No.247 アーバスキュラー菌根菌と有機農業

●アーバスキュラー菌根菌とは

1945年に初版が刊行された『ハワードの有機農業』 (Sir Albert Howard: Farming and Gardening for Health or Disease)(横井利直・江川友治・蜷木翠・松崎敏英訳,上下,1987年,農文協)でも,その「第1部 農業における土壌肥沃度の役割」で,有機農業における菌根菌の役割が,期待を込めて記述されている。

菌根菌にはいろいろな種類があるが,ハワードが問題にしたものは主にアーバスキュラー菌根菌である。この菌根菌は以前,VA菌根菌と呼ばれていた。菌糸を土壌から表皮を通って皮層細胞の中に侵入して,菌糸の先端を細かく枝分かれさせた樹枝状体(アーバスキュル,arbuscule)を形成するので,アーバスキュラー菌根菌とよばれている。丁度,肺が吸い込んだ空気中の酸素と毛細血管中の二酸化炭素の交換を効率よく行なうために,肺のなかで気管支の先端を細かく枝分かれさせた細気管支を作っているのと類似している。アーバスキュラー菌根菌は,菌糸が土壌から収集して菌糸のなかを細胞質流動によって運んできたリンなどの無機養分を樹枝状体で宿主植物に渡し,代わりに宿主植物の合成した有機物をもらって,宿主植物と共生関係を形成している。
アーバスキュラー菌根菌のなかには,樹枝状体とは別に,細胞間隙に伸長させた菌糸の先端を紡錘形の袋状に広げた嚢状体(vesicle)を形成し,そのなかに脂質を貯めているものが多い。かつては樹枝状体と嚢状体とをつくる菌根菌という意味でVA菌根菌とよばれた。しかし,嚢状体を形成しないものも少なくないため,アーバスキュラーを形成する菌根菌という意味で,アーバスキュラー菌根菌とよばれている。

アーバスキュラー菌根菌は特に,土壌中の可給態リンレベルが低いときに良く増殖し,宿主植物の根に感染して植物の生育を促進することから,有機農業による作物生産に大きな貢献をしていると考えられている。しかし,過度な期待がある反面,無視されているケースも少なくない。

下記の文献をベースにして有機農業におけるアーバスキュラー菌根菌の役割を紹介する。

P. Gosling, A. Hodge, G. Goodlass, G.D. Bending (2006) Arbuscular mycorrhizal fungi and organic farming. Agriculture, Ecosystems and Environment, 113: 17-35.

●アーバスキュラー菌根菌の特徴と機能

アーバスキュラー菌根菌は,イネのような水生植物には共生しないが,陸生植物の科の80%超と共生体を形成する。しかし,アブラナ科(カラシナ,キャベツ,カリフラワー,ダイコンなど)とアカザ科(テンサイ,ホウレンソウ,フダンソウ,オカヒジキなど)には一般に共生しないとされている。

アーバスキュラー菌根菌は絶対共生菌で,宿主植物に共生して増殖し,菌単独では増殖できない。分類学的には,現在はグロムス門(Glomeromycota)に位置づけられている。

植物根が土壌からリン酸イオンを吸収すると,根の近傍の土壌のリン酸イオンが減少するが,リン酸イオンは土壌粒子に保持されやすく,移動速度が低い。このため,植物が活発にリン酸イオンを吸収すると,リン酸レベルの低い土壌では,根の周囲にリン酸欠乏帶が生じやすい。その外側に存在するリン酸イオンがリン酸欠乏帶に移動してくるまで,植物の生長が停止してしまう。しかし,アーバスキュラー菌根菌が共生していると,菌糸を根からリン酸欠乏帶の外側に長く延ばして,低濃度で存在するリン酸イオンを広範囲の土壌から吸収し,菌糸のなかを細胞質流動で移動させて,宿主植物に供給する,こうして吸収リン酸イオン量を大幅に増やすので,植物は遅滞なく円滑に生長できる。

アーバスキュラー菌根菌はリン以外にも,窒素,カリウム,マグネシウム,カルシウムや,一部の微量要素(亜鉛,銅,鉄など)の吸収も増加させる。

アーバスキュラー菌根菌はこの他にも,土壌病原菌に対する抵抗性の増大,葉摂食性昆虫に対する抵抗性の増大,干ばつ抵抗性の増加,塩類および重金属に対する抵抗性の増大,ミクロ団粒のマクロ団粒化など,宿主植物にプラスの便益を与えることが知られている。

