No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造

●背景

 2009年に全国の畜産経営体数の1.9%に苦情が寄せられたが,苦情の56.2%は悪臭に関連したものであった(農林水産省畜産企画課 (2009) 畜産経営に起因する苦情発生状況)。悪臭の大部分はふん尿に起因し,ふん尿の堆肥化,浄化処理,散布などの過程で悪臭発生を低減させることが大切になっている。これまでにもいろいろな対策技術が開発されて実践されているが(家畜ふん尿の悪臭対策技術については次を参照:福森功 (1993) 脱臭の原理と方法.農業技術大系 畜産編 第8巻環境対策 p.基礎編ふん尿処理・基本101〜111.農文協),より安価で手間のかからない技術が望まれている。

 また,製造した家畜ふん堆肥に含まれている窒素,リン酸,カリの構成割合が,作物の養分要求に合致していないという問題がある。例えば,牛ふん堆肥ではカリが過剰なので,作物栽培に牛ふん堆肥を連用しているとカリ過剰が生じやすいといった問題が生じている。このため,牛ふん堆肥を粉末にして,カリの少ない油粕粉末を添加して,3要素の組成を作物要求に合致するように調整した上で,取り扱い易いペレット状に成型した堆肥(成分調整成型堆肥)技術も,九州沖縄農業研究センターで作られている(環境保全型農業レポート.2004年12月8日号.成分調整をして成型した家畜ふん堆肥の製造と利用技術)。しかし,この成分調整成型堆肥の製造では,油粕費用として窒素1 kg当たり1,100円以上を要するので,より安価な代替技術が望まれている。

 なお,「肥料取締法」によって,普通肥料の油粕粉末などと特殊肥料の堆肥などを混合して販売することが禁止されているが,例外として腐熟促進のために普通肥料を特殊肥料に混合することが認められている。上記の成分調整成型堆肥の場合,油粕粉末の混合は牛ふん堆肥の腐熟促進のためでなく,成分調整のためであり,販売すれば肥料取締法違反となる。ただし,油粕粉末は普通肥料であっても,油粕の塊はそのままでは微生物分解が遅いので特殊肥料である。このため,生油粕(油粕塊)を牛ふん堆肥に混合した状態で粉砕した場合は違法でない。こうしたややこしい問題もある。

 こうした背景から,九州沖縄農業研究センター(九州沖縄農研)は,牛ふん堆肥製造時に,完成した牛ふん堆肥を悪臭成分の吸着材として使用し,安価で特段のメンテナンス不要な悪臭軽減装置を開発し,さらに悪臭成分のアンモニウムを捕捉して窒素濃度の高まった堆肥を,油粕の代わりに使用して,成分調整型堆肥の製造コストを引き下げて,その利用技術も開発した。

●堆肥への悪臭成分の吸着による窒素付加堆肥の製造技術

 この技術の概要を,次の資料に基づいて紹介する。

 (1)田中章浩・薬師堂謙一・嶋谷智佳子 (2003) 堆肥吸着による脱臭システム.平成14年度九州沖縄農業研究成果情報

 (2)九州沖縄農研a.堆肥脱臭による臭気低減化と窒素付加堆肥の製造.

 (3) 田中章浩 (2009) 堆肥脱臭による臭気低減と高窒素濃度堆肥の製造.農業技術大系.土壌施肥編 第7-1巻(資材の特性と利用)p.資材64-1-29-2〜64-1-29-8

 (4) 田中章浩(2009) 出来上がり堆肥による悪臭の除去と堆肥の窒素成分調整.におい・かおり環境学会誌. 40 (4) 229-234

(1)製造システム

 研究対象としたのは,オガクズと混合した乳牛ふんを原材料にして,ローダ切返し方式の通気型堆肥舎での堆肥化過程(図1)である。原材料を1次発酵槽に入れ,1週間ごとにローダで切り返して,別の1次発酵槽に移し,4つの発酵槽で4週間かけて1次発酵を行なう。その後, 3か月以上2次発酵を行なって,牛ふん堆肥を完成させる。これは一般的な堆肥製造プロセスである。

 この製造プロセスを冬期に実施した場合,1次発酵過程におけるアンモニアの発生量が堆肥原材料1トン当たり4週間で925 gであった。その発生経過は,1週目81%,2週目18%,3週目1%,4週目0.1%で,1週目と2週目を合わせると約99%に達した(表1)。悪臭成分はアンモニアだけではないが,実際の臭い程度からみて,他の悪臭成分も類似の経過をへていると推定し,1週目と2週目のアンモニアなどの悪臭成分の捕集を試みた。

