●“NetRegs”
どこの国でも,いろいろな産業活動には環境保全のために様々な法令が適用されており,業種によって,適用される法令が違ったり,同じ法令が適用されても規制基準値が違ったりしているのに加えて,しばしば法令自体が改訂されたり,新規法令が追加されたりしている。このため,企業は絶えず最新の環境法令に関する知識を把握していなければならない。大企業であれば,そのための専門スタッフや部署を有していようが,そうした対応の難しい中小企業が少なくない。
イングランド・ウェールズの環境庁,スコットランドの環境保護庁と北アイルランドの環境庁は,共同で中小企業向けに,製造業,鉱業,運輸業,農林水産業,リサイクル業,教育業など,112の業種別に,環境規制の概要,国およびEUの環境法令の全文,改訂など環境法令に関する今後の予定などの最新の話題を無料で提供し,法令を遵守して環境を保護するのに役立つホームページ(略称は“NetRegs”:Net Regulationsネット法令の意味)を開設している。環境法令の最新の変更は,ホームページ上で登録すれば,無料でE-メールで連絡してくれる。また,所管官庁,業界団体,ビジネスサポートなどへのリンクも張られている。
農業を含め,様々な業種における環境規制の全体の概要を容易に把握できる便利なツールになっている。
●農業の業種別ガイダンス
農業の業種別ガイダンスをみると,(1)農業者向け環境ガイダンス,(2)農業実施に必要な環境関連の許可,(3)農業廃棄物の扱い方の3つの項目が存在する。
(1)農業者向け環境ガイダンス
農業者向け環境ガイダンスでは,次の項目について,なぜ環境の汚染や破壊につながるのか,どのような許認可が必要か,関係法令,環境の汚染や破壊を最少にする優良行為規範の要点何か,優良行為規範全文へのリンクなどが掲載されている。
◆大気・騒音
スラリーや堆肥からのアンモニアの揮散,エネルギーおよび蒸気の製造,穀物乾燥機からの騒音と塵埃,悪臭,冷蔵(オゾン層破壊物質を使用した冷媒),ワラや切り株の燃焼
◆農地
栽培,農地土壌汚染,スラリーの農地散布・サイレージ廃液・固形堆肥,非農業起源の廃棄物の農地散布,下水汚泥の農地散布
◆資材と装置
ビジネスの革新(グリーンテクノロジー),肥料,飼料の給餌と貯蔵,機械と車両のメンテナンス,農薬,洗羊液(羊の洗浄液),サイレージ,オイルの貯蔵と使用,スラリーの貯蔵,化学薬品(色素,コーティング剤,薬品,農薬,写真用剤など)の使用,木材チップやワラを敷き詰めた家畜用屋根なし区画
◆廃棄物
農業廃棄物(家畜ふん尿など),農業廃棄物の埋設と燃焼,死体の廃棄・埋設・焼却,堆肥,農業廃棄物回収の免除,違法投棄場化,危険・特殊廃棄物,包装材
◆水
水の使用と取水,水系への排水,北アイルランドの「硝酸行動プログラム」とリン規則,イングランドとウェールズの「硝酸脆弱地帯規則」,スコットランドの「硝酸脆弱地帯」
これらの項目をみただけでも,イギリスでは日本に比べて農業においてはるかに多くの環境規制がなされていることがうかがえる。
(2)必要な許可
3つの国によって多少の違いがあるが,イングランドとウェールズの場合,基本的な環境法の一つである「環境許可規則」(Environmental Permitting Regulations)で,環境負荷の大きな施設を装備した事業を開始する際には,事前に許可を得ることが規定されているが,農業では,廃棄物としての家畜ふん尿の点から,下記の場合に許可が必要になる。
すなわち,体重30 kgを超える豚2,000頭,雌豚750頭,家禽(アヒル,七面鳥を含む)4万羽,を超える家畜を飼養する農場を新たに開設しようとする際には,事前に許可が必要である。牛の場合は十分な飼料生産圃場があるが,中小家畜では飼料生産をしない「工業的家畜生産」のケースが多いために,中小家畜で許可が必要になっていると理解される。
(3)農業廃棄物の扱い方
農業廃棄物というと,家畜ふん尿やワラなどをイメージするが,それらは原則として循環利用するためであろうが,農業廃棄物には位置づけられていない。
農業廃棄物としては,廃棄された機械,装置や車両,建築物廃材,廃棄包装容器,家畜治療薬容器,農業資材包装材,廃棄プラスチックフィルム,事務所からの蛍光灯などの廃棄物などが対象となっている。危険な廃棄物は,危険でない廃棄物と混じらないように分離して,農場内に一定量までは保持できる。液状廃棄物は23キロリットル以内,固形廃棄物は安全な容器に入れた場合は80立方メートル以内,安全な場所に堆積した場合は50立方メートル以内に規制されている。