●朝取りホウレンソウは朝帰りの二日酔いサラリーマン
「朝取りホウレンソウは新鮮か?」(農文協)(2005)で,著者の故相馬暁氏は,ホウレンソウなどでは,昼間に光合成で作った糖やビタミンCの濃度は夕方4時ころに最も高く,それらは夜間に生長のために消費されて,朝には最も低くなり,「朝帰りの二日酔いのサラリーマンのように,疲れきって,目の下にクマをつくった状態である」と比喩している。
●夕取りのメリット
北海道立花・野菜技術センターの研究によって,朝取りのホウレンソウやコマツナの硝酸濃度は高く,夕取りした方が硝酸濃度の低いものを収穫できることが示された(北海道立花・野菜技術センター栽培環境科・野菜科 (2005) ほうれんそう・こまつなの夕どりによる硝酸塩低減(夕どり収穫方法を活用したホウレンソウ等の硝酸塩濃度低減化)。
窒素を化学肥料で9 kg/10aずつ施用して,コマツナとホウレンソウを6,7,8月に播種し, 朝取りは4時,昼取りは10時,夕取りは16時に収穫して,茎葉の硝酸濃度を比較した。その結果,硝酸濃度は朝取り≒昼取り>夕取りで,明らかに夕取りで低かった。朝取りに比べて夕取りでは,硝酸濃度がコマツナで11.0%(3.3〜17.3%),ホウレンソウで14.9%(2.5〜37.0%)低かった(表1)。
しかも,ホウレンソウと同様に,コマツナでも朝取りに比べて夕取りの方が,糖やビタミンC濃度が高まった(表2)。
同一葉身の硝酸濃度を朝,昼,夕で比較すると,夕取りでは葉身の硝酸濃度が明らかに低下していることから,原報告では葉身における硝酸同化が夕取りの硝酸低下の主因と推定している。このことは次のように理解できる。すなわち,昼間に光合成によって糖やビタミンCが合成されるので,これらの濃度は夕方に高まっている。そして,硝酸は早朝から吸収され始めて体内濃度が上昇するが,昼を過ぎると硝酸の吸収量は次第に低下し,糖濃度が上昇してくるとともに,糖と硝酸からタンパク質などが合成されて,夕方には硝酸濃度が低下すると推察される。
●夕取り効果の維持方法
夕取りによって茎葉の乾物率が高まる場合には,収穫から翌朝までの間にしおれが生じることがある。しおれては商品価値が大幅に低下してしまうが,茎葉を水道水に20〜30秒浸漬して,余分な水を切ると,簡単にしおれ発生を抑制でき,しかも糖やビタミンCなどの品質の低下も認められなかった。
こうした結果から,硝酸蓄積の少ない品種(コマツナでは,はずき,河北,ひとみ)を用いて,図1の収穫・出荷作業が提案された。これによって,朝取りよりも,糖やビタミンC濃度が高く,かつ硝酸濃度の低いコマツナやホウレンソウを出荷できるようになる。