 排気を捕集するために,1週目と2週目の1次発酵槽を密閉構造とした。それにともなって生ずる結露に耐えられるように,コンクリート壁の上に木製骨組みを組み,壁を耐水・耐腐食性のある材料とした。2つの1次発酵槽内の排気をターボファンで吸い込み,別々の悪臭吸着槽に吹き込むようにした。2つの悪臭吸着槽は1次発酵槽と同程度の大きさで,堆肥化原材料と同体積の6か月程度をかけて完成させた堆肥を入れおき,発酵槽の床面から空気を吹き込んで,堆肥の山をくぐらせて上昇させた。これによって,揮散したアンモニアの98%が捕集された(表1)。ただし,一次発酵槽から悪臭吸着槽までの通気パイプ内で臭気が冷却されて,アンモニア濃度800 ppm程度の結露水が発生する。結露水は,夏期には堆肥化3,4週目の材料,冬期には無臭化槽内の吸着堆肥に混合して有効利用する。

 悪臭吸着槽でアンモニアなどを吸着した直後の堆肥は,まだアンモニア臭を発していていた。そこで,アンモニアなどを吸着した堆肥を無臭化槽に1週間入れて,弱く通気しながら,堆肥に生息している硝化細菌によってアンモニアを硝酸イオンに酸化させた。1週間でアンモニアの90%が硝酸イオンに酸化されて,硝酸イオン濃度の高い堆肥ができた。これによってアンモニアの揮散がなくなり,堆肥のpHも低下した。この状態の堆肥は土壌に施用できる。この後,弱く通気した状態で堆肥を貯蔵しておくと,堆肥の水分含有率が50%と低く,好気性が維持されるため,硝酸イオンが嫌気的条件で活動する脱窒細菌によって,脱窒されることはほとんどなかった。そして,堆肥の有機物が有機栄養微生物に徐々に分解されるのにともなって,硝酸イオンが有機栄養微生物に取り込まれて,タンパク質や核酸などの細胞成分に合成されて,有機態窒素に変換される。こうして,硝酸態窒素や有機態窒素の濃度が高まった窒素付加堆肥ができあがった。

 通常の牛ふん堆肥の標準的価格はトン当たり3500円程度だが,これに脱臭経費を加算した堆肥価格は,窒素負荷堆肥が乾物で窒素4%を含有するとして,7000円/t程度となり,この価格以上で販売すれば脱臭経費を回収できることになる。通常の牛ふん堆肥に比べて高価格と思えるが,窒素負荷堆肥には通常の堆肥よりも高濃度の窒素,リン酸,カリが含まれ,3要素の化学肥料換算価値は約10,600円/tとなる(田中,2009)。このため,この分の化学肥料を減肥できるので,堆肥価格(7000円/t)と化学肥料換算価格(10,600円/t)の間で価格決定をすれば,畜産側と耕種側の両者にメリットが生まれることになる。

(2)脱臭効率

 この堆肥脱臭システムは,アンモニアやイオウ化合物を高率で除去し,除去率は季節によってあまり変動せず,年間を通じて安定した除去率を示した(図2)。しかし,イソ吉草酸などの低級脂肪酸の除去率は60%以下と低く,プロピオン酸ではわずかながら増加する傾向も見られた。だが,好気的な堆肥化過程では低級脂肪酸の生成が大きな問題となるケースは少ない。このため,通気や切り返しによって好気性を維持すれば,実用的な脱臭システムとして使用できる。

●窒素付加堆肥の利用技術

 この堆肥脱臭技術で生産された窒素濃度が高められた堆肥は,窒素付加堆肥または高窒素濃度堆肥と呼ばれる。そして,作物要求と比べると,牛ふん堆肥は3要素のなかでカリを相対的に過剰に含有しており,窒素濃度を高めた牛ふん堆肥は,通常のものよりも養分バランスが良くなった成分調整型堆肥でもある。

 この窒素付加牛ふん堆肥の利用技術の概要を,次の資料に基づいて紹介する。

 (1) 荒川祐介・田中章浩・原口暢朗・草場敬・山田一郎・薬師堂謙一 (2008) 速効性の窒素成分を多く含み,窒素とカリの養分バランスが良い窒素付加堆肥の特性.平成19年度九州沖縄農業研究成果情報

