No.257 有機食品と慣行食品の安全性と品質をめぐる意見の対立

●有機食品は特段に優れていない(1):ロンドン大学栄養公衆衛生研究チームの意見

有機食品は慣行食品に比べて,安全で栄養的に優れていた美味しいと一般に評価されている。この点についてこれまでに多くの研究が公表されており,それらをまとめて評価を行なった研究レビューがいくつか実施されている。

その1つとして,イギリスの食品基準庁(FSA)の委託を受けて,ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のAlan Dangourをリーダーとする栄養公衆衛生研究チームの行なった研究レビューが有名である(2009年に食品基準庁に報告書を提出)。その概要を環境保全型農業レポート「No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない」に紹介した。

同研究チームは,3つの文献データベースを使って,1958年1月1日から2008年2月29日までの50年間に刊行され,英語の要約のある文献を検索し,そのなかから専門家の審査を受けた文献で,全文を入手できた栄養物などの組成に関する162の文献(作物農産物で137,畜産物で25)と,健康効果に関する11の文献を対象にレビューを行なった。これらの文献のうち,(a)農産物または畜産物の有機生産方法(認証組織の名称を含む),(b)作物や家畜の品種や系統,(c)分析した栄養物などの名称,(d)分析方法,(e)データ分析に使用した統計手法,について,その全てを明記している文献を「満足できる質」の文献とし,どれかが欠けたものを「満足できない質」の文献とした。

対象にした文献数が多い作物農産物では,次の結果が得られた。

(1) 該当する全文献で,慣行作物で有機作物よりも統計的に有意に高かったのが窒素,また,有機作物のほうが有意に高かったのは糖,マグネシウム,亜鉛,乾物,フェノール性化合物,フラボノイドであった。

(2) また,満足すべき質の文献だけの解析では,慣行作物で有意に高かったのが窒素含有量,有機作物で有意に高かったのがリンと滴定酸度であった。

そして,有機と慣行で生産された農畜産物の間で,大部分の栄養物について含有量に差があるとの証拠が見いだせず,両者はおおむね栄養物含有量の点で同等であって,健康に対する効果にも違いがないと結論した。

●有機食品は特段に優れていない(2):スタンフォード大学チームの意見

A.対象とした文献

アメリカのスタンフォード大学医学部のCrystal Smith-Spanglerをリーダーとするチームは,7つの文献データベースを検索して,1966年から2011年5月までに刊行された,(a)有機と慣行の食品による食事を消費した集団の比較評価,(b)有機と慣行で育てた,果実,野菜,穀物,肉,家禽,乳製品(生乳を含む),卵の栄養レベルの比較評価,または,(c)細菌,真菌や農薬による汚染の比較評価を行なった研究を検索した。専門家の審査を受けた文献で,法律で定められた有機農業規準を遵守したことが明記され,データのフレや統計分析の情報がある研究を選定した。そして,加工食品に関する研究,家畜のふんや消化管からのサンプルで評価した研究は除外した。その結果,237の文献(食品に関する文献が223,給餌して健康影響を調べた文献が17:[注]食品と健康影響の両者を研究したものもあるため,合計値が合致しない)を対象にした。

C. Smith-Spangler, M.L. Brandeau, G.E. Hunter, J.C. Bavinger, M. Pearson, P.J. Eschbach, V. Sundaram, H. Liu, P. Schirmer, C. Stave, I. Olkin, and D.M. Bravata. (2012) Are Organic Foods Safer or Healthier Than Conventional Alternatives? ~ A Systematic Review. Annals of Internal Medicine 157(5): 348-366

B.分析方法

メタ分析(既に刊行されている複数の文献の研究結果を集めて特定項目についての研究結果を統計解析し,個別の研究では得にくい,共通する結果や新たな結果の確認を行なう解析手法)を用いて,対象とした文献について,上記(a)〜(c)の比較評価を行なった。

