●世界の有機製品の販売額
環境保全型農業レポート「No.172 世界の有機農業の現状(2)」に紹介したように,世界の有機食品(飲料を含む)の販売額は,USドルで2008年に509億ドル(5兆3000億円)であった。509億ドルのうち,北アメリカが230億ドル(2兆4000億円),ヨーロッパが260億ドル(2兆7000億円),その他が19億ドル(2000億円)で,北アメリカとヨーロッパが96%を占めていた。
2015年には世界での有機食品の販売総額は750億ユーロ(10兆720億円)に増加し,その385億ユーロ(5兆1,703億円)が北アメリカ,4兆2億円がヨーロッパで,全体の91%が北アメリカとヨーロッパで販売された(W.Helga and J.Lernord (Eds.) World of Organic Agriculture Statistics and Emerging Trends 2017, )。
このことは,慣行食品よりも単価の高い有機食品は,所得水準の高い国の人達によって購入されていることを意味している。
●賃金/所得と有機食品購入額との関係
有機食品は所得水準の高い国の人達によって購入されていることをさらに確認するために,OECD加盟国のフルタイム被雇用者の平均年間賃金のデータと,Helga and Lernord (Eds.) (2017)の全国民1人当たりの有機食品の年間消費額との関係をみてみた(図1)。
平均年間賃金と1人当たりの有機食品の年間消費額の両者とも2015年のものを基本にしているが,国によっては2015年のデータが記載されていなかったため,その場合には使用可能な2015年により近い年のものを使用した。また,1人当たりの有機食品の年間消費額はユーロで記載されていたが,1ユーロ=1.1127 USドルとして,ユーロをドルに換算して比較した。
その結果,両者の間にはP<0.01で有意の相関が認められる。このことは平均年間賃金を所得の指標として,所得水準の高い国のほうが,1人当たりの有機食品の年間消費額が多いことが確認できる。
ただし,1人当たりの有機食品の年間消費額や平均年間賃金と,国の全農地に占める有機農地の割合(%)の間には相関が認められなかった。これは,所得水準や有機食品消費額が高くても,有機農地率が高くなるとは限らないことを示している。所得が高く,有機食品に対する消費者ニーズが高まれば,有機食品を多量に輸入して消費している国も少なくない。また,有機農業者に対する国の支援程度によっても,国の有機農地率は変わってくる。
●日本における1世帯当たり平均所得金額の推移
日本がデフレ状態に陥って久しく,経済の低迷が続いている。国民生活基礎調査によると,1世帯当たりの平均年間所得金額は,1994年の664万円をピークにその後低下し続け,2014年には542万円となった。この20年間に,年間所得金額は122万円減少している(図2)。こうした状況では,図1に示す,所得水準が有機食品の購入額を決めているという世界的な傾向からして,日本で有機食品の購入額が伸びることは期待できない。
日本で有機農業が伸び悩んでいる最大の原因は,こうした経済停滞による所得の伸び悩みによると推定される。この経済停滞の中で,国民の所得格差が顕著に拡大しているという。そうしたなか,例えば,農薬に起因したアレルギーに苦しんでいる子供のいる家庭が,所得減少で,割高な有機農産物の購入をあきらめているとしたら悲劇である。有機農業を金持ちだけのものにしてはならない。