〜し尿のメタン発酵消化液の使用も承認
●有機農産物の日本農林規格が改正
2012年3月28日付けの農林水産省告示第833号で,有機農産物の日本農林規格が改正された。今回の改正で大きく追加された規定はキノコ栽培と種苗の入手に関するものである。
また,有機農産物生産に使用できる肥料および土壌改良資材(別表1)や農薬(別表2)に追加された資材もある。その中で特に注目されたのは,別表1に「メタン発酵消化液(汚泥肥料を除く):家畜ふん尿等の有機物を,嫌気条件下でメタン発酵させた際に生じるものであること。ただし,し尿を原料としたものにあっては、食用作物の可食部分に使用しないこと。」が追加されたことである。
この告示は2012年4月27日から施行される。
●EUの有機農業実施規則
EUの有機農業実施規則は,家畜ふん尿や,し尿のバイオガス消化液の利用を認めていない。
EUの有機農業実施規則(Commission Regulation (EC) No 889/2008 of 5 September 2008 laying down detailed rules for the implementation of Council Regulation (EC) No 834/2007 on organic production and labelling of organic products with regard to organic production, labelling and control )において,有機農業で使用の認められている肥料や土壌改良材のリスト(付属書?)に記載されているバイオガス消化液(メタン発酵消化液)は,表1に示すものだけである。
環境保全型農業レポート「No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状」に紹介したように,EUは人畜共通の病害虫や有害物質が拡散するのを防止するために,動物副産物からのバイオガス生産に厳しい法律を施行している。そうした規制を行なっていても,動物副産物のバイオガス消化液の有機農業への利用を認めていない。これはバイオガス生産過程で温度が上昇しても,70℃まででは人畜共通の病原菌を完全には排除できないことを考慮したためであろう。ただし,動物性資材を含んだ家庭ゴミの発酵消化液の肥料利用を認めている。これは食品として使用された畜産物には,そうした危険な病原菌がいないか非常に少ないために認めていると考えられる。
●欧米は日本の有機農産物の同等性に疑問を感じないか
EUは2010年に,有機JASマークの付された有機農産物に「organic」と表示してEU加盟諸国へ輸出することを承認した(農林水産省プレスリリース)。しかし,EUが今回の日本の有機農産物の日本農林規格の改正で,し尿のメタン発酵消化液の使用も承認したことを知れば,JAS有機のマークが付いていても,家畜ふん尿やし尿の消化液を施用した有機農産物は論外とするであろう。
また,アメリカとの間でも類似の合意がなされている(環境保全型農業レポート.No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ)。アメリカの有機農業規則ではバイオガス消化液の使用についての記述は見当たらない。これはアメリカがバイオガス消化液の有機農業での利用を認めていないことを意味していよう。他方,アメリカは有機栽培における堆肥の製造条件や施用条件について,具体的な温度条件や施用時期などを規定している(環境保全型農業レポート.No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行)。アメリカで消化液の使用を認めるなら,当然,バイオガス生産過程での温度条件やその後の消化液の施用条件について,厳しい具体的条件を規定するであろう。
今回の日本の改正にみられるような,メタン発酵の温度条件などの規定もなく,消化液の施用についても,可食部に施用しないだけというゆるい規定では,EUやアメリカから納得されないであろう。EUやアメリカからは,有機JASの認証がなされた日本の有機農産物であっても,家畜ふん尿やし尿のバイオガス消化液を施用していないことの証明が求められると考えられる。
かつてし尿を肥料として広く使用していた日本では,寄生虫が蔓延していた。子供達には学校で毎年検便がなされ,寄生虫の感染が認められた児童は、回虫駆除剤であるサントニンを飲まされた。そうした寄生虫の蔓延を確実に防止するための規制が尻抜けになっている。現に,人糞尿の堆肥の使用によって,寄生虫に感染した事例が報道されている。有害な病害虫の蔓延を許すような物質循環を行なわず,安全な食品を生産できる物質循環を確保する方策を講ずべきである。