No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状

●バイオガスとは

有機物であるバイオマス資源を酸素のない嫌気的条件で微生物に分解させ,生じた有機酸や二酸化炭素を使って,メタン生成細菌が,単純化していえば,二酸化炭素(CO2)を水素(H2)で還元する形でメタン(CH4)を生成する。このとき,回収されるメタンを主成分とする可燃性ガスがバイオガスと呼ばれており,メタン60〜70%,二酸化炭素30〜40%,その他微量の窒素ガス,酸素ガス,硫化水素などを含んでいる。

●EUにおけるバイオガス生産

欧米の家畜生産では,牛や豚のふん尿をスラリーとして貯留しており,これを直接農地に養分源として施用している。このとき,土壌注入すればかなり減少するが,土壌表面施用では,悪臭やアンモニアの大気揮散などの環境問題が生じている。最近では,スラリーをエネルギー源としても活用するために,嫌気的条件で微生物分解(嫌気消化)させて,バイオガスを生成させ,そのガスから熱や電力をえて,残渣をそのままか堆肥化させて農地に還元することが増加してきている。しかし,家畜ふん尿からのバイオガス生産にはいろいろな問題がある。

欧米における嫌気消化の現状と問題点を,イギリスの有機農業団体の土壌協会(Soil Association)などが,民間調査企業に委託して行なわれた調査の次の報告書から,その一端を紹介する。

JS Lewis Ltd (2011) Final Report to the Soil Association and World Society for the Protection of Animals. Anaerobic Digestion Study. 32p.

A.デンマーク:家畜ふん尿からのバイオガス生産

EUのなかで,家畜ふん尿からのバイオガス生産を活発に行なっている国は,デンマークとオランダである。メタン発生源になる有機物は炭素化合物である。家畜ふん尿では,家畜が飼料を消化して,有機物中の炭素化合物のかなりの部分をエネルギー源や細胞成分合成のための炭素源として利用している。そのため,ふん尿としての排泄物中の炭素化合物量が減少してしまっている。作物茎葉をそのまま原料にするのに比べると,家畜ふん尿を原料にした場合には,メタン発生源になる炭素化合物が大幅に減少してしまっているのである。調査報告書に引用されている図によると,有機物原料1トン当たりのバイオガスの標準的生成量は,青刈りトウモロコシサイレージで205 m3,牧草茎葉で185 m3,コムギ茎葉で170 m3なのに対して,豚ふん尿で74 m3,家禽ふんで56 m3,牛ふん尿で36 m3にすぎない。

デンマークは主に,乳牛と豚のスラリーを農場から集めて処理する,集中型バイオガスプラントを1980年代から開始している。国は,この集中型バイオガスプラントに補助金を支給し,プラントは農業協同組合ないし自治体が所有している。このため,デンマークでは家畜ふん尿がバイオガスプラントの原料の80%を占め,2010年時点でのバイオガス生産量は,原油相当量のエネルギー量で7万3千トンである。デンマークの集中システムでは,バイオガスを熱電併給ユニットに供給して,バイオガスプラントの運転に必要な熱と電力を利用すると同時に,余った熱や電力を地域に供給している。

しかし,家畜ふん尿はバイオガス生産のための基質としては,植物体そのものよりも劣るために,家畜ふん尿を原料にしたバイオガスプラントの生産能力は低く,多くのプラントは深刻な資金問題を抱え,家畜ふん尿だけに依存している限り,集中バイオガスプラントが経済的に活力を持てるのは不可能であると指摘されている。そして,集中システムでなく,農場単独の小規模システムだと,家畜ふん尿だけのシステムのガス生産レベルは期待するよりもはるかに低いことが確認されている。

B.ドイツ:エネルギー作物からのバイオガス生産

これに対してドイツは,2010年時点でバイオガスを原油相当量のエネルギー量で356万1千トンも生産して(デンマークの49倍)おり,EUで断然トップの位置にある。ドイツでは,生産効率の低い家畜ふん尿を原料として利用するのを放棄し,当初は家畜ふん尿用に建設されたプラントを,ガス生産と収益を最大にするために,青刈りトウモロコシなどの作物を原料にするように転換してきている。現在,65万haでバイオガス用の作物を生産している。バイオガスの原料は,重量で,作物が41%,家畜ふん尿が43%,その他が16%となっている。しかし,エネルギー生産量では,作物が73%を占め,家畜ふん尿は11%だけで,作物がバイオガス原料の主体をなしている。