A.作物の養分吸収促進
可給態リンのレベルが低い土壌では,アーバスキュラー菌根菌が根に定着すると,宿主作物の生育や収量が促進されることが多い。そして,アーバスキュラー菌根菌の定着が妨害された場合には,リンの吸収,生育やある場合には収量も大幅に減少することがある。

しかし,アーバスキュラー菌根菌が定着しても,作物が応答しないケースも少なくない。その多くは,土壌の可給態リンレベルが高いためである。そもそもこうした条件では,アーバスキュラー菌根菌の根への定着が抑制されることが多い。また,菌株によっては,土壌の可給態リン濃度が高い条件で,アーバスキュラー菌根菌の定着が強力に起きてしまう場合があり,かえって作物生育が減少することもある。

また,アーバスキュラー菌根菌なら,どの種でも作物の養分吸収を促進するのかといえばそうではなく,アーバスキュラー菌根菌の種によって作物種に対する影響が異なり,養分吸収や生育を強くプラスに増加させるものから,逆に強くマイナスに影響するものまであるという認識が増えてきている。この問題については後で再び触れる。

そのほかにも,マメ科作物など空中窒素固定を行なう作物では,窒素固定にリンが不可欠なので,アーバスキュラー菌根菌の定着によってリンの吸収量が増加すると,空中窒素固定量が増える。

B.作物の病害虫抵抗性の強化
アーバスキュラー菌根菌が土壌伝染性病害を軽減し,収量が有意に増加することが報告されている。その代表例として,アスパラガス立枯病(Fusarium oxysporum),トマト半身萎ちょう病(Verticillium dahliae),アスパラガス紫紋羽病(Helicobasidium mompa),インゲンマメ・エンドウアファノミセス根腐病(Aphanomyces euteiches)などがある。

アーバスキュラー菌根菌のこうした,みかけの病害抵抗性強化の原因として,養分吸収量増加による作物の栄養状体の改善に加えて,病原菌と菌根菌の空間をめぐる競争が考えられている。そして,病原菌による攻撃の前にアーバスキュラー菌根菌が根に定着すると,それによって根圏微生物群集や宿主根の構造に変化が生じるとともに,作物の防御メカニズムに関連した根の物質代謝が変わって,作物に誘導抵抗性が生じ,病原菌を根から排除して病害を軽減できると理解されている。

アーバスキュラー菌根菌の定着によって,植物寄生性ネマトーダ,地上部の糸状菌病,茎葉採食性害虫による被害が軽減されるケースが報告されている。そのメカニズムは複雑だが,菌根菌定着による栄養状態の変化が,作物の防御化学物質の代謝に変化を起こしていると推定されている。これらの場合も,土壌伝染性病原菌のように,菌根菌が先に定着していることが必要と考えられている。

C.作物の干ばつ抵抗性の増加
アーバスキュラー菌根菌は,干ばつや高塩類濃度土壌での水ストレスに対する宿主作物の抵抗性を高めることが知られている。このメカニズムとして,菌根菌の定着による根の透水係数の増大,葉の気孔からの水分損失制御の改善,宿主作物体内の浸透圧調節と菌糸による小さな孔隙からの水吸収能の向上などが提案されている。しかし,アーバスキュラー菌根菌の水ストレスに対する抵抗性はほどほどのものであって,厳しい干ばつ条件では無効になってしまう。また,アーバスキュラー菌根菌を人工接種したときに,干ばつ抵抗性を全く向上させていないと思えるケースも存在するが,その場合には菌根菌と作物との組合せが不適当なものと考えられている。

D.土壌構造の発達
アーバスキュラー菌根菌が供給されている炭素量は,宿主植物が光合成で固定した炭素の20%に達するケースもあり,土壌中にかなりの量のアーバスキュラー菌根菌菌糸が存在するケースが多い。土壌団粒はまず0.25 mm以下のミクロ団粒が形成され,それが微生物菌体を接着剤にして集合し,より大きなマクロ団粒が形成される。アーバスキュラー菌根菌も,菌糸のネットワークでミクロ団粒を結合してマクロ団粒を形成する。

これに加えて,アーバスキュラー菌根菌はグロマリン(glomalin)とよばれる糖蛋白質を細胞外に分泌し,これが菌糸を土壌に粘着させる。そして,グロマリンは土壌に蓄積し,土壌団粒の安定性を強化していると推定されている。