具体的には,例えば,既往の文献に報告されている栄養成分などについては,慣行農産物の平均値をコントロール(対照)として,それと有機農産物の平均値とを比較する。その際,両平均値の差が有意であるかを検定するには,通常はサンプル数が多いほど統計的に有意になりやすい。そのため,サンプル数を多くした実験を行なったほうが精度を上げることができる。しかし,メタ分析では,サンプル数は既往の研究のものだけであって,新たにサンプル数を増やすことができない。そこで,サンプルサイズによって変化することのない,標準化された指標である効果量が用いられる。一般には,グループごとの平均値の差を標準化した効果量として,次式によって平均値の差の効果量を計算する。

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この計算から得られるd値(standardized mean differences:標準化した平均値の差)は,グループごとの平均値の差を標準化したものになっている。算出される数値は,標準偏差を単位として平均値がどれだけ離れているかを表しており,例えば,d = 1 なら,1 SD(両群のプールされた標準偏差)だけ離れていることを意味する。

他方,農薬汚染サンプル数を報告している研究についてはsummary risk differences (要約リスク差RDs:信頼区間や標準誤差つけたリスク差)を計算した。この要約リスク差は,農薬への曝露によって健康に悪影響が生ずる可能性が高まる確率と規定されているが,実際の臨床的リスクとは無関係である。

具体的には,Smith-Spanglerは,対象とした既往の研究で,最大許容上限値を超えている残留農薬を検出したものは,合計81の有機サンプルのうちの4つで,これを「汚染リスク」が5% (4/81)であったと表現している(後述するBenbrook(2012)は,「残留農薬の出現率」のほうが「汚染リスク」よりも正確と考えられると指摘している)。

また,慣行サンプル合計4069のうちの1354から残留農薬が検出され,「汚染リスク」が33%と表現している。そして,「リスク差が28%」[RD = 5% – 33%= -28%≒-30%]で,有機サンプルは「農薬汚染リスクが30%低い」と表現している。通常の表現を行なえば,残留農薬が検出された出現率は,有機サンプルでは慣行サンプルの15%(5%/33%)だけである。

一般的に表現すれば,有機サンプルでは慣行サンプルに比べて残留農薬が検出された出現率が85%低いということになる。このように効果量の結果表現が通常のものとは異なるので注意が必要である。

C.主要な結果

スタンフォード大学チームは概略,次の結果を得た。

(1) 一般には有機で生産された食品は慣行のものよりも栄養的に優れていると広く考えられているが,こうした考えを全体として支持する確固たる証拠は見つけられなかった。ただし,有機と慣行で次の違いが認められた。

(2) 有機農産物(作物産物)のリン含量が慣行のものよりも有意に高かった。このことは,これまでのレビューに合致するが,臨床的に意味をもっているとは考えにくい。

(3) 有機農産物の全フェノールのレベル,有機ミルクと有機鶏肉でのω-3脂肪酸(オメガ3脂肪酸とは,α-リノレン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸などの必須脂肪酸),有機鶏肉でのバクセン酸(反芻動物の脂肪および牛乳やヨーグルトなどの乳製品中に見られるトランス脂肪酸)のレベルが,フレが比較的大きいものの,慣行農産物よりも統計的に高かった。そして,厳密に有機の食事を食べている母親の母乳でトランスバクセン酸のレベルが高いことが認められた。しかし,これ以外では有機と慣行の食事を摂食している人間での栄養分レベルを測定した研究からは,一貫した差を認めることができなかった。

(4) 有機農産物は慣行農産物よりも,法的に認められた最大許容上限値を超えている農薬汚染リスクが30%低かった(リスク差が30%低かった)。しかし,農薬残留物による汚染リスクの差は小さいので,この認められたことの臨床的意義は不明である

(5) 農産物と畜産物の病原細菌による汚染リスクに,違いが認められなかった。有機と慣行の畜産物の双方とも,サルモネラ菌とカンピロバクター菌で広く汚染されていた。また,施肥に厩肥を使用している有機農場からの農産物は,家畜排泄物を使用していない有機農場からの農産物よりも大腸菌で汚染されているリスクが有意に高いことが認められている。

