No.246 EU専門委員会の有機温室栽培基準についての報告書

●背景

どこの国の有機農業基準も露地栽培を中心に置いていて,EUの有機農業規則も例外ではない。例えば,有機農業規則で求められている伝統的な輪作は,施設栽培で実施することは難しく,あまり実施されていないといった問題がある。このため,施設栽培も考慮に入れた有機農業規則の改正が求められている。EUの検討に先立って,イギリスの有機農業団体のソイル・アソシエーションは,独自に有機施設栽培基準を2012年に制定している(環境保全型農業レポート「No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準」)。その記事のなかでEUが有機の施設栽培基準を検討していることを紹介した。

また,IFOAM(国際有機農業運動連盟)に加盟しているEUの国々の有機農業団体は,IFOAMのなかで,EUの有機農業団体に共通する問題を論議する「EUグループ」を結成している。IFOAMのEUグループもEUの有機農業規則の温室栽培に関して,方針文書(position paper)を2012年と2013年に刊行している。これは有機の温室栽培についてのポイントをまとめたもので,EUの欧州委員会が有機農業規則を改正する際に考慮してくれることを念頭に置いている。

EUの欧州委員会は,有機農業規則の問題点や改正について技術的アドバイスをえるために,「有機生産に関する技術的アドバイス専門家グループ」(EGTOP : Expert Group for Technical Advice on Organic Production)を設置している(以下,グループと略称する)。グループは有機の温室栽培の問題点について論議を行なって,下記の報告書を作成した。その概要を紹介する。

European Commission, Direct-General for Agriculture and Rural Development. EGTOP (June, 2013) Final Report On Greenhouse Production (Protected Cropping). 37p.

本報告書は,ソイル・アソシエーションの基準よりも多くの問題について具体的な検討を行なっている。欧州委員会は本報告書をベースにして,有機農業規則の改正案を作成して提案することになろう。その案は有機農業規則の他の部分の改正案と合わせて,2014年3月に提案されると予測されている(IFOAM EU press statement: IFOAM EU position on the organic regulation review )。

EUの温室生産に関する報告書の概要を述べる前に,IFOAM EUグループの有機温室栽培についての方針文書の要点を紹介する。それによって,EUとIFOAMの両者が問題にしているポイントを理解しやすくなると考えられる。

IFOAM EU Group: Position paper on organic greenhouse production (Updated- February 2013) 7p.

●IFOAMのEUグループによる有機温室栽培についての方針文書

この方針文書は有機農業規則の具体的な改正案を提案する形をとっておらず,有機農業規則が考慮してほしいポイントを表形式で簡単にまとめている。その主要ポイントを表1に示す。

 

●施設栽培の定義

欧州委員会のEGTOP(「有機生産に関する技術的アドバイス専門家グループ」)は,IFOAM EUグループの方針文書を読んだ上で参考にしているが,それに束縛されることなく,論議を行なって,報告書をまとめている。

ソイル・アソシエーションの基準は,施設栽培(保護栽培:protected cropping)を,ガラス温室,耐久性ポリトンネルや,一時的ポリトンネルのような構造物内での作物栽培のこととした。

これに対して,EGTOPは,施設栽培(保護栽培)を,下記に分類した。

・恒久的な温室(ガラス室とプラスチックハウス)とプラスチックトンネル(人間が立って歩けるもの)

・一時的な被覆栽培(プラスチックのシート,プラスチックホイル,起毛した合成繊維,網などによる被覆で,人間が立って歩けないもの)

・キノコ培養(施設内での)

EGTOPは恒久的構造物内での作物やキノコの栽培,つまり,温室栽培について,現在の有機農業規則に不備があるので,温室栽培での問題を論議した。そして,栽培シーズンに先立った作物生育の促進や,天候または害虫から作物を保護するのに用いられている一時的にしか被覆しない被覆栽培は,基本的には露地栽培の一部であり,現在の有機農業規則に準ずるべきだとした。なお,「保護栽培」を「作物保護」(作物を病害虫や雑草から保護すること)と混同しないよう,注意を喚起している。

●土壌肥沃度管理

(a) 養分供給源: 有機の温室栽培の作物には,輪作による養分供給に加えて,EUの「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書にリストアップされている,有機認証された農場や食品工場などの生産した製品や原料に由来する堆肥や厩肥などの緩効性の有機質資材を主体とし,必要な場合は,同付属書にリストアップされている速効性資材(有機質肥料,家畜尿など)を補完する。緩効性養分源の最低割合は高く設定すべきであるが,この限界値をいくつにするかにはさらに研究が必要であり,現時点では設定しない(注:表1の「施肥」の項にあるIFOAM EUグループの具体的数値を不採用)。