●集約的農作業がアーバスキュラー菌根菌に及ぼす影響

集約的農作業の多くが,アーバスキュラー菌根菌の生態や機能にマイナスの影響を与えている。

A.肥料
リン肥料の施用量が多いと,作物体のリンレベルが高くなり,作物はアーバスキュラー菌根菌の定着に対する依存性を減らしている。このため,リン肥料の多施用によって,作物へのアーバスキュラー菌根菌の定着や土壌中の胞子数が減ることは広く認められている。それに加えて,リン肥料の施用は,宿主作物の生育を促進する能力の低いアーバスキュラー菌根菌の種を選んでいるとの指摘がなされている。また,水溶性成分を直ぐに放出する肥料は,リン肥料だけでなく,窒素肥料も,アーバスキュラー菌根菌の定着や多様性にマイナスのインパクトを有することがあることが報告されている。

堆肥のような有機物資材やリン鉱石のような緩効性の無機資材は,アーバスキュラー菌根菌を抑制せず,促進することすらある。しかし,有機物資材でも,特に鶏ふんのようなリン含量の高い資材の過剰施用は,アーバスキュラー菌根菌にマイナスの影響を与えている。このように,有機物資材の影響は,土壌や施用する有機物資材の可給態リンレベルによって異なる。

B.農薬
農薬のアーバスキュラー菌根菌に対する影響は単純ではない。殺菌剤を指示された濃度で散布した場合に,根への定着や土壌中の胞子数をある程度しか減少させなかったものや害作用を与えなかったものがある反面,指示よりも低い濃度で散布した場合に,菌の定着や作物の養分吸収量を高めるケースが少なくないことが示されている。他のタイプの農薬も同様なケースが多いことが観察されている。

除草剤は,アーバスキュラー菌根菌の宿主になる雑草をなくす副次的影響も与える。

C.耕耘
自然生態系では,植物根から伸びたアーバスキュラー菌根菌の菌糸のネットワークが表土に縦横に張り巡らされていて,発芽した幼植物はそのネットワークと接触して菌根菌の定着を受けている。農業で土壌を耕耘すると,菌根菌ネットワークが激しく破壊され,菌の根への定着が遅らされたり減らされたりし,これによって養分吸収が減って,作物生育が減ることもある。しかし,耕耘の影響は土壌タイプによって異なり,生育や養分吸収に対する影響は一次的にすぎないことが多い。深い反転耕も,菌根菌の感染した根破片,胞子や菌糸塊のような菌根菌の繁殖体を,幼植物根が初期に伸長する深さよりも下に埋没させ,定着を遅らせてしまう。

耕耘を減らした農法を行なうと,アーバスキュラー菌根菌の根への定着と養分吸収が増加することがくり返し示されている。例えば,アーバスキュラー菌根菌の菌糸長密度は無耕耘圃場で最も高く,慣行耕耘圃場で最も低く,耕耘削減圃場では両者の中間であった。そして,トウモロコシのリン,亜鉛,銅の濃度が最も高かったのは,無耕耘と耕耘削減とであった。ただし,こうした耕耘の影響は,菌根菌依存性の低い作物種ではあまり明確ではない。

耕耘によって,菌糸ネットワークや根破片から感染する菌根菌よりも,胞子から感染する種類を促進するようであり,耕耘によってアーバスキュラー菌根菌の種類も変化する。

D.輪作
農地では自然生態系に比べて土壌のアーバスキュラー菌根菌の多様性が乏しい上に,単作にすると,輪作に比べて多様性が最も乏しくなることが知られている。この主たる理由は,宿主の植物密度が低いことである。単作は,宿主作物に限られた便益しか与えない菌根菌の種を選抜するようである。つまり,単作では非常に早く生育して胞子を形成する菌根菌種を選抜し,しかもこれらの種は自ら吸収した養分や作物から供給された養分を自分の生長と繁殖のために利用してしまい,作物に与える便益は最小でしかないとの仮説もだされている。

輪作とはいえ,菌根菌が定着しないか,定着しにくい非菌根性作物を導入すると,アーバスキュラー菌根菌は宿主のない状態だと土壌中で約6か月しか生残しないため,菌根菌レベルが低下し,次作への定着が遅れるとともに定着率が減少し,リンレベルの低い土壌では,次作のリン吸収量や生育が低下することが観察されている。