慣行の鶏肉と豚肉は,有機のものに比べて,3つ以上の抗生物質に同時に耐性を持つ細菌(多剤耐性菌)で汚染されているリスクが高いことが認められた。この抗生物質耐性の出現頻度が高いことは,慣行の家畜飼養での日常的な抗生物質に関連していよう。しかし,家畜への抗生物質使用が人間の抗生物質耐性病原菌にどの程度貢献しているかについては,人間における抗生物質の不適切な使用が人間における抗生物質耐性感染の主因になっているため,論議が多いところである。

(6) 慣行で生産された食品と有機食品とをそれぞれ優先的に消費している人達の健康結果についての長期的な研究は,金がかかるため,あまりなされていない。短期間の観察を行なったヨーロッパでの2つの研究が,有機と慣行の食事を摂食している子供のアレルギー結果を評価し,食事とアレルギー発症の間に有意な関係が認められなかった。

●スタンフォード大学チームの研究レビューに対する批判(1)

こうしたスタンフォード大学医学部チームの研究レビューに対して,ワシントン州立大学の「持続可能な農業・自然資源センター」教授のCharles Benbrook が,同研究レビューの発刊直後の2012年9月4日に,同レビューを批判する論文を公表した。間髪を入れずに公表するためか,この論文発表は学術雑誌ではなく,カリフォルニア州のNGOのホームページ上であった。

Charles Benbrook (September 4, 2012) Initial Reflections on the Annals of Internal Medicine Paper “Are Organic Foods Safer and Healthier Than Conventional Alternatives? A Systematic Review”.

この論文で,スタンフォード大学医学部チームの研究レビューに対して次の批判を行なった。

(1) チームは,有機サンプルでは慣行サンプルに比べて残留農薬が検出された出現率が85%低いにもかかわらず,そのことに言及することなく,有機サンプルは「農薬汚染リスクが30%低い」とだけ記述し,有機と慣行の農産物の残留農薬が検出される出現率にわずかな違いしかないような誤解を招く記述している。

(2) USDA(アメリカ農務省)やEPA(アメリカ環境保護庁)の農薬の残留レベル,毒性,食事による曝露リスクについてのデータに加えて,新しい抗生物質耐性細菌の創出の引き金となっている農業用抗生物質の役割や耐性を付与する遺伝子に関する説得力のある文献を活用していない。例えば,食品に関するUSDAの2012年版の農薬残留データを使って計算すると,Benbrookは慣行食品の農薬リスクレベルは全体として,有機品よりも17.5倍高いと計算した。この差は,有機食品の選択によって農薬曝露による健康リスクが94%減少と読み替えられる。スタンフォード大学チームは農薬のリスクを過小評価している。

(3) Benbrookや他の人達による既往の研究によって,人が明らかに体に良くない不健康な食事から健康に良い食事に切り替えたり,一貫して有機食品を継続して摂食したりしていると,健康が臨床的に有意に改善されるケースが確認されている(例えば,Benbrook (2011) Transforming Jane Doe’s diet, The Organic Center, Boulder, Co. )。そして,有機食品と有機農業の利点として,次が証明されている。

(a) 有機生産物における農薬レベルの大幅な減少による,胎児および小児の発達過程における化学物質で誘導される後生的な成長異常の減少,特に出生前の内分泌撹乱性農薬への曝露による異常の減少。

(b) 有機酪農製品や肉類におけるオメガ-6と-3脂肪酸の健康に好ましいバランス。

(c) 現在,人間の感染病の治療に対して脅威を高めている抗生物質耐性細菌の出現に対する抗生物質禁止による有機農業の貢献。

スタンフォード大学チームは,これらの利点を支持する証拠の多くを排除し,その結果,大部分有機の食事,有機の農業方法や,有機管理家畜農場でと共通する動物の健康促進方法に切り替えたことにともなう健康便益を過小評価している。