(b) 養分バランスの計算: 堆肥や厩肥のような緩効性有機質資材の窒素無機化速度の予測は容易ではなく,その放出パターンは必ずしも作物の要求と同調しないため,有機質資材の施用量を決めることが難しい。有機の温室栽培でも不適切な施肥管理を行なっていると養分過剰が生じやすい。このため,適正施肥量を概算するために,EGTOPは,養分バランスを計算することを勧告する。輪作における養分(特にN,PとK)バランスを計算することは難しいが,有機質資材の標準的養分含量や作物の標準的養分吸収量などを用いて,養分のインプット−アウトプットの差を概算することを勧告する。養分バランスの計算結果を踏まえて,速効性の有機質資材の施用を行なうことが必要である。より正確な評価には,前回までの養分施用量の残存量や,作物残渣からの放出量も必要だが,とりあえずは,そうした考慮をしない概算であっても過剰施肥の防止に役立つ。ヨーロッパ全体では多様な有機の温室生産システムが存在するため,EGTOPは特定の施肥レシピを勧告することはしない。

(c) 過剰養分の洗浄の禁止: 不適切な養分管理によって養分集積が生じてしまった場合,過剰養分を洗い流すために土壌に灌漑することは,有機の原則に合致する方法として認められない。問題が起きてしまった場合には,輪作作物やカバークロップによる養分収奪など,有機の原則に合致した解決策を使用しなければならない。

●作物保護

(a) 予防的防除: 有機温室栽培における病害虫防除は,抵抗性品種の選択,抵抗性台木への接ぎ木,作物栽培技術と温室大気条件の管理(大気の湿度など),抑止型堆肥の利用による土壌の病原菌抑制力の強化などによる予防的防除が中心である。これらを用いることによって,有機栽培で認められている熱処理による土壌殺菌の必要性は大幅に減らすことができる。

(b) 作物輪作: 温室で作物輪作を実施することが望ましいが,温室栽培の作物は,3つの科,つまり,ナス科(トマト,トウガラシ,ナス),ウリ科(キュウリ,メロン,ズッキーニ)とキク科(多様なレタス)に属していて,生産対象作物で輪作することは実際には難しい。EUの「有機農業規則No.834/2007」の第12(b)条,すなわち,「土壌の肥沃度と生物学的活性は,マメ科や他の緑肥作物を含む複数年にわたる作物輪作や,堆肥化したものが望ましいが,有機生産からの家畜ふん尿または有機質資材の施用によって,維持・増進しなければならない。」を変更し,「有機農業規則No.834/2007」の第5(f)条,すなわち,「病害虫に抵抗性を持つ適切な種や品種の選択,適切な作物輪作,機械的・物理的手法,害虫の天敵に保護などの予防的手段によって植物の健康を維持すること」と,第12(b)条の根底にある概念を踏まえて,作物輪作の概念を,マメ科作物も加えた短期間の緑肥作物を含む,時間的空間的に植物の多様性を高めた輪作を含められるものに変更することを勧告する。

(c) 土壌伝染性病害虫の防除: EGTOPの意見は,短期の緑肥作物を含む輪作を初め,予防的方法で土壌伝染性病害虫を防除するのを基本にすべきとするものだが,土壌伝染性病害虫がいったん集積してしまった場合には,カラシナなどを鋤込んで,その分解で生ずる殺菌作用のある成分で土壌を「くん蒸」する「バイオくん蒸」,太陽熱消毒,浅い土壌(最大の深さ10 cm)の高温蒸気処理も,有機農業の目的,基準や原則に沿っており,承認すべきである。ただし,深い(10 cmを超える)土壌の高温蒸気処理は,例外的な事例(ネマトーダによる甚大な感染など)に限って認めるべきである。その実施は,栽培者が文書化して申請し,管理当局または監督組織からの特別許可を必要としなければならない。生育培地の蒸気殺菌は認めるべきではない。

(d) 天敵(益虫)の使用: 益虫は作物害虫の天敵と同義語である。天敵は法律で植物保護製品として認められているのに対して,益虫は法律で植物保護製品として認められていない天敵作用をもった,昆虫,ダニやセンチュウなどである(害虫防除効果のある微生物は含まない)。