 (2) 荒川祐介・大津善雄・藤山正史 (2009) 成分調整成型堆肥を用いた諫早湾干拓地での春作バレイショの減化学肥料栽培.平成20年度九州沖縄農業研究成果情報

 (3)荒川祐介・田中章浩・原口暢朗・草場敬・村上尚穂・田中修作・岩本孝夫 (2010a) 窒素付加堆肥の窒素肥効率と野菜栽培への利用.平成21年度九州沖縄農業研究成果情報

 (4) 九州沖縄農研b.窒素付加堆肥の利用について

 (5)荒川祐介・田中章浩・原口暢朗・草場敬・薬師堂謙一・山田一郎 (2010b) 堆肥脱臭法により産生した窒素付加堆肥の利用に関する研究(第1報)コマツナ栽培試験による肥料効果の検証.日本土壌肥料学雑誌.81: 153-157

(1)窒素付加牛ふん堆肥の化学的特性

 副資材などによって異なるが,平均的には,全窒素が,通常の牛ふん堆肥では2%前後だが,窒素付加堆肥では約4%と倍増している(表2)。そして,通常の牛ふん堆肥では,無機態窒素は全窒素の数パーセントを占めるだけだが,窒素付加堆肥ではアンモニアを吸着して全窒素濃度を高めていて,無機態窒素が全窒素の60%前後を占めている。アンモニアのままではpHがアルカリ性になって,アンモニアは再び揮散してしまうが,硝化菌によって硝酸イオンに酸化されてpHが弱酸性になっているため,残存しているアンモニアも揮散せずにアンモニウムとして保持されている。

 硝酸イオンやアンモニウムが多量に存在しているために,窒素付加堆肥の電気伝導度(EC)が15 dS/m (mS/cm)前後の非常に高い値となっている。堆肥の電気伝導度は5 dS/m未満であることが望ましいとされている。窒素付加堆肥は,いわば家畜ふん堆肥に窒素肥料を混和したような組成で,電気伝導度が高い。これを土壌に施用すれば,堆肥中の無機態窒素が急速に作物に吸収されて,電気伝導度が直ぐに低下してゆく。他方,通常の家畜ふん堆肥では,作物に吸収されやすい無機イオンが少なく,作物の生育にともなう電気伝導度の低下は少ないので,高い電気伝導度の堆肥は作物生育に危険である。コマツナのポット栽培などで,窒素付加牛ふん堆肥を施用しても作物の発芽や生育に悪影響がないことが確認されている。

(2)窒素付加牛ふん堆肥中の3要素の肥効率

 窒素付加牛ふん堆肥中の3要素の作物による吸収割合の値は,適正な施肥量を計算する上で必要である。作物に施用した養分量のうち,作物に実際に吸収された割合を「利用率」という。実際の吸収量を計算する際には,養分吸収量から土壌養分由来の吸収を差し引くことが必要である。土壌養分由来の吸収量の概算値として,無肥料区あるいは3要素のなかの当該要素だけを施用しない区での吸収量が用いられることが多い。

 荒川ら (2010b) は,ガラス室内でコマツナを,施肥量をいろいろなレベルに設定して,約50日間ポット栽培し,3要素の吸収量を測定した。化学肥料窒素として硝安を使用したが,硝安の施用量を最大の599 mg N/ポットにしたときには,高い無機態窒素濃度のために,生育が若干阻害されて,窒素吸収量が低下した。ただし,ペレット化した窒素付加堆肥だけを599 mg窒素/ポット施用した際には,当初の無機態窒素量が,表2に示すように全窒素の6割程度で,約400 mg程度しかないため,生育や窒素吸収量が阻害されることはなかった(表3)。

窒素(N)肥効率

 硝安や堆肥で施肥したコマツナの窒素吸収量から,無肥料区の窒素吸収量を差し引いた値を,窒素投入量で除した値(C/A)のパーセント値が利用率である。599 mg N/ポット区を除く,3つの施肥レベルの硝安区の窒素利用率の平均値は96.3%で,堆肥区での窒素利用率はいずれも60%台であった。

