリーンエア法」もあり,家畜生産もこの規制を受ける。悪臭(アンモニア,硫化水素など),顆粒物質(アンモニア)と温室効果ガス(メタン,亜酸化窒素)が問題になっている。特に悪臭は地域住民との間でトラブルが生じやすく,法的規制を遵守することが必要になっている。
家畜ふん尿では,大気汚染と水質汚染の間にトレードオフが問題になる。水質保全の観点から,CAFOには,ふん尿や化学肥料による養分施用量が作物要求量を超えないようにすることが課せられている。耕地の少ない農場では,家畜ふん尿の窒素をアンモニアとして大気に揮散できる量が多ければ,限られた面積に施用できる家畜ふん尿を多くできる。しかし,それでは大気に多くのアンモニアを揮散することになり,「クリーンエア法」違反となる。
●養豚農場のふん尿管理方法
アメリカでは,豚ぷん尿は,主にラグーンかピットないしタンクで貯留されている。
(1)ラグーンシステムと消化液の利用
ラグーンは土を掘って,底面や側面は土を固めただけの池で,その中にふん尿と畜舎排水を流し込み,その液状混合物を長期間保持する。その間に雨水が混入して,元のふん尿は希釈される。ラグーンでは嫌気的条件下で有機物が微生物分解(消化)され,生じたアンモニウムのかなりの部分がアンモニアとして揮散する。ラグーン内の液の一部は希釈して,畜舎の洗浄にも使用されている。消化されたラグーン液は,比較的濃厚ではなく,スプリンクラーや放水ガンなどの灌漑装置で,土壌や作物体に灌水されたり,スプレーヤで土壌に表面施用されたりする。ラグーンは,年間を通じて有機物分解が起きる温暖な気候の地域で主に使用されている。2009年にラグーンシステムの農場で生産された豚は,南部地域では豚全体の90%に達したが,他の地域では20〜30%だけで,ラグーンシステムは南部地域で特に多く使用されている。
(2)ピットないしタンク貯留と貯留液の利用
ピットないしタンクは不透水性の構造物で,豚舎の下に所在することが多い。典型的なシステムは,畜舎のスノコ床からふん尿をピットないしタンクに落下させ,希釈せずに農地に施用するまで貯留する方式である。貯留場所は,屋外の場合と屋内の場合とがある。ふん尿は,トラックやワゴンのスプレーヤで圃場に表面施用してからプラウで土壌に混和するか,ふん尿を土壌に掘った溝に直接注入する。
(3)貯留方法・施用方法と窒素肥料価値
ふん尿の貯留方法や施用方法によって,ふん尿の窒素肥料価値が異なってくる。
例えば,ピットまたはタンクで貯留したふん尿を土壌に注入する場合には,アンモニアの揮散が低く抑えられて,窒素肥料価値は高い。これに対して,ラグーン貯留のふん尿を灌漑システムで施用する場合には,かなりの量の窒素が大気に揮散して,窒素肥料価値が低下する。このため,ある作物を同じ面積だけ栽培する場合に,同体積のふん尿中に含まれる肥料効果を有する窒素量は,前者のピットまたはタンクで貯貯留のふん尿のほうが,ラグーン貯留ふん尿よりもかなり多くなる。このため,養分管理プランを作って,作物要求量を超えないように養分施用を行なうためには,ふん尿の養分分析が必要になる。
●調査方法
前出の図1と図2は,農務省の全米農業統計局の行なっている農業統計年報の統計調査を図示したものだが,年報の農業統計では毎年詳しい調査を実施することができない。そこで,全米農業統計局と経済研究局が,共同で毎年対象を変えてより詳しいデータを収集する農業資源管理調査を実施している(環境保全型農業レポート.No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 参照)。その一環として,豚生産については,1998年,2004年および2009年に,それぞれ22州,19州および19州の養豚農場について,より詳しい統計調査が実施された。調査対象の養豚農場は,年間を通して25頭以上の豚を飼養している農場である。この農業資源管理調査結果を分析した。
調査データから,豚の飼養頭数ではなく,生産された家畜単位(家畜の生体重1,000ポンド=454 kgを1家畜単位とする)を計算し,農場の規模などを家畜単位で表示した。なお,50家畜単位よりも少ない農場の結果は表示しなかった。調べたサンプル農場での結果をその集団ウェイトで拡張すると,各調査年とも全米の養豚農場の90%超をカバーするものであった。
●規模拡大にともなう養豚農場の特性値の変化
生産規模の拡大とともに,経営構造も変化した。1998年と2009年の間に,生産が豚の生産が特定成育段階に特化して,繁殖肥育一貫生産の農場は,1998年の49%から,2004年に31%,2009年に23%に減少するとともに,養豚農場数が約60%減少し,年間の平均出荷頭数が2,589頭から7,930頭に増加した(表1)。
1998年から2009年の11年間に,生産コントラクトを使用している農場のシェアは3倍以上も増加し,現在では養豚農場の48%がコントラクトを使用し,そうした農場での豚生産量が全体の71%を占めるようになっている。