●消化液の肥料利用

上述したJS Lewis Ltd (2011)の報告書は,スラリーを嫌気消化した残りの消化液の肥料価値について,次のまとめを行なっている(詳細はADAS UK Ltd and SAC Commercial Ltd (2007) Nutrient Value of Digestate from Farm-Based Biogas Plants in Scotland. Report for Scottish Executive Environment and Rural Affairs Department – ADA/009/06. 44p.を参照)。

・固形物含量がかなり減少(最大25%)

・pHが上昇

・アンモニウム性窒素が平均26%増加。ただし,増加率は保持時間によって大きく異なる。

・デンマークの研究では,窒素の利用率がスラリーよりも15〜30%上昇。

・消化液を作物に施用したとき,スラリーよりも,窒素の作物吸収量が1年目には向上するが,2年目以降に無機化されて作物に吸収される窒素量は,スラリーの方が多くなる(初年目無機態窒素供給量は多いが,2年目以降の残効窒素量が減少)。

・その結果,数年間での窒素の作物吸収量の総計がスラリーよりも向上するか否かについては明確な結果がない。

・スラリー消化液の分離液を農地に施用した場合,農地からロスされる窒素量が少ない。これは,消化液の粘度が乾物含量の低下によって下がって,土壌に迅速に浸透し,土壌表面にとどまって大気に揮散するものが少ないことを反映している。

・窒素,P2O5,K2Oの全量は,消化プロセスでも温存されて,変化量はわずかにすぎない。

・消化プロセスにおける一部有機態リンの可溶化の結果,リン酸の可給性が無機態のオルソリン酸(PO43-)の増加によって高まっている可能性があるが,さらに検討が必要である。

・スラリーの嫌気消化が,N2Oの年間発生量に影響を及ぼすとの明確な証拠はない(生のスラリーと嫌気消化したスラリーとを農地に施用した場合の比較)

このように,嫌気消化では炭素は減るものの,3要素の含量はほとんど変化しないため,嫌気消化を行なったからといって,家畜ふん尿中の養分過剰問題はなんら解決することはない。

●EUの動物副産物からのバイオガス生産についての法的規制

EUは,家畜を含む動物の各種副産物を人間の消費以外の目的で利用する際の規則(通称「動物副産物法」)を,人間の健康確保の視点から定めている(Regulation (EC) No 1774/2002 of the European Parliament and of the Council of 3 October2002 laying down health rules concerning animal by-products not intended for human consumption ,および,Commission Regulation (EC) No 208/2006 of 7 February 2006 amending Annexes VI and VIII to Regulation (EC) No 1774/2002 of the European Parliament and of the Council as regards processing standards for biogas and composting plants and requirements for manure )。

これらの法律に基づいて,動物副産物を原料にしてバイオガスを製造するプラントは,所管当局の承認をえなければならず,運転条件も規制を受けている。

A.動物副産物の3つのカテゴリー

「動物副産物法」では,人間の健康に対するリスクの大きさや可能性から,動物副産物を3つのカテゴリーに区分している。これらはおおまかにいえば次のとおりである。

カテゴリー1:伝達性海綿状脳症などの,人間や動物に伝達しうる疾病に罹病した動物,基準を超えた投与禁止物質や極めて毒性の高い環境汚染物質で汚染された動物の部位など。

カテゴリー2:ふん尿および消化管内容物や,許容レベルを超えた獣医薬品および各種の汚染物質で汚染された動物の部位など。

カテゴリー3:と殺された動物の一部で,人間の消費に適するが人間用に使われなかった部位や,人間の消費用に製造された製品だが何らかの理由で廃棄されたものなど。

B.バイオガスプラントの消毒/衛生ユニット

動物副産物からバイオガスを製造するプラント(バイオガスプラント)には,基本的には,原料の動物副産物を消毒する装置(消毒/衛生ユニット)を装備することが義務づけられている。消毒/衛生ユニットには,温度のモニタリング装置,その記録装置ならびに不十分な加熱を防止する安全システムを装備しなければならない。