 化学肥料養分の利用率に対する,堆肥養分の利用率のパーセント値を「肥効率」と呼ぶ。堆肥中の養分総量に肥効率を乗ずると,堆肥中の化学肥料相当養分量を計算できるという便利さがあるので,肥効率を計算する。硝安区での窒素の利用率96.3%で堆肥区の窒素利用率を除すと,堆肥窒素の肥効率が平均66.8%となった。

 表3では,化学肥料で3要素を全く施用しない無肥料区とともに,無窒素区(化学肥料で標準量のリン酸とカリを施用するが,窒素を施用しない区)を設けている。無肥料区よりも無窒素区の方が,通常,作物生育が促進されて,土壌から供給される無機態窒素の吸収量も増える。この無窒素区での窒素吸収量を用いて同様な計算をすると,堆肥窒素の肥効率の平均値は66.2%となり,無肥料区での値を用いた場合とほぼ同じ値となった。無窒素での生育量や窒素吸収量が無肥料区よりも増えるといっても,わずかにすぎなかったため,こうした結果になった。

リン酸とカリの肥効率

 では,堆肥中のリン酸やカリの肥効率はどうであろうか。無リン酸区や無カリ区は設けられなかったので,無肥料区での値を用いて,窒素の場合と同様に計算すると,平均で,堆肥のリン酸の肥効率は88.5%,カリでは92.8%となった。

 こうした結果から,窒素付加牛ふん堆肥の肥効率は,窒素で約70%,リン酸とカリではそれぞれ90%とするのが妥当といえよう。ただし,50日間栽培しただけのコマツナよりも栽培期間の長い作物の場合には,堆肥中の有機態窒素から無機化された窒素の吸収も加わって,肥効率は上昇するはずであり,肥効率は栽培条件で変わりうることに留意する必要がある。

 なお,荒川らは,窒素付加堆肥の3要素の肥効率について,窒素については実験値に基づいて70%としたものの,リン酸とカリについては,実験値からの計算値を用いず,リン酸で60%,カリで100%とした(荒川ら,2008の表1脚注)。しかし,他の資材で求められた既往の研究での値をアプリオリに用いるよりも,窒素付加堆肥での値を用いるべきであったろう。

(3)ペレット化した窒素付加牛ふん堆肥からの無機態窒素放出パターン

 ペレット化した窒素付加牛ふん堆肥から,無機態窒素はどのような経過をへて作物に供給されるのだろうか。荒川ら (2010a) は,窒素付加堆肥とナタネ油粕をそれぞれ混和した土壌を,ガラス繊維ろ紙で作った円筒に充填して圃場に埋設した。そして,経時的に掘り出して,円筒内の土壌中の全窒素量を測定し,その減少量を追跡した(図3)。

 円筒内土壌に当初から存在した無機態窒素やその後に無機化された窒素は,土壌水に溶解し,やがて円筒外部に移動して次第に減少する。つまり,円筒内土壌での全窒素の減少は,堆肥や有機質肥料の無機化による有機態窒素の減少ではなく,円筒内土壌から外に移動した量である。このため,荒川らは,円筒内土壌の全窒素の減少を「溶出」,当初の全窒素量に対する減少量の割合を「溶出率」と表現した。

 ナタネ油粕は微生物に無機化され,100日目あたりまで継続的に円筒内土壌から溶出された。これに対して,窒素付加堆肥では,速やかに土壌中に溶出され,1か月以降の溶出はほとんど認められなかった。

 このときに溶出した窒素の圧倒的大部分は,窒素付加堆肥に当初から存在していた無機態窒素で,堆肥の有機物部分の無機化によって生じた窒素のは事実上無視できると考えられる。例えば,堆肥や有機質肥料からの無機態窒素の放出経過を,細かい時間間隔で計算できる温度変換日数法を用いて追跡した結果(例えば,郡司掛則昭 (1999) 有機質肥料中心の施肥法.農業技術大系.野菜編.第4巻メロン類.p.基275〜278.農文協の第2図参照)をみると,通常の牛ふん堆肥では施用直後から無機態窒素を少しずつ100日間以上,ナタネ油粕では50日間にわたって長期に放出し続ける。しかし,通常の牛ふん堆肥からは,図3で問題にしたように30日間で無機化される量は少なく,当初から存在した無機態窒素量に比べてごくわずかにすぎない。

 では,なぜ無機態窒素が円筒内土壌から一気に溶出しなかったかといえば,畑状態で土壌水が多くなかったこと,ペレット(径5 mm,長さ8 mm)から無機態窒素が円筒内土壌に溶け出て,さらに円筒外に溶出するのにも時間がかかったことなどが考えられる。

