No.322 OECDによる韓国の環境パフォーマンスレビュー

●はじめに

先進国で構成されているOECD(経済協力開発機構)は,加盟国の環境状態についてレビューとそれに基づく勧告を順次行なっている。韓国については2006年に環境パフォーマンスレビューを実施しているが,2016年4月にそれ以降の環境パフォーマンスレビューを行ない,2017年3月にそのレビュー結果を刊行した。その概要を紹介する。

OECD (2017) OECD Environmental Performance Reviews: Korea 2017, OECD Publishing, Paris. Pp.262.

● GDPの伸びとともに温室効果ガス排出量などの環境の汚染や劣化が深刻化した

(1)OECD国と韓国の温室効果ガス排出量

OECD35か国の実質GDPの平均値は,2000-15年に28%上昇したのに対して,韓国では約78%上昇した。しかも,韓国でのこの成長は,多量の資源消費と深刻な汚染をともなって実現されたものである。2000年以降GDPの伸び率よりも高い伸び率で温室効果ガス排出量が上昇し,韓国は単位GDP量当たりや人口1人当たりの温室効果ガス排出量(表1)がOECDで8番目に多い国になった。そして,2000年に比して2014年には,多くのOECD国では温室効果ガス排出総量が減少したが,韓国では逆に顕著に増加した(表2)。

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(2)韓国で温室効果ガス排出量が多い背景

韓国の温室効果ガス排出量が,2000年に比べて多少とも減るどころか大幅に増えた上に,人口1人当たりや単位GDP当たりでも,OECD加盟国のなかで頭抜けているが,当初計画はそうではなかった。

韓国の当初計画では,2020年目標として,温室効果ガス排出量の30%削減を掲げていた。しかし,今回の環境パフォーマンスレビューを見る限り,その達成は表2のように全く無理だったうえ,最近は,2030年までに2015年レベルよりも37%削減するという目標に変更した。これは,以前の削減努力目標を遅らせるものである。そして,2015年1月に韓国は,世界で2番目に規模の大きな排出権取引計画を,温室効果ガス対策の最重要事項として開始した。すなわち,目標以上の温室効果ガス排出量の削減に成功した国の超過達成分を購入したり,削減できない国に資本投資や技術支援を行なったりして削減を実現させたうえで,その削減分を自国の削減分としてカウントする排出権取引によって解決する部分を大きくし,これによって同国の温室効果ガス排出量の約2/3を削減するとしている。

韓国は,温室効果ガス排出量が増える条件を作り出している。すなわち,韓国は工業の競争力と家庭の値ごろ感を支えるために,電気料金を低く維持する政府政策によって,電力需要の急速な増加に拍車をかけて,電力供給量を増やし,温室効果ガスの排出増加に寄与するとともに,再生可能エネルギーの開発や利用を遅らせている。

韓国の一次エネルギー総量に占める化石エネルギーの割合が2015年で82%に達し,そのうち石炭(練炭などの関連資材を含む)が31%を占めており,石炭のシェアが高い。政府は以前から国内石炭生産に支援を行なっていたが,段階的に廃止を進め,石炭生産安定化補助金を2010年に廃止した。しかし,石炭(瀝青炭)に対する税金は,セメントや鉄鋼といったエネルギー集約産業と発電所では免除されている。そして,電力価格は全てのセクターで生産コストを下回っている。その結果,エネルギー節約の努力がなおざりにされてきた。石炭に対する免税や補助金は,環境に有害な間接補助金として作用してきたのである。

また,練炭生産補助金は2012年以降増えており,2014年には1億5800万USドルに達し,同年の韓国環境省の予算の約3%に相当している。補助金は練炭価格を生産コストよりも安価に設定することを可能にし,差額を生産者に支払うことによって練炭生産を継続させて,燃料不足に対抗することをねらっている。2020年までにこの補助金を廃止する予定であるが,廃止後に練炭価格が上昇すると、低所得世帯がやってゆけないのではないという懸念が高まって,現在、補助金廃止の実施は保留されている。

練炭補助金を止める代替措置の一部として,政府は2015年12月にエネルギーバウチャーシステム(フードスタンプのように,特定の支出に目的が限定された商品券を支給して、政策目的に沿った消費を強制させるシステムのこと)を導入した。これは,冬期だけ利用可能で,高齢者,幼児や障害者のいる低所得世帯をターゲットにしている。

政府は2000年以降,バス,トラックおよびLPGタクシーに,燃料補助金を提供している。この補助金は当初,政府の燃料価格を再調整するためのエネルギー税改革によって生ずるLPGとディーゼルの価格上昇に対して,これらの自動車の経営者を助けるために3年間施行された。しかし,その後,何回も延長され,今日では2020年までにディーゼル車両を禁止する方向が出されているが,それへの対応は考慮されていない。

また,韓国は多数の化石燃料について,とくに農業と漁業については免税を行なっており,これら2つのセクターに対する支援は,2007年と2014年の間にほぼ半分に減少したものの,2014年で17億USドルに達している。

このように生産コストを下回った安い料金で電力を供給し,燃料として化石エネルギーを大量に使用するセメントや鉄鋼,輸送業界,農業,水産業には免税措置を講じ,それが温室効果ガスの排出量の増加やその他の大気汚染の大きな原因となっている。大気汚染は健康上の大きな懸案事項であり,微粒子物質(PM2.5)と地上レベルオゾンがとくに深刻となっている。大気汚染による早死者数は2005年と2013年の間に29%増加し,人口増加と高齢化および都市化も加わって,2060年には早死者数が現在のほぼ3倍になると予測されている。韓国は,大気汚染が最も深刻な国の1つとなっている。