裸地休閑も非菌根作物の導入に似た影響を与え,アーバスキュラー菌根菌の繁殖体数を減らして,次の菌根性作物の定着や養分吸収量を減らし,収量を減らすこともある。裸地休閑の間に土壌を耕耘すると,さらに菌糸の生残(生き残りを「生残(せいざん)」という)を減らしてしまう。オーストラリアのクイーンズランドでは,リン肥沃度の低い土壌地域で,長期にわたって裸地休閑を行なうと,アーバスキュラー菌根菌が減少して,作物がリンや亜鉛欠乏を示す,長期休閑障害とよばれる問題が生じている。これを回避するには,休閑中にカバークロップを栽培するか雑草を生やせば良い。

●有機管理圃場でアーバスキュラー菌根菌は実際に働いているのか

多くの研究者が,有機農業ではアーバスキュラー菌根菌が高レベルで根に定着しており,その胞子などの繁殖体数が多く,種の多様性が高いことを報告している。しかし,作物の生育や収量に対するアーバスキュラー菌根菌の実際の重要性をもっと明らかにする必要がある。

いくつかの研究によって,有機農業での少ないリンの投入量を補償する能力をアーバスキュラー菌根菌が有していることを示している。しかし,だからといって,収量向上に結びつくとは限らない。有機システムでアーバスキュラー菌根菌の定着レベルが高いと,アーバスキュラー菌根菌が作物からかなりの炭素を収奪してしまい,収量を低下させてしまうケースも報告されている。
また,アーバスキュラー菌根菌がリン吸収促進の点であまり効果をもたず,有機管理土壌での作物生育増加の点で,リン鉱石よりも効果の小さいことを認めたケースもある。

では,有機システムでアーバスキュラー菌根菌の促進効果が見られないケースの原因は何なのか。有機システムといっても,有機農業方法に加えて,有機転換以前に使用していた農業方法が大きく異なるため,次のようないろいろな原因が指摘されている。

(1) 慣行の高投入集約農業を長期実施していた場合,その間にアーバスキュラー菌根菌の多様性が減少し,効率の低い菌を増やすことが多い。このため,転換時にアーバスキュラー菌根菌の種類が,集約的管理に耐性を有して,宿主をあまり益さない少数の種に減少していることがありうる。

(2) 転換以前に高レベルのリン肥料を施用し続けたか,有機転換後に有機農業で認められているリン肥料を頻繁に施用している場合には,土壌のリン濃度が高すぎることが考えられる。雑草防除のために過度の耕耘を行なった場合や,非菌根性作物を頻繁に栽培した場合も,多様な菌根菌の発達を妨害しうる。また,不適切な土壌水分や温度,植物の病害もアーバスキュラー菌根菌との共生を抑制する。

(3) 菌根菌レベルの低下した有機転換土壌にアーバスキュラー菌根菌が再定着するのは,圃場に隣接する生垣,林地や無管理草地など,自然ないし半自然生息地から起きると考えられる。そこの胞子や感染根残渣などの繁殖体を新たな有機圃場に媒介するものとして,動物,伸長している根,農業機械,風や水で侵食された土壌が考えられている。耕作放棄農地への再定着を調べた研究で,多数のアーバスキュラー菌根菌が再定着するのは2年後からだけであり,しかも再定着の度合には大きな不均一性が存在する。このことは,菌根菌繁殖体の供給源からの距離が遠い大きな圃場や,半自然生息地の数がろくにない集約的に管理された地域では,特にそうであると考えられる。

(4) 最近の作物品種にはアーバスキュラー菌根菌にあまり応答せず,菌根菌からろくに利益をえないものがある。ただし,品種による応答には大きなフレが存在する。

●アーバスキュラー菌根菌を活用した有機農業管理方法

A.有益と有害な管理方法
上述したように,有機農業といってもアーバスキュラー菌根菌をあまり活用していないものも少なくない。ではどのようにすればアーバスキュラー菌根菌を活用できるのか。その第一歩は,アーバスキュラー菌根菌の共生に有害な管理方法を回避し,有益な管理方法の使用を高めることである。

