No.248 ネオニコチノイドとミツバチ消失を巡るEUの動向

●ネオニコチノイドという化合物

タバコの葉に含まれるニコチン,ノルニコチンなどのアルカロイドは,ニコチノイドと総称されているが,タバコを水に浸してニコチノイドを抽出したタバコ水は殺虫剤として古くから使われてきた。しかし,人畜に対して毒性がある。このため,化学合成した毒性の低いニコチノイドが開発され,1991年から殺虫剤として有効成分名イミダクロプリド(製品名アドマイヤー,メリット)が使用され,その後,一連のネオニコチノイドが殺虫剤として,アブラムシ,ヨコバイ,コナジラミ,カメムシ,コナガ,イネミズゾウムシなどの作物害虫や,シロアリ,ペットのノミ,ゴキブリなどのその他の重要な害虫防除に広く使用されている。

ネオニコチノイドは,神経伝達物質アセチルコリンの受容体に拮抗的に結合して,アセチルコリンの結合を特異的に阻害して,神経伝達を妨害する神経毒である。このため,神経伝達が異常をきたし,失神,震え,まとまりのない動き,過剰活動,位置確認プロセスの妨害などの諸症状を引き起こし,濃度が高ければ死に至る。

 

●EUにおけるネオニコチノイドとミツバチの消失への対処方針

ヨーロッパでは1994年,アメリカでは2006年,日本では2009年からミツバチの大量死が目立ち始め,社会的に大きな問題になった。これらの大量死には多数の原因が関係しているとされている。

EUでは,執行機関の欧州委員会が2010年にミツバチの健康問題に対する対処方針を出している(European Commission COM (2010) 714 final. Communication from the Commission to the European Parliament and the Council on Honeybee Health, 12p. )。

EUではまだ加盟国全体における問題の実態把握が十分でないため,既に断片的に問題になっている,ハチの病気と害虫,農薬中毒,遺伝子組換え作物の影響,栄養や気候条件の変化に起因したストレスなどの問題を考慮して対処することを打ち出している。そして,何よりもEU全体での問題の実態把握のための監視プログラムを2011年末までに開始すること,その際に必要な統一した調査方法や病気の診断の策定や,対策技術の開発などを進める上で,ミツバチの健康問題の研究センターともいえる,EUの基準ラボを設置することなどを宣言している。

 

●3つのネオニコチノイドの使用を制限するEUの法律

A.EFSAによるネオニコチノイドのハナバチに対するリスクアセスメント

原因解明は総合的に取り組むとはいえ,フランスでは1994年のネオニコチノイドの使用直後にミツバチの異変が目立ち,その後もネオニコチノイド使用との関連が強い大量死が起きた。ドイツでも,2008年にネオニコチノイド系殺虫剤の使用と強くリンクした大量死が問題になった。EUは2006年に欧州委員会委員会指令2008/116によって,ネオニコチノイド(イミダクロプリド,クロチアニジン,チアメトキサム)の使用を認めていたが,当初はミツバチに対する影響を吟味することなく,使用を認めていた。しかし,これら3つのネオニコチノイド,および非ネオニコチノイド系殺虫剤のフィプロニルの使用に関連したミツバチの大量死が生じたことから,これらの4つの殺虫剤について,2010年に法律の改正によってその使用許可条件を定めた。

その条件とは,種子被覆がプロの種子処理施設でなされて,種子の投与,貯蔵や輸送の過程でほこりの放出が最小になるように確保できる最良の技術を使って,適切な播種機を使える場合には土壌への混和度を高め,漏出を最小にしてほこりの発生を最小にしなければならないようにことである(Commission Directive 2010/21/EU of 12 March 2010 amending Annex I to Council Directive 91/414/EEC as regards the specific provisions relating to clothianidin, thiamethoxam, fipronil and imidacloprid )。

欧州委員会はこの改正を踏まえて,上記4つの殺虫剤のミツバチなどのハナバチに対する影響に関する既往のデータや最近の研究を踏まえて,2012年4月に,ヨーロッパ食品安全機関European Food Safety Authority (EFSA)(EUにおける食品の安全性に関するあらゆる問題について,専門家らによるリスク評価を行なって,食品の安全性に関する科学的な情報の提供を行う機関)に対して,ハチの幼虫やハチの行動に対する影響や,致死未満の投与量がハチの生残や行動に及ぼす影響を考慮して,ネオニコチノイド有効成分のハチに対するリスク,特にコロニーの生残や発達に及ぼす急性および慢性影響について結論を出すことを要請した。

ヨーロッパ食品安全機関は,データを吟味して,そのハナバチに対する下記の4つの殺虫剤の安全性の報告書を2013年1月に欧州委員会に提出した(EFSA: Bee Health )。

○ EFSA (2013) Conclusion on the peer review of the pesticide risk assessment for bees for the active substance clothianidin (EFSA Journal 2013;11(1):3066) 58p.

