●畑転換期間が長くなると,土壌の窒素肥沃度が低下して,ダイズが減収する
環境保全型農業レポート「No.25.輪換畑ダイズ収量低下の原因」に紹介したように,水田を畑に転換すると,水田時代に土壌に蓄積されていた有機物が微生物によって好気的に分解される。そして,土壌からの無機態窒素供給力(土壌の窒素肥沃度)が,畑期間の継続とともに急速に低下する。最近では畑転換年数が以前よりも長くなっており,それにともなって土壌の窒素肥沃度が低下していることが,ダイズ単収低迷の大きな原因となっていることが指摘されている(有原丈二.1998.水田転換畑の地力窒素とダイズの収量.農業技術大系.作物編.第6巻ダイズ.p.技178-2〜178-5,住田弘一.2006.ダイズ導入による地力減の実態と対策.農業技術大系.作物編.第6巻ダイズ.p.技178-5-2〜178-5-7)。
ダイズ栽培にともなって土壌の窒素肥沃度が低下する原因としては,水田の畑化にともなう土壌有機物の無機化促進に加えて,ダイズ栽培では窒素収支が通常マイナスになることもある。すなわち,ダイズは根粒菌の働きによって窒素ガスを固定するが,固定された窒素の大部分は,肥料や土壌から無機化された窒素とともに転流されて,蛋白質として子実に蓄積される。このため,子実を収穫して圃場から搬出してしまうと,通常の施肥条件では,施肥量以上の窒素が収穫物として持ち出されて,土壌の窒素収支がマイナスになる(尾崎薫・斎藤滋.1963.畑輪作における前後作組合せ様式に関する研究.第1報 作物の養分吸収特性と前後作との関係.北海道農業試験場彙報.80: 32-46)。
ダイズでは土壌の窒素収支が通常マイナスになる上に,水田の畑化によって土壌の窒素肥沃度が低下する。したがって,ダイズを毎年のように栽培する際には,ワラや堆肥などを補給して窒素肥沃度を維持することが大切になる。
●ダイズ栽培で土壌が硬くなる
水田の畑転換年数が長くなって,ダイズの栽培回数が増えると,土壌の窒素肥沃度が低下するのに加えて,孔隙率が減少して,土壌が硬くなることが,福岡県農業総合試験場の研究によって明らかにされた(福島裕助・荒木雅登・兼子明・荒巻幸一郎.2007.平成18年度研究成果情報.ダイズ作付け頻度の増加に伴う土壌理化学性の変化とダイズ作柄の実態)。
福岡県の筑後地域では,新たな米政策の下で,麦・ダイズの本作化が進んで水稲・麦・ダイズ・麦の2年輪作体系が増加し,水利の関係から長期の畑・畑体系となっている地区もある。そこで,福岡県農業総合試験場の研究グループは,田畑輪換来歴が明らかな久留米市宮ノ陣町八丁島の現地圃場(八丁島受託組合管理圃場:埴壌土地帯)について,土壌の理化学的性質とダイズ作柄との関係の実態を解析した。
2005年と2006年の夏作前に採取した土壌の分析値(土壌100 mlの重量(容積重)と可給態窒素の放出量)を,1999年〜2005年の7年間における夏冬作計14作に占めるダイズの作付回数割合(ダイズ作の頻度)に対してプロットした。その結果,ダイズの作付頻度が高まると,土壌の可給態窒素放出量(畑状態土壌を30℃で4週間保温静置したときの無機態窒素放出量)が低下し,土壌の容積重が高まることが明らかに示された。土壌の可給態窒素放出量が低下することは上述の理由から理解できるが,土壌の容積重が高まって硬くなる理由はなぜか。福島ら(2007)は短い成果情報の中で論及していないが,次のように推定される。
●ダイズ栽培でなぜ土壌が硬くなるのか
エダマメとトウモロコシを26年間毎年栽培した土壌でも,トウモロコシに比べてエダマメ栽培土壌のほうが硬くなることが観察されている(江崎要・渡邉千洋・柳澤剛・静川英宏.2001.数種の施肥連用と2種の作物連作による土層の硬さについて.農業土木学会論文集.214: 139-148)。
では,なぜダイズ栽培土壌は硬いのか。作物の根の重量を調べた既往の結果をみると,ダイズの根量は主要作物の中で少なく,イネ,トウモロコシ,コムギ(耕起区)よりも明らかに少ない(表1)。筑後地区でも,ほとんどの圃場で稲わらや麦わらのすき込みや堆肥施用などの有機物施用が実施されていない。このため,ダイズの根を主体とする切り株だけが有機物として還元されているケースが多く,したがって,ダイズを栽培では,有機物還元量がイネやムギよりも少ないことが,土壌が硬くなる原因と推定される。
●ワラや堆肥の施用が大切
こうしたことから,土壌の窒素肥沃度を維持向上させ,土壌が硬くなるのを防止するために,ワラや堆肥を施用することが,転換畑のダイズ栽培で大切なことが理解できる。