例えば,カテゴリー3の生の動物副産物を原料にしてバイオガスを製造する際には,事前に原料の最大粒子サイズを12 mm,最低70℃で60分間以上継続して加温することが義務づけられている。

また,カテゴリー2のふん尿および消化管内容物を除く,許容レベルを超えた獣医薬品および各種の汚染物質で汚染された動物の部位などを原料にする場合には,事前に原料の最大粒子サイズ50 mm,最低133℃で20分間以上,加圧飽和蒸気で加熱することが義務づけられている。

そして,これらの条件についての記録を少なくとも2年間は保持することが課せられている。このための加温は,通常はバイオガスを燃焼させてえた熱か電力によって行なう。なお,カテゴリー1の動物副産物は焼却しなければならず,バイオガス製造の原料には使えない。

ただし,ふん尿(家畜の排泄したふん尿と敷料),消化管から分離された消化管内容物,ミルクおよび初乳は,所管当局が深刻な伝染病のリスクが存在しないと考える場合には,バイオガスプラントで生の原料として処理せずに使用することが許されている。そして,これらの生の動物副産物原料からバイオガスを製造するプラントには,消毒/衛生ユニットの装備が免除されている。しかし,深刻な伝染病を発症した家畜が存在する場合や,家畜ふん尿に加えて,病死した家畜の死体などをふん尿に加えて処理する場合には,消毒/衛生ユニットを装備した装置で,定められた条件を確保することが必要になる。

EUの嫌気消化プラントに関する資料をみると,動物副産物を原料にしたバイオガスプラントの消毒/衛生条件として,原料の最大粒子サイズ12 mm,最低70℃,60分間以上の加温を上げているので,大方のバイオガスプラントがこの消毒/衛生条件を事前に行っているようである。

ただし,一律にこの条件が課せられるのではなく,法律に定められた病原生物の削減効果を上げられることを証明できれば,違った条件を設定することも許される。

例えば,イギリスでは,上記のEUの条件の代わりに,原料の最大粒子サイズ50 mm,最低57℃,5時間以上,または,原料の最大粒子サイズ60 mm,最低70℃,60分間以上としている。ただし,EUの条件では,嫌気消化後に消化液を貯蔵する必要はないが,イギリスの条件では原料に肉がある場合には,消化液を18日間貯蔵することが課せられている(British Standards Institution : PAS 110:2010 Specification for whole digestate, separated liquor and separated fibre derived from the anaerobic digestion of source-segregated biodegradable materials. )。

C.消化液の微生物レベル

家畜ふん尿を原料にした場合に,消毒/衛生ユニットの装備が免除されているとはいえ,全てのバイオガスプラントについて,その処理中または処理直後に消化液の代表サンプルを採取して微生物検査を行ない,下記の基準をクリアすることが課せられている。

大腸菌(Escherichia coli):  n = 5, c = 1, m = 1 000, M = 5 000/1 g; または

 腸球菌(Enterococaceae):  n = 5,  c = 1,  m = 1 000,  M = 5 000/1 g; および
 サルモネラ菌(Salmonella): n = 5; c = 0;  m = 0;     M = 0/25 g

ここで

n = テストするサンプル数

m = 細菌数の閾値;全てのサンプルの細菌数がmを超えない場合に,結果は満足できるものとする。

M = 細菌数の最大値;1つまたは複数のサンプル中の細菌数がMまたはそれを超えた場合には,承認できないもの
とする。

c = 細菌計数値がmとMの間にあるサンプル数で,その他のサンプルの細菌計数値がmかそれ未満の場合には,サンプルは承認可能とする。

そして,この基準を遵守していない消化液は再処理しなければならず,サルモネラ菌の基準を遵守していない場合には,所管当局の指示にしたがって処理ないし廃棄しなければならない。

また,バイオガスプラントは,所管当局の承認を得た自らの分析室を有するか,外部の分析室を利用して,規定された微生物などの分析を行なうことが義務となっている。

なお,上述したBとC の条件は,バイオガスプラントだけでなく,家畜ふん尿から堆肥を製造する堆肥化プラントにも,同じ基準で適用される。

●嫌気消化による有害生物の減少

メタン生成菌には,中温性生成菌と高温性生成菌の2群が存在している。嫌気消化によるメタン生成プロセスには,液温を30〜40℃に保持する中温プロセスと,50〜55℃に保持する高温プロセスの2つがあり,温度に応じて二つの群のメタン生成菌が関与している。