(4) 例えば,有機の食事を摂ることによって,有機リンの食事による曝露を劇的に減少させ,事実ほぼゼロにできるという,アメリカのエモリー大学のルーらの研究は高い信頼を得ている(環境保全型農業レポート「No.240 アメリカ小児科学会の有機食品に対する見解」参照)。しかし,スタンフォードチームはルーらの研究を低く評価し,「これらの研究から,有機の果実や野菜の消費は児童における農薬曝露を有意に減らすことができようが,これらの研究は,観察された尿中の農薬レベルと臨床的な害との間の関連性を評価するようにデザインされたものでなかった。」と記している。

(5) スタンフォード大学チームは,「抗生物質耐性細菌の出現率が高まったことは,慣行の家畜生産での抗生物質の日常的使用に関連しているのであろう」としているが,その後に,「人間における抗生物質の不適切な使用が,人間における抗生物質耐性菌の感染の主因である」と記している。

疫学的文献は,人間における抗生物質の使用が,人間集団における抗生物質耐性感染症の蔓延に役割を果たしていることに注目していることは事実である。しかし,Benbrookは,鶏や豚農場における成長促進や疾病予防のための50年間にわたる治療量未満の抗生物質使用も重要なことを,次のように主張している。

抗生物質のそうした飼料添加によって,抗生物質耐性細菌が最初に豚ないし鶏の胃腸内で創り出されたとすれば,抗生物質耐性細菌と,耐性を付与している遺伝子は,無数の方向に動き出し,まず他の細菌,次いで動物から人間,やがて人間個体群内で移動する。人間で抗生物質使用を続けていると,耐性細菌の拡散を加速し,その結果,健康問題が複雑になってしまう。こうしたダイナミックな動きを推定して,抗生物質の飼料添加は,人間に感染する最初の抗生物質耐性遺伝子と細菌の創出に役割を果たしている。

●スタンフォード大学チームの研究レビューに対する批判(2)

アメリカの環境や健康を中心にしたサイエンス・ライターのDavid C. Holzmanも,スタンフォード大学チームの研究レビューを,学術雑誌のフォーラム欄(意見陳述欄)で批判している。

David C. Holzman (2012) Organic Food Conclusions Don’t Tell the Whole Story. Environmental Health Perspectives 120(12): 458.

Holzmanは,「スタンフォード大学の研究は,環境健康科学の専門家から,農薬の悪影響についての証拠が増えてきていることを無視しており,関連研究を切り捨てたり,データを過剰解釈したりしていると批判されている。」と書き出し,上記のBenbrookの批判も紹介している。

▲ バークレイのカリフォルニア大学の公衆衛生学部の教授であるBrenda Eskenaziらは,母親の妊娠中における尿中の有機リン殺虫剤代謝産物レベルを5段階に区分したとき,最低の曝露ランクの子供に比べて,農薬曝露の最高ランクの子供は7歳児のIQポイントが7ポイント低いことを認めた。

▲ ハーバード医学部教授のDavid C. Bellingerは,有機リン殺虫剤による平均IQ値のわずかな低下は,低レベルの曝露によるわずかな神経発達の低下に起因しているが,極めて低い曝露を受けた子供の割合が大幅に増加していることを意味していると指摘している。

▲ 内分泌撹乱物質は,通常実施されている農薬の毒性試験で用いられている濃度よりも数オーダー低い濃度で様々な代謝活動に影響するが,スタンフォード大学チームはそうした低レベル曝露の影響を考慮していない。

こうした事例を引用しつつ,スタンフォード大学チームの結論を批判している。

●批判のポイント(まとめ)

有機食品は,かつて期待ないし信じられたように,慣行食品よりも栄養成分含量が高く,それゆえに体に良いと,安易にはいえない。BenbrookやHolzmanが主張している,有機食品が慣行食品よりも優れている点として重視すべきポイントは,特に農薬や家畜用医薬品の悪影響に脆弱な時期である,妊娠前と妊娠中ならびに小児の最初の数年間と,体力が低下していろいろな疾病と闘っているときや60歳超の人達の健康の維持増進に大切だとする点である。