露地では自然界に存在する益虫が害虫個体群の制御で重要な働きを果たしている。温室でも,益虫が通気用開口部を通して行き来できる場合には,作物の間や温室の直ぐ外側にその好む植物を植えれば,天然の益虫を温室内に誘導して,露地と似た状況をある程度再現できる。能動的には定期的な放飼を行ない,温室内外に生息地を強化することによって,害虫防除効果の発揮を期待できる。有益生物の使用は,有機農業の目的,基準や原則に沿っており,制約すべきものではない。しかし,益虫について特別の法的規制をもうけることは不要である。

(e) 植物保護剤: 有機温室で使用可能な植物保護剤(農薬)について,露地の有機生産で認められているものを認め,温室栽培については特別な規制は不要である。

(f) 洗浄・消毒剤: 温室栽培では温室自体(構造体,ガラス,プラスチック覆い物),温室の備品(ベンチ,テーブルなど),温室装置(トレー,コンテナ,ポットなど),道具(ナイフ,ハサミなど),灌漑システムと灌漑水を洗浄・消毒することが大切である。EUの「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書には家畜生産で使用の認められた洗浄や消毒用の薬剤などの製品がリストアップされているが,作物生産用のもののリストは現在ない。EGTOPは,洗浄および消毒用の薬剤は温室栽培用だけでなく,作物生産全般用に承認する製品のリストを,付属書をベースにして作成すべきと考える。その候補として,下記を確認した。

・制約なしで使用可能:エタノール,酢酸,クエン酸,過酸化水素,過酢酸,オゾン

・限定条件下で使用可能:イソプロパノール,安息香酸,炭酸ナトリウム過酸化水素化物,次亜塩素酸ナトリウムとカルシウム,二酸化塩素

●マルチ

マルチ(環境のマイナス影響から保護するために,作物体周囲の土壌に置かれる被覆物)として,下記の素材を承認すべきとする。

(a) 「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書で承認されている肥料,土壌改良材を使用したマルチ。

(b) ポリエチレンやポリプロピレン製の非生物分解性マルチ用プラスチックシートは有機農業で認めるべきである。ただし,シート/フィルムの質や強度が許すなら,次の作期に再利用しなければならない。さもなければ回収して,可能な限りリサイクリングしなければならない。

(c) 紙製やデンプンベースのプラスチック製生分解性マルチ用シートは,その全ての成分が,「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書の規定に合致する限り,認めるべきである。このためには,シートの製造に要した添加物(接着剤や色素など)が化学合成のものや,デンプンがGM作物(トウモロコシ,ジャガイモなど)に由来するシートは認められない。

●灌漑・排水システム

EGTOPは,水の効率的使用や水のリサイクリングは有機農業の重要な問題であることに同意するが,温室栽培に特有の問題ではない。EGTOPは,有機農業全体(温室栽培,露地栽培,家畜飼養と加工を含む)における雨水収集システムを含む,当該水使用についてのガイドラインの策定するよう勧告する。

●光,温度,エネルギー使用量の制御

(a) エネルギー使用: 有機の温室生産では,他の有機システムと同様,できる限りエネルギーの使用を少なくしなければならない。EGTOPは,霜から作物を保護するために,5℃までの温室の加温を無条件に認めることを勧告する。より高い温度への加温は,作物と関連させて認めるようにする必要がある。その際,温室に断熱を施してエネルギー使用量をできるだけ節減するとともに,加温に再生可能エネルギーをできるだけ使用することが大切である。5℃よりも高く加温しようとする温室事業者は,エネルギー使用記録を保持し,エネルギー消費量の節減や,化石エネルギーの再生可能エネルギーへの代替について,温室管理プランを策定して実施することを勧告する。これによって,事業者がエネルギー使用について認識を高めることが必要である。

有機の温室におけるエネルギー使用量に上限を設定することが望ましいが,現時点ではこの科学的論拠がない。IFOAM -EUグループは,表1の「毎年のエネルギー分析」の項で,年間130 KWh/m2を超える非再生可能エネルギーや化石燃料を使用している事業体には,エネルギー分析を要求している。しかし,この上限値に科学的論拠が示されておらず,EGTOPはこの値の適格性を評価できない。