消毒/衛生ユニットを装備した嫌気消化装置で,事前に70℃,60分間の消毒を行なえば,耐熱性のない病原性細菌,ヒトカイチュウ,雑草種子の大部分を殺すことができる。しかし,通常の家畜ふん尿だけを嫌気消化する際には,原料の事前加熱はEUでも免除されている。そうした場合であっても,高温プロセスであれば,有害生物の多くを死滅させることができる。このため,EUでは,雑草種子や病原生物の多い,リスクの高い原料を使用した嫌気消化は高温プロセスでなされる傾向がある。しかし,ドイツでは,国内のメタンガス発生装置全容量のうち85%は中温プロセスのものである。これは,リスクの低いエネルギー作物を原料にした嫌気消化が多いことを反映している。

ヨーロッパで行なわれた,消化液中で病原生物が死滅に要する温度別の時間を調べた研究結果をまとめたものをみると,耐熱性のない病原生物は,嫌気消化の行なわれる温度では迅速に死滅する(表1)。すなわち,調べた病原生物は,70℃で秒単位,53℃で時間単位,35℃で日単位のレベルで死滅している。

ヨーロッパの嫌気消化装置での消化液の保持期間は,中温と高温プロセスとも,農場が単独で行っている装置で20〜40日間,複数農場から集めたふん尿を利用する集中型装置で12〜25日間とのことなので(Teodorita Al Seadi, ed. By (2008) Biogas Handbook. ),中温と高温のいずれの嫌気消化でも,液が良く撹拌されて極端な温度むらがなく,適切な温度が確保されれば,耐熱性のない病原生物は死滅することが期待できる。また,同時に雑草種子もかなりの部分が死滅するとされている。

なお,高温プロセスを行なっても温度は70℃になりえないが,病原菌の殺菌効果でいえば,52℃で10時間,53.5℃で8時間,55℃で6時間保持ができれば,70℃で1時間の保持に相当するとの研究結果がある(Bendixen, 1995:Teodorita Al Seadi, ed. By (2008) Biogas Handbook. P.110から引用)。

●耐熱性の病原細菌の生残

スウェーデンで行なわれた研究によると,嫌気消化において原料を予め70℃,60分間加熱しても,100℃で死滅しない耐熱性胞子(芽胞)を形成するバチルス属細菌やクロストリジウム細菌は死滅しないことが確認されている(Elisabeth Bagge (2009) Hygiene Aspects of the Biogas Process with Emphasis on Spore-Forming Bacteria. )。

バチルス属の細菌のなかには,罹病した家畜は焼却処分される恐ろしい病気を起こす炭疽菌(Bucillus. anthracis)や,食中毒を起こすセレウス菌(B. cereus),カイコなどの蝶類や甲虫類の神経毒である殺虫成分(BT剤)を生産する卒倒病菌(B. thuringiensis)などの種も含まれる。また,クロストリジウム属の細菌のなかには,食中毒やガス壊疽を起こすウェルシュ菌 (Clostridium perfringens),重篤な障害を起こす破傷風菌 (C. tetani),食中毒を起こすボツリヌス菌 (C. botulinum)などの種も含まれる。

動物副産物を原料にして嫌気消化を行なう場合には,家畜の病原菌であるバチルス属菌やクロストリジウム属菌が消化液に多く残っている可能性がある。このため,スウェーデンでは嫌気消化液を家畜用の牧草地に施用せず,施用するなら,人間用の作物を栽培する耕地に施用するように指導されている。

●中温プロセスでの雑草種子の生残の可能性

日本の研究で,牧草地を荒廃させてしまうエゾノギシギシの種子について,次の結果がえられている。

実験室内で牛スラリーに種子を添加して,中温の35℃で20日間保持したときに,種子の死滅率は34.0%にすぎなかった。しかし,42.5℃にすると,10日間で死滅率が100%になることが認められている(木村義彰・梅津一孝・高畑英彦 (1994) メタン発酵処理がエゾノギシギシ種子の生存率に及ぼす影響.日本草地学会誌.42(2) 165-170)。

