●サツマイモの窒素吸収量の不思議
サツマイモへの標準的な施肥量は,堆肥1tに加え,窒素−リン酸−カリで3−10−10kg/10aである。平均的な牛ふん堆肥を使った場合には,堆肥の分解で放出される養分を合わせて,化学肥料相当量でおおよそ5.7−16.2−19.7kg/10aの養分が供給されている。全国の農業関係研究機関が養分収支を調査した結果によると,サツマイモ(7例)の平均収量は乾物で0.85t/10a(現物で2.66t/10a)で,10a当たりの三要素吸収量は,作物体全体で11.2−13.4−15.8kg/10aとされている。養分の吸収量と供給量を比較すると,サツマイモは,供給量よりも5.5kg/10aも余分に窒素を吸収していることになる。この窒素はどこから来たのだろうか? この基本的な問題の解明は,わが国ではこれまで放置されていた。
(独)九州沖縄農業研究センターの畑作研究部,安達克樹生産管理研究室長らの研究グループがこの疑問を解明しつつある。安達氏らがこれまでに得た知見を紹介する。
●茎の中に共生していた窒素固定菌の存在
安達氏らは,サツマイモ(ベニオトメ,コガネセンガン,シロユタカ)の茎の表面に生息している微生物をまず薬品で殺した。そして,茎をすりつぶして,その一部を流動性の無窒素寒天培地に接種したところ,窒素固定細菌が分離された。一般の動植物や微生物は,空気中に多量に存在する窒素ガスを直接利用したタンパク質などの合成を行なうことはできない。しかし,一部の細菌だけが窒素ガスを直接利用することができ,これらの細菌は窒素固定細菌とよばれている。安達氏らが分離した細菌はクレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)と同定された。この細菌がサツマイモの茎の中に共生していることは,既にブラジルの研究者によって見つけられていた。しかし,サツマイモ(コガネセンガン)を用いて,再度分離を行ったところ,サツマイモからはこれまでまだ報告のないパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)が分離された。
興味あることに,上記の窒素固定細菌と同時に窒素固定能力のない細菌も分離されたが,両者を一緒に培養すると,窒素固定菌単独の場合よりも,窒素固定能力が約2倍に高まった(図参照)。
サツマイモの茎の中における窒素固定細菌の分布を調べたところ,茎の先端部では少なく,地際部に向かって多くなっており,しかも,ところどころに不連続的に塊状に存在していることが推定された。
現在までに行った実験は分離した細菌の窒素固定能を調べたものであり,さらに今後これらの細菌がサツマイモの茎の中でも窒素固定を実際に行っていることの証明が残されている。しかし,これまでの研究結果からその可能性が十分うかがえ,研究の進展が期待される。
図 内生窒素固定細菌パントエア・アグロメランスと非窒素固定性内生細菌エンテロバクター・アズブリエの共存培養による窒素固定活性の向上効果
注:半流動改変レニー培地にパントエア・アグロメランスのみ(単独培養),パントエア・アグロメランス+エンテロバクター・アズブリエ(共存培養)をそれぞれ一定菌量接種して36時間培養後,窒素固定活性を調べた.(九州沖縄農業研究センターニュース,9号(2004年3月)より)