○ EFSA (2013) Conclusion on the peer review of the pesticide risk assessment for bees for the active substance imidacloprid (EFSA Journal 2013;11(1):3068) 55p.

○ EFSA (2013) Conclusion on the peer review of the pesticide risk assessment for bees for the active substance thiamethoxam (EFSA Journal 2013;11(1):3067) 68p.

○ EFSA (2013) Conclusion on the peer review of the pesticide risk assessment for bees for the active substance fipronil (EFSA Journal 2013;11(5):3158) 51p.

これらのうち,3つのネオニコチノイドについてEFSAが検討した結果のなかから,ミツバチに対する毒性が確認された事例を抜粋して表1に示す。

表1ではネオニコチノイドがハナバチに曝露する経路として,3つが扱われている。

第1は,ネオニコチノイドを粉衣した種子を播種機に入れて播種する過程で,種子がこすれて剥がれたネオニコチノイドがほこりとなって煙状に排出され,それにミツバチが曝露された場合。

第2は,作物体に吸収されたネオニコチノイドが体内を移動して花粉や花蜜に移行し,その汚染された花粉や花蜜を巣箱に持ち帰って,それを食べて曝露される場合。

第3は,作物体に吸収されたネオニコチノイドが葉の先端から溢泌液として排出され,それをミツバチが摂取して曝露される場合である。

これらのネオニコチノイドの説明書に記された使用濃度で使用した場合に, 3つの経路で曝露されたミツバチが急性毒性と慢性毒性を示すかを調べたデータを吟味した結果,種子粉衣ほこりに曝露して急性毒性が多くの作物で確認された。汚染された花粉や花蜜で急性毒性が示されたケースや,溢泌液に曝露して急性毒性が示された場合もあった。表1で空欄になっているのは評価が完了していないことを示しており,今後の研究データの蓄積を待って,後日検討することになろう。

表1では省略した作物も多いが,その中の一つ,ビートに粉衣したネオニコチノイドのほこりによるミツバチへの急性毒性は観察されておらず,そのリスクは低いと判断されている。こうしたケースもあるが,表1に示すように多くの作物で急性毒性が認められた。

B.3つのネオニコチノイドの使用を制限する法律

EFSA報告を受けて欧州委員会は3つのネオニコチノイドの使用禁止法律案を2013年4月に提案した (European Commission (2013) Bees & Pesticides: Commission goes ahead with plan to better protect bees ) (Commission Implementing Regulation (EU) No 485/2013 of 24 May 2013 amending Implementing Regulation (EU) No 540/2011, as regards the conditions of approval of the active substances clothianidin, thiamethoxam and imidacloprid, and prohibiting the use and sale of seeds treated with plant protection products containing those active substances )。

法律の内容は次のとおりである。

(1) クロチアニジン,チアメトキサムまたはイミダクロプリドを含む植物保護製品で処理した作物の種子は,温室で使用する種子を除き市場販売してはならない。

(2) 上記3つのネオニコチノイドを有効成分として含む農薬製品に対する既存の承認は,3つのネオニコチノイドはハナバチを誘因する作物に,温室栽培の作物や露地の開花後の作物を除き,種子処理,土壌施用(顆粒)や茎葉散布してならず,そのように2013年9月30日までに改正するか撤回しなければならない(禁止作物は付属書に指定)。

(3) 3つのネオニコチノイドの使用者は農業従事者などの職業的従事者に限定する。

(4) 3つのネオニコチノイドについてのその後の研究の進展を踏まえ,必要な場合,2年以内に法律の修正を行なう。

(5) 粉衣種子の販売は2013年12月1日から禁止し,他は2013年5月25日から適用する。

なお,この法律は27か国一致で承認されたのではなく,賛成15か国,棄権4か国,反対8か国。規定に基づき欧州委員会の採決で採択となった。

 

●ネオニコチノイドによる作物体の汚染

政府機関の報告書では,ネオニコチノイドについての研究結果はあまり詳しくは紹介されていない。この点については下記の研究レビューに詳しく記されている。そのなかのネオニコチノイドによる作物体の汚染程度に関する研究の一端を,箇条書きにして紹介する。

T. Blacquie`re, G. Smagghe, C. A. M. van Gestel and V. Mommaerts (2012) Neonicotinoids in bees: a review on concentrations, side-effects and risk assessment. Ecotoxicology (2012) 21:9

○ ネオニコチノイドのクロチアニジンを粉衣した種子を入れた播種機からのほこりに直接曝露された場合,ミツバチの死亡率が高かった。この実験で死んだハチ1個体当たりの平均クロチアニジン濃度は,湿度が高いとき279 ± 142 ng,湿度が低いとき514 ± 174 ngで,ハチ個体当たり21.8 ng(ナノグラム:10億分の1グラム=1000分の1マイクログラム)のLD50(50%致死量:実験動物群の50%を殺す毒物の量)をはるかに超えていた(Marzaro et al. 2011)。