コントラクト契約では,豚ふん尿管理に対する責任が問題になる。通常,コントラクトでは,生産者には自らの施設を運営する際に,法的規制の遵守が求められており,遵守できない場合にはコントラクトを終了できる。契約した生産者は施設に大きな投資をしているので,責任回避のために法的規制の遵守に大きな関心を持っている。
養豚農場の経営は豚への専作化を進め,農場の全所得に占める養豚による所得が,1998年の56%から現在では70%に増加した(表1)。飼料源についても豚生産への専作化が進み,同じ農場で生産されて豚に消費された飼料のシェアは,1992年の約50%から2004年には20%未満に低下した。つまり,農場外の飼料で豚を使用し,コントラクトを利用しながら豚生産の専作化を高め,養豚豚による所得のシェアを高めた。
コントラクト契約では,コントラクターは農場外の飼料を生産者に届ける。これによって,生産者は,飼料用作物を栽培する代わりに,自らの養豚農場の規模拡大のために時間と資金を使うことができる。その結果,家畜単位当たりの耕地面積は,1998年の0.87 haから2004年に0.57 ha,2009年に0.34 haに減少した。そして,この期間に,耕地のない農場の割合は8%から19%に増加した(表1)。このため,家畜単位当たりの利用可能耕地の減った豚農場では,多量のふん尿を如何に管理するかかが問題になっている。
●規模拡大にともなう豚ぷん尿の施用の仕方の変化
ふん尿施用方法は生産規模にかなり関連している。
小規模農場は,固形ふん尿または液状ふん尿を,インジェクション(土壌に注入)せずに散布する傾向があった。1998年と2009年の間に固形ふん尿を散布する施用者の割合が減少し,1998年の64%が2009年には34%だけとなった。他方,大規模農場で,ふん尿を作物に施用した農場では,灌漑が最も一般的なふん尿施用形態で,次いで液状ふん尿のインジェクションであった(表2)。
生産者は,1998年と2009年の間に,散布方法を,悪臭,養分の揮散や表面流去を減らす方向で変更した。すなわち,液状ふん尿をインジェクションなしで散布する農場の生産する家畜単位は25%から12%に減少した。そして,液状ふん尿をインジェクションによって施用する大規模農場のシェアは10%上昇し,ふん尿を灌漑によって施用する大規模農場の割合は15%減少した(どちらも統計的には有意ではないが)(表2)。
1998年と2009年の間に,養豚農場全体の平均耕地面積が448エーカー(181 ha)から578(234 ha)エーカーに増加し,ふん尿施用面積は85エーカー(34 ha)から136エーカー(55 ha)に増加し,ふん尿を施用した耕地面積割合も19.1%から23.5%に増加した。しかも,これらの値のレベルは大規模な養豚農場ほど高かった(表3)。
その反面,ふん尿を施用した自営作物耕地の割合は1998年と2009年の間に増加したものの,養豚農場全体での平均値で2009年に23.5%にすぎなかった。これは,耕地が畜舎からかなり離れた場所に存在することが多く,より多くの面積にふん尿を施用しようとすると,輸送および施用のコストがかなり高くなることを意味している。
全養豚農場で,多少ともふん尿を自営農場に施用した農場は,2004年の82%から2009年に76%に低下した。特に中規模と大規模の農場で減少し,2009年に自営農場に施用した農場は,小規模農場で83%,中規模農場では79%,大規模農場の75%であった(表4)。
自営農場に施用されなかったふん尿は通常,隣接する他の農場の耕地に施用するために農場外に搬出されている。大規模経営体は相対的に少ない耕地しか有していないので,大規模農場ではふん尿を搬出している農場の割合が高く,1998年と2004年の間にふん尿搬出農場割合が高まった(表4)。農場から搬出されたふん尿の大部分は無料で近隣の農場に提供されたが,最近では,レベルはまだ低いが,ふん尿を販売する傾向が増えてきている。これは化学肥料価格の最近における劇的な高騰によって説明できよう。
●ふん尿養分の管理方法
豚ぷん尿を農地に施用する際に,養豚農場が適正な養分施用を確保するためにどのような方法を採用しているのか。表5に示した項目は,多くの州がふん尿管理プランの一部として要求している方法である。
(1)ふん尿の養分分析
ふん尿の養分分析を行なっている農場の割合は,窒素とリンとも次第に増え,窒素については,1998年18%,2004年29%,2009年には49%に増加した。そして,ふん尿の養分分析を行なった農場の家畜単位数のシェアは,窒素では,3回の調査でそれぞれ51%から,73%,そして86%に増加した。ふん尿の養分分析を行なっている農場の割合は,経営規模が大きいほど高く,2009年では小規模農場では約30%,中規模農場で約80%,大規模農場で90%強であった。これは規模の大きな農場ほど,州から養分管理プランの遵守を求められていることを反映していよう。
ふん尿養分だけで作物の養分要求を満たせない場合には,ふん尿に加えて化学肥料も施用されている。したがって,ふん尿の養分含量を分析することは,化学肥料の過剰施用を避けてコストを節約させるのに役立つ。経営規模別に化学肥料を併用している農場割合をみると(表を省略),2007年において,小規模で約60%,中規模で約50%,大規模で約35%となっている。これは,大規模農場では,自営農場で生産されたふん尿養分を過剰なまでに保持しているので,化学肥料を補完的に併用する度合が低いと考えられる。