(b) : EGTOPの意見は,通常の太陽光が通常の作物生育に不十分な場合には,人工光照明は有機農業の目的や原則に沿うとするものである。ただし,人工光照明は雲で覆われた暗い日に日長を延ばすために,秋,冬と早春にだけ許すものとしなければならない。その際の人工光を含めた照度は,夏至(6月21日)における当該国の光合成有効照度を超えてはならず,日長時間は人工光を含めて昼12時間を超えてはならない。人工光は,ポットでの苗やハーブの生産,ハーブの促成栽培や,開花の光周期誘導のために使用するのでなければならない。

(c) 温度: ヨーロッパでは気候が大きく異なるため,EUのいろいろな地域の温室栽培での加温に同一基準を適用するのは適切でない。エネルギー使用一般について上述したように,温室事業者はエネルギー使用問題を認識した上で,エネルギー消費量を最小するか,再生可能エネルギーの使用を最大化する努力を行なわなければならない。

●二酸化炭素施用

密閉温室では,温室内の二酸化炭素が光合成で使われることによって,その大気濃度が通常の濃度よりも低くなり,そのことが生育や収量に大きなマイナス影響を与えている。大気濃度を超える1200 ppmまでの二酸化炭素集積は,乾物生産量を20〜30%増加させることが観察されている。

二酸化炭素施用は冬よりも夏に有効なため,二酸化炭素を得るために,夏に化石燃料を燃焼させる傾向がある(慣行と有機の温室の双方で)。EGTOPは有機温室栽培での二酸化炭素施用を認めるが,二酸化炭素を得る目的で,夏期に化石燃料を燃焼させる傾向には懸念を有している。化石燃料の燃焼で生じた熱を,夏期とはいえ涼しい北ヨーロッパなどでは,熱湯としてバッファータンクに貯蔵して夜間に利用するか,土壌深部に貯蔵して数か月後に使用する方策もある。

二酸化炭素の植物吸収効率は比較的低く,しかも温室作物のライフサイクルはせいぜい数か月と短いため,固定された炭素は短期間に再放出されてしまう。つまり,温室作物は気候緩和効果を有していないので,二酸化炭素のロスを最小にしなければならない。EGTOPは,メタン発酵などの自然プロセスの副産物として生産された二酸化炭素や,バイオマスの燃焼で生じた二酸化炭素の利用を支持する。

風力,水力や太陽光発電パネルのような再生可能エネルギー源を使って得た電気や熱を,遠く離れた温室に供給する場合,二酸化炭素を得ることも念頭に置いて,バイオマスを利用した共通のバイオガスプラントを設置して,電気,熱に加えて,二酸化炭素を離れた温室に供給するシステムが望まれるようになろう。長期的には,バイオマス資源だけを二酸化炭素施用のために使用することを勧告する。

●生育培地

(a) 生育培地での作物栽培の承認: 可食部を収穫する有機の野菜や果実は土壌で栽培した作物体に由来し,生育培地で育てた作物に由来するものであってはならない。しかし,EGTOPは,苗や移植用作物,および,育てているポットやコンテナとともに消費者に販売するハーブや観賞植物などは,生育培地で栽培することを承認するよう勧告する。

なお,フィンランド,スウェーデン,ノルウェーやデンマークは,隔離ベッドで生育培地を用いて収穫した野菜を,有機野菜として認める法律を施行している。これは有機農業の目的や原則に沿うものではなく,こうした方法での有機生産が現状以上に拡大することに断固反対する。それゆえ,EGTOPは,2013年よりも前にこれらの国で隔離ベッドを使用した生産が認められた農場のみに将来ともその使用を認めるが,そうした経営体であっても,その後に拡大した隔離ベッドでの生産は有機と認めるべきではないと勧告する。

水生植物(クレソンなど),キノコ,スプラウトなど,自然には土壌で生長していない植物,菌類や藻類についても,EGTOPはその土壌なしでの生産を承認すべきであると勧告する。

(b) 生育培地素材: 生育培地の素材については次を勧告する。

  • 「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書にリストアップされている全ての素材(ピートを含む)を,有機の生育培地素材として認めるべきである。
  • ピート(泥炭)は「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書で,園芸用にのみ使用が認められていて,耕地土壌などの土壌改良材として使用することは認められていない。生育培地の素材としてピートは,「生育培地に容積で最大80%まで」との制限を加えなければならない。また,EGTOPは,リサイクルしたピートに限って,露地栽培土壌での土壌改良材としての利用を提案する。

