No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書

●「土壌管理のあり方に関する意見交換会」

 農林水産省は,生産局農産振興課環境保全型農業対策室を事務局として,2007 年10 月から2008 年3 月まで「今後の環境保全型農業に関する検討会」を開催し,(1)農地土壌が有する多様な公益的機能と土壌管理のあり方と,(2)環境保全を重視した農法への転換を促進させるための施策のあり方を論議した(環境保全型農業レポート. No.100「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書)。

 検討会では環境保全型農業を推進する上で,いくつかの点について具体的なガイドラインを定めることが必要なことが指摘された。このため,環境保全型農業対策室は,「土壌管理のあり方に関する意見交換会」(座長:木村武 中央農業総合研究センター研究管理監)を主宰し,2008年3月から7月まで4回にわたって下記の点について論議を重ねた。

(1) これまで堆肥の施用基準は稲ワラ堆肥で表示されているが,農業現場で多く使われている家畜ふん堆肥についての施用基準を設定するなど,適切な土壌管理を推進するためのガイドラインの作成

(2) 総窒素施用量や堆肥施用量の上限の設定など,先進的な地域で行なわれている取組の全国への拡大

(3) 堆肥施用した場合の窒素,リン酸,カリの減肥にかかる指導の徹底

(4) 水田土壌中の有効態リン酸含有量に係る上限値の設定の検討

(5) 普通畑土壌の電気伝導度に関する土壌改善目標値の見直しの検討

 これらについて具体的なガイドラインや目標値の見直し案などが整理され,「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書として公表された。この報告書には,施用量などの具体的計算方法も記載されている。しかし,報告書に書かれた堆肥の施用量や上限値などは,あくまでも都道府県が施肥基準を策定する際の参考であり,都道府県が地域の実態を踏まえて改めて設定することになる。また,地力増進基本指針は,地力増進法に基づいて農林水産大臣が定めるものであり,まだ正式なものとはなっていない。

 整理された結果は今後の適正な土壌管理の指導に具体的に役立つものと期待される。

●堆肥の施用基準

 堆肥を長期連用しながら,必要な土壌有機物レベルにまで増加させつつ,毎年減少する土壌有機物を補給して,地力を維持するのに必要な水準として設定する。具体的には,2つの観点から堆肥施用量の下限値を計算する。

 すなわち,一つは,地力の維持・増進の観点からの施用下限値で,これは土壌環境基礎調査などから設定される,堆肥を施用しない場合の年間の土壌炭素(有機物)の減少量を補填するのに必要な堆肥量。もう一つは,有機性資源の循環利用の促進の観点からの堆肥施用量の下限値で,施肥基準などに示された基肥窒素量の3割を堆肥窒素で代替するのに必要な堆肥量。このうちのより大きな値を堆肥施用下限値とする。施肥基準に照らして,不足する養分は化学肥料や有機質肥料で施用する。

 検討対象とする堆肥は,稲ワラ堆肥,牛ふん堆肥,豚ぷん堆肥,バーク堆肥の4種類として,鶏ふん堆肥については,地力の維持・増進効果が小さいので,検討対象としない。対象作物は,水稲,畑作物(野菜を除く),野菜および果樹の4区分とする。

 堆肥連用条件下での1年1作の場合の施用量を下表に示す。表示した値は標準的な堆肥での値で,現物当たりの窒素含有率は,稲ワラ堆肥0.42%,牛ふん堆肥0.71%,豚ぷん堆肥1.35%,バーク堆肥0.48%。暖地と寒地は,深さ50cmの年平均地温がそれぞれ15〜22℃と8〜15℃の地帯であり,暖地は高標高地を除く関東東海以西が相当し,寒地は東北と北海道が相当する。なお,1年2作以上を行なう場合の補正の仕方は本文に記載されている。

●堆肥の施用上限値

 上記の地力維持に必要な量を超える堆肥を施用して,堆肥から放出される養分を増やして,化学肥料や有機質肥料の施用量を大幅に減らすような施肥を行う場合がある。その際,養分過剰によって生産の低下や環境負荷を生じないようにするために,堆肥の施用上限値を設定することが必要である。このため,堆肥から放出される有効窒素が施肥基準を超過することがないような水準として,下表の堆肥の施用上限値が設定された。

●堆肥施用時の減肥マニュアル

 特別栽培などで堆肥施用量を増やしたときに化学肥料をどれだけ減肥したら良いかについてのガイドラインとして,下表がまとめられた。

●総窒素施用量の上限値

 堆肥と化学肥料の過度な施用を防止して環境負荷の防止を図るには,堆肥の施用上限値に加え,堆肥施用時の減肥マニュアルに基づいた減肥指導によって,総窒素施用量の上限値設定と同様な効果が得られると考えられる。このため、総窒素施用量の上限値の設定については,堆肥施用上限値や減肥指導等の運用状況を見つつ,今後さらに検討を深める。

●水田土壌の有効態リン酸含有量の上限値

 地力増進基本指針で,水田土壌の有効態リン酸(トルオーグリン酸)含有量については,乾土100 g当たりP2O5として10 mg以上という下限値での改善目標値のみが設定されている。水田土壌中のリン酸は水中に容易に溶出しないと考えられるものの,水田土壌でもリン酸の蓄積が進行し,代かき時に土壌粒子ごとリン酸が水田から排出されて,河川や湖沼の富栄養化の一因となっている指摘がある。このため,水田についても有効態リン酸含有量の上限値を設けることが適当である。

 有効態リン酸水準とリン酸減肥が米の収量・品質に及ぼす影響については,必ずしも十分な実証データが揃っているわけではない。しかし,水稲作では有効態リン酸が乾土100 g当たりP2O5として20 mg以上あれば,リン酸施肥による増収効果が認め難いこと,リン酸施用量を削減しても数年間は大幅な収量低下を生じないことなどから,水田土壌の有効態リン酸含有量の上限値を、乾土100g当たりP2O5として20 mg以下(作付け前の風乾土の数値)と設定することが適当である。

●普通畑土壌の電気伝導度に関する土壌改善目標値の見直し

 地力増進基本指針で普通畑土壌の電気伝導度(EC)の改善目標値は0.2 mS/cm以下と設定されているが,実際にはこの値を超えるケースも少なくない。そうした野菜畑などでは塩類濃度の高い家畜ふん堆肥の施用が困難となる。19県はECの改善目標値の上限として0.2 mS/cmよりも大きな値を設定しており,0.3 mS/cm以下であれば,特に作物栽培に当たって問題が生じたとの報告がない。このため,これまで普通畑土壌のECの改善目標値を0.2 mS/cm以下としてきたが,施肥量の補正を必要とせず,かつ生育障害等が生じない水準として,施肥前で0.3 mS/cm以下と設定することが適当であるとした。

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