○ 播種機からのほこり中のネオニコチノイドへの曝露は,特に空気中の湿度が高いとミツバチの死亡率を高くする(Girolami et al. 2011; Marzaro et al. 2011)。

○ 種子当たり1 mgの14Cでラベルしたイミダクロプリド(標準施用量よりも30%多い)を粉衣した種子を用いて,気象制御の栽培装置内でヒマワリを4週間生育させたとき,作物に吸収されたのは5%だけであった(Laurent and Rathahao 2003)。

14Cでラベルしたイミダクロプリドを種子当たり0.7 mg(標準施用量)を粉衣したヒマワリ種子を温室栽培したときに,平均で花粉に3.9±1.0μg/kg,花蜜で1.9±1.0μg/kgのイミダクロプリドが存在した(Schmuck et al. 2001)。

○ トウモロコシ幼植物に吸収されたイミダクロプリドの一部が,葉の先端にある水滴,つまり溢泌液によって除去されうる。溢泌液による排出は発芽後3週間までに限られているようで,出芽後最初の3週間の間は,実験室で栽培した植物の溢泌液中のイミダクロプリド濃度は47±9.9と83.8±14.1 mg/Lの間であった(Girolami et al. 2009)。

○ 種子当たり1.25 mgの処理をした植物体からの溢泌液からはクロチアニジンが23.3 ± 4.2 mg/L,種子当たり1 mgの処理をした植物体の溢泌液からはチアメトキサムが11.9 ±3.32 mg/L検出された(Girolami et al. 2009)。

○ 研究レビューの著者のBlacquie`reらは,結論の1つとして次を記している。

植物体液を介してネオニコチノイドは植物のいろいろな部位に輸送されている。いくつかの報告がネオニコチノイド残留物のレベルが花蜜で平均2μg/kg,花粉で平均3μg/kgと報告しているが,これは一般に急性および慢性毒性レベルよりも低い。しかし,分析は検出限界近くでなされているので,信頼できるデータが不足している。同様に,ハチの収集した花粉,ハチ体やハチの産物中のレベルも低かった。しかし,フランス,ドイツや北アメリカの養蜂場でいくつかの大規模検討がなされただけなので,結論を出す前に,もっと研究を実施することが必要である。また,実験室での研究でネオニコチノイド殺虫剤のハナバチに対するいろいろな致死や致死未満の影響が記載されているが,圃場の実際的投与量で行なわれた圃場研究では,何らの影響も観察されていない。さらなる研究の蓄積が必要である。

●おわりに

ネオニコチノイド系殺虫剤には8種類の有効成分があるが,禁止になったのは急性毒性の強い3つだけである。しかし,EUが3種のネオニコチノイド系殺虫剤の使用制限を行なったことから,ミツバチの大量死の原因が,ネオニコチノイドで決着したかの印象を与える記事や著書が出ている。確かにネオニコチノイドがミツバチの大量死を引き起こした事例が存在するし,その事例がネオニコチノイドによることを推定させるデータの蓄積は増えている。しかし,ネオニコチノイドのミツバチに対する実際の圃場における影響の研究はまだ決着したとはいえないようである。

それに加えて,仮にネオニコチノイドが大量死の主因であると証明されたとして,では,ネオニコチノイドを止めれば大量死がなくなるだろうか。農業地帯にミツバチの蜜源となる土着植物をなくし,購入したミツバチを農業資材のように消耗させる農業のあり方を変えることも大切である。

EUの農業環境対策事業ではハナバチの蜜源になる牧草地,休閑地,林地などの設置や維持に助成金を支給している。しかし,ミツバチ,マルハナバチ,その他のハナバチで利用する植生が異なることを踏まえて,ハナバチのタイプに応じて用意する植生を重点化する必要性が指摘されている (Orianne Rollin, Vincent Bretagnolle, Axel Decourtye, Jean Aptel, Nadia Michel, Bernard E. Vaissiére, Mickaël Henry (2013) Differences of floral resource use between honey bees and wild bees in an intensive farming system. Agriculture, Ecosystems and Environment 179: 78-86)

養蜂家は農業者の栽培した作物や林地などの植生を利用し,農業者は養蜂家の育てたミツバチを消費する。こうした双方の一方的関係から,農業者が養蜂家の望む作物や農地外の土着植生を育てる一方,農業者の使用したミツバチを養蜂家に戻すといった,相互の協力の下に,生産対象の作物だけでなく,土着野生生物も視野に置いた,生物多様性を重視した農業の計画的実施が望まれる。

EU,アメリカ,日本での今後のミツバチ大量死の原因解明と対策の展開をさらに注視したい。