 ところで,窒素付加堆肥中の窒素の肥効率の値が,窒素付加堆肥の全窒素に占める無機態窒素の割合(表3の実験では68%と66%:表2の荒川ら,2010b)と近似していることが注目される。そして,コマツナのように短い栽培期間には堆肥から無機化で生ずる無機態窒素がわずかにすぎないことから,生育期間の短い作物では,窒素付加堆肥に当初から存在した無機態窒素を利用していると考えられる。つまり,生育期間の短い作物では,全窒素に占める無機態窒素の割合を肥効率の近似値として使えるといって良いであろう。ただし,2作,3作と連用していけば,土壌に蓄積した堆肥から生成する無機態窒素量が次第に増え,土壌の窒素肥沃度を高めることになるはずである。

(4)窒素付加牛ふん堆肥による作物栽培

 荒川らは,コマツナ以外にも,上述したように窒素付加堆肥の3要素の肥効率を,窒素70%,リン酸60%,カリ100%として,窒素付加堆肥のみ,あるいはそれに化学肥料を補完して,(1)スイートコーン,冬どりハクサイ,秋レタスを栽培し(荒川ら,2008),(2) 冬・春ニンジン,スイカを栽培し(荒川ら,2010a),(3)土壌有機物の乏しい諫早湾干拓地で,窒素付加堆肥と牛ふん堆肥を混合して作成した成分調整成型堆肥(全窒素含量3〜3.5%)を乾物1トン/10aと硫安窒素(6 kg/10a)を併用して,春作バレイショを栽培した(荒川ら,2009)。そして,いずれの場合も,化学肥料によって3要素を施用した場合と遜色ない収量と品質が得られることが確認され,しかも,通常の牛ふん堆肥施用で起きるカリの蓄積も生じず,さらに,土壌の全窒素含量が増加して,次作以降の土壌の窒素肥沃度が向上することが期待できた。

 窒素付加堆肥中の当作の作物に吸収される窒素の主体は無機態窒素で,しかも硝酸イオンが多い。このため,窒素付加堆肥の施用は播種の直前に行なうことが必要で,施用後に播種までに長い時間が経過すると,降雨で硝酸イオンが流亡してしまう。

●窒素付加牛ふん堆肥の購入

 窒素付加牛ふん堆肥は,熊本県合志市にある堆肥センター(合志バイオX(エックス)堆肥センター)(5 mm径のペレットで,窒素は現物当たり3.5 %以上,乾物4%以上)から販売されている。堆肥窒素濃度の制御は難しいが,脱臭用堆肥の窒素濃度を随時分析しながら窒素付加堆肥の取り出しを行なうことで,ロット毎の窒素濃度が一定になるよう努めている。「肥料取締法」の堆肥の品質表示基準では,窒素について,全窒素量のパーセントを表示することが規定されている。しかし,通常の堆肥では無機態窒素量が多くないため,その表示は義務になっていない。窒素付加堆肥では無機態窒素濃度が高いため,その表示が不可欠であり,全窒素と無機態窒素の両含有量を表示して耕種農家の利便性を高めている。

●窒素付加牛ふん堆肥の有機栽培や特別栽培での利用

 有機農産物の日本農林規格では,家畜ふん堆肥について,家畜の餌の内容物や使用投薬は問題視せず,堆肥化段階での化学合成された凝集剤や悪臭防止剤の使用は不適合としている。この規定は,日本では有機畜産がほとんど存在しないので,欧米のように,有機飼養された家畜の排泄物に由来するものだけを有機栽培で認めると,日本では家畜ふん堆肥のほとんどが有機栽培に利用できなくなってしまうことを回避するための便法といえる(環境保全型農業レポート.No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性)。

 とはいえ,日本国内で販売する有機農産物には窒素付加堆肥を使用することができる。窒素付加堆肥に含まれる無機態窒素は,化学反応によって生じたものでなく,微生物によって生成されたものである。そして,特別栽培農産物の生産では,化学肥料窒素の使用量を地域の使用量の半分以下に削減することが求められている。窒素付加堆肥は,無機態窒素を多く含むとはいえ,化学肥料ではないので,その使用は削減対象外である。

 生育期間が短い作物や,初期生育を旺盛にすることが必要な作物を,有機栽培や特別栽培する際には,便利な資材であろう。