(2)バーミューダグラスによる養分吸収
限られた農地基盤でふん尿施用可能量を増やす方策の一つとして,養分吸収量の多いバーミューダグラスの栽培が,アメリカの主に南部や南東部で推奨されている。バーミューダグラスの栽培を行なった農場は,全体では2004年11%,2009年7%と低い割合ではあるが,経営規模の大きな農場ほど割合が高く,2009年には小規模で約4%,中規模で約9%,大規模で約22%であった。なお,2004年に比べて2009年にバーミューダグラス栽培農場の割合が低下した原因の一端として,バーミューダグラス栽培に適した南部や南東部での豚の生産頭数が減少して,中西部にシフトしたことも考えられる。
(3)穀物のリンを利用するためのフィターゼ添加
飼料原料の穀物に存在するリンはフィチンに組み込まれた有機態リンとして存在する。豚はフィチンを分解できないため,フィチン態リンを利用できない。このため,飼料に無機リンを添加し,その結果,豚のふん尿に多量のリンが排泄され,環境汚染の一因となっている。このため,微生物の生産したフィターゼを飼料に添加して,豚に給餌する前にフィチンをあらかじめ分解しておき,フィチンから放出された無機リンを豚に吸収させ,飼料への無機リンの添加をやめることで,ふん尿に排出されるリンを減らす技術が普及している。調査期間内にリン価格が上昇したため,フィターゼの飼料添加の有利性が高まった。
無機リン添加の通常の飼料で飼養した豚のふん尿は,作物の養分要求からみると,リンを最も多く含んでいる。アメリカではリンによる水質汚染を防止するために,土壌侵食が起きやすい農地へのリンの施用が制限されている(環境保全型農業レポート.No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例.)。こうしたケースなどでは,ふん尿中のリン濃度が低いほど,基準の範囲内でより広い農地面積にふん尿を施用できることになる。家畜単位が300以上の中規模農場や1000以上の大規模農場では,300未満の小規模農場よりも,微生物フィターゼを使用する可能性が高い。1998年と2009年の間に,フィターゼ使用農場の割合は全ての規模カテゴリーで増えて,4%から23%に増加した。フィターゼを使用した農場で飼養された豚の家畜単位の割合は,12%から39%に増加した。そして,1998年と2009年の間にふん尿のリン含有率を分析した農場割合が高まったことは(表5),環境保全とコストの両面でリンへの関心が高まっていることを示していよう。
●おわりに
家畜生産では,排泄されたふん尿の適切な処理・利用が大切であり,これなしに経営規模を拡大すると,ひどい環境汚染が生じてしまう。ノースカロライナ州で1997年に州議会が新規養豚農場の新設と既存農場の規模拡大を禁止したのは,ふん尿の適切な処理・利用がなされないで大規模化がなされて,環境負荷が深刻化したためである。
こうした経緯の上で,アメリカでは「クリーンウォータ法」によって,高密度家畜飼養農場 (CAFO)に対して2003年4月から規制を強化した。そして,規制に沿ったふん尿の処理施設や貯留施設の設置,養分管理プランの策定とその実施などに必要なコストを支援するために,農務省が環境保全的な農業に対する支援事業の一つの「環境質インセンティブプログラム」(Environmental Quality Incentives Program: EQIP)によって農業者に支援を行なっている。
この結果,全体としては,経営規模の拡大が進行しながら,まだ完全とはいえないが,環境保全的な各種の農業方法を実践するケースが増えていることが,ここで紹介したようにうかがえる。
これを日本と対比させると,両者の家畜ふん尿の処理・利用について大きな違いがあることに気付く。日本は「家畜排泄物処理法」によって,貯留中のスラリーや堆肥の製造過程で,雨水によって養分が環境に流出するのを防止する設備の装備が義務づけた。しかし,これにはいろいろな問題がある(環境保全型農業レポート.2004年12月8日号「家畜排せつ物処理法の完全施行は,家畜ふん堆肥の利用にブレーキをかけるのではないか」)。
とはいえ,アメリカの「クリーンウォータ法」やEUの「硝酸指令」(環境保全型農業レポート指令.No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書)といった法律に比べて,日本の家畜ふん尿関係の法律の決定的欠陥は,家畜ふん尿あるいは家畜ふん堆肥の施用量の上限値や,環境汚染を起こしやすい場所や時期における施用の制限が規定されていないことである。このため,日本では,環境汚染を起こしにくい仕方でスラリーを貯留し,家畜ふん堆肥を製造したとしても,農地であればいつでも無制限に施用できるのである。これでは環境保全が図れるはずがない。日本も家畜ふん尿や家畜ふん堆肥の施用の仕方について,環境保全の視点から規制を設けるべきである。