なお,嫌気的な湿地に堆積しているピートに固定されている炭素を二酸化炭素に戻すのをできるだけ減らすために,EUは,耕地での土壌改良材としてのピート使用を禁止している。しかし,アメリカやカナダは,有機農業でピートの使用を何ら規制していない。

  • 農場が自ら使用するために,自農場の認証された有機区画の土壌を生育培地(苗床など)に混入して良いとすることを勧告する。
  • 「有機農業実施規則No. 889/2008」の付属書にある「石粉および粘土」は,「石粉(砂を含む)および粘土」に改正すべきである。

(執筆者注)「石粉」は,氷河の前進後退で岩石から生じた粉状に破壊された粒子が堆積したもので,降水量の少ないヨーロッパでは多量のミネラルも残存していて,堆肥などと混合して有機農業で利用されている。

(c)生育培地のリサイクリング: ポット詰めで余った生育培地や,販売しなかったポット植えの植物ないし育苗トレイなどに使用した生育培地は,リサイクルすべきであると勧告する。

●転換期間

温室での土壌栽培での転換期間は,露地栽培と同じとすべきであると勧告する。また,温室で土壌との接触なしに生育培地を用いて,移植用植物,ポット植えのハーブや観賞植物を有機生産する場合には,汚染のリスクを回避するために,有機生産を開始する前に,温室全体や装置を十分洗浄しなければならない。洗浄手段は,事前に監督(認証)組織と合意した管理プランにしたがって実施しなければならない。この条件を満たしたなら,転換期間は不要であると勧告する。

なお,転換期間一般は,有機規則全体の見直しの際に再検討すべきであると提言する。EUのプロジェクトチームが有機農業規則の旧法(No. 2092/91)の問題点を点検した下記報告書でも,温室や露地の作物について現行よりも短い転換期間(おそらく1年間)が勧告されたことも考慮されるべきである。Schmid, O., B.Huber, K.Ziegler, L.M.Jespersen, J.G.Hansen, G.Plakolm, J.Gilbert, S.Lomann, C.Micheloni, and S.Padel (2007) Analysis of EEC Regulation 2092/91 in relation to other national and international organic standards. 144p.

●おわりに

温室での有機野菜などの生産が増えてきて,域内外での取引が増えて,その基準統一の必要性が高まっており,EUは有機温室栽培についての規則の整備を行なおうとしている。日本では有機作物の栽培面積の伸びが停滞しているが,温室での野菜などの生産は有機農場の経営にとって大きな部分を占めているケースが多い。

有機の温室栽培を日本で健全に発展させる観点から,「有機農産物の日本農林規格」を読むと,意外だが,「輪作」という用語がないことに気がついた。輪作を包含した形で,「生育する生物の機能を活用した方法」(第4条の「ほ場における肥培管理」),「作目及び品種の選定」や「有害動植物が忌避する植物若しくは有害動植物の発生を抑制する効果を有する植物の導入」,(第4条「ほ場又は栽培場における有害動植の防除」)と表現されている。

このように「輪作」という用語を基準で用いていないのは,日本では単作でも何ら問題のない水稲と,輪作をしないと必ず問題が生ずる畑作物とがあり,輪作という用語を用いずに,その両者を包含する形で基準を作ったと理解される。それによって条文としては簡潔になったと評価されよう。しかし,それによって,畑作物では輪作の必要性の認識がかって薄まってしまったともいえよう。

水稲などの水生作物と,畑状態土壌で栽培するその他の作物とに分けて,水稲以外の作物では輪作の必要性をしっかり強調した条文が望ましい。その際,伝統的な輪作だけでなく,多様な機能を持ったカバークロップの短期導入を含めた輪作による土壌肥沃度の維持増進や,病害虫防除の必要性を認識できるようにすべきであろう。現実には,温室で野菜栽培を連作で行なって,土壌伝染性病害虫が蔓延しているケースが現実に少なくない。それを土壌くん蒸剤の代わりに,太陽熱消毒や蒸気消毒で防除して,再び連作をくり返すのは,正しい有機農業とはいえない。有機の温室栽培を健全な形で発展できるように,条文を変えることが望まれる。

また,EUは苗,ポット植えの観賞植物,水生作物の培地を用いた,土なし栽培を認める方向に動き出しているが,日本でもそうした特例を加えて,有機栽培をワサビなどにも拡大できるようにすることも検討する必要があろう。