●蛇足

紹介した文献で,直接論及されていないが,気の付いた点を蛇足として加える。

(1)なぜ有機作物生産物のリン含量が慣行のものよりも多いのか

ロンドン大大学のDangour(「環境保全型農業レポート.No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない」)に加えて,スタンフォード大学の研究レビューでも有機作物産物のリン含量が慣行のものよりも有意に高かいことが確認された。ではなぜ,有機作物産物でリン含量が有意に高かったのか。

環境保全型農業レポート「No.254 有機農場の養分収支」に紹介したが,有機農場の養分収支を調べた研究から,中国,ブラジル,エジプトといった途上国では,窒素,リン,カリウムの収支が大きく過剰となっているのに対して,ヨーロッパなどの先進国の有機農場では,特に家畜のいない耕種農場ではリンやカリウムが不足しているケースが多く,有畜農場でも過剰程度はわずかにすぎない。有機農業に関する研究論文数は圧倒的に先進国で多い。このため,分析されたサンプルは主に先進国のものと理解できる。

そうだとすると,有機農業でのリンの余剰量が慣行農業に比べて多いとは考えにくい。それなのに生産物中のリン濃度が有意に高いにはなぜか。このメカニズムを明確に説明している研究を知らないが,次のように解釈することができよう。

慣行農業ではリン肥料として,粉末状の過リン酸石灰などのリン肥料を施用する。この場合,土壌に施用されたリン酸は,土壌中の鉄,アルミニウム,カルシウムなどと結合して可給性が低下する。他方,緑肥,有機質肥料,家畜ふん尿,堆肥などの有機物中に有機態で存在するリン酸は,土壌と直接接触して難溶化するものが少ない。作物根は有機物の塊の中に直接侵入し,微生物が無機化したリン酸を直接吸収する。このため,リンの投入量は少ないが,吸収効率が高いために,総量で慣行農業に近い量のリン酸が吸収される。有機農業では窒素やカリの施用量も慣行よりも少ないので,作物の生育量が相対的に小さい。しかし,リン酸の吸収量が比較的多いので,作物体のリン酸濃度は高くなる。

こうした推定ができないだろうか。

(2)抗生物質多剤耐性菌の出現について

スタンフォード大学チームは,慣行の鶏肉と豚肉は,有機のものに比べて,3つ以上の抗生物質に同時に耐性を持つ細菌(多剤耐性菌)で汚染されているリスクが高いことを認めた。

これに関連して,Kobashiら(2005)の研究が思い出される(環境保全型農業レポート「No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌」)。そのレポートの要点を整理しながら、筆者の考えを述べる。

すなわち,抗生物質添加飼料で飼養した豚の生ふんから分離された抗生物質耐性菌株のほとんど全てが,6種類の抗生物質に耐性な多剤耐性菌であった。しかし,家畜ふん堆肥無施用の畑土壌からの耐性細菌株では,テトラサイクリン耐性菌株のみが,6種類の抗生物質全てに耐性であったが,他の抗生物質に耐性な菌株の多くは2〜3種類の抗生物質に耐性なだけであり,森林土壌から分離された耐性菌株の大部分は2〜3種類の抗生物質に耐性なだけであった。この結果から,4種類の抗生物質に対する多剤耐性菌の出現には抗生物質の飼料添加が必要だが,2〜3種類の抗生物質に対する多剤耐性菌までは,特に抗生物質を人為的に添加していない天然林土壌でも普遍的に存在している。それは抗生物質はもともと微生物が微生物間の競争に打ち勝つために生成している物質であり,抗生物質の人為的添加がない場にも存在している。そのため,抗生物質耐性菌はもともと広く自然界に存在している。この点についての認識がBenbrookには欠如している。

とはいえ,人為的に抗生物質を飼料に添加すれば,家畜消化管内で多剤耐性菌を急激に増やし,それが畜産物に付着して人体に入り,治療に使われた抗生物質に暴露されると,多剤耐細菌がさらに増えて深刻な事態に至ることが推定される。