有益な管理法

・水溶性成分の少ない肥料の使用
・大部分の農薬の排除
・休閑用牧草やカバークロップの導入
・多様な輪作の実施

有害な方法

・機械耕耘による雑草防除
・裸地休閑
・非菌根性作物の栽培
・銅ベースの殺菌剤の使用

これらが有益ないし有害な理由は既に上述したが,銅ベースの殺菌剤について補足する。JAS有機の農産物生産基準でも,銅水和剤,銅粉剤,硫酸銅(ボルドー剤調製用に使用する場合に限ること)の使用が有機栽培で認められている。しかし,銅ベースの殺菌剤はアーバスキュラー菌根菌共生体に有害になりうることが示されており,これらの使用をできるだけ限定するのが賢明である。

B.アーバスキュラー菌根菌の接種
転換前にアーバスキュラー菌根菌のレベルや多様性が低下してしまっていた圃場で,自然の接種源になる場所から離れている圃場では,有機農業に転換しても,菌根菌が回復するまでに長期間を要する。回復を早期化するには人工接種が有効なことが示されている。

アーバスキュラー菌根菌を保有している宿主植物ないし土壌や,市販接種源の接種が有効である。接種実験から,アーバスキュラー菌根菌の種が違うと,宿主作物の生育や収量に対してプラスからマイナスまで様々な効果が示されている。しかし,どの場合にどの菌の種が良いかが解明されていて,その菌種の人工接種源の入手が可能という状況になっているケースは限られている。
適切な菌根菌を接種した場合だが,次の意外なケースも観察されている。

菌根菌を接種したとき,可給態リンのレベルが少ない土壌でよりも多い土壌でのほうが,作物生育が促進された。これは可給態リンの多い土壌とはいえ,そのレベルは菌根菌の助けを不要とするほど高くなく,可給態リンによって土着のアーバスキュラー菌根菌群が抑制されていて,そうした土壌でも阻害されない菌根菌を接種したときに,接種効果が生じたと理解される。しかし,同じ土壌で同じ作物種を用いた場合でも,安定した接種効果が得られることは滅多にないようである。

苗を移植して栽培する場合なら,温室で栽培した幼植物に菌根菌を接種してから圃場に移植すれば,菌根菌をしっかり定着させることができ,接種源も少なくてすむ。この方法は,病害防除を目的にした場合に最も有効な方法でもある。しかし,この事前接種は大面積の圃場に播種する場合には現実的でない。

大面積に播種する場合に菌根菌を接種する最適な時期は,休閑牧草の開始時である。休閑牧草を栽培している間には耕耘されず,菌根が良く定着するマメ科牧草が存在するので,菌根菌の増殖が促進されるはずである。しかし,安定した結果を上げるには,まだ多くの研究が残されている。

●おわりに

畑や果樹園,草地などの畑状態土壌では,土着のアーバスキュラー菌根菌が作物根に共生している。それが「自然」の状態であり,集約農業は,化学肥料,化学農薬,大型機械による耕耘,単作などによって,アーバスキュラー菌根菌のレベルや多様性を大幅に引き下げ,作物に有益な効果を与えない種類の菌根菌を集積させてしまった。そして,こうなった農地を有機農業に転換させても,アーバスキュラー菌根菌のレベルや種類は容易にはもとの状態には容易には回復できないケースが多い。それゆえ,有機農業ではアーバスキュラー菌根菌が作物生育に重要な働きを果たしていると一般には理解されているが,必ずしもそうでないケースが多い。

とはいえ,有機農業ができるだけ作物や家畜の本来の特性を生かした仕方で生産することを基本にする農業であるなら,アーバスキュラー菌根菌が良く定着して,その機能を十分に発揮できる土壌を復元させることが望まれる。無論,水稲はアーバスキュラー菌根菌を定着させないので対象外である。

陸生作物,特に畑作物や野菜では,有機農業であっても,集約農業と同様に,使用の認められた有機物資材を多投して養分過剰を引き起こしたり,単作をくり返して,土壌伝染性病害虫を集積させた上で,集約農業での土壌くん蒸剤による土壌消毒と同じように,有機農業で認められた熱による土壌消毒を頻繁に実施したりするなど,アーバスキュラー菌根菌をそこなう管理方法を実施しているケースが少なくない。特に日本では,狭い経営面積で収益を確保するために,収益性の高い作物を連作し,有機物資材を多投して,熱による土壌消毒を実施しているケースが多い。こうしたやり方はアーバスキュラー菌根菌を損なっている。多様なアーバスキュラー菌根菌を定着させる有機農業を実践してもらいたいものである。