●韓国の農業による環境の汚染・劣化

韓国の農林水産業は,GDPの2%しか占めていないが,従事者は労働人口の6%を占めている。労働集約型の産業であり,これは小規模農家が優占していることを反映している。最近,穀物生産が22%,他の作物も11%減少したが,家畜生産が18%,非食用生産が56%増加し,農業生産総額は安定していた。農業ではイネが優占しているが,その割合が徐々に低下してきており,2003年には水田が耕地面積の61%を占めていたが,2014年には55%に減少した。

韓国の販売肥料の使用量は、OECD加盟国の中で最高クラスである。農地1 ha当たりの販売肥料の窒素投入量は,2011-13年の3か年の平均値で143 kg/ha(ルクセンブルグに次いで2位),農薬販売量は2010-13年の4か年平均で11.8 kg/ha(イスラエル,日本に次いで3位),家畜密度は2012年のヒツジ換算頭数で22.4頭/haであった(オランダについて2位)(環境保全型農業レポート「No.232 OECDが2010年までの農業環境状態を公表」参照)。こうした集約農業が,生態系や生物多様性に対する主要な脅威となっており,水,大気および土壌の重要な汚染源となっている。

農業は2000年以降,水使用料金をほとんど免除されており,使用者負担および汚染者負担原則に違反している。2013年における水使用支出額の12%は農業用であったが,農業は最大の水使用分野であり,農業用地下水取水が急速に上昇してきている。農薬や肥料の集約的な使用と家畜頭数の増加によって,農地と家畜が非特定汚染の90%超を占め,BOD(生化学的酸素要求量)と全リンによる水質汚染の65%超を占めている。農業分野に水料金を課すことは,生態学的観点から消費量と汚染を減らす努力を助長するいえで大変望ましい。

●環境にやさしい農業の支援

有害な補助金を相殺するには十分ではないが,政府は環境にやさしい農業に支持を提供している。生態学的にやさしい農業の立ち上げコストとその移行にともなう初期の所得ロスをカバーするために,政府は1999年以降,生態学的にやさしい生産物認証の登録をした農業者に補助金を支給している。

この支持は,有機農業者には5年間,また,農薬を全くか少量しか使用しない農業者で5haまでの農業者に,3年間支給されている。しかし,参加者は2011年以降減少してきており,化学肥料の使用強度はOECD加盟国中で最高のままである。有機農業が行なわれている割合は,2012年において1.5%にすぎず,OECD平均の2.2%よりも下であった。

韓国では,農業者は,生物多様性管理契約を地方政府と契約して,自分の農地で生態系保全活動を行なうことに対して,補助金の支払いを受けることができる。この方策を使用している地方政府は,2002年の3から2015年には25に増加した。

●農業生産に対する政府の多額の農家支持

輸入農産物に高い関税をかけたり,輸入量を制限したり,国内農産物に対して高い価格を補償したり,農業生産資材の購入に補助金を支給するなど,直接生産者を支持したりすると,貿易自由化推進と環境保全の観点から、国際的に厳しく糾弾される。それは、補助金によって生産者が生産資材を多投したり,農地面積を拡大したりして,国内生産を高めるように農業者を助長させることになるため,環境に有害な形で農産物の国際貿易を歪曲させるとされるからである。

OECDは,政府による国内農産物に対する支持の程度を,生産者支持評価額PSE (Producer Support Estimate)という指標によって表示している。

『PSEは,農業生産あるいは農業収入における特質,目的および影響にかかわらず,農業政策により生じる,農場出荷段階で計測される消費者および納税者から生産者への金銭的移転の年間総額を示す指標であり,

PSE=内外価格差×生産量+財政支出

で算出される。ここで内外価格差とは国内価格(生産者価格)と国際価格(輸入価格)の差である。この差はMPS(市場価格支持)と呼ばれる。財政支出は農家への直接支払いのことである。

すなわち,PSEは,政策介入によって生産者への金銭的移転がどれだけ起こっているか,言い換えれば生産者の所得がどれほど高められているかを計測しようとするものである。これを金額ベースではなく,農業総生産額に占める移転額のシェアとして表現している。』(安達英彦 (2013) 農業保護政策の国際比較.JC総研レポート.28: 22-29.)

2015年におけるOECD加盟国などのPSEの値を、図1に示す。概して食料自給率の低い国が,自国内での食料生産確保のために高いPSEとなっている。PSEが高いケースでは,生産補助金を支給しているだけでなく,国内農産物価格を輸入価格よりもはるかに?く維持しているケースが多い。このため,消費者は農業者に税金から補助金を支給しているだけでなく,国際相場よりもはるかに?い農産物の購入を強いられ,二重の負担を強いられているとの批判が強い。
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韓国の生産者支持の主たる方法は,市場価格支持である。政府によるこうした高い農業支持が,外国産農産物の輸入を阻むと同時に,国内農業による環境の汚染や劣化を助長しているとして,国際的に批判を浴びている。

●レビューにおける他の指摘事項

上述したおよび温室効果ガスや農業にともなう問題のほかに, OECDは,韓国の環境パフォーマンスレビューとして次も指摘している。

  • 環境行政における省間の連携強化と,中央および地方政府における環境行政能力の向上
  • 韓国は国際的にいち早くグリーングロースへの国としての取組体制を構築したが,現在では政策的最優先事項を「創造的経済」に変更し,グリーングロースに関する大統領委員会は,首相府に移動させ,グリーングロースの推進の重みを大幅に格下げしているが,グリーングロースに対する政策を強化する。
  • 韓国はOECDでも進んだリサイクリングシステムを構築しているが,その効率をさらに高める。
  • 韓国は環境の質や健康状態についての指標値がOECDの平均未満であり,その犠牲になっている市民を保護するために,環境上の社会的不公平を削減し,公的な社会支出を増加させて社会的安全性ネットを強化する。