No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした

 アメリカのエール大学のレイモンドらは,ミシシッピー川に設置されている多数の河川観測所の1902年から2005年までの100年間にわたるデータと雨量データを用いて,ミシシッピー川から年間に排出される水と炭酸水素塩の量を解析した。その結果,1950年代半ば以降,それ以前に比べて,ミシシッピー川から年間に排出される水と炭素が増加しており,その原因が農業にあることを証明した(Peter A. Raymond, Neung-Hwan Oh, R. Eugene Turner & Whitney Broussard (2008) Anthropogenically enhanced fluxes of water and carbon from the Mississippi River. Nature. 451(7177):449-452)。

 この研究論文によると,1950年代半ば以前に比べて,ミシシッピー(全長3,780 km)からの排水量が年間50 km3規模も増加した。参考として記すと,アメリカ東部の全長715 kmのサスケハナ川の排水量は約30 km3/年,スイスからフランスに流れる全長810 kmのローヌ川では54 km3/年で,ミシシッピー川での排水増加量はローヌ川の排水量に匹敵する。排水量が増えた原因は農業で,その内容としては,土管排水,化学肥料使用,灌漑,耕耘方法,作物タイプ・輪作・生産力の変更が考えられた。

 そして,これらの変化が降水量の増加や石灰使用と結びついて,通常は岩石から地質学的風化によって少しずつ溶け出てくるだけの低いレベルの炭酸水素イオンの濃度を,一気に高めた。河川や海洋は大気中の二酸化炭素を溶かして,地球の長期的な炭素サイクルで重要な働きを果たしているが,農業が意外なほど河川の炭酸水素イオンの濃度に影響を与えていることが判明した。

 著者らは,河川の炭酸水素イオンの濃度を農業由来のその他の汚染物質濃度の指標と見ることができ,さらに,農業にともなってミシシッピー川に流入してメキシコ湾に排出される窒素やリン酸といった栄養元素なども増えていることを推定させると述べている。また,提案されているバイオエタノール生産拡大のための作物生産の大規模な変更(環境保全型農業レポート.No.91.バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響)は,耕地からの水と炭素の搬出を一層増やすと警告している。