有機農業といっても,外部からの有機物すらろくに施用しないものから,購入した有機質肥料や堆肥を多量に施用する集約的なものまで,いろいろなパターンが存在する。しかし,経営面積の狭いわが国では,単収を上げるために,集約的な有機農業が行われているケースが多い。集約的な有機農業を行っている土壌を調査した2つの結果を紹介する。
●愛知県での調査事例から
一つは,愛知県における有機栽培の露地畑7,施設畑2と水田2か所の土壌の化学的性質を,対照とする近隣の慣行栽培土壌ないし無作付土壌と比較した結果である(瀧勝俊・加藤保(1998).有機農業実践ほ場における土壌の特徴.愛知県農業総合試験場研究報告.30:79-87)。
水田を除く9か所の土壌で比較すると(図参照),有機栽培土壌では対照土壌よりも,土壌の全炭素含量と全窒素含量が高く,固相率が低い傾向が明らかに認められた。これは有機質資材の施用が土壌有機物含量を高めて,団粒化を促進したためと推定される。しかし,問題なのは,有機栽培土壌の約半分で対照土壌よりも,塩基飽和度,交換性カリやトルオーグ態リン酸が大幅に増加していることである。これは有機栽培土壌でも養分の過剰投入が行われていることを示している。
図 愛知県における有機および慣行栽培土壌の化学的性質の比較(瀧・加藤(1998)から作図)
●京都府美山町での調査報告から
もう一つは,京都府北桑田郡美山町の転換畑で野菜を有機栽培しているハウス土壌を分析した事例である(堀兼明・福永亜矢子・浦嶋泰文・須賀有子・池田順一(2002).有機栽培農家圃場の土壌の実態.近畿中国四国農業研究センター研究報告.1:77-94.)。ほ場によって作目が異なるが,コマツナ,ミズナ,ホウレンソウ,トマトなどを組み合わせて,いずれのハウスでも年に4〜6作栽培している。いずれの土壌でも複数の項目で,化学肥料を過剰施用した土壌と同様に,土壌診断基準値を超える養分の過剰蓄積が起きていた(表参照)。これは各作に作物の吸収量を超える養分をボカシ肥料や堆肥でくり返し施用した結果である。
表 有機栽培の野菜転換畑ビニールハウス土壌(深さ0〜15cm)の分析値
●コーデックス委員会での有機農業基準
「有機農産物の日本農林規格」のベースになっているコーデックス委員会(WHOとFAOの合同による国際的な食品の規格やガイドラインを定める委員会)で承認された国際的な有機農業基準「オーガニックに生産した食品の生産,加工,表示及び流通のためのガイドライン」では,有機農業は,環境にやさしい農業の一つであり,地域資源を循環利用しつつ,農業生態系全体の健全性を促進・向上させる生産管理システムであると,概念規定している。たとえ「有機農産物の日本農林規格」で許された資材しか使用していなくても,調査結果に示された土壌のように,養分の過剰集積を起こしていたのでは,生産の持続可能性が損なわれるだけでなく,過剰な養分が排出されて環境を汚染することになってしまう。集約的な有機農業における養分管理の適正化が望まれる。