No.45 コンニャク根腐病対策の新展開

群馬県が取り組むコンニャクの輪作・被覆栽培

●自然生栽培と植玉栽培

 かつてコンニャクは,福島県南部から本州中心部,関西を経て山口県に至る山間部と,四国から九州に至る山間部で自然放任の形で栽培されていた。この方式は自然生(じねんじょう)栽培と呼ばれ,一度植え付けたら除草や有機物の補給を行うだけで,途中で掘り起こさずに,土中で越冬させて,年数の異なる個体の群落を形成させ、大きな個体から収穫していた。自然生栽培のときには在来品種を100〜200年もいわば連作していたが,土壌伝染性病害が特に問題になることはなかった(栗原 浩 (1987) コンニャク自然生栽培.農業技術大系 土壌施肥編 第3巻 p.土壌と活用IV 45-50)。

 今日では毎年春に植え付けて,秋に掘りとり,冬に屋内貯蔵した後,翌春再び植え付ける植玉栽培が行われている。これによって生産効率が高まったが,同じ畑に植え付けるため,コンニャク栽培は土壌伝染性病害との戦いが最も激烈な作物の一つで,土壌消毒が不可欠になっている。
 健康食品としてアピールしているコンニャクが、実は農薬多用作物だったというのでは,のイメージが損なわれかねない。

●コンニャク根腐病とは

 コンニャク根腐病は,乾腐病,腐敗病,葉枯病とともに,コンニャクの重要な土壌病害の一つとなっている。群馬県では本病は1962年から発生し,一時700 haで発生したが,土壌消毒と殺菌剤の普及によって減少したものの,1995年以降再び増加し,新たな対策が必要となっている(柴田 聡 (2000) 群馬県・コンニャク産地−乾腐病,根腐病,腐敗病,葉枯病.農業技術大系 土壌施肥編 第5-2巻 p.畑 313-327)。

 病原菌は下等なカビのピシウム(Pythium aristosporum Vanterpool)で,出芽時から芽腐れや葉柄基部に黒色壊死や水浸状の褐色腐敗を生じる。土壌水分が高いと発病が多くなるため,降水量の多い年や排水不良の圃場では二次伝染の速度が速く,被害が大きい。発病の最適温度は30℃前後で,25〜33℃の地温で発病が甚だしくなり,低温年には発生が少ない(林宣夫・柴田聡:コンニャク根腐病.CD-ROM版 病害虫・雑草の診断と防除2005)。

●輪作と被覆栽培による根腐病の防除

 これまでにも,コンニャク根腐病の軽減には,イネ科作物との輪作や,夏作期間中にコンニャクの畦上にムギを散播する被覆栽培が有効なことが認められていた。群馬県農業技術センターのこんにゃく特産研究センターは,輪作と被覆栽培の効果を体系的に検討し,次の結果を得た(加藤 晃・柴田 聡・内田秀司・斉藤幸雄・斉藤泰亮 (2002) 輪作および被覆栽培によるコンニャク根腐病の発病抑制効果.群馬県農業試験場研究報告.7: 11-20)。

(1) 夏作ギニアグラス+冬作ライムギ,秋ソバ+冬作ムギ類(ライムギ+コムギ)とコンニャクとの輪作は,クロルピクリンによる土壌消毒を行ったコンニャク連作と同等の根腐病発病抑制効果を示し,収量と品質にも遜色がなかった。

(2) 土壌消毒を行わずに,コンニャク植え付け時に殺菌剤を株元に施用するだけにして,畦および畦間に,ライムギ,コムギ,ライコムギを全面散播して被覆栽培すると,畦上にだけオオムギを条播する間作栽培に比べて,根腐病が有意に抑制された。
注)オオムギは,アブラムシの吸汁によるウイルスによるえそ萎縮病の蔓延防止を目的に間作。

(3) 7月初旬からギニアグラス(「ナツカゼ」)を無肥料で栽培して10月初旬に鍬込み,翌年春に土壌消毒や薬剤施用を行わずにコンニャクを植え付け,ライムギ,コムギ,ライコムギを全面散播して,輪作と被覆栽培を組み合わせると,根腐病が劇的に減少した(表)。

