No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因

田畑輪換の継続による地力窒素の減少とダイズ収量の低下

●畑転換にともなう地力窒素の減少とダイズ収量の低下

 水田では酸素不足のために微生物による土壌有機物の分解が抑制されて,土壌に有機物が蓄積してゆく。水田を畑に転換して,排水さえ良くすれば,水田時代に蓄積された土壌有機物が酸素の豊富な畑状態で活発に分解されて,地力窒素(土壌有機物から放出されてくる無機態窒素)が放出されてくる。このため,転換直後であれば,転換畑では普通畑よりも高いダイズの単収を上げることができる。しかし,畑状態を継続していると,年数とともに土壌有機物のストックが減少して,土壌からの無機態窒素の放出量が減少するために,ダイズ単収が減少してゆく。例えば,図1の例は,転換1年目に比べて転換年数の増加とともに,地力窒素供給量が直線的に減少し,それにともなってダイズの子実収量が低下していることを示している。

●田畑輪換の仕方による地力窒素とダイズ収量の関係

 畑状態では土壌有機物のストックが減少して地力窒素の供給量が減少するが,再び水田に戻して土壌有機物のストックを増加させてから,再び畑に戻す田畑輪換を行えば,地力窒素の供給量の低下やダイズ収量の減少を大幅に遅らせることができるのではないかという期待がある。この点を確認する長期の圃場試験が,(独)東北農業研究センターの水田利用部水田土壌管理研究室(秋田県大曲市)によって行われた【住田弘一・加藤直人・西田瑞彦 (2005) 田畑輪換の繰り返しや長期畑転換に伴う転作大豆の生産力低下と土壌肥沃度の変化.東北農業研究センター研究.103: 39-52】:概要は次の2つから見ることができる。【住田弘一,加藤直人,西田瑞彦ら (2004a) 田畑輪換の繰り返しは転作大豆の生産力を低下させる.平成15年度東北農業研究成果情報:【水田利用部水田土壌管理研究室 (2004b) 長年の田畑輪換は地力窒素と大豆生産力を低下させる.平成15年度研究成果ダイジェスト】

 連年水田区(毎年水田状態で水稲を栽培した区),短期畑輪換区(13年間にダイズ6作と水稲7作を輪換した区)および中期畑輪換区(13年間にダイズ10作と水稲3作を輪換した区)を設け,それぞれの区に稲わら600 kg/10a(生産量に相当)を施用した区と無施用の区を設けた。そして,各処理区の土壌を風乾した後,30℃で4週間湛水培養して生ずる可給態窒素量(無機態窒素量で,地力窒素と同じ意味)を比較した。

 土壌の可給態窒素供給量は,稲わら無施用の連年水田区では13年間ほぼ同じレベルを維持し,稲わらを施用した連年水田区では13年間に向上した。これに対して,短期畑輪換を行うと,稲わら無施用区の可給態窒素供給量が9年後に若干低下し,13年後には明確に低下し,稲わら無施用の連年水田区よりも25%も低下した。そして,短期畑輪換では稲わら施用によって,土壌の可給態窒素供給量の低下を防止できた。しかし,中期畑輪換を行うと,短期畑輪換よりも土壌の可給態窒素供給量が大きく低下し,600 kg/10aの稲わら施用を行っても低下を防止できなかった(図2)。

 長期の田畑輪換を行った畑を水田に戻して水稲を栽培すると,可給態窒素供給量の低下にもかかわらず,水稲単収は増加した。しかし,ダイズ単収は,稲わら施用区と無施用区とで差がなく,土壌の可給態窒素供給量の低下に呼応して10〜20%減少した(図3)。

●ダイズ単収の推移と低迷の原因

 田と普通畑のダイズ単収の全国平均値を比較すると,減反政策の始まった1970年頃には気象条件の良い年にはダイズ単収の全国平均値が畑よりも20%近く高かった。そして,田畑輪換を行えば,高いダイズ収量レベルを維持できると,かつては考えられていた。ダイズの単収は多雨年に低下するなど,年次によって変動するが,統計をみても,最近では普通畑での単収に対する田での全国平均単収の増加倍率が低くなってきている(図4)。そして,転換畑でのダイズの生育や収量が昔よりも悪くなったとの話を良く聞くようになった。減反政策の継続と強化によって,畑状態の継続年数が長くなり,この研究成果が示すダイズ収量の低下現象が,東北地方だけでなく,全国的に起きているのではないかと懸念される。

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