また,ヨーロッパの研究では,次のようなことが報告されている。

雑草種子を牛スラリーに加えて,35℃で21.5日間保持したときに,多くの雑草種子が100%死滅したのに,添加したシロザの種子の5 %が生き残った。しかし,温度を38℃に上げると,100 %死滅したことが観察されている(Lukehurst et al. (2010) Utilisation of digestate from biogas plants as biofertiliser. p.17から引用 )。このように中温プロセスでは,低めの温度だと,雑草種子が生き残る種類が多くなるようである。

●中温プロセスでのクリプトスポリジウムの生残の可能性

クリプトスポリジウムはヒトを含む脊椎動物の消化管に生息する原虫(原生動物)で,動物体外の環境中では非活動状態のオーシスト(嚢包体)となって存在し,厳しい環境条件に耐える能力をもっている。水道の消毒に用いられている塩素濃度では死滅せず,し尿や家畜ふん尿で汚染された井戸水や,そうした原水を水源にした水道の利用によって,クリプトスポリジウムによる下痢,胃痛,腹痛などを起こすクリプトスポリジウム症が全国的に生じている。

クリプトスポリジウムのオーシストは,水中では45℃以上1日間(最短6時間)の加熱によって感染性を失い,45℃を超える温度で1週間以上保持した牛ふんの堆肥化処理によって,感染性が失われた(志村亀夫ら (2002) クリプトスポリジウムオオシストは畜糞堆肥処理で消毒できる.平成13年度動物衛生研究成果情報)。このため,きちんと堆肥化処理をした場合には問題にならない。

クリプトスポリジウムのオーシストを嫌気性消化汚泥に投入し,室温(23℃),35℃,55℃に保持して,オーシストの生残を脱嚢試験と生体染色試験とによって調査した結果がある(北村友一・森田弘昭 (2002) 嫌気性消化汚泥中でのCryptosporidium parvumオーシストの挙動と生残性.下水道協会誌.39(479): 89-97)。室温で40日間保持した場合,オーシストの生残率は6 %(脱嚢試験)と44 %(生体染色試験)で,かなりのオーシストが生き残った。他方,高温プロセスに相当する55℃では,1日間の保持で生残率が0 %(脱嚢試験)と10 %(生体染色試験)と激減した。そして,35℃,5日間の保持では,生残率が7 %(脱嚢試験)と16 %(生体染色試験)であった。この結果から,高温嫌気性消化であれば,オーシストは確実に不活化する。しかし,30〜40℃の中温プロセスでは温度が35℃にまで上昇しない場合には,かなりのオーシストが生き残る可能性が考えられる。

●おわりに

家畜ふん尿を嫌気消化して製造したバイオガスの利用は,地域資源を活用したグリーンエネルギーの生産や物質循環などの視点から,注目を集めている。しかし,家畜ふん尿は,メタンの原料になる炭素化合物が少なく,メタン生産の原料としては良質でなく,デンマークのように,家畜ふん尿を原料にしたバイオガスプラントの運営には,補助金の注入が不可欠のようである。そして,EUのバイオガスプラントには,能力の低い事例が多数存在していることも指摘されている。

消化液では3要素量が保存されている。このため,肥料価値は温存されている。ただし,固形有機物量が減っているので,消化液の窒素の肥効は,堆肥のような緩効的肥効が減少し,速効的肥料に近い肥効になる。そして,固形分が減って消化液の均質性が増して,分析のバラツキも減るので,家畜ふん尿や堆肥よりも,消化液から供給される無機態窒素量を正確に予測しやすくなる。

とはいえ,日本ではバイオガスプラントとその運転条件について,家畜ふん尿を原料にした場合には,標準的規格が作られていない。その上,EUのように動物副産物を原料にした際のバイオガス生産の規則も作られていない。そうした条件下では,有害生物をしっかり除去できる条件を確保したバイオガス製造だけでなく,そうでない条件下で消化液に多量の有害生物が生き残っているバイオガス製造も考えられる。家畜ふん尿を原料にしたバイオガス生産については,プラントとその運転条件について標準的規格を作り,適切な指導が行なえるようにすることも大切であろう。