(4) 農家圃場において実規模で栽培したところ,土壌消毒を行ってオオムギを間作した慣行栽培区では圃場周辺部で根腐病がわずかに認められたが,前年にギニアグラスを栽培した後にコムギを散播被覆栽培した区では根腐病が全く認められず,収量が5%増加した。この結果から,輪作+被覆栽培が根腐病の防除に土壌消毒+殺菌剤施用と同程度の効果を有することが確認された。

(5) ムギ類は,早期に出穂すると,コンニャクの葉を痛め,長く旺盛な生育を示すと,コンニャクの収穫作業を妨害する。出穂しにくく,夏期に自然枯死するものが作業面から望ましく,播性程度?以上のコムギが適していると考えられる。ただし,コムギの草丈が40 cm前後になるので,コムギの被覆栽培は,葉柄長が40 cm以上となる2年生および3年生の圃場に限定して行うことが必要である。

(6) 散播被覆栽培によって,間作に比べて7月〜9月初旬の日最高地温の平均値が1℃下がることと,被覆作物による水分吸収によって土壌水分含量が低下すること,並びに,土壌の全炭素と全窒素含量が増加することが,根腐病軽減の一因と推定される。

 以上の結果の概要は,平成10年度関東東海農業研究成果情報(生産環境部会)にも収録されている(「ギニアグラス、そばと冬作麦との輪作はこんにゃく栽培の土壌消毒剤に代替可能」,「ギニアグラス輪作と麦類混作の組合せによるこんにゃく根腐病の発病抑制効果」)。

●その後の研究展開

 輪作+被覆栽培による根腐病防除の研究は上記の研究論文以降も展開し,次の結果が得られている。

(1) ギニアグラスを栽培・鍬込み後,翌年土壌消毒剤を使用しないでシラネコムギを被覆栽培して,コンニャクを栽培する。この輪作で3%の収量増加を見込むことができ,借地によって行う場合には,収量増加分によって借地料を充分カバーできる(平成11年度関東東海農業研究成果情報(水田・畑作物部会)「緑肥と小麦被覆栽培によるこんにゃく輪作の土壌消毒代替効果と経済性」)。

(2) 圃場全面にムギ類を散播すると,ムギ類による養分吸収のために,コンニャクの収量がオオムギ畝上条播に比べて10〜30%低下する。これをカバーするには,被覆作物の播種量を6 kg/10aとして,窒素施用量を慣行の12 kg/10aよりも,コムギ(シラネコムギ)で4〜8 kg、ライムギ(春香)で4 kg/10a程度増肥する必要がある(「ムギ類によるコンニャク全面被覆栽培に適した施肥」.ぐんま農業研究ニュース 第14号.2003年4月)。

(3) コンニャク畑では,ペンディメタリン乳剤などの除草剤が効きにくい広葉雑草が蔓延してきている上に,ムギ類全面被覆栽培を行う際には,既登録除草剤にはムギを枯死させるものが多い。それを防ぐためには,コンニャクの出芽前に,ピラフルフェンエチル水和剤をムギ類全面被覆栽培で使用するとよい。一時的にムギ類に軽い薬害を出すが,その後回復して生育に影響はなく,薬剤散布の翌日には広葉雑草が枯死して,高い除草効果が得られる。ピラフルフェンエチル水和剤は2003年8月にコンニャクに登録拡大され、コンニャクの出芽前までの散布が可能となっている(「コンニャクのムギ類全面被覆栽培に適した新除草剤」.ぐんま農業研究ニュース 第18号.2004年4月)

●輪作・被覆栽培による根腐病軽減の普及プロジェクト化

 こうした研究成果を踏まえて,群馬県は輪作・被覆栽培による根腐病軽減を普及プロジェクトにすることを2006年5月8日に報道発表した。県内6か所に実証圃場を設けて,7月に現地研究会を開催し,秋に収穫調査を行って,2007年3月に成績検討会を行う予定である。輪作・被覆栽培を今の時点で現地に普及させようとするようになったのは,土壌消毒に対する批判が厳しくなり,現地が土壌消毒代替技術を求めるようになったことなどが契機になっているようである。
 なお,コンニャクの栽培から加工・販売については,群馬県特作技術研究会編「コンニャク」(新特産シリーズ.204頁)(2006年2月)(農文協)が刊行されており,その中で輪作・被覆栽培